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【レポート前編】「こどもまんなかでつなぐ学校と放課後」実現に向けて、いま地域と自治体ができることとは?

11月20日「世界こどもの日」に寄せ、放課後NPOアフタースクールでは子どもたちの幸せについて考える機会として「こどもまんなかでつなぐ学校と放課後」と題し、行政の方や有識者、実践者の方々をお招きし、オンラインフォーラムを開催しました。

第1部ではこども家庭庁が目指す「こどもまんなか社会のありかた」や日本の小学生の現状、海外の放課後の居場所について、第2部では東京都三鷹市と北海道安平町での学校活用と地域連携の実践例についてゲストの方々にお話しいただき、それぞれで弊団体代表の平岩とパネルトークを実施。多様な視点から「こどもまんなか」の実現に向けて意見を交わしました。当日のレポートをお届けします。

【第一部】

① こども家庭庁が目指す「こどもまんなか社会」とは?(こども家庭庁成育局成育環境課長 山口 正行氏)

こども家庭庁の山口正行氏によると「こどもまんなかとは子どもの声をしっかり聴き、その声をまんなかに置き、政策を進めていくということ。そのためには自治体や民間団体との連携を強化していくことが必要」とのこと。こども基本法の理念について解説いただき、子どもたちの受け皿拡大のため学校施設活用を推進すること、居場所づくりに子どもの声を反映させていくことの重要性などをお話しいただきました。

山口氏:こども基本法は、こども政策を進めていく上での基本的な理念などを定めた、基本的な枠組みを定める法律です。 基本理念は6つあり、こどもへの政策はすべてこの理念を踏まえて行う必要があります。

<こども基本法の基本理念>
1.全てのこどもについて、個人として尊重されること・基本的人権が保障されること・差別的取扱いを受けることがないようにすること
2.全てのこどもについて、適切に養育されること・生活を保障されること・愛され保護されること等の福祉に係る権利が等しく保障されるとともに、教育基本法の精神にのっとり教育を受ける機会が等しく与えられること
3.全てのこどもについて、年齢及び発達の程度に応じ、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会・多様な社会的活動に参画する機会が確保されること
4.全てのこどもについて、年齢及び発達の程度に応じ、意見の尊重、最善の利益が優先して考慮されること
5.こどもの養育は家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有する認識の下、十分な養育の支援・家庭での養育が困難なこどもの養育環境の確保
6.家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境の整備

山口氏:放課後児童クラブについては、現在約139万人のこどもたちが利用していますが、待機児童が約15,000人います。待機児童への対策として、今年度末までに152万人分の受け皿を作ることが決まっており、新・放課後子ども総合プランに沿って受け皿の拡大に取り組んでいます。

今年度が新・放課後子ども総合プランの最終年度ということで、文科省とこども家庭庁で、連名通知を出しています。そのポイントの1つとして「学校施設の有効活用」があります。教室だけではなく特別教室を使うなどして、なるべく同じ学校内で放課後を過ごせるようにしていこうということですね。

そして現在、放課後も含めたこどもの居場所づくりに関する方針を策定するために審議を行っています。素案の概要にどんなことが書いてあるか、最後に少しだけご紹介します。

「こどもの居場所とは場所だけでなく、人との関係性全てが居場所になり得る。その場を居場所と感じるかどうかはこども本人が決めることで、こどもの主体性を大切にすることが求められる」

居場所であるかはこども本人が決めるものである一方で、居場所づくりは、大人である第三者が行うのなので、そこにはギャップが生じる可能性があります。そのため、こどもの視点に立って、こどもの声を聴きながら居場所づくりを進めることが必要なのです。


② 国際比較を通した日本の小学生の放課後について(日本総合研究所調査部上席主任研究員 池本 美香氏)

海外との比較を中心に、子どもに関する政策について調査研究を行う池本美香氏からは日本の小学生の厳しい現状について解説いただき、海外の「こどもまんなか」の事例をご紹介いただきました。

池本氏:日本の小学生は、少子化に伴い数は減っているのですが、 いじめや不登校などといった厳しい状況の子どもの数は増えているというのが非常に心配なところです。いじめの件数は551,944件(2022年度)、そのうち重大事態の発生件数は390件 (2022年度)と、小学生でもこれだけ増えています。さらに不登校や児童虐待の件数も増えています。

そして、放課後児童クラブにおける重大事故(治療に要する日数が30日以上の事故)の件数も今増えてきていて、その背景として、放課後児童クラブの大規模化が課題になっています。 支援の単位が41人以上のところが全体の4割弱を占めています。18時までに終了するクラブは2割弱となっていて、親にとっては良いのですが子どもにとっては(長時間過ごすことで負担が大きくなるなど) 厳しい状況だと感じます。

日本では、親のために保育時間をいかに延長するかという方向が強いのですが、海外では” 子どものための”放課後のあり方を考える動きが非常に目立っています。例えば、子どもの意見を聞くことがとても大事にされていて、ルール作りも子どもたちでする場合もあります。また、保育時間を延長するのではなく、親の働き方を見直すということで、「フレキシブルワーキング」といった言葉で親に柔軟な働き方を保障する動きが欧州などを中心に広がっています。

「子どもの放課後を豊かにする」という考え方なので、親の就労に関わらず利用できるのが海外では一般的です。また、質をきちんと確保するために外部の国の機関が放課後児童クラブの質を定期的にチェックして結果を公表するなど、評価の仕組みもあります。

例えばオーストラリアでは、「My Time, Our Place」という、子どもの時間で子どもたちの場所だというタイトルがついた、子どもの権利を軸にした指針が策定されています。スウェーデンでは学校施設の活用が進んでいて、コンピューター室などもフルに活用したり、校庭にもベンチを置いたり、森があったりして居心地が良い場所ができています。

イギリスでは校庭を緑と遊びの場所に改造しようと、以前から国が主導して校庭活用を推進しています。ちょっとおしゃべりできる場所や、ワイルドな遊びができるアスレチックなどの様々な過ごし方ができる環境が整えられています。また、3時間ぐらいの単位で道路を封鎖して遊び場にする「遊び場道路」という取り組みもあります。こういったことが日本でもできないかと思っています。


③ 第一部パネルトーク「こどもまんなか実現に向けて 環境整備について考える/ルールを見直してみる」

パネルトークでは、山口氏、池本氏と弊団体代表の平岩が子ども目線の放課後を実現するための環境づくりやルールづくりの観点から話し合いました。

平岩:放課後NPOアフタースクールが小学生や保護者に行った調査(概要)によると、やはり子どもたちは「もっと自由に遊びたい」という声をっていることが見えてきました。環境の整備という点について、改めてこども家庭庁の考え方についてお話しいただけますか。

山口氏:こどもたちにとっては同じ学校の中で放課後の居場所があれば 1番安全です。でも学校によっては余裕教室もなくなってきたりだとか、管理や責任の問題、学校の先生の働き方の課題などもあり、なかなか学校施設の活用がうまくいってないというところもあるのだろうという風に思います。

ただ、そうは言ってもやはり同じ地域のこどもですので、「地域のこどもをどうみんなで育てていくのか」という観点で、学校と教育委員会、また市町村の福祉部局がしっかり連携をしてやっていくことが必要だと考えています。

平岩:そうですよね。ありがとうございます。ご家庭の状況に関係なく、子どもたちはみんなで一緒に遊びたいという願いが 強いということですので、みんなでこれを叶えていければいいなと思いながらお聞きしました。

次に池本さんにお聞きします。海外の事例で共通する特徴として、子どもたちのために放課後があり、彼らのやりたいことをどう実現するかというのが根底にあるような気がしました。一方で、日本はどうしても親が働くためにというのが強すぎるのではないかという指摘が私も目から鱗に感じたんですが、その辺りの視点から話していただいてもよろしいでしょうか。

池本氏: 海外はやはり子どもの権利条約にある子どもの遊ぶ権利がすごく大事にされていて、イギリスでは国として遊び戦略を作るぐらい、「どうやって子どもの遊びを豊かにしていくか」ということがいろいろと検討されています。「遊びは子どもにとって不可欠だ」という意識が根底にあると思いますね。そこがもっと日本では、大事にしなきゃいけないなと思います。

学校活用については「学校はこうあるべき。図書館はこうあるべき」ということではなくて、「子どもにとって何が必要か、−じゃあ道路でも遊べるようにしよう」という、子どもを、真ん中というか子ども起点で、固定概念を取り外して様々なことをやっていくということが、日本もできたらいいのにと思います。

新潟県の事例:小学校の校庭にある森と築山、認定こども園の園庭で遊べる放課後児童クラブ

平岩 :なるほど、ありがとうございます。子どもの願いをみんなで叶えようという最上位の目標が握れれば、少しずつルールを変えたり一歩譲ったりすることも起きてくるのかなという風に思ってお聞きしました。

私どもは全国のいろんな放課後活動団体とお付き合いがありまして、東京は学校活用が進んでいるように見えるんですが、東京から離れれば離れるほど放課後に学校を使うということにものすごく抵抗感が大きいように感じます。ですので、他の自治体や海外の事例から色々学んでいくということは大事だなと思います。

*第二部レポートはこちら