家族や親族とのつながりが無い人の「仮釈放」が困難な現状。支援のスキマを埋めるためには?保護観察所職員・西原実さんインタビュー
罪を犯して刑務所や少年院に入った人が、どのような経緯で地域に戻ってくるのか、ご存知ですか?
刑務所で刑期の全てを過ごして出所する人以外に、刑務所などから許可を受け、条件付きで刑期のある程度の期間を刑務所の外で過ごす人もいます。これを仮釈放といいます。仮釈放には、仮釈放期間中の生活を監督・支援する身元引受人が必要です。
受刑者・出所者の社会復帰支援に取り組むNPO法人マザーハウスは、仮釈放の対象となった方の身元引受人になるための活動にも取り組んでいますが、家族・親族や雇用主ではなく、当事者との関係ができてから日が浅いNPO法人であるマザーハウスは、身元引受人として認められないでいるのが現状です。
現在の制度における、仮釈放や身元引受人の条件や課題について、大阪保護観察所の職員である西原実(にしはらみのる)さんにインタビューを行いました。
裁判から仮釈放までの流れ
まずは、罪を犯した人が、裁判で判決を受けてから仮釈放に至るまでの流れを解説していただきました。
裁判所で判決を受ける。
判決によって執行猶予や保護観察処分、または刑務所や少年院などの刑事施設に入ることが決まる。
刑事施設に入った人は、その後、地方更生保護委員会で面談を受け、仮釈放するかどうかが決まる。
仮釈放になった人、執行猶予をもらった人、保護観察処分になった人は、保護観察所の管轄に入る。
保護観察とは
保護観察とは、犯罪を犯した人が社会の中で更生できるように、監督・指導・援護を行うことです。
保護観察を行うのは、保護観察所に配置される保護観察官と保護司(地域の方によるボランティア)です。保護観察の内容は、大きく「指導(指導監督)」と「支援(補導援護)」の大きく2つからなります。
指導(指導監督)
対象者がルールを守っているかを監督し、また必要に応じて指導します。
面接を通して保護観察対象者の状況を把握する。
保護観察のルールを守っているか、監督する。
更正するための専門的なプログラムを受けさせる。
など
支援(補導援護)
対象者が地域で自立した生活を送るためのサポートを行います。
就労支援や学習支援
医療、福祉への橋渡し
など
「保護観察」の対象者は、全国で約8,5000人ほどになるそうです。これに対して全国の保護観察所職員は1,000人程度であり、約48,000人の保護司と連携して保護観察が行われています(法務省「保護観察所」ページより、平成25年時点の数値)。
日常的に多く対象者と関わるのは保護司であり、民間ボランティアに頼って運営されていることが、日本の保護観察における課題であると、保護観察所職員さんは語ります。
仮釈放のためには、「帰住予定地」が必要
仮釈放の対象となった人が実際に地域に出るためには、適切な帰住予定地(出所後に身元引受人の観察を受けながら生活する住宅)があることが条件となります。
関係の深い身元引受人がいるかどうか。
既に生活できる環境が整った帰住地があるかどうか。
この2項目について、保護司が調査を行います。帰住予定地の環境が整わない場合、更正保護施設に行くことになるか、仮釈放されないこととなります。
身元引受人に求められる役割や条件
身元引受人には、仮釈放となった人の生活・更生を監督する責任があります。このため、受刑者のことをよく知り、一定の関係が構築できていることが求められます。
受刑者を出所後に雇用する場合、雇用主は身元引受人になることが認められやすくなります。これは、雇用契約を結ぶということで、雇用主の責任能力が認められるからです。
新規の支援団体では、身元引受人に認められにくい現状
私たちマザーハウスも、文通などを通して受刑者を支援するなかで「仮出所をしたいので、身元引受人になってほしい」という相談を受けることがあります。
罪を犯した人の更生・社会復帰に取り組む団体として、こうしたご相談に対しても力になりたいと考え、身元引受人になるための申請を行なっていますが、これまで刑務所・保護観察所からの許可が得られたケースはありません。
マザーハウスでは、出所後の住まいや就労、居場所づくりの支援にも取り組んでいますが、直接雇用契約を結んで出所者を引き受ける事業形態ではないため、「雇用主」という責任能力を認められやすい立場にないことが理由のひとつとして考えられます。
また、「受刑者のことをよく知っていること」も身元引受人の条件として求められることも、ネックのひとつです。
罪を犯した人やその親族・弁護士等から、逮捕・勾留等のタイミングでマザーハウスに問い合わせをいただくことで支援がスタートするため、ゼロから関係を築かなければなりません。
しかし現在の制度では、家族や親族、弁護士以外の人が受刑者と面会するのは難しい状況にあります。刑務所に対してマザーハウスも面会の申請をしていますが、なかなか申請が通らず、受刑者と会うことができていません。
そのため、受刑者とのコミュニケーション方法が文通に限られてしまい、相手をよく知ることが難しく、結果、刑務所・保護観察所からもマザーハウスを身元引受人としてふさわしいと認めてもらえない…というのが現状です。
しかし、家族等に身元引受人をお願いできないからこそ、マザーハウスのような支援団体に身元引受人を依頼しているという、受刑者も少なくありません。
家族・親族や雇用主による身元引受を前提とした、身元引受人制度による、支援のスキマがここにあると言えます。
マザーハウスによる身元引受支援の実現に向けて
マザーハウスによる身元引受の実現について、西原さんからは、
刑事施設に断られても、諦めず面会希望を出し続け、地道に受刑者との関係をつくっていくこと。
マザーハウスがどういう団体なのか、受刑者だけでなく刑事施設や関係各所に知ってもらうために、広報活動に力を入れていくこと。
2点のご助言をいただきました。
「NPOが身元引受人、帰住地になろうとする活動にはとても意義がある。ぜひ頑張ってほしい」と激励をいただきました。
これからもマザーハウスは、家族や雇用主とのつながりがなく、行くあてがないために仮釈放を受けられない人たちの、社会復帰・更生の受け皿となるべく、身元引受の実現に向けた活動を続けていきます。ぜひご支援いただければ幸いです。
マザーハウスの活動へのご支援のお願い
NPO法人マザーハウスでは、受刑者・出所者の回復と社会復帰(就労や生活支援)のためのさまざまな事業を行っています。活動を支えてくださる方からのご寄付・ご支援をお願いしております。
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マザーハウスでは活動の一環として、「マリアコーヒー」を販売しております。マザーハウス事務所にて、元受刑者が販売に携わっており、収益金は受刑者の更生・社会復帰支援等に使用いたします。
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