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BTS "Save ME"から"Inner Child"へ繋がるLove Myself【前編】〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.004

ありがとう
「僕たち」になってくれて

その手を差し出してくれ
僕を救ってくれよ
君の愛が必要なんだ
取り返しがつかなくなる前に

Save ME

自由に息がしたい 僕は夜が嫌いだ
もう目覚めたい 夢の中は嫌いだ
僕の中に閉じ込められて死んでいる僕
ひとりになりたくない
ただ、君のものになりたい

君が居ない此処はなぜこんなにも暗い
壊れた僕をどうか救ってくれ
危うい自分をどうしてやればいいのか
僕自身 わからないんだ

僕の鼓動に耳を傾けてみてよ
ありのままで君を呼んでいるじゃないか
この暗闇の中で
君はこんなにも輝いているから

その手を差し出してくれ
僕を救ってくれよ
君の愛が必要なんだ
取り返しがつかなくなる前に


今日に限って月がいやに輝いている
記憶の中にぽっかり空いた穴
僕を呑み込んでしまったこの狂気から
今夜どうか守ってよ
子供じみた狂気にある僕を
救い出してくれる 今夜

僕はわかったんだ 君という救いが
僕の人生の一部であり
痛みを包み込んでくれる唯一の手であると
僕には君しかいないんだよ
再び笑えるように もっと 声を張り上げて
僕の心に届くように

僕の鼓動に耳を傾けてみてよ
ありのままで君を呼んでいるじゃないか
この暗闇の中で
君はこんなにも輝いているから

その手を差し出してくれ
僕を救ってくれよ
君の愛が必要なんだ
取り返しがつかなくなる前に


ありがとう
僕が僕でいられるようにしてくれて
この僕を飛べるようにしてくれて
こんな僕に翼をくれて
めちゃくちゃな過去なんかさっさと捨てて
鬱々としていた僕を壊してくれて
夢の中でだけ生きていた僕を目覚めさせてくれて
君を想うと胸が空いて
哀しみなんかその辺に放ってやった
ありがとう
「僕たち」になってくれて

その手を差し出してくれ
僕を救ってくれよ
君の愛が必要なんだ
取り返しがつかなくなる前に


韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/4714593
ちなみに、上記リンク先で紹介されている歌詞中にブックレット印刷版と異なる表記があります。
(우리が「'(シングルクォーテーション)」で囲まれていない)

『Save ME』
作曲・作詞:SUGA , Ashton Foster, Ray Michael Djan Jr., Pdogg, ​j-hope, RM & Samantha Harper


*******


ワンカット撮影されたMVが印象的な『花様年華 Young Forever』収録の楽曲。Save me(僕を救って)と連呼するサビからは歌詞の主人公である「僕」の切羽詰まった現状がうかがえます。
さて、この歌詞に出てくる登場人物の「僕」と「君」は、一体どんな状況に置かれていて、どんな関係なのでしょうか。

1.恋愛?それとも…

最初に目に入った"Just wanna be yours"(ただ君のものになりたい)というフレーズから、これは恋愛方向の話なのかな?と思いました。実際読み進めていくと "I need your love"(君の愛が必要なんだ) なんていう甘い言葉も出てきますし、最終的に '우리'(僕たち)となって結ばれたという解釈も有りなのかな?と。

ここで解読の鍵になってくるのが1回目のラップパート(SUGAパート)です。

まず注目するフレーズは「오늘따라 달이 빛나(今夜に限って月が輝く)」。
ここでの月(ラテン語でLuna)は狂気そのもの(Lunatic=「狂人」の語源)であり、闇の中にあって目を逸らしたくても逸らせない程輝いている。しかしその狂気は기억 속의 빈칸(記憶の中の空欄)を源とし、ついには날 삼켜버린(僕を飲み込んでしまった)。

そして「치기 어린 광기(稚気とした幼い狂気)」。
これは闇に閉ざされた「僕」の内に巣くうのは、幼子の行動に感じるような狂気性という事になるかと思います。

私はこの「狂気」と表現されているものこそが、
実は「君」なのではないかと思うのです。
何故かというと、最初のサビの直前にこうあるからです。

「이 까만 어둠 속에서(この黒い闇の中で)」
「너는 이렇게 빛나니까(君はこうして輝いているから)」

ここでもう一度「記憶の中の空欄」というフレーズを思い出してみます。
つまりは過去に自分の身に起こった出来事の内、覚えていなかったり忘れてしまったものの事を指しているのだと思いますが、大概覚えていない事って、幼い頃の事だったり、何らかのストレスが原因で無意識のうちに消して(消されて)しまった事だったりしますよね。
この「空欄」から生まれる「幼子のような狂気性」の속(中)にある存在。それはつまり、

「僕」が覚えていない/忘れてしまった、
過去の中の「僕」自身

ということになるのではないでしょうか。およそ恋愛話ではなさそうな感じになってきました。

2.僕の中の僕

ここまで考察してきたところで、私は「インナーチャイルド」という言葉を思い出しました。単語を検索するとたくさんの情報がヒットするのでそちらを読んでいただく事をお勧めします。
見た目は大人になったはずの人の内面に残る子どものような部分、というようなものです。
私は、このインナーチャイルドが自分の人生にも影響を及ぼしていると考えています。

歌詞の話に戻ります。
この「僕」=「僕の中の僕」=「君」の図式が出来上がったとたん、歌詞の中の全ての言葉がまるでドミノピースがひとつ残らず一気に倒れるように形を変えました。

どうして自分はこんなにも生き辛さを抱えているのか、その理由を最初から理解できている人はおそらく少ないでしょう。何故なら「記憶の中の空欄」がその原因だからです。覚えていない、忘れている、または、それが原因だと認識できていないからです。このどん詰まりな状態が1番のAメロで밤(夜)とか꿈(夢)などで表現されている世界だと思います。

しかしこの歌詞の中の「僕」は幸いにも何らかのきっかけで「君」の存在をすでに知っています。そして「君」が「내 삶의 일부며(僕の人生の一部であり)」、唯一の救済者、「유일한 손길(唯一の'手')」である事も。(J-HOPEパート)
生き辛さの原因に目を向け理解し、手を取り共に在ろうとする事が、現状を脱し自分を変えてゆく為の唯一の方法なのです。

「난 너밖에 없지(僕には君しかいない)」という情熱的な愛の告白にも聞こえるこの言葉も、「君」が誰なのかがわかってくると、生きる事に自問自答しながら胸を掻きむしるような痛みを伴った叫びである事がわかります。

3.「僕」は救われたのか?

「Save me(僕を救って)」と悲痛なまでに繰り返されるこの歌詞も、2回目のラップパート(RMパート)でひとつの希望に至ります。それが最終行「Thank you '우리'  줘서(ありがとう「僕たち」になってくれて)」の部分です。

この '우리' の部分がカッコで強調されている事がポイントなのだと私は思いました。乖離していた「僕」と「僕の中の僕」が手を取り合い「僕ら」という名の一つの人格になることができた、という事を表しているのだと思うのです。

私自身の経験だけでしか書けませんが、「君」が「記憶の中の空欄」に取り残されて「僕」を苦しめるのは、然るべき時代に無償の愛情と正しい尊重を受ける事が出来なかったせいだと思います。欠けていたそれらを「君」との間で共有し満たされる事で「僕」は翼を得、寂しくて悲しい過去を捨て、晴れやかな気持ちで夢から目覚める事が出来たのでしょう。

そう「僕」は無事救われたのでした。よかったよかった。

余談ですがこの一文に至るまでのRMパートがまたものすごくて、

날게 해줘서(飛ぶようにしてくれて)
날갤 줘서(翼をくれて)
날 개 줘서(日(々)を犬にくれて)
날 깨줘서(僕を壊してくれて)
날 깨워줘서(僕を起こしてくれて)
날 개어서((心が)晴れて)
나 개 줬어(僕(が)犬にくれてやった)

 ※以上、文頭省略・直訳 https://m.bugs.co.kr/track/4714593

曲を聴いていてもわかりますが、ハングルの性質上字面に於いても見事なまでに韻を踏んでいてひぇぇ…となりました。おそらくナムさん自身によるものですよね。カッコよすぎです。

4.そして、"Inner Child"へ

花様年華シリーズの一部である"Save ME"。一連の動画作品で描かれる7人それぞれの人生にもインナーチャイルドを生むに足りる環境がうかがわれ、そんな彼らを、そして彼らの姿に自分を重ねる誰かに、手を差し延べてきたBTS。その後自分自身を愛する事をテーマにした活動を続けてきた彼らがたどり着いた『Map Of The Soul : 7』に、正にこのタイトルの曲が収録されています。

Vのソロ曲"Inner Child"です。
この曲には"Save ME"との共通項がいくつも現れます。
次回、和訳(意訳)と共に詳しく見てみようと思います。


最後まで読んでくださりありがとうございました。

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