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【第2回目インタビュー】イギリスで障害児クライミングに出会ったお母さん

第2回目のインタビューは、イギリスで2人のお子さんの子育て経験をされ、日本に帰国されたお母さんにインタビューさせていただきました。インタビューの内容は、イギリスで出会った障害児のクライミング機会から広がり、日英の「障害児のスポーツ」、さらには「障害児の余暇環境」まで、体験したこと、感じたことをお話いただきました。
(2024年6月オンラインにて実施)


〜 2人のお子さんについて 〜
Bくん:中学2年生。
脳性麻痺のため四肢麻痺があり移動には車椅子を利用している。支えがあれば自分での歩行も可能。
また発達は緩やかで自閉症がある。こだわりやルーティングを好み、上手くいかないと癇癪を起すこともある。
スポーツは観るのが大好き(サッカー、アメフト、ラグビー、テニスなど動きがあるものやF1も好き)

Cくん:小学5年生。健常児。

〜 お母さん(日本人)とご家族について 〜
イギリス人の方とご結婚後、配偶者のお仕事の都合でイギリスに渡りご出産。
その後ラトビア、韓国等、そしてもう一度イギリスを経て2023年の8月に日本に帰国。
日本での子育ては初めて!障害のあるBくんが参加できる活動を探している中で、モンキーマジックの活動を知ってくださったそうです。
実はまだBくんとはクライミングができていないのですが、「イギリスで障害児向けのクライミングクラスに参加したことがある」というお話を聞き、今回のインタビューにご協力いただきました。

聞き手:モンキーマジック木本(木本)
話し手:BCくんのお母さん(BC母)

木本:イギリスで行かれてたクライミングジムの情報をお送りいただき、ありがとうございました!いわゆる「クライミングだけのジム」ではなくて子どもたちが興奮しそうな、クライミングのアトラクションがたくさんあるようなアミューズメント施設という印象でした。
ここでクライミングを体験された、ということですね!

BC母:はい、そうです。ちゃんとしたクライミング施設ではなくて申し訳ありません。

木本:いえいえ。しっかり登ることを楽しむ施設ですし、逆に興味深くて行ってみたくなりました。しかもこういう場所で障害のある子どもたちを受け入れているというのが価値が高いように思いました。

イギリスでB,Cくんが通っていたクライミングジム


クライミングと出会ったきっかけ

木本:では、早速ですがイギリスでクライミングに出会ったきっかけを教えてください。

BC母:そもそも弟(Cくん)がサルみたいに登るのが好きなんです。
バースデーパーティーをイギリスではクライミング施設で開催することがあり、バースデーバーティを考えている時にクライミング施設が近くにあるのを知りました。
実際にそのクライミング施設に行ってみると、発達障害のある子などが行ける時間帯があることを知りました。

木本:なるほど、出会いが自然ですね。何というか特別に探さずに「障害のある子もここでできるんだ~」っていうのが素敵だと思いました。

BC母:そうなんです。私としては(兄に障害があって弟に障害がないと)なかなか兄弟が一緒に活動できないので、「兄弟一緒に登れるなんてすごい。同じ場所で同じものができるってすごい!できなくても、同じ場に居られるってすごいなぁ」と思って行ってみました。

木本:クライミングなら同じ場所で兄弟一緒に楽しめますもんね!

クライミングジムに行ってみて

木本:行ってみて実際はどうでしたか?

BC母:弟のCは色々楽しんでいました。兄のBは大変だったけど、やっていくとちょっと上にいけるという達成感を味わえてたかと思います。

木本:大変というのはどう大変だったんですか?

BC母:大変なのは、身体的な理由ですね。やっぱり身体の自由がきかないところに手足を動かし続けるのが大変で、そんな経験もなかなかないからすぐに疲れてしまいました。
でも、目的がなく手足を動かし続けることはすごく大変だけれど、目的ができてやっている。それってすごいことですよね。(クライミングは)目的とかゴールがあるのが分かりやすくて、Bの特性にもあっていました。達成したい、これをつかんだらゴール。分かりやすいのは、できる・できないに関わらずいいことだと思いました。
身体的にはすごく大変ではあるので、登るといっても実際は、「5個ホールドが持てた」「休みます」「次は6個触れた」って感じだったのですが、小さな成功をお祝いできるのが、とてもいいなぁと思いました。

木本:「小さな成功をお祝いできる!」素敵な表現ですね。本人もお母さんも嬉しかったんだろうなぁと想像できました。

クライミングジムのスタッフについて

BC母:あと、対応してくれたスタッフがすごくよかった。

木本:それは、指導者の私としてもどうよかったのか聞きたいところです。

BC母:恐らく感覚的だったと思うんですけど、「これ以上頑張ってもできない、辛い」をよく分かってくれている感じでした。ある程度「頑張って!」と声をかけて、頑張らせるところと、「もう頑張ったから休もうね」のバランスが上手で、Bにとってはすごいよかったと感じました。
そういうスタッフの様子が親も安心できました。
B本人も分かってもらえている感じが安心にも繋がっただろうし、それが楽しいに繋がっていると嬉しいなと思えました。楽しい上に身体を動かして健康にもいいですし。
いい経験ができたのでまた来てもいいなと思えました。思わず施設に「このスタッフさんすごいよ!」って連絡したくらいです。

木本:それは素晴らしいスタッフさんでしたね!

発達障害スペシャルニーズのクライミングについて

木本:そのクライミング教室は、どんな教室だったかもう少し教えてもらっていいですか?例えばいつ開催されていて、他に参加者が何人くらい、スタッフが何人くらいで行われていたんでしょうか?

BC母:教室というか、週に1回の週末午前とかに1コマ、発達障害のある子などを対象としたスペシャルニーズの時間帯が設けられていました。時間は1時間だったと思います。定員は10人くらいで、親御さんもそこに同伴していました。スタッフは5人くらいだったかと思います。
※現在のホームページには、発達障害のある子を対象としたスペシャルニーズの時間帯は毎日曜日(第3週以外)と長期休みの特定の日に説明を含めて1時間、14人定員となっていました。

木本:なるほど。指導者が教える「教室」というわけではなくて、一人一人が自分のペースで挑戦したり楽しんだりするクライミングの場所、というイメージですね。
1時間の枠に10名の子たち、っていうのはイメージより多い気がしました。

BC母:施設が十分に広かったのと、車椅子だったのはBだけで、他の子はスタッフが必ずついている必要がない子もいて、親御さんが一緒にいたらクライミングができる子もいました。混んでると難しいけれど人数が少ないと参加できるタイプの子も来ていたと思います。あとは、発達障害のある子の特性で聴覚過敏だったり、光の刺激が苦手な子に合わせて音楽がかかっていなかったり、照明が少し暗かったり、環境が整っている感じでした。
うちは車椅子を使っていたので、サポートしてもらう必要があるので事前にお伝えしていましたので、スタッフさんが付いて(クライミング)ロープの操作をしてくれました。

木本:逆に発達障害だけだと予約だけでいいんですか?「こんな特性がある」とか伝えなくていいんですね。それはすごい!親御さんも嬉しいんじゃないですか?

BC母:そうなんです。障害があると、必ず何かする時に細かく伝えないといけないのはひと手間になってしまうので嬉しいですよね。「こういう環境があるので、そこに合う人は来てください」って感じでそこに親御さんが「うちの子は人数が少なくてこういう配慮がある環境なら大丈夫」だと思えば予約だけでOK。

木本:なるほど~。施設の方も身構えていない雰囲気が障害のある子どもの親御さんには心地よさを与える気がします。

BC母:そうなんです!そのオープンさが嬉しいんです。しかもそういう時間が普通に「定期的」にあるのがすごいなぁ、と思いました。

木本:(新しい場所や内容が苦手なタイプの子には)1回目が場所慣れでその後が楽しめる本番になるから、「定期的に」とか「複数回」がまた大切なんですよね。

BC母:そう。「こういう時間があるからよかったらどうぞ」みたいにいつもそこにある。行かなくちゃ、というしばりがあるわけでもなく楽しみに行くわけだから行っても行かなくてもいい。試してみれる。それが大切だし、すごいなと思いました。
結構その辺りが日本だと難しい気がしています。まだ子どもたちと日本に住んで1年満弱なのであまり分かっていないことも多いのですが。

木本:なるほど~。それですよね。オープンさ、寛容さ、選択肢、定期的(複数回)。これまで大切だと思っていたことが繋がってきて嬉しい気持ちです。

イギリスと日本の【障害児スポーツ環境】について感じること

木本:クライミングと離れますが、その他のスポーツも踏まえて、イギリスと日本の障害児スポーツ環境の違いや感じるところもお聞きできたら嬉しいです。
イギリスでは他にどんなスポーツをされていましたか?

BC母:イギリスではフレームフットボールを月1回やっていました。Walkerが使えるサッカーです。近くにあるクラブは月に1回だったのですが、もう少し遠くに行けば、毎週行っているクラブなんかもありましたね。
※Bくんは支えがあれば自分での歩行も可能。Walkerとは足に麻痺などのある方が支えにして移動する歩行器です。

木本:さすがフットボールの国ですね!

BC母:あとは、ボッチャやアーチェリーの大会にも出たりしていました。

木本:なるほど。先ほど「日本だとその辺が難しい」という言葉も出ていましたが、日本に来て何か違いなど感じることはありますか?

BC母:日本では(Bに)何かをやらせたい、してもらいたいと思って、探してみると色々あることが分かってきました。今は月に2回、個人レッスンで水泳をしています。とてもいいコーチ陣で、そこが冬にはスキーも行っているので、いつか家族でやってみたいと思っています。

木本:水泳やスキー、いいですね!
そしてその団体には探して出会えた、という感じなんですね。日本では探すと出会える」、「探さないと出会えない」そんな感覚なのでしょうか。

BC母:そうなんです。探せば確かにある。。。かな。
あと、日本は自治体が行っているような(障害のある人が)参加できる企画は、色々あるんだなぁと思いました。自分の住んでいる地域の役所がやっているイベントも調べてみると、色々やってくださっていることが分かりました。でもタイミングが合わなかったり、息子には内容が合わなかったり。。。まだ参加したことはないんですけど。
でも定期的にではなかったですね。1回とか、全3回とか。それなりにはあるんだなぁ、という感覚です。うん。

木本:わかる気がする。確かに私の住んでいる市でも「障害者スポーツ」を自治体で企画していたりしますが、単発だったり時間帯が平日の日中だったりしがちかも。ストレッチとかウォーキング、エアロビなんか聞いたりします。定期的にというのが難しかったり、学校に通っていたり、お仕事をしている人たちには合わない時間のことも多いイメージですね。

BC母:そうそう、そうなんです。

▪️イギリスと日本の【障害児余暇環境】について感じること

BC母:あと。。。私、まだ分かっていないんですが、日本の障害のある子をお持ちの親御さんは、外で活動をあまりしたくないのかなぁと感じることがあります。まだ日本に戻って1年経っていないので分からないのですが。。。

木本:それはどんな時に感じるのですか?

BC:あまり外で障害のある子どもに合わないんですよね。車椅子の息子を連れて公園に行っても、車椅子なのは高齢の方とかで、車椅子の子どもはうちの子だけ。買い物したりしていても会わない。。。

木本:イギリスに居た時はもっと障害のある子に外で出会っていた感覚なのですね。

BC母:そうですね。イギリスの方が、身近に障害のある子が楽しめる場所があったからなのか。障害のある子が映画を気軽に見られる機会があったり、うちの子はドラマ(演劇)をやっていたりして、障害のある子どもの演劇を専門にやってくれるところがあってそこにも参加していました。あと、週末に障害のある子どもを専門に遊びに連れていってくれような、そういうサービス自体が多い気がしています。何ていうか、もっと楽しめることが気軽に身近にある感じでした。

木本:なるほど。イギリスでは、そういった障害児の余暇活動を企画するような団体が身近にあったということなんですね。
日本だと、福祉的な放課後等デイサービスが以前より増えて放課後や週末も預かりや参加ができたりもします。施設独自で余暇を楽しむ企画を工夫してやっていますが、彼らは障害児や福祉の専門家。例えばクライミングの専門家がクライミングを伝えたり、演劇の専門家が演劇を伝えたりする「活動の専門家」が企画するものと比べると、なんというかダイナミックさや選択肢が欠けてしまいがちなのかもとも想像しました。

BC母:そういうことなのかもしれない。イギリスはチャリティが盛んなこともあり、チャリティワークをしている団体も多くて、その中で障害のある子や家族を対象にしている団体や活動が、ここにもある、そこにもある、という感じがしました。

木本:寄付の文化の違いですね~。なんか、そこに行きつくと、日本の手詰まり感大きいですね。。。

BC母:難しいんですよね。ほんと。「文化」とか「考え」ってそんなにすぐに変わるわけではないし。日本は日本でいいところがたくさんあるし。でも障害のある子も楽しめる場所がもう少し増えたらいいな、と思いますね。

木本:そうですね。モンキーマジックもいつも資金のやりくりをどうしようかで頭を抱えますが、「障害のある子どもたち」の選択肢の一つとしてもっとクライミングが身近になるように、頑張らないとですね。難しい分その壁を越える価値が高いってこと。モンキーマジック頑張ります!


まとめ

今回は、イギリスで出会ったクライミングジムの取り組みやイギリスと日本の障害児スポーツ、さらには余暇環境の違いについて、障害のあるお子さんを持つお母さんが実際に感じていることを伺うことができました。

今回お話をうかがう中で、「日本は探せば機会はあるけど、身近には感じられない」「余暇文化・寄付文化の違いの可能性」という内容が印象的でした。
イギリスのような障害のある子どもたちのスポーツや余暇が身近に感じられ選択肢も十分に感じられるくらい同じに持っていく壁は高いです。でも、BC母さんが示唆してくれたように、日本のよさや日本の中での工夫を凝らして「もっと障害のある子も楽しめる場所・機会」を増やしていきたいと思いました。

現在モンキーマジックで進めている「発達障害児者のクライミング機会拡大プロジェクト」は、「モンキーマジックがいる場所で発達障害児者がクライミングができる」を越えて「モンキーマジックがいなくても、発達障害児者がクライミングを楽しめる場所を拡げる」ことを目指しています。

まだまだプロジェクトの進む先のゴールが見えていない部分も多いのですが、難しさとその分の価値の高さも感じています。
その中でも、【オープンさ】【寛容さ】【選択肢】【定期的(複数)】を併せ持つ、そんな場を目指したいと思いました。

BC君のお母さま、インタビューのご協力、ありがとうございました!

よろしければ、応援をお願いいたします!様々な障害のある人たちが一緒にクライミングを楽しめる環境づくりに遣わせていただきます!