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誰もが安心して差別のない地域で暮らせるまちづくりを目指す NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝 

NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。

ここでは、大阪版ソーシャル事業者認証にかかわっているさまざまな団体、企業を紹介します。

今回は大阪府北部の箕面市で誰もが安心して差別のない地域で暮らせるまちづくりを目指す「NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝」についてご紹介します。
NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝の埋橋伸夫さん(写真)と、プロジェクトから誕生した若者支援団体・一般社団法人YDPの中村雄介さんにお答えいただきました。

NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝

NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝を作るきっかけになったコミュニティ道路

被差別地域だった北芝地区で2001年に生まれたNPO法人。誰もが安心して差別のない地域で暮らせるまちづくりを目指す。部落解放運動の経験を生かし、地域内外と連携しながら子ども、若者、高齢者、生活困窮者まで、地域の人たちのあらゆる困りごとに対応した支援活動を行っている。


多元的な支援ツールと場による支援


ー-この北芝はどんな地域なんでしょうか。

(埋橋)
 北芝は通称で正式な地名ではありません。南が「芝」という名前の地域で、江戸時代はその芝の北側にある枝村だったことから北芝と呼ばれるようになりました。被差別地域で1960年代末から差別からの解放を目指す運動が取り組まれています。現在は近接する地区に大型ショッピングモールができたり、地下鉄御堂筋線の延伸工事と新駅建設が進んだりしており、これから人口の増加が見込まれる地域です。

ー-暮らしづくりネットワーク北芝が生まれた経緯について教えてください。

(埋橋)
 1990年代から、地域のことを同和対策事業だけに依存していては駄目なんじゃないか、新しい活動はどうあるべきかという模索が始まりました。1995年1月の阪神淡路大震災でそれまで解放運動ではピラミッド型の組織で上意下達で動いてきましたが、復興支援においては自発的にボランティアが動くネットワーク型の市民活動に注目するようになりました。

また同じころ、地域でコミュニティ道路を作る際に、当時としては珍しいワークショップを開催しました。地域の人たちのつぶやきを拾い上げて、具体化していくという意思形成のあり方が面白いと地域のみんなが体感できたことで、地域のみんなが自主的に考えて動いていくというような活動のあり方を模擬体験しました。
こうした経験から住民一人ひとりのアイデアを形にしたいという思いから、2001年にこのNPO法人暮らしづくりネットワーク北芝を立ち上げました。

ー-現在はどんな活動をされていますか。

(埋橋)
地域の隣保館(らいとぴあ21)の指定管理業務を受けて生涯学習などのコミュニティ活動や子どもの社会教育事業を推進していくほか、総合生活相談を通した就労準備支援、子どもや若者の居場所事業など多面的な事業を行っています。また、連携している団体も多く、「510(ごっとお)デリ」というお総菜屋さん、福祉サービス事業所などさまざまな事業をしています。
さらには子どもたちの社会体験・就労体験を促す地域通貨も発行しています。
近くのショッピングモールで定期的に開催しているまーぶハローワークは、ショッピングモールで20分働くと100円と同じ価値のある100まーぶもらえます。ショッピングモールにも販促という形で協力を仰ぎながら、まーぶを稼ぐ・つかう・また稼ぐというプロセスをこどもたちの日常に組み、こどもたちと地域の人と豊かなつながりをつくると同時に、多様な生き方や仕事に触れ、未来の自分の選択肢を広げていくことを目指しています

ー-そういった事業を通じて、地域や地域の人たちにどんな効果がありましたか。

(埋橋)
特徴としては、生活困窮者自立支援、就労準備支援を受けた若者たちが、地域づくりを通じて、それまでは一方的に支援されるという所から今度は自分たちで地域を盛り上げていく担い手として成長しています。
以前、地域とは少し離れたところにある公団住宅の中の空き店舗を利用して「あおぞら」という若者の居場所を作っていたのですが、そこからコーヒー焙煎や商品開発などが始まり、今ではアパレル会社と協同してリサイクル商品の製造などが始まりました。

(中村)
また、地域の若者たちと「なんでもやったるデイ」というボランティア活動を2015年頃にスタートしました。お年寄りの大型ごみを出すお手伝いをしたり、家具を動かしたりして、地域の困りごとを手伝ったりしているうちに、事業へと成長、現在は一般社団法人YDPとして遺品整理や資源回収を行っています。
ここでは就労支援や就労訓練も行っており、無償ボランティアからフルタイムに近い形まで、さまざまな働く場を用意しています。一般就労することが唯一絶対の目標ということじゃなく、いろんな形の仕事づくり、仕事探しがあることを知ってもらい、その中で合うものを見つけていってもらいたいと考えています。
NPOだけではなく、まちづくり会社や福祉サービス事業所、解放同盟といったいろいろな主体が事業やイベントを行い、多元的な支援ツールと参加の場を提供しているのも北芝の特徴です

青年期の体験から排除された若者のサポート


ー-どうしてこのような若者の居場所が必要なのでしょうか。

(中村)
いわゆる就労支援や若者支援の団体というと、面談してカウンセリングで相手のコンディションを整理して、さあハローワークに行きましょうみたいなものが多いんです。それがハマる人もいると思うので否定するわけではありませんが、私たちが対象とした若者というのは、差別によって貧困が連鎖していたり、働くロールモデルが身近にいなかったり、弱年でサポートを受けにくい状況で妊娠したり、不登校や引きこもりなどの経験により青年期の体験から排除されてきた方が多いです
ところが、そういう人たちをターゲットにした支援は少ないんです。制度としては地域若者サポートステーションがありますが、かなり就労の準備が整っている人が対象になっていて、そこまで準備ができていない人や学校に行かなかった人たちに対して、修学旅行的なお出かけやイベントへの参加など青年期や学生時代に体験できなかった場の提供を地域でやっていく必要があるのではないかと考えました。
ここには地域の資源がたくさんあるので、地域の活動にいろいろ参加して地域活動の中で受け入れられたり役割が生まれていったりした結果、相談員と相談者という関係だけではない、地域のおっちゃんと関わることで地域や社会との繋がりを取り戻していくというのがここの若者支援の一つの特色じゃないかと思います。

ー-必ずしも就労することだけを目標にしているわけではないんですね。

(中村)
そうですね。就労を目標にした団体に比べると就労に向けた準備はゆっくりで、数としても多くはないかもしれません。僕たちが目指す質というのは、就労だけでなく、地域の中で役割や居場所を獲得して、色んな人に支えられながら生活していくモデルをつくることです。

そのためには、一般的な幸せよりも多様な生き方を認めることが大事ではないかと思っています。根本的な問いとして、社会で働くことにしんどくなって引きこもった人に、もう1回働く準備と整理をして、助走期間をもってもう1回その社会で頑張ってこいという支援が、果たして若者たちにとって持続的なのか。そもそもの働くということををどう捉えるかという問いでもあります。

ー-現在ではこのようなユニークな支援や若者を巻き込んだまちづくりが知られて、他地域からも通ってくる人がいるそうですね。

(中村)
地域のみなさんにいろいろなアイデアがあったので、コミュニティスペースの芝樂広場にコンテナを設置してカフェをやったり、チャレンジショップをやったり面白い映画を上映したり、コンサートをやったり、いろんなことを始めたんです。若い人はそういう活動を見てなんかおもろいことやってると興味をもって通うようになった人が多かったです。

また、僕は北芝の隣の小学校区出身です。北芝が部落解放運動を転換して周辺からの参加型になって子ども会も地域限定から会員制にしてオープンにしていった時期に、生活圏が重なってここに遊びに来たので、タイミングよく参加させてもらいました。
今NPOやYDPで働いてる職員には地区出身のメンバーもいれば周辺で一緒に育ってきたメンバーもいるし、教育、対人援助、若者支援、まちづくりといったテーマから参加してきた人もいて、多層的です。

北芝が持ついろんな背景の人を受け止める素地


ー-これまでの長い北芝での活動の積み重ねと、新しい人が入ってくることによって、ここ独自の支援体制が生まれたということなんですね。

(中村)
そうですね。特にこの地域の人たちには、いろんな背景の人たちを受け止める素地があると思います。僕たちは「おやおや感知器」と呼んでいるんですが、新しい若者が入ってきたときに、「おやおや、なんか、この人はわけありやな」ということをすぐに見抜くんですよ。地域には一番厳しい時期の差別を受けた体験があるから、同じような差別や排除を経験をしてきた人たちを受け入れることができる素地があるんです。

それが、支援にも役立っています。例えば、やっと顔出してくれた人と初めて現場に行くときに、僕なら「今回頑張って、次回来れたらいいね」とちょっと気をつかってしまいますが、おっちゃんたちは「お前ここへ来たら10万稼げるんや。頑張って毎月10万稼ぐんや。引きこもったらあかん」と、逆に空気を読まないようなことを言うんです。それがしんどくなる人もいるけど、そんなことを言われたことがないと刺激になる人もいます。
支援者が想定しない刺激とか出会いが地域の中にあるのが、この地域の持っている特色なんじゃないかと思います。だからここにあるそういう雰囲気も含めて何か財産というか地域資源だと言えると思います。

ー-最後に大阪版大阪版ソーシャル事業者認証への期待をお願いします。

(中村)
北芝の場合は、すでに箕面市の行政との関係の中では関係がきっちり作れているから、認証はあろうがなかろうが変わらない部分が多いかと思います。
しかし、これから一般社団法人YDPがもう少し契約や入札などに参加するようになると、他社や他団体と競争できるようにならないといけないので、その際には必要になると思います。また、今後いろいろな事業を手広くやっていくためには、大阪版ソーシャル事業者認証の獲得は必須となってきますので、もし制度が出来たら取っていきたいです。それから、行政が大阪版ソーシャル事業者認証についてどういうふうに認識していくかが、大阪版ソーシャル事業者認証の効果を発揮する決め手になるので、行政の側も大阪版ソーシャル事業者認証を取った企業や団体をきちんと評価してほしいと思います

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