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RM "Closer" 誰のものでもあり得る物語 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.082

時折、予感がする。
あなたとはうまくいかないのだ、と。
大抵夜になるとそう感じるんだよ。
僕が最もあなたに近しい時間なのに。


Closer (with Paul Blanco, Mahalia)



時折、予感がする。
あなたとはうまくいかないのだ、と。
大抵夜中にそう感じるんだよ。
僕が最もあなたに近しい時間なのに。
もし、僕がかつてない程の距離で
あなたにひたと寄り添えるのなら、
今までに経験したことがない程に
僕らは親密になるのかもしれない。

大抵夜中にそう感じるんだよ。
あなたの歴史に僕が刻まれることは決してない。
常に脚光を浴びる中で会おう。
僕に味方でい続けさせてくれよ。
からかってはいない。
冗談なんかじゃないよ。
僕は本気なんだ。
やめないでよ、ねぇ、お願いだ。
何故浮ついているの?
僕の視界にあなたを閉じ込めてしまいたい。
でもあなたは、魚みたいに逃げてゆく。

あなたを僕のすぐ隣に置いておきたい。
ただ、夢の中でだけ。
僕はあなたを赤、青、緑の中に見出す。
僕を眠りから醒さないで。
僕は判断が鈍ったんだ。
全てがちぐはぐ。
何故、あなたは僕の人生に現れたのか?
こんな風に、あまりにも唐突に。
ああ、やめてくれよ。

時折、予感がする。
あなたとはうまくいかないのだ、と。
大抵夜中にそう感じるんだよ。
僕が最もあなたに近しい時間なのに。
もし、僕がかつてない程の距離で
あなたにひたと寄り添えるのなら、
今までに経験したことがない程に
僕らは親密になるのかもしれない。

右も左もわからないこの未熟者に連絡してくれよ。
仮に今この時間が誰のことも待たずに
進んで行くものだとしたら?
あなたはそう思ったに違いない。
でも、時はここに留まるものなのだ。
あなたと僕が、唇を合わせれば。
(僕を信じてくれ)
そしてもう一度、
あなたは僕に自負心を置き忘れさせる。
(そう、僕を信じてくれ)
二度目はないと自分自身に戒めた。
でも、あなたは僕に同じことをさせた。
もう一度、始めから。
そして僕は彼女の肢体カラダを軽やかに躍らせる。
あなたに見せてあげたい。
僕がどうやって愉しむのかを。
愛し君よ、おいで。
(おいでよ、そして…)

愛が'僕ら'の為にならないのなら
これで満足するよ。
あなたに触れてもらう必要はない。
それが'あなた'の愛ならそれでいい。
(もっと近くにおいでよ)
(もっと近くにおいでよ)

僕らにはこれしかなくても、
ただ、あなたを見つめている。
テイク2はないのだ。
あなたは、そこにいて。

僕らにはこれしかなくても、
ただ、あなたを見つめている。
テイク2はないのだ。
あなたは、そこにいて。

あなたは、そこにいて。
ただ、そこにいてくれ。
あなたは、そこにいて。
あなたは、そこにいて。
あなたは、そこにいて。
ただ、そこにいてくれ。


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6183187

『Closer』
作曲・作詞:RM , Andy Clutterbuck, James Hatcher, Mahalia, Benjamin Hart, Paul Blanco, Pdogg


*******


今回は2022年12月にリリースされたRMのソロ・アルバム「Indigo」収録曲 "Closer" を意訳・考察していきます。

2018年発表のミックステープ「mono.」収録曲 "Seoul" をプロデュースしたイギリスのエレクトロニック・ソウル・デュオHONNEホンネが再びのプロデュースと、Co-writingを行った楽曲です。
ナムさんとHONNEの交流の歴史は以下の記事でその要点を知ることができます。↓

Album Magazine Filmによると、HONNEは制作した楽曲を聴くうちにナムさんのことを思い出し、彼が喜びそうだという確信の元に曲を贈ったのだそう。HONNEの思惑通りナムさんは楽曲の魅力にハマり、絶対に自分が演りたいと思ったと同動画で語っています。↓

また、Paul Blanco氏にフィーチャリングの打診をする為に初めてインスタのDM機能を使ったというナムさん。若い実力派に対する賛辞と共に、楽曲作業当時のエピソードが上記動画と、共演が叶ったRolling Hallのステージ上でも明かされています。
HONNEもPaul Blanco氏の声の力を絶賛しています。私もすっかり虜になってしまって、Spotifyで良く聴くようになりました。

今回の楽曲テーマは既に決まっていた、とナムさんは明かしており、「お互いに近づけないでいる男女」を描いたものであることが名言されています。



1.「普遍性」を求めて

前出のインタビュー動画でHONNEは、作業中最も重視したのは「聴く人が共感できる曲を作ること」であったと語っています。
ナムさん自身もこの楽曲のテーマを語る際「誰もが経験すること」であると前置きしています。

ソロ曲含めバンタン関連の楽曲は(ミソジニーの件以降)性別を想起させない表現を意識的に用いている印象があります。結果的に多くの人々に共感をもたらし、普遍的な考え方・視点を提起してくれる楽曲が彼らのキャリアに並ぶことになりました。

そうやって築き上げてきたグループ活動での表現領域をある意味打ち破るような「男女関係」のテーマを、今回のアルバムに盛り込むことを決め打ちしていたというナムさん。
その裏には、今の自分になら誰のことも傷つけることなく男女の物語を普遍的に歌うことができるのではないか、という試みのようなものがあったのではないか、と私は思います。

そしてその意図に呼応したHONNEのプロデューシングが功を奏し、「誰のものでもあり得る物語」として解き放たれたこの "Closer" は、一編の映画作品と運命的な出会いを果たします。

その作品とは、ここ日本でも2023年2月に満を持して公開されたパク・チャヌク監督の最新作『別れる決心』。
この映画作品の劇中シーンが楽曲 "Closer" にコラージュされ、公式コラボレーション動画として2023年2月21日に公開されたのでした。

2022年9月12日のセンイルLIVEでナムさんは、韓国でこの年の6月末に公開された『別れる決心』を既に5回観たというエピソードと共に、パク・チャヌク監督作品への愛を熱く語っています。

また、ナムさんがレギュラー出演した2022年のバラエティー番組『知っておいても役に立たない神秘的な人間雑学辞典(알쓸인잡)』に、「別れる決心」をはじめとしたパク・チャヌク監督作品に参加している脚本家チョン・ソギョン氏がゲスト出演した際にも、その熱心なファン精神が共演者の方から「こんな暴走する彼は初めて」と評されるなど、ユン・ヒョングン氏の作品に対しても全開だったナムさんのオタク気質がここでも遺憾なく発揮されている様子がうかがえます。

これらのやりとりがコラボのきっかけになったのかどうか、どちらが話を持ち掛けたのか、などを明確にする取材記事を探し出すことは叶わなかったのですが、「別れる決心」の美術監督リュ・ソンヒ氏が聞き手となってナムさんの制作意図を探る記事が、韓国の映画雑誌「Cine21」によって公開されています。↓

〈リュ・ソンヒ美術監督が聞いてRMが答える 'Closer'×'別れる決心'コラボレーション〉と名打たれたこのインタビュー記事の冒頭で、ナムさんの「別れる決心」鑑賞回数がなんと8回に増えていることが判明します(笑)

『알쓸인잡』での様子を伝える記事によると、ナムさんはこの映画を結論や強要がなく考える余白があって良い、などと評しているとあり、また、この美術監督との対話の中で作品を好きな理由を尋ねられた際も、登場人物や様々な視点に立って自由に思索できることに魅力を感じているとの内容で返答しています。

そう、彼は、映画「別れる決心」に「誰のものでもあり得る物語」としての魅力を見出していたのです。

上記インタビューでナムさんは、映画とのコラボにあたって映像の雰囲気に沿うように元々HONNE自身がローファイだと評していた原曲を更に敢えてローファイ加工したと話しています。
また、「当初から映画を念頭に置いて作業をした曲ではない」とし、映画の湿ったイメージにより近いと感じた "Change pt.2" と、この "Closer" のどちらをコラボ曲にするかを迷った、ともしています。

この、映画を念頭に置いて作業をしていない、という事実が彼の発言で明されたことに私は小さくガッツポーズをしました。
それでこそ、このコラボレーションが成し遂げている偉業の神髄を思う存分堪能できると思ったからです。

偉業…それはとにかく、歌詞の内容が映画とシンクロし(すぎ)ている

これ以上は「別れる決心」を鑑賞されていない方へのスポになってしまうので言及は避けますが、これホントにインスパイア曲じゃないの?というくらいそれぞれが独立した作品であるにも関わらず、重なる景色に違和感がない。

細かい状況説明が酷似しているという意味では全くなく、あ、この歌はもしかしたらへジュン(「別れる決心」の主人公)の歌かもしれない、とふんわり思う瞬間が度々訪れるのです。

誰のものでもあり得る物語」を目指し、一度は正規音源として完成した楽曲 "Closer"。
しかしこの曲は、出会った人の中でその都度解体・再構築され、その人だけの物語として響いていくことができる、そういう確かな普遍性を持った楽曲であり、そしてその力は映画「別れる決心」と出会ったことで目に見える形で証明されたのだということを、私はここで密かに叫ばずにはいられません。


2.離れ離れのふたり

私自身、映画『別れる決心』を鑑賞した後でこの楽曲の意訳を作成するにあたって、主人公は男性なのか、女性なのかを自ずと考える瞬間がありました。が、歌詞中で一か所だけ相手を「her」と扱っているため、男性目線であることが濃厚です。

それでは、「お互いに近づけないでいる男女」が織りなす物語を少しずつ紐解いていきましょう。


■Mahalia歌唱パート

I get a feelin' sometimes
(僕は時々予感する)
That I can't get close enough to you
(僕はあなたに十分に近づくことができないのだ、と)
I feel it most in the nighttime
(僕はそれを大抵夜になると感じる)
Even though that's when I'm closest to you
(僕があなたに最も近づく時であるのに)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187
  • get a feeling that…that以下と感じる(予感がある)(参考

  • most…無冠詞のmost=たいていの~ ※theがつくと「(他社と比べて)最も多い」(参考

  • even though…~であるのに(参考

  • closest…無冠詞の最上級=他者との比較ではなく一時的な状態を説明している ※theがつくと「(他者と比べて)最も近い」(参考

ここでの「近づく」は物理的な距離のことも言っていますが、心理的な面での距離についても言及しているのだと思われます。

If I could be under your skin ①
(もし、僕があなたの肌の下にいることができるなら)
Closer than we've ever been ② ※1
(僕たちが今まで経験したどの時よりも近く)
We'd be closer than we've ever been
(僕たちは、僕たちが今までに経験したどの時よりも親しくなるだろう)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187
  • could be…起こり得る可能性が低い場合の推量表現(参考

  • under your skin…「under the skin」が本心・内心を意味し、「get under one's skin」が人の心を強く捉えるという意味をもつことから、ここでは肌の下にいると錯覚する程の近さで本心をさらけ出せる、精神的に非常に濃密な関係を表すと共に、中盤の歌詞を踏まえるとそれ以上の関係をも示唆しているのではないかと思われる。
    ※ちなみにこの「under your skin」というフレーズはザ・ビートルズの "Hey Jude" にも登場し「相手を懐深く受け入れる」意味で用いられている。

  • would be…will(でしょう)より起こり得る確信が低い時の「だろう」(参考

※1 比較級Closerが文頭に来ているので、②の文の内容は①の文に掛かる。


■RM歌唱パート

I feel it most in the nighttime
(僕はそれを大抵夜に感じる)
Me never on your timeline
(僕は決してあなたの年表に載ることはない)
See you always in the limelight
(常に脚光を浴びて会おう)
Keep me rollin' in the deep
(僕を強く信頼しつづけていてくれ)
Not a tease, no joke, I do mean it
(からかってない、冗談ではない)
Don't cease, baby don't, why you floatin'?
(やめないで、お願いだ、なぜあなたは漂っているの?) 
Wanna lock you up in my sight
(あなたを僕の視界に閉じ込めたい)
But you run away like fish, yeah
(でも、あなたは魚のように逃げる)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187
  • 目的格Meが文頭…(参考)←の質問箱の回答を全部読んで考察するに、この行では「Me(自分)」を状況説明の対象として客観的にみていることを強調しているのではないかと思われます。

  • keep ~ing…~し続ける

  • roll in the deep…2010年にリリースされたアデルの楽曲"Rolling in the Deep"の歌詞に端を発するフレーズ。「困ったときに支えてくれる味方がいる」ことを表現している。
    →元になったのはスラング「roll deep」大勢でどこかへ移動するの意。
    →該当箇所の経緯について語るアデルのインタビュー(Rolling Stone誌:2011年2月)

  • mean it…本気で言っている(参考)※doが入ることで意思がより強調されている(参考

「あなたの年表に載ることは無い」「常に脚光を浴びる中で会おう」のフレーズには、ナムさんが登場人物設定のひとつとして例に挙げていた「僕のようなステージ上のアイドル」の設定がうまく当てはまりそうです。
要するに「決して家族や恋人にはなれない関係」「ふたりきりで会うことが何らかの理由で許されない関係」であり、常にひと目が有る中でなければその実在する姿を肉眼で見ることすら叶わない、という状況を比喩しているのだと思われます。
そんな状況で信頼関係を築き上げることは容易ではありません。離れていく彼女の心を引き留めたくても引き留められない、そんな口惜しさを「でも、あなたは魚のように逃げる」から感じます。

I keep you right next to me
(僕はすぐ隣にあなたを置いておきたい)
Only just in my dream
(ただ夢の中でだけ)
I see you in red, blue, green
(ぼくはあなたを赤、青、緑の中に見る)
Don't wake me up from sleep
(僕を眠りから目覚めさせないで)
I think I'm losin' my grip
(僕は判断が鈍ったのだと思う)
Everything off the beam
(全てはちぐはぐだ)
Why you showed up in my life
(なぜあなたは僕の人生に現れたの)
Like this so sudden, oh god no
(こんなふうにあまりにも突然 やめてくれ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187
  • red, blue, green…光の三原色(RGB)。ここでは、その三色の光によって再現されている画面上の映像(ビデオ通話やテレビ番組など)を指していると思われる。

  • lose one's grip…手元が狂う、判断が鈍る(参考

  • off the beam…とんちんかんな(参考

「RGBの中にあなたを見る」のは、肉眼ではなく想像や夢の中でその姿を見ている状態を画面の中の姿を見ている状態に重ねており、時間と空間を共有できない、存在している次元が違う、という状況を描いているのだと思います。
この感覚は、先述のアイドル設定でしたら現実的な次元の違いをさしているかもしれませんし、会おうと思えば会えるような相手だとしても、何らかの理由で隔たりがあるならばそのどうしようもない距離感を「RGB」の世界に投影しているのかもしれません。


■Paul Blanco歌唱パート

Come holla at a yungin from the block baby ※2
('あの町からきた未熟者'に連絡してきてよ)
Say the time don't wait for nobody
(仮にその時間が誰のことも待たないとしたら)
Oh I bet you thought baby
(ああ あなたは思ったに違いない)
But the time gon' stop
(でも、その時間は止まるのだ)
When you and I make our lips lock baby
(あなたと僕が唇を合わせるその時に)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187
  • Come holla at…holla atで「連絡する」の意(参考)comeがついて「連絡してきて」となる
    ※「Come holla」がスラングで「こっちに来て話そうよ」という意味だと書いている記事を見かけましたが出典が無く、①楽曲のテーマが離れ離れのふたりであること、②曲中で留守電のSEが入ること、の2点から私は今回このフレーズを「連絡する」の意で訳しています。

  • yungin=youth, young man young inの形で「未熟で」の意(参考

  • from the block…ジェニファー・ロペスのヒット曲 "Jenny from the Block" のタイトルを解説して下さっている知恵袋によると、ここではblockを「街区」の意で訳し、出身地に対する気持ちを込めて「あの街から来た」のような概念で捉えるとのこと。
    (ちなみにJLOのこの楽曲は "Chicken Noodle Soup" でおなじみのBecky Gちゃんが "Becky from the Block" としてカバーしています)

※2 この一行をどう考えるかをだいぶ悩みました。
直訳「あの街から来た未熟者」の「未熟者」が主人公・僕であることを考えると、"Jenny from the Block" での「故郷を誇りに思う」解釈と違って「あの街からきた」ことを多少なりとも自虐している部分、もしくは状況的にそれに近い感情があるのではないかと感じました(いわゆる「田舎者」と蔑まれるような、ひとつの枠の中での経験と知識がまだ乏しい状態)。
離れ離れの彼女と電話越しにでも話がしたいけど、自分から連絡しても相手が喜ぶかどうか不安だし、相手が自らすすんでこちらに連絡をくれることを確信できるほど自分に自信もない(悲しい哉、頑張って自分からかけた電話は留守番電話に繋がってしまうという…😢)。
そんな奥ゆかしい心が込められているのではないかと私は感じました。

  • Sayが文頭…仮に~だとしたら(参考

  • 冠詞theがつくtime…特定の時間(参考

  • gon'=gonna=going to~…~することになっている(参考

  • lips lock…lock lipsの形で「キスをする」の意(参考

(Trust me)
(僕を信じてくれ)
And once again you made me misplace my pride baby
(そして再びあなたは僕に自負心を置き間違えさせる)
(So trust me)
(そう、僕を信じてくれ)
Promised myself never again
(二度とないと自分自身に約束した)
But you got me doing the same thing
(でもあなたは僕に同じことをさせた)
all over again
(もう一度最初から)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187
  • 主語 + get + 目的語 + ~ing…主語が目的語を~させる(参考

彼女は彼に何をさせたのか、その具体的な内容は何も描かれていませんが、得てして恋愛というものは過ちを伴うもの。理性と本能、理想と現実の狭間で、何が正解で何が過ちなのか、その境界すらも曖昧になる夜を迎える度に、この主人公は自負心の置き処を見失ってしまいます。
(「別れる決心」とのシンクロ率が高いのはこの辺りです…どうか映画をご覧になってみて下さい…「pride=自負心(자부심)」という言葉も、映画の中で印象的な台詞として出てきます)

And I make her body di di diddy diddy bop ※3
(そして僕は彼女の体を躍らせる)
Di di diddy diddy bop
I wanna show you how I gets down ※4
(僕はあなたに僕がどうやって愉しむのかを見せたい)
Baby girl come on
(愛しい君よ、おいで)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187
  • diddy…女性の乳房・乳首の方言(参考

  • diddiy bop…跳ねるように踊る・歩く様子の意のスラング(参考

  • get down…ダンスを楽しむの意のスラング(参考

※3 「離れ離れの男女」がテーマのこの楽曲歌詞の主人公を男性側であるとする理由が、この「her body」です。
「diddy」は正に彼女の体her bodyを指しており、それを跳ねるように躍らせる…ここに登場するふたりが既に共寝の経験がある仲なのか否かについては想像の余地がありますが、もし経験済みならその時の記憶が、ないのなら想像上の景色が描写されているのだと思われます(いわゆる妄想ってやつですね…)。

※4 主語が一人称「I」であるにも関わらず動詞に「s」がついて「gets down」となっています。三人称単数現在形ではないのに何故そうなったのか理由を調べるうちに、逆に何故三単現なら「s」がつくのか、その理由を解説して下さっているページにたどり着きました。ものすごく腑に落ちるのでぜひご一読下さい。↓

この理由に則って考えてみたところ、この例外的な「s」をつけることによって「僕」が「僕が愉しんでいる様子」を客観視しており、自分で自分がしていることについて信用度を高め、正当化し、強調しようとしているのではないか、という推測にたどり着きました。
自分がしていること(想像の中で彼女を抱いていること)に対して後ろめたさを感じており、それを払拭しようとしている、ということも考えられるかもしれません。

「ふたりが唇を合わせれば時が止まる」から「僕は彼女の体を躍らせる」までを、まるで映画のワンシーンを観ているような思いで読みました。Paul Blanco氏の声質とも相まって、ロマンチックの極みだと思います。

If love ain't for us
(もし愛が僕らの為にならないなら)
이걸로 만족할게
(これで満足するよ)
I don't need your touch
(僕はあなたの接触を必要としない)
너의 사랑이면 돼
(あなたの愛ならいい)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187

愛にも様々な形があると思いますが、ここで挙がっているのは「僕たち」の愛であり、肉体的により近く、精神的にもより親しくなることを互いに求め合う関係を指しているのだと思います。
ですが、それが叶わない。
「僕たち」の愛が自分たちのためにはならないのなら、その肌に触れることができなくても構わない。それが「あなた」の愛の形なら、「あなた」の愛を感じることができるならそれでいい。

映画「別れる決心」とのシンクロ率もすごいですが、私はこの「僕たち」と「あなた」の比較を前にして、 "Save ME" のナムさんパート「ありがとう '僕たち' になってくれて」の一文を思い出しました。
「僕たち」になることの喜びを知っているからこそ、それが叶わない時は「あなた」のことを尊重すべきなのだと口にできるのではないか、と。


■エンディング

If this is all we can do
(僕らにはこれしかなくても)
Yeah just lookin' at you
(ただあなたを見つめている)
There's gon' be no take two
(テイク2はないのだ)
Stay where you are
(あなたはそこにいて)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6183187
  • gon'=gonna=be going to~…発言する前から決まっていたことについて話す時に使う(参考

自分たちに用意された居場所が離れ離れでしかなくても、例え肉眼でその姿を見ることすら叶わなくても、ただひたすらに心であなたを想い、その姿を見つめている。それがあなたと「より近しく、より親密になる(=closer)」ための術である。

もう一度出会いからやり直せばこの距離が縮まるというのであれば、とも思うけれど、人生にやり直しは効かない。テイク2はあり得ない。

あなたがそこにいる、ということが心の支え。
だからあなたには、そこにいて欲しい。

テーマ(離れ離れ)とタイトル(より近くに)がある意味真逆をいくこの楽曲は結果的に、テーマである離れ離れの現状を維持することを結論としてエンディングを迎えます。

「ここ」ではなく「そこ」にいて欲しい、というこの思いは、2020年リリースの「BE」収録曲 "Stay" で主題として扱われています。"Closer" の歌詞と併せて読んでみると良いかもしれません。

愛するが故に互いを尊重し合う適切な距離が必要な場面は、普段からそこら中にあるような気もします。
近くにいれば全てが見えるとは限りませんし、触れることが出来れば大事にできるとも限りません。
どんな心持ちでいれば相手により近づくことができるのか…不器用な人類の永遠のテーマなのかもしれません。



今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
💙