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【三鷹市】学校づくりは地域づくり。地域の“人財”とともに行う教育

自治体と地域の連携により、子どもたちの教育や居場所を充実させていく動きが全国で広まりつつあります。中でも「コミュニティ・スクール」や「学校3部制」など先駆的な取り組みを行う東京都三鷹市の事業や課題への対応について、松永透さん(三鷹市教育委員会 教育部 調整担当部長)にお話をうかがいました。

三鷹市教育委員会 教育部 調整担当部長 松永 透さん

-コミュニティ・スクールや学校3部制など先進的な取り組みをされていますが、学校を地域に開いていく方針になった経緯を教えてください。

三鷹市では以前からコミュニティ行政を進めていました。市内に七つの住民協議会があり、活動拠点であるコミュニティセンターを運営しながら地域づくりを行ってきていて、市民の皆さんが共同で様々なことをしていくという自治の歴史がすごく長いんです。

ただ、学校だけはなかなか外部の人が入っていくことが難しい状況でした。そこで、貝ノ瀨(現 三鷹市教育委員会教育長)が、第四小学校の校長を務めていたときに学習支援のボランティアの受け入れを始めました。それを一つのきっかけとして、現在の三鷹市の「コミュニティ・スクール」につながっています。

三鷹市の「コミュニティ・スクール」
市内全ての小・中学校を一貫教育校(学園)としてそれぞれの学園に教育委員会が任命する保護者代表や地域の人々から成る学校運営協議会を設置し、様々な地域人財が一定の権限と責任をもって学校運営について協議と支援をとおして参画する取り組み。

地域の方々は貴重な”宝”です。様々なスキルを持つ地域の方が学校に入ると、子どもたちの成長にも良い影響があります。そんな地域と学校の協働による成功体験の積み重ねが、学校からの理解を得ることにつながると考えています。

「学校づくりは地域づくり」。そんな発想の中で、地域の方々と共に子どもたちを育んでいます。

-地域全体で子どもたちを育てているのですね。学校施設についても、学校教育以外で活用する取り組みを始めたそうですね。

はい、スクール・コミュニティ(学校を核としたコミュニティ)を創っていくためには、多くの市民に学校にかかわっていただくことが必要です。学校を地域に開かれた共有地(コモンズ)にしていくべく、その手段として「学校3部制」という、夜間や休日に学校施設を開放して活用する取り組みを行っています。

学校教育の場(第1部)、学校部活動を含む放課後の場(第2部)、社会教育・生涯学習や生涯スポーツ、地域活動など多様な活動の場(第3部)の3つに分け時間軸による機能転換する中で、広く市民の方にも学校を活用いただけるよう施策を検討しています。

昨年、夜間・休日の学校施設の利用について地域や保護者の方にアンケート調査(※)を行ったところ、90%近くの方が「三鷹市の学校は地域の財産と考え、学校教育に支障がない範囲で三鷹市民がより一層利用できる場所にしていくことが望ましい」という考えに賛同しているという結果が得られました。また、使用したい学校施設としては音楽室や会議室、家庭科室などの特別教室へのニーズが高いことも分かりました。この結果を受け、今年度は夜間や休日に、学校での市民向けの講座を実施予定です。(全4回)

地域の方には、実際に学校に足を運んでいただくことで学校のことを知ってもらったり、ゆくゆくは教育や放課後の場に参加いただいたりして、子どもたちの豊かな学びにつなげていければと考えています。

学校側の教室利用への理解を広げるためには、「こういう風にしたら子どもが変わった」といった一つひとつのエビデンスを積み重ねていくことが大事です。それを先生方が体感できるようなトライアルをしていくつもりです。

-子どもたちにとっても、さまざまな地域の方との出会いは貴重な体験になりますね。一方で、学校の開放(学校空間の開放や多様な地域人財の教育への参画)についてはリスクや安全面の担保といった課題もあるかと思います。その辺りに対する捉え方や対応策などお聞かせいただけますか。

例えば、「使える教室は特別教室(音楽室等)に限定する」「学校へ入る方には名札をつけて入ってもらう」「動線を分ける」など設備や運用面の対策は必須です。しかしそれだけではなく、「顔の見える関係」を学校や地域の中で築いていくことも大切です。当たり前のように先生と地域の方が挨拶をしたり、声を掛け合えたりする校内の雰囲気をつくることは不審者対策にもなります。

どうしたら不特定多数の方が学校を使ったとしても安全な状況にできるのか、現在、全国の自治体への視察なども含め、三鷹市に合った施策を検討しています。学校に通う子どもたちやその保護者の方々が不安にならないようにしていくことが一番大切なので、慎重に進めていきます。

-地域の方々や団体と連携するにあたって、配慮することや心がけていることがあればお聞かせください。

まず「何のために学校を開いていくのか」という目標を最初に決め、そこに共感していただける方々と一緒に取り組むことでお互いWin-Winの関係になれると考えています。そして、地域の様々な方々・団体の思いや主体性に対してリスペクトの気持ちを持ちながら「顔の見える関係」を紡ぎ、その中で活動への伴走支援をしていくという姿勢を大事にしています。自治体から地域の方々に「あなたの力が必要なんです」というメッセージをどういう形で伝えていくのか。それをていねいに考え、実践していくことが大切です。

-取り組みを通じて子どもたちにどうなっていってほしいか、また、三鷹市としての今後の展望をお聞かせください。

学校3部制を進めていく中では、子どもたちの安全安心な居場所づくりとともに、様々な角度からいろいろな人が関わってくれる場面をつくっていきたいと思っています。特に第2部(学校部活動を含む放課後の場)においては多様で豊かな放課後を実現するための施策を検討して形にし、広げていきます。また、学童保育(放課後児童クラブ)の待機児童問題に対しても、学校施設の機能転換による活用が解決の一助になるのでは考えています。

学校という同じ場所にいても、場面や人、場のルールが変わると、子どもたちはまったく別の場所に来ているような感覚になれるんです。子どもたちを見守る意識や、場のセッティングを工夫することで、学校活用の可能性が広がるのではないでしょうか。

これから学校を地域の皆さんに使い倒していただき、地域の大人たちが子どもたちにいろいろな形で関わってくれたら嬉しいですね。ただ、そのためには先生方の理解や協力が不可欠。学校とのコミュニケーションや体制づくりを今後もていねいに行っていきたいと思います。

ナナメの関係から大人がいろんな形で関わってくれた経験は、子どもたちの心を育てます。取り組みを通じ、子どもたちが学校や地域に対する誇りをもち、将来も三鷹に住み続けたいという思いをもってくれたらすばらしいと思います。


-ありがとうございました!


<出典>
※「夜間・休日の学校施設の利用についてのアンケート調査結果(三鷹市教育委員会教育政策推進室/令和4年)」

ライター:青木陽子