コラム「境を越えた瞬間」2024年3月号-吉澤卓馬さん‐
プロフィール
吉澤 卓馬(よしざわ・たくま)
作業療法士
元学生ヘルパー
専門学校2年生のときに岡部さんと出会い、2年間学生ヘルパーをしていました。作業療法士となった現在でも、境を越えての活動に協力させていただいています。
ALS当事者さんとの出会いは、一瞬で「境」を越えてしまうことができる
境を越えた瞬間と言われ、改めて考えてみると、ALS当事者さんと出会った瞬間を思い出します。
学生の時の授業でALSという病気を知りました。
「徐々に筋力が低下していくが、思考や感覚などは低下しない病気」
とても難しい病気だと思ったのと同時に、実際にどんな生活を送っているのかが気になりました。
当時の同級生が若い女性のALS当事者さんの家で学生ヘルパーをしたので、相談し、実際の生活場面を見学させてもらう機会をいただきました。
知らないということは「境」を作るきっかけ 〜酒井ひとみさんとの出会い〜
実際の当事者さんに会いに行くのは本当に緊張したのを覚えています。
お邪魔したのは酒井ひとみさんの家。
20代でALSを発症しながらも、旦那さんとお子さん2人と生活するママさんでした。
同級生の学生ヘルパーと「口文字」という呪文のようなものを唱えながら会話をしていた光景にとても驚いたのも、今でも鮮明に思い出します。
その呪文を使いながら、ヘルパーさんに指示を送り夕飯を作ったり、子どもたちに話かけたりしている光景を見て、いい意味で期待を裏切られました。普通の生活がそこにはあったのです。
このときが、境を越えたなと感じた瞬間だったかなと思います。
今思うと、「病気とともに生活すること=大変で辛い」と勝手に自分の中の価値観・想像だけで「境」を作っていたなと痛感します。
実際に生活の場を見せていただき、とてもフランクに接してくれた酒井ひとみさんには感謝しかありません。
境を越えるには「体験」が重要 〜岡部 宏生さんとの出会い〜
ひとみさんの外出に同行させていただく機会をもらいました。
ALS協会の総会といって、いろいろな患者さんが一堂に集まる場に連れて行ってあげると言われました。他の患者さんに会えるのをワクワクしていました。
会場に着くとひとみさんから「あそこにいるダンディな男の人が岡部さん、私の先輩患者さん」と紹介され、「今日から岡部さんちね。ばいばい。」と言われました。
・・・ん?!
そのままの流れで岡部チームに合流し、介護タクシーに乗り岡部さんの家まで連行されました。
ALS患者さんの間ではこういうことが日常なのか・・・?
さっそく「境」を作る間もなく越えさせられました。
それからというもの、いとも簡単に「境」を越える経験をさせていただきました。
人生初の飛行機は岡部さんと。
人生初の海外旅行も岡部さん。
初めて車椅子の人と観覧車に乗ることも岡部さんと一緒。
1ヶ月の3分の2以上を外出に費やし、
新幹線や特急での移動は当たり前。
もしかしたらその辺のサラリーマンよりも飛び回っているのではないかと思わされるほど忙しく、貴重な体験をたくさんさせていただきました。
そんな体験をさせていただいたことで、ちょっとやそっとのことは「境」と感じなくなるようになりました。
こんなに貴重な経験をさせていただいた岡部さんには本当に感謝しており、これからも境を越えての活動をサポートしていきたいと思います。
今まで以上に「境」を感じさせないような体験を共有できることを楽しみにしています。