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ししょうせつ・4

駅への旅程もクライマックス。オフィスビルやら商業施設のビルが壁のように迫ってくる。そこに組み込まれ機能するネジやボルトが自分を殺した透明人間になりかけの姿で続々こっちに向かって歩いてくる。存在と気配を潜めている割には相当の圧迫感放ってるな。ちょっと萎えるけど、負けじと進む。だけど多勢に無勢。駅の方向から吐き出されてくる勢力は圧倒的なんだ。駅に向かう我々は道の端に追いやられて身をかわしながらのろのろ先を目指す。駅につながる地下街への入り口にたどり着く。ダムの放水のように吹き出す通勤人間。これだけの人間と対峙しているはずなのにお互いに顔を向き合わせることもなく、個々の主体としての認識は皆無。互いの心地よさを妨げる障壁にしかなっていない。今ここで蠢いている僕らは不快とか不愉快という感覚でしか共感することができない。だからマスクして顔を隠し。ヘッドフォンで音遮断。スマートフォンで視界も遮断。世界から他者を消し消ししながらやり過ごしてんだろ。みんなはそんなこともないのかな?。こんなこと頭の中で巡らしてる余裕もないか?。通勤人間の吐き出し口から地下へ降りる隙間を伺い滑り込んでいく。自分の横を登っていく人の列は終わりが見えないほど先まで続いている。規則正しいようでちっとも美しいリズムを刻んでいない靴音。地下街の床に足を下ろす。まるで下水道の穴倉に落ち込んだような気分。実際に下水道の中なんて降りたこともないし見たこともない。けど。でも反吐な気分。地上へと向かう人列は地下街にも伸びている。地下に連なる商業施設の横を進む。ヘアーサロン。この時間に床屋に行く人いないよね。もちろん開店前。シャッターは降りている。コンビニ。人並んでる。店員さん忙しそうにレジ。TSUTAYA。ここも開店前。「パラサイト」レンタル開始のポスター。この前見たけど面白かった。おすすめ!!。ドコモショップ。しばらく来てない。それはいいことなんだけど。ここに来る時は困った時だからね。できれば一生来たくはない。こちらも開店前。朝限定のシャッター商店街をささっと通り過ぎて。いよいよJR改札口に近づいて来たよ。私鉄と地下鉄の駅から流れて来る通勤人間の奔流が怒涛のように改札口に流れ込んでいく。ここからは集中力切らさないで無心で流れに乗ってついていかなくちゃいかないとやられる。改札口を目視できたら右手にスマートフォンをに握りしめる。時折、改札侵入を拒否されてるエラー音が響いてる。人の波が乱れる。どれだけスマートな機器で管理されてる世界にもバグはあるんだな。ある意味安心。でも、そんなちっこいヘマの当事者になるのはごめんなさい。なので。無事通過させてくださいの念を一発かまして。スマートフォンを自動改札機にタッチ。チャリンと気持ち良い音を確認。無事通過できました。神様!。キヨスクを横目にしながらホームへ上がるエスカレーターを目指しますよ。もはやプログラム埋め込まれたマウスです。逡巡することなく目的のホーム選ぶことができます。エスカレターの末尾に着いたら、きちんと行儀よく機械に身を委ねて上昇。分速30m。30度の角度で運ばれていく。下降していく平行するエスカレーターの人の流れも途絶えることがない。しばし離れていた地上の光と音と匂いが近づいて来る。自分に組み込まれたプログラムが指定する電車はちょうど滑り出したところだった。最初にもたついたロスはさらに広がった。ま、こういう日もあるさと強引に気持ちをリセットするなどして次の電車待つ。耳に刺激を与え続けてくれていたDAOKOのアルバムも最後の曲になった。バックからアイヌの物語の分厚い文庫本取り出す。人が神様にひどい目に遭わされたり、人が神様に守られたり。そういう話がたくさん詰まったこの本。そんな世界に速攻で没入間違いなし。なので、電車に乗り忘れたり、駅を乗り過ごしたりしないよう。要注意な書物なのだ。それは杞憂に終わり、間も無く電車が轟音立てて滑り込んで来る。プシューッとドアが開く。社会というプログラムに組み込まれた自分の意識にこの電車は屠殺場に向かっていくという認識は浮かばない。自分の意思を持つ時間を奪われ殺されて、餌を与えられる。生き延びるために染みついた日々の生業。青い座席の片隅にちょこんと座る。スマートフォンから目を離さない同乗者たち。自分もアイヌの村の世界に戻っていく。屠殺場に向かう電車は開くときと同じようにプシューッという音を立ててドアは閉じる。イヤフォンからDAOKOの声は途絶えた。女性の車掌の声が次の到着駅のアナウンスする声。

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