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【レポート➁】~滋賀県・川崎市の事例から学ぶ~自治体のこども計画策定とこどもの意見反映

放課後NPOアフタースクールでは、5月30日(木)に「自治体のこども計画策定とこどもの意見反映~放課後の居場所づくりはどう変わる?~」と題し、行政の方々をお招きしてオンラインフォーラムを開催しました。
 
開催レポートとして、3部に分けて講演内容をお伝えしていきます。
本記事では、自治体こども計画の策定や政策へのこどもの意見反映についての先行事例である滋賀県と川崎市の取り組みを紹介します。
 
▼登壇者のプロフィール等はこちらから



【滋賀県の事例】子ども計画の策定及び県の施策における「こどもの意見反映」の推進

(滋賀県子ども若者部 子ども若者政策・私学振興課長 野口 浩一 氏)

滋賀県のご担当者である野口様からは、県こども計画検討の進め方や体制、計画の位置付けや方向性、計画検討におけるこどもの意見反映についてお話しいただきました。

県のこども施策推進に向けた動き

こども計画の検討に先立ち、滋賀県では、全庁横断的にこども施策を推進するため、令和5年4月に滋賀県子ども政策推進本部を設置しました。ここでは、知事を本部長とし、関連部局の長が構成員となり、重点課題の整理や対策検討を進めています。

 また、令和6年4月には、「子ども若者部」を新たに設置。庁内の司令塔として、関係部局との連携の上、こども若者施策を総合的に企画調整し、迅速かつ効果的、効率的に推進していきます。

こども計画検討の進め方と検討体制

滋賀県では、現在、現行の淡海子ども・若者プラン(令和2年策定)の次期計画策定にあたって、こども大綱の規定範囲と比較して必要な事項を追加する方向で改定し、県のこども計画の位置付けとするよう検討を進めています。

 また、並行して、条例の検討も進めています。滋賀県では、すでに子ども条例が制定されていますが、制定から18年が経過して子どもを取り巻く環境が変化し、こども基本法も施行されたことから、現行条例を廃止し、新たに(仮称)滋賀県子ども基本条例を検討しています。

こども計画の検討体制については、「滋賀県子ども若者審議会」において、「子ども・子育て支援」「社会的養護」「子ども・若者施策」「ひとり親家庭支援・子どもの貧困対策」の4つの分野ごとの部会に分かれて検討を進めています。

さらに、その4つの部会を横断する形で「子ども真ん中企画検討部会」を設置。ここに大学生などの若者や小中学校の教員、こども子育てに関わる団体関係者が参画して、こども・若者の意見反映やこどもにわかりやすい計画づくりを推進しています。

こども計画の位置付けと方向性、現行計画との違い

まずは、現行の淡海子ども・若者プランについてご説明します。これは、県政の最上位計画である滋賀県基本構想に基づき、こども・若者育成支援施策を総合的かつ計画的に推進するための中期計画であり、子ども・若者育成支援推進法、子ども・子育て支援法などの5つの法律に基づく計画の位置付けも併せ持ちます。

目指すべき姿は「『子どもの笑顔と幸せあふれる滋賀』の実現」とし、「子ども・若者」「保護者」「地域」に関する3つの理念を掲げて、5年ごとに社会状況の変化や国の動きを踏まえて改定するものとしています。

次に、次期計画の検討について、現行計画の5つの法律に基づく位置付けに加えて、こども基本法に基づく都道府県こども計画など2つの計画の位置付けを追加して一体的に作成しています。

検討にあたっての方向性は、こども大綱の主な項目は現行計画でも規定できているため、基本的な考え方は継承しつつ、近年顕在化したヤングケアラーやフリースクールなどの学びと居場所の保障など新しい社会的課題に関する施策について盛り込む方向で検討しています。

こども計画はじめ県の施策へのこどもの意見反映について

2024年5月27日に開催された第1回子ども真ん中企画検討部会では、以下のような意見が出ました。

こうした意見を踏まえて、計画への反映を検討していきます。

また、こども条例の検討過程では、こども・若者を対象に「県知事に意見を伝えたい時にどんな方法なら伝えられると思いますか?」などの3つの質問のWEBアンケートを実施したところ、1万人以上の回答が集まりました。

結果としては、「直接伝えるのではなく、誰かに聞いてもらい、代わりに伝えてもらう間接的な方法が良い」とする声が多くありました。また、年齢が上がるごとに直接伝える方法を選ぶ割合が増える傾向があり、意見を伝える能力に応じた意見聴取の方法に配慮が必要と考えられます。

この他にも、滋賀県では、こどもの意見聴取及び施策への反映について、「子ども版知事への手紙」や子ども県議会など、さまざまな取り組みを全庁各部局で進めています。

こども計画の策定のためだけでなく、多岐にわたるこども施策においてこどもの意見反映を推進していくことが重要であり、そのためには、庁内関連部局の連携はもちろん、市民や企業・NPOなどとの連携も重要であると考えています。


【川崎市の事例】より幅広い子どもの声をしっかりと受け止めるしくみづくり~多様な子どもの声を市政に活かす第一歩~

(川崎市教育委員会事務局 生涯学習部 地域教育推進課長 二瓶 裕児 氏) 

川崎市の二瓶様からは、川崎市で子どもの声を受け止める取り組みとして行われてきた子ども会議について、従来のやり方にはどのような課題があり、その課題を解決していくためにどのように取り組み内容を変えていったのかについてお話しいただきました。そこから、子どもの声を市政に活かすために必要な考え方についてもメッセージをいただきました。

従来の子ども会議の概要とその課題

川崎市は2001年に全国で初めて子どもの権利条例が制定され、条例にもとづいて様々な取り組みを推進しています。条例には子ども会議の設置も定められており、これまで市政に関する子どもの声を聴くために継続的に会議が開催されてきました。
 
従来の子ども会議では、年間を通じて小学生から高校生までの子どもたちが身近なところからテーマを設定して検討し、毎月2回の定例会議を通して子どもたち自身の手によってまとめを行い、年度末に市長へ意見表明をするという形で実施してきました。
 
しかし、子ども会議を進めていく中で次第に幅広い子どもの声を聴けていないのではないか、子どもの声をしっかり受け止めることができていないのではないかなどの課題が見えてきたのです。
 
そこで令和4年度以降は課題解決に向けて、取り組み内容を拡充していきました。

子ども会議は初開催からすでに20年以上経過しており、その間に子どもたちの生活スタイルも大きく変化しました。今は30人ほどの子どもが参加してくれていますが、一時期は開催期間や回数が子どもたちにとって負担となっていたのか、参加人数が10人程度に減ってしまったこともありました。

そこで子どもたちのテーマへの関心度合いや生活スタイルに合わせて参加形態を増やすことができないか、いろいろな参加形態を一連の流れとして組み合わせることができないかなどの検討を始めたのです。
 
こうした検討を通して推進してきたのが次の2つの取り組みです。

・定例会議だけでなく、単発でも参加できる企画「カワサキ☆U18」

・幅広い子どもの声を聴くために、インターネット上の募集箱で子どもの声を集める仕組みづくり

幅広い子どもの声を聴き、対話を生み出す仕組みへ

拡充前は、子どもたちが1年間検討した意見をまとめた報告書を年度末に市長に渡すという一方通行的な仕組みになっていました。

そこで、子どもたちの意見をしっかりと受け止めて相互理解を深めるためにも、検討の過程で大人と子どもの対話の機会を設ける「カワサキ☆U18」という取り組みを始めました。

 対話の場には行政だけではなく、PTAや地域の企業の方にも参加いただいています。対話によって子どもの声の裏側にある真意を聞き出し、大人も考えを伝え、相互理解を深めながら、子どもと大人がパートナーとなり、最適解を模索していく仕組みを作っていきました。

具体的な意見反映までの流れは次の通りです。

まず、仕組みづくりにあたって、幅広い子どもの声を拾うために子どもたちに1人1台配布しているGIGA端末を利用してアンケートを実施して、課題を洗い出しました。

アンケートによって見えてきた課題をもとに、現在は、子ども会議に登録している子どもだけではなく、幅広い子どもの声を聴くために、市のHPに子どもページをつくり、「子ども・若者の ‟声” 募集箱を設置して、小学校・中学校・高校・特別支援学校などの子どもたちが身近なテーマについて意見を表明できるような仕組みを作っています。GIGA端末からその子どもページに直接アクセスできるようにブックマークしておくことで、子どもたちが日常的にページに目を通せるようになっています。

また、HPに集まった声をもとに、子どもと市長・教育長が直接対話する機会を新たに設けました。その場で決まった今年度の検討テーマについて1年間定例会議を挟みながら検討を深堀りしていきます。

年間を通じて対話の場は単発でも参加可能な仕組みにしたうえで、さらに夏休みなどの長期休業期間も活用しながら、企業や地域団体の大人に参加してもらい、より幅広い大人との対話の機会を設けました。

そうして様々な機会を通じて子どもたちの意見をまとめてもらい、最終的には、年度末に子どもと市長・教育長が再度直接話し合う機会を設け、具体的な施策を子どもたちがすべて報告書にまとめて市長に手渡ししました。

子どもの声を反映した「みんなの校庭プロジェクト」の事例

最後に、具体的に子どもたちの声が反映された事例についてご紹介します。川崎市の都市化が進む中で、子どもたちから「大きな公園がほしい」などの声が多く寄せられるようになりました。ただ、子どもたちと直接対話してみるとその声の裏側にある「もっと外で思い切りボール遊びがしたい」という真意が見えてきました。

そこで現在は、川崎市の小学校の校庭で子どもたちが自由に遊べるようにするための「みんなの校庭プロジェクト」を実施しています。

ポイントは“やりたい”を実現するために、子どもたち自らルール作りを行うという点です。これまでは大人が一方的にルールを決めていましたが、どうしたら安全に校庭を共有しながらみんなで遊べるのかを子どもたち自身で話し合って考えています。また、決めたルールを子どもたち自身でチラシを作るなどして発信するという取り組みもしています。

子どもたちから「ゲームしたい」「校庭で自転車に乗りたい」「おかしを食べたい」などの声も出てきますが、できないことはしっかりできない理由を伝えることで、子どもたちとの対話を通して協働でこのプロジェクトを作り上げてきました。

以上のように、これらの仕組みは子どもたちの声を聴きながら一緒にブラッシュアップしてきたものです。1つの取り組みですべての子どもの意見を網羅する理想的な仕組みはないため、大人が考えすぎて立ち止まってしまうよりも、まずは実際に子どもの声を聴くことが成功への近道だと考えます。

文:コミュニケーションデザインチーム・ 岸田 ・佐々木


▼自治体向けオリジナル情報誌「放課後マガジン」note版より

【滋賀県取材記事】

【川崎市取材記事】


▼開催レポート①「~こども家庭庁が解説~自治体こども計画」と「こどもの意見反映」自治体に求められることとは?」こちら

▼開催レポート③「~南あわじ市と放課後NPOアフタースクールの事例から学ぶ~ こどもの意見を反映した放課後の居場所づくり」こちら