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【解説】メタバースでの模造品規制は不競法改正等で対応か、経済産業省

 2月28日、経産省がメタバース上での模倣品を規制する方針を固めたことがNHK報道で明らかとなりました。

デジタルの仮想空間、メタバース上の知的財産を保護するため、経済産業省は、メタバース上で模倣品の製造や販売を禁止する法律の改正案をまとめ、今の通常国会に提出することにしています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230228/k10013992871000.html

 しかし、該当のNHK報道では具体的な改正案の内容や議論過程が解説されていなかったため、クリエータや消費者の視点からでも有意義な解説となるよう、著者が独自に調査を行った結果をご報告いたします。

 結論としては、不正競争防止法第 2 条第 1 項第 3 号に規定する形態模倣商品の提供行為に「電気通信回線を通じて提供」する行為が法改正等によって追加される可能性があり、同人活動などで実在する物品の再現3Dモデルを作成しているクリエータ等は動向を注視する必要があります。

【2023年3月2日17時追記】不正競争防止法第 2 条第 1 項第 3 号に規定する形態模倣商品の提供行為は非親告罪(被害者の告訴がなくても検察官の判断で起訴して刑事事件にできる犯罪)です。

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

平成五年法律第四十七号
不正競争防止法

議論の経緯

 メタバースと模造品に関連して、産業構造審議会が1月に、「デジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)」を公開しており、デジタル空間における取引にデザイン保護の一翼を担う他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為の規律が適応されるかの検討が行われていたことが確認できます。
 産業構造審議会は経済産業省に設置される機関で、経済産業大臣の諮問に応じて経済産業に関する重要事項を調査審議しています。

昨今、デジタル空間(例:メタバース)における経済取引が活発化しており、従来、フィジカルで行われてきた事業のデジタル化が加速しているところ、フィジカル/デジタルを交錯する、知的財産の利用の加速が想定される。こうした状況を踏まえ、デザイン保護の一翼を担う他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為の規律(不競法第 2 条第 1 項第 3号)に関して、当該規律が、①フィジカル/デジタルを交錯する模倣事例に対応できるか、②「商品」に無体物を含むかということについて検討を行った。

デジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)
※太字は著者編集

 ちなみに、デジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)については2022年12月14日付けで意見公募(パブリックコメント)が行われており、寄せられた意見を踏まえた議論が1月の産業構造審議会資料から確認できます。

(2) 今次の本小委員会での検討
中間整理報告やパブリック・コメントで寄せられた意見を踏まえ、今次の本小委員会では、改めて、①不競法第 2 条第 1 項第 3 号の対象行為の拡充、②「商品」に無体物を含むか、及び③形態模倣商品の提供行為に係る不正競争の保護期間の伸長の是非について、検討を行った。

デジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)
※太字は著者編集

 現行法では不正競争防止法上の「商品」に無体物(デジタルデータ等)が含まれるかどうかは司法の場でも判断がわかれており(東京高判昭和 57 年 4 月 28 日・東京地判平成 30 年 8 月 17 日など)、メタバース上での模造品が規制の対象になるのかは必ずしも明らかではありませんでした。そのため、産業構造審議会は「ネットワーク上の形態模倣商品提供行為も適用対象であることを明確化すべき」との意見をまとめています。

昨今、フィジカル/デジタルを交錯するような模倣事例が現れ始めているところ、混同惹起行為及び著名表示冒用行為と同様に、形態模倣商品提供行為にも「電気通信回線を通じて提供」する行為を対象行為に追加し、ネットワーク上の形態模倣商品提供行為も適用対象であることを明確化すべきではないかとの提案を行った。

デジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)
※太字は著者編集

今後の論点は

 メタバース上での模造品対応の具体的な方針が固まり、今後はどのような行為が「模倣」と判断されるのかという点が論点になってくることが考えられます。
 気が付いたときには法整備が終わっていてクリエータやユーザーに多大な負担がかかるという事が起きないよう、政策をしっかりと注視し適切な施策を行う事こそがNPO法人バーチャルライツの役割であると改めで強く認識する次第です。

なお、制度措置にあたっては、どのような行為が「模倣」の対象となるかについて、逐条解説等において明確化していくことをあわせて検討することが適切である。

デジタル化に伴うビジネスの多様化を踏まえた不正競争防止法の在り方(案)

5月17日追記:

内閣府に対して本件に関する意見を提出しました。


Ⅰ.仮想空間における知財利用と権利者の権利保護
<商品形態模倣規制による保護>及び<法制度に係る対応>について
 先日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、商品形態の模倣行為の範囲がデジタルにも拡大される方向性が明らかになりました。報告書に記載されている『「商品」に無体物を含むかについては、まずは、逐条解説等に、無体物が含まれると記載することで解釈を明確化すること』といった提言については、全面的に賛同いたします。
 一方で不正競争防止法による商品形態模倣規制は親告罪である著作権法とは違い非親告罪であり、いわゆるファンメイド等の同人創作活動が萎縮してしまう可能性があるため、その点に関する適切なフォローアップを重点的に記載することを提案いたします。



著者:SUKANEKI
参考文献:
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/fusei_kyoso/pdf/022_04_00.pdf
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595222081&Mode=0
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/fusei_kyoso/pdf/022_01_00.pdf
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/fusei_kyoso/pdf/022_gijiyoshi.pdf
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/fusei_kyoso/pdf/022_03_00.pdf
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000047
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiteki_zaisan/fusei_kyoso/022.html
https://monolith-law.jp/corporate/penalty-for-trademark-infringement

※掲載されるオピニオンは著者個人の見解であり、NPO法人バーチャルライツ公式の見解ではありません。

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