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特別寄稿文⑦ ”The Light Shines in the Darkness(光は闇の中に輝く)” by 大森照輝

抱樸とさまざまな形で関わる皆様に、抱樸にまつわるテーマから、自由な形式でご寄稿いただく企画『わたしがいる あなたがいる なんとかなる』。第7回は米国在住で元ほうぼく職員の大森照輝さんです。

”The Light Shines in the Darkness(光は闇の中に輝く)”
文:元抱樸職員  大森照輝

みなさん、こんにちは。わたしは以前、抱撲の職員として働いていました。現在はサンフランシスコに住んでいます。米国西海岸に位置し、ビーチや自然に囲まれた多様性の息づく街。世界各地からのみでなく、国内での人気も高い観光地の一つです。

期待に胸を膨らませつつ始めた、異国の地での生活。しかし、そこで目の当たりにしたのは、価格の高騰からくる住宅難、路上や車で生活をするホームレス人口の増加、街全体に蔓延する薬物(中毒)の問題、相次ぐ犯罪件数の急増など、非常に多くの問題を抱えた街の現実でした。かつて多くの人々を魅了した美しい街並みは、現在その様相を大きく変えようとしています。

とりわけ街の中心地の荒廃はひどく、高級ブランドがずらりと立ち並ぶ一角をものの数ブロック行けば、そこには歩道を埋め尽くすほどのテントの数々、性別や年齢、国籍問わず路上にたむろする人々の群れに遭遇します。排泄物と薬物の匂いが入り混じった独特な異臭が鼻をつき、そこかしこから鳴り響く大音量の音楽が耳を刺激する。腕に注射器が刺さったまま虚な目をした青年が何かを訴えようと、力無くくちびるを動かしている姿を見かける一方で、意味の通らない言葉を大声で叫びながら、青信号お構いなしに堂々と道を歩き渡る人の姿を度々目にします。

「朝起きると人が死んでいる」。いつしかこの街では、そんな声もつぶやかれるようになりました。今年の4月には、薬物中毒の女性が歩道で出産をした様子がカメラで捉えられ、その映像が日本でも話題になりました。日中、繁華街を人々が行き交う公衆の面前で、彼女は赤ちゃんを産み落としたのです。観光で訪れた人が手に買い物袋をぶら下げながら、こうした様子を目を丸くして眺めている。関心を惹こうと大袈裟に書いているわけではなく、残念なのですが、これが現在のサンフランシスコの日常風景です(もちろん素敵な場所もたくさんあります)。

地元に住んでいる人たちは、こうした状況をどのように思っているのだろうか。話を聞いていくうちに明らかになったのは、みんな“どうにかしたい“と思っている一方で、“どうしたらいいのか分からない“という悩みを抱えているということでした。また、非常に印象的だったのは、多くの人々がこうした状況に陥ったのは「結局は本人の責任だから」と、自己責任論を口にしていることでした。

「アメリカと日本はそもそも文化・歴史的背景が大きく違うから、日本ではここまでのことは起こらない」。そんな声も耳にします。でも、本当にそうでしょうか。無関心、差別、薬物、貧困、自死、格差の拡大。具体的なありようの違いはあったとしても、日本の社会も共通する課題を多く抱えています。いま、まさにサンフランシスコで起きている出来事は、日本のみならずいわゆる先進国が経済成長主義、自己責任論を追求した先に見えてきた世界なのだ。そんな風に思えてなりません。

話をもとに戻すと、ではこうした現状を前に一体どうすればいいのだろうか。わたしは「希望のまち」が、この問題への一つの答えになるのではないかと思っています。抱撲は、北九州に住む地元の人たちと手を取り合って、また地域を越えてこの活動を応援しようと願う人たちと一緒に、新しい社会のかたちを創ろうとしています。また、この壮大なプロジェクトが持つ今日的な意義は、日本だけに留まらない普遍性を持っていると思います。どんな物事も最初は小さな(ローカル)な出来事から始まる。いま、それが北九州で起ころうとしています。

抱樸との出会いのなかでわたしの心に深く刻まれたのは、「希望はどこに生まれるのか」という問いです。その答えを、抱撲は36年もの活動の中で見出しました。希望は、人と人とのつながりの中(あいだ)に生まれる。

沢山の人が生きる希望を失っているこの時代。こんな自分でも生きてていんだと思える。そんな想いをベースに日常を積み重ねてくことができる。あそこに行けば、“わたし“のことを大切に思ってくれる人がいる。あそこに行けば、自分のためだけではなくて、“あの人“のために何かできることはないだろうか、と思える。

自分の中に希望がなくても、この街で出会った人とのつながりの中に希望が生まれる。「もう少しだけ顔を上げて生きてみようかな」。“わたしとあなた”との出会いのあいだに、そんな願いがじんわりと湧いてくる。そうした想いを心に抱えた人が、街の中にたくさんいること。それが希望のまちの姿だと思います。

抱撲はそんな出会いが生まれる場所を、本気で創り出そうと勇気をもって手を上げました。日本で、今まさにこうした運動が生まれようとしていることに、心がワクワクしています。

新たに紡ぎ出されようとしている物語に、「ボクもよせて!」と思わず言いたくなります。沢山の人に、知って欲しいと思います。そしてまずは「寄付」というかたちを通して、活動に参加していただきたいと願っています。

と、ここまでエラそうなことを書きながら、自身がまだ寄付をしていないことに気がつきました。いま寄付をします(笑)。

どうぞ「希望のまち」プロジェクトに心を寄せていただければと思います。よろしくお願いします。


いただきましたサポートはNPO法人抱樸の活動資金にさせていただきます。