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狩女子日記。【⑫ジビエのリスク管理 】Hunter Girl Diary


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【ジビエって・・・?】

みなさんは「ジビエ」という言葉をご存知でしょうか?ジビエとは狩猟によって捕獲された野生鳥獣の食材のことであり、イノシシやシカ、カモにウサギとその種類は多岐にわたります。畜産の技術が確立される以前の時代は、世界中で「肉といえばジビエ」の時代がずーっと続いていました。

 日本で食肉文化が一般的になったのは明治時代以降とされていますが、牛肉や豚肉が一般的な食材ではなかった江戸時代にも、「ももんじ屋」と言う捕獲した有害鳥獣を食用に販売する店がありました。表向き肉食が避けられていた時代なので、猪肉は「山鯨」鶏肉は「柏」鹿肉は「紅葉」などと呼び名を変えて流通していたようです。また、ウサギを一羽、二羽と数えるのは、獣肉を食べられないお坊さんが、2本足で立つ羽(耳)の生えたウサギを鳥類だとこじつけて食べていた為だと言う説もあります。

 ちなみに、1939年のディズニーの短編映画で、ミッキーマウスがプルートを猟犬として訓練し、ウズラの狩猟に出かけるものがあります。ミッキーが猟銃を持って「ウズラの丸焼きや脂ののったステーキが食べたい」などと発言する今では考えられないような内容です。ほんの数十年前までは、ジビエは当たり前の食肉文化だったわけですね。

 はてさて、そんな「当たり前に食べられていたジビエ」ですが、自分で狩猟して食べるとなると、少し気をつけないと行けない事があります。みなさんが普段食べている豚肉や牛肉などの畜肉は「と畜場法」「食品衛生法」などの多数の法律により衛生的に管理されたお肉です。飼育から屠殺、流通まで厳しい法律の目があるおかげで、スーパーで買ったお肉を食べるのに特別気をつける必要はありません。しかし、狩猟鳥獣を自分で食べるとなるとそれらの法律の代わりに、自分の目で安全を確認するしかありません。ジビエを美味しく頂くためにも、“正しい知識”を持って対処しましょう。

【E型肝炎に気を付けよう!死亡例も・・・ 】

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 ジビエを食べることによるリスクでよく聞くのが「E型肝炎」です。E型肝炎ウイルスの感染による急性肝炎で、通常は自然に治るものですが、急性肝不全を起こし死亡する例もあります。ウイルスに感染したシカやイノシシの肉、特に内蔵を生食する事により感染します。特にシカは鹿刺しやルイベ等、火を通さずに食す文化もあり、注意が必要です。また、イノシシの乾燥胆嚢を粉末にして水に溶き、生薬として飲用し、そこから感染した例もあります。さらに、肝臓で増殖したウイルスは血液内にも循環しているので、血抜きが不十分な場合に肉が汚染されてる事もあるそうです。肝炎予防の確実な方法は加熱で、肉の中心部を71℃以上に加熱することで安全に食べることが出来ます。ちなみに冷凍や冷蔵ではウイルス自体が新鮮なまま保存されてしまい、死滅することはありません。

【寄生虫に気を付けよう!脳障害が残る可能性も・・・】

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  魚介類ではアニサキスが有名ですが、ジビエにも寄生虫のリスクはあります。その一つが「旋毛虫」です。主にクマを宿主とする寄生虫で、人間に感染した場合、吐き気や下痢、腹部のけいれんや微熱を引き起こします。さらに幼虫が筋肉に侵入すると、筋肉痛や発熱・頭痛、呼吸や発声に使う筋肉に痛みが強く出ます。重症化すると心臓、脳、肺などに炎症を起こす場合もあり、まれに死亡する場合もあります。感染例はあまり多くありませんが、2016年には茨城県水戸市の飲食店で21名の集団感染がありました。北海道で狩猟されたヒグマの肉のローストを常連客が持ち込み、加熱不十分なまま飲食店で提供したことによって感染したそうです。クマ以外にもキツネやタヌキ、アライグマからも旋毛虫が検出されていますが、日本では家畜やシカ・イノシシからは検出されてはいません。

 「クマなんて食べないし大丈夫~♪」と言う方。残念ですが、「肺吸虫」という寄生虫がいます。主な感染源は淡水に住むサワガニやザリガニなどの甲殻類、そしてそれらを食べたイノシシです。感染すると下痢や腹痛、発熱などに加え、喀血や呼吸困難などの肺結核のような症状を引き起こします。関西地方、特に南九州でイノシシからの感染例が多く、地元の食習慣によりイノシシを生食した事例が多かったようです。

 さらにサルコシスティス・フェアリーという寄生虫はウマや犬、そしてシカにも寄生します。馬刺しにより感染する事例が多く、軽度の下痢や嘔吐を起こします。2015年には滋賀県の飲食店で、加熱不十分な鹿肉のあぶりからも感染が発生しています。さらにこの寄生虫は爬虫類や鳥類にも寄生しますので、カモなどのジビエを食べる際にも十分に注意してください。

 寄生虫の予防はとにかく冷凍、とよく言われますが、寄生虫と一言で言ってもそれぞれ別の生き物なので、低温に弱いもの、強いものがいます。特に旋毛虫の中には-18℃で5年間(!)生存可能な種類もあり、一般的な家庭用冷凍庫では寄生虫の予防は出来ないと思ったほうが良いそうです。ちなみに、アニサキスの冷凍処理として厚生労働省は「-20℃で24時間以上」を推奨していますが、家庭用冷凍庫の平均は-18℃ですのでご注意を…( ゚Д゚)

【マダニに気を付けよう!私もやられた~!】

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 食べなくても野生鳥獣にはリスクがあります。それがマダニです。狩猟を行わなくても農業や林業、登山やハイキングなどで自然に関わる方は知っているかもしれません。夏場などに屋内で発生するダニとは違い、マダニは体調が3~4mmと大きく、さらに吸血することで1cm以上の大きさになるため肉眼でもすぐ分かります。実際私もイノシシの解体中に大きなイボを見つけて、なんだろうと思ったらマダニだった、なんて事がありました。

 シカやイノシシなどの大型獣だけでなく、タヌキやアライグマなどの中型獣にも必ずと行っていいほどマダニがついています。春から秋にかけて、植物の枝先や葉先に集まり、それに触れた動物に付着して吸血をします。マダニに刺されると痒みがありますが、それよりも怖いのはウイルスや細菌などの感染症を持っている事です。種類によって持っている病気は違いますが、日本紅斑熱、回帰熱、ライム病、ダニ媒介脳炎、ツツガムシ病、Q熱など、その他聞いたこともないような病気を山程持っています。特に怖いのが重症熱性血小板減少症候群(SFTS)というウイルスで、致死率は10%~30%にもなります。

 マダニに刺されないようにするには、狩猟に出る時は長袖長ズボンを履き、長靴などの足を完全に覆う靴、さらに頭や首などもできるだけ露出しないようにすることです。また、鳥獣の解体時も手袋だけでなく、手首まで覆う服を着ることで予防することが出来ます。山へ入った後や鳥獣に触れた後は、入浴やシャワーでダニがついてないかチェックし、衣類を屋内で放置したりしないようにしましょう。また、市販の虫除けスプレーの中にマダニに効果のあるものもあるので、狩猟をしなくても山へ入る方はぜひ効能欄を確認してみてください。


 【まとめ。安全なジビエライフを】

さて、なにやら怖い話ばっかり続いてしまいましたが、いかがでしたでしょうか。もうジビエなんて怖くて食べられないって?大丈夫です。みなさんがお肉を扱う時に普段やっている通りの方法で、ジビエは安全に食べられます。アルコール除菌や煮沸消毒で衛生管理は出来ますし、きちんと火を通せばウイルスも寄生虫も問題ありません。何より自分で獲ったジビエは美味しいですよ~(=゚ω゚)ノ正しい知識を身につけて、美味しいジビエライフを送りましょう!


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