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コラム「境を越えた瞬間」2022年7月号-千葉早耶香さん‐

プロフィール

千葉 早耶香(ちば さやか)

看護師・元学生ヘルパー

大学4年生から1年間チーム岡部で学生ヘルパーをしていました。
その後、病棟看護師となってからも岡部さんとの交流は続いており、最近は境を越えての活動を手伝っています。

飛行機での外出同行中の千葉さん(右)


「これからもずっと」


2016年2月27日は初めて岡部さんに会った日で、思えばその日、岡部さん宅の敷居を跨いだのが、私が最初に「境を越えた瞬間」だった。

臨時実習を終えた2月、バイトのちょっとした稼ぎに対して、飲み会等での出費が増えてきたので、稼げる楽なバイトを探していた。そんな時、同級生にヘルパーのアルバイトを紹介された。その同級生は既にヘルパーをしていたので、他にアルバイトに入れる子を探していたのだ。私が住んでいるのと同じ区内に在住で行きやすいこと、夜勤に入ったら稼げるかなと軽い気持ちで紹介された患者さんに連絡をした。数回メールでやり取りをして見学の日程が決まった。Google mapで調べたらバスで数分の距離に家があった。頑張ったら歩いても行けそうな距離に、ALSの人が住んでいるなんて全く知らなかった。自分の人生が変わる出会いがその日にあった。

岡部さんが受け入れ続けてくださったことで心の「境を越えて」いた。

数回の見学を経て学生ヘルパーの勤務が始まったが、私は今までの誰よりも力がないといわれたほど非力で、岡部さんの体を全然動かせず、自分の腰を痛めていた。後から聞いた話だが、岡部さんは私に辞めてもらおうとも思っていたけれど、ここで技術をつけてくれれば今後の役に立つだろう、と受けて入れてくれたのだった。頑張って続けていたら岡部さんの体を動かせるようになっていた。無意識にあった心理的な距離が縮まったことで、体への触れ方が変わり、動かせるようになったのだと思う。
 

学生ヘルパーの1年間は、人と人の間にある「境を越えて」接する経験であり、そこで身についた力が看護師としての実践につながった。

病棟の先輩に、「あなたは患者さんと雑談する空気をつくっている」、「在宅療養に向けて調整を進める中で患者さんの意思を聞けている」、「終末期にある患者さんの思いを、良いタイミングで聞けていた」と言ってもらえたことがあった。岡部さんや岡部さんを通じて接した患者さんは確かに疾患を抱えていたけれど、私と何ら変わらない人だった。在宅療養では本人の意思が何より大切だと肌で感じていた。岡部さんは終末期を何年も過ごしていると冗談のようによく話しているように、岡部さんとの会話はある意味で終末期にある人との対話であった。

6年前、岡部さんに出会っていなかったら、今自分がどんな人間になっているか想像もつかない。これからもずっとよろしくお願いします。


岡部さんと目を合わせながら吸引をする千葉さん


境を越えてでは、毎月「境を越えた瞬間」というテーマで、福祉や医療、障がいに携わる方にコラムの寄稿を依頼しています。
2022年4月号よりnoteでの掲載となりました。
それまではメールマガジン「境を越えて通信」での掲載となっていましたので、バックナンバーを順次noteへ掲載しているところです。バックナンバーもぜひご覧ください。