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V "Slow Dancing" ゆっくりとわかり合いたい ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.106

多分僕らは 朝までずっと
手に手を取り合い過ごせるだろう
僕らは 夜通しずっと
夢のようなひと時に浸れるだろう

Slow Dancing



もう僕ら はっきりさせないとだね
手遅れでなければ少し時間が欲しい
およそ無理なことだったみたいだよ

無実の心でさえ押し殺したまま
耐えるのはこれ程にも辛いけど

僕と一緒にいてよ
一日が終わるまで

多分
僕らは 朝までずっと
手に手を取り合い過ごせるだろう
僕らは 夜通しずっと
夢のようなひと時に浸れるだろう

僕をその気にさせるかと思えば、
こうして手のひらを返す
どうしたいの?好きじゃないの?
からかわないでよ、ねえ
君は 今ここで 僕に
愛する心を忘れさせた

僕を踏み台にして
また新しく誰かと
イイ感じになったんでしょ?
似通っていた僕等が
遠い隣人のような日


多分
僕らは 朝までずっと
手に手を取り合い過ごせるだろう
僕らは 夜通しずっと
夢のようなひと時に浸れるだろう


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6212528

『Slow Dancing』
作曲:FRNK , Freekind. , Cautious Clay , Sam Gendel
作詞:Freekind. , 김동현 , Gigi
編曲:FRNK , Freekind. , Cautious Clay , Sam Gendel


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今回は、2023年9月にリリースされたBTSのVによる1stソロアルバム「Layover」タイトル曲 "Slow Dancing" を意訳・考察していきます。

アルバム収録曲の中で最も時間をかけて収録したと明かしているこの "Slow Dancing" には、タイトル曲であるからにはできるだけ上手に歌いたかったと一層の意気込みが込められているようです。

ARMYたちが一番好きそうだと勘を働かせてこの曲をタイトル曲にしたとのことで、元々はボーナストラックのピアノver.が先行して作業されていたが、後にフルートver.を本タイトルに引き上げた経緯があったのだと解説しています。↓

今回のカムバックは日本での活動が充実していたことでも話題になり、"Slow Dancing" はあのTHE FIRST TAKEでも披露されました。

この楽曲が持つ「Slow」の概念が、自分自身を良く表しているといった内容のコメントをどのインタビューでも答えていたのが印象的でした。
個に集中する最良の機会を最大限に活かしたアルバム「Layover」。
そしてその象徴ともいえる "Slow Dancing"。
歌詞にはどんな世界が落とし込まれているのでしょうか。




"Rainy Days"、"Blue"、"Love Me Again" では、自分に気持ちが向かなくなってしまった「君」と会えずじまいのまま、まんじりともしない日々を過ごしていた「僕」。この "Slow Dancing" では、別れ話に決着をつける時がきて、同じ空間に居合わせることになったふたりの様子がえがかれていきます。

It's about time we get it straight ※1
(もう僕ら はっきりさせる時だ)
Gimme a minute if it ain't too late
(手遅れでなければ少し時間が欲しい)
대충 ※2
(大体)
무리였나봐 babe ※3
(無理だったみたいだね)

애먼 기분만 해친 채 ※4
(無実の気分さえ傷つけたまま)
버티기가 이만큼 힘든데 ※5
(耐えることがこれ程大変だけど)

Stay with me
(僕と一緒にいてよ)
Till the end of the day
(一日の終わりまで)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6212528

※1
・It's about time~…もう~してもいい時間である(参考
・get~straight…~をはっきりさせる(参考
※2 대충…およそ、大体(参考
※3 ~나봐=~나 보다…~のよう、~みたい(参考
※4 애먼…無関係な、無実の(参考
 用言の活用形のように見えますが単体で活用せずに用いる単語(冠形詞)です。(参考
※5
・만큼…~程、~くらい(参考
・~는데…~けど(参考

すでに「君」の心を取り戻すことが不可能だと悟った「僕」。
一縷の望みがあるならば、せめてこの一日が終わるまでは一緒に居て欲しいと懇願します。

ただ、こうなってしまった原因が自分にあるとは受け入れ難く、今でも「君」を想い続けている自分は無実である、関係が壊れたのは「君」の心変わりのせいだという気持ちは捨てることができないし、今すぐにでも非を責めたい気持ちも無い訳ではありません。

しかし、この最後の一夜だけでも共に過ごせるのなら、どんな理不尽も甘んじて受け入れ、本心を押し殺し、辛くても耐え抜くことを選ぶ。
そんな葛藤がこの冒頭部分では綴られています。


Maybe we Could be Slow dancing Until the morning ※6
(多分 僕らは朝まで共に踊れるかもしれない)
We could be romancing The night away ※7
(僕らは夜通しロマンチックな時間をすごせるかもしれない)

※引用文に付けた和訳は直訳(文脈を優先させるための改行操作あり)
https://music.bugs.co.kr/track/6212528

※6 slow dance…カップルで踊るパートナーダンスの一種(参考
・slow dance together…互いに親密にする参考
※7 night away…夜通し(参考

「Slow dance」という言葉には既に「ふたりで(踊る)」という前提があり、親密なふたりがゆっくりと愛情を育む様子を連想させる、まさにロマンチックな表現となっています。

悲しいかな、「僕」のささやかなこれらの期待に適う結果は訪れることはありません。


Turnin' me up and back off like this ※8
(僕を盛り上げて、そしてこんな風に撤回する)
What do you want, do you not like it
(何がしたいの?好きじゃないの?)
Stop teasin' me girl ※9
(僕を試すのはやめてくれよ)
Now you made me leave my heart out here ※10
(今ここで君は僕に愛情を忘れさせた)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6212528

※8
・turn up…元々「上に向く」という意味だが転じて「盛り上がる」の意(参考
・back off…言ったことを撤回する(参考
※9 taste…少しだけ味わう(参考
※10
・heart…愛情(参考
・leave+A+out…Aを無視する、忘れる(参考

「君」の奔放な態度がここで描写されています。どうやら「僕」の真摯な想いと「君」の気持ちはつり合いが取れていなかったようです。「君」は「僕」を半ば弄ぶかのように思わせぶりな態度を示し、「僕」はそれに翻弄される。それでも尚「僕」は葛藤を続けていましたが、ついに今ここで「君」の本性を知り、その愛情を捨てることになります。


날 딛고 올라가 ※11
(僕を踏んで上がって)
다시 새로 누군가 ※12
(また新しく誰か)
Got it on Did you? ※13
(関係を持ったんでしょ?)
닮았던 우리가
(似ていた僕らが)
먼 이웃 같은 날
(遠い隣人のような日)

※引用文に付けた和訳は直訳(文脈を優先させるための改行操作あり)
https://music.bugs.co.kr/track/6212528

※11 딛다=디디다…踏む
※12 누군가…誰か(=someone)(参考

※13 get it on…楽しくやる/「肉体関係を持つ」の意のスラング(参考

これまでは関係が上手くいっていた(と思っていた)頃の美しい記憶だけを愛でて反芻してきた「僕」でしたが、ここで現実と向き合います。「君」の態度は自分だけを見てくれていたとはおよそ言い切れず、他の誰かの気配を常に纏っており、共感出来ていた部分にはもう目が行かず疑念が先行し、存在自体が他人同然の遠いものになってしまいます。

自分には非が無いという正論に蓋をし、己もまた「新しい誰か」のひとりでしかないことを自覚した上で、それでも「君」との最後の夜はロマンチックに過ごせるのではないかと半ば現実逃避気味にその場の雰囲気に身を委ねる「僕」。
離島でバカンスを楽しむファンタジックなMVには「美しいもの」「楽しいもの」ばかりが大切に並べられていますが、それらが全てジオラマの一部であるかのような描写もあり、理想と現実の狭間で漂う「僕」の浮遊感が表現されているようにも思えます。

"Slow Dancing" は「僕」から「君」への愛に満ち溢れた歌ですが、その愛の深さの分だけ息苦しさと孤独感が募るような、非常に切ない物語でした。




テテの人となりがそのまま音になって世に出たようなアルバム「Layover」 の魅力に惹かれた方々が、これまで知り得なかった彼の一面に気付くことができたという声をあちこちでこっそりお見掛けしています。そしてそれを見て密かにほくそ笑んでいる私がここにいます😊

彼らバンタンの本質は音楽を聴くことで初めて伝わるのではないかと私は思っています。これからもたくさんの方が彼の/彼らの音楽や言葉の力に気付いてくれたらいいなと、世界の片隅で心から願っています。



今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
💃