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Agust D "어땠을까(Dear My Friend)" もしも、あの時 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.034

君が変わったのか それとも
俺が変わったのか
流れる時間さえ憎い
俺達が変わったのか?

어땠을까(Dear My Friend)


いまだに 相変わらず
君の事が恋しくて また 恋しいね
いまだに 相変わらず
一緒だった思い出がぐるぐる巡るね
もしかしたら あの時
君の手を 握ったなら
いや あの時 君を引き止めたなら
いまだに 相変わらず
俺達はまだ 友達でいるのだろうか
どうだったのだろうか


友よ
どんな風に過ごしてるの君は
俺はまあ、元気にやってるよ
ご存知の通り まあ、うん…

友よ
率直に言うよ
君がめちゃくちゃに 憎い

いまだに相変わらず憶えてる
一緒だった過ぎ去りし日
大邱で一緒に遊びに行ってた
俺達の時間と数えきれぬ日々
二人なら世界だって怖くない
そう言っていた俺達は 今
全く別々の道を歩くよ

あの時を憶えてる?
多分新沙だったかな
二人で酌み交わした
俺達の会話
世界を噛み砕いてやるという
俺達 二人の抱負
デカい夢を抱いていた俺達は
幼かったね たった二十の歳

連絡が途絶えたのは突然だった
暫くした後
知らない番号からかかってきた
君の両親のその短い電話一本で
直ぐに駆けつけてみたよ
ソウル拘置所
安養アニャンはとても遠かったよ


いまだに 相変わらず
君の事が恋しくて また 恋しいね
いまだに 相変わらず
一緒だった思い出がぐるぐる巡るね
もしかしたら あの時
君の手を 握ったなら
いや あの時 君を引き止めたなら
いまだに 相変わらず
俺達はまだ 友達でいるのだろうか
どうだったのだろうか


君が変わったのか それとも
俺が変わったのか
流れる時間さえ憎い
俺達が変わったのか?
おい、お前が憎い
おい、お前が嫌いだ
こう言うこの瞬間でさえも
俺は 君が恋しい

毎週通っていたソウル拘置所
面会への道のり
往復三時間程かかった遠い道
ひとりで出掛けたよ
君の裁判の日と出所の日
雪がこんこんと降ってきた冬
白い豆腐
はっきりと憶えている
そして、久しぶりに見た君は
全く別人になってしまって、
緩んだままの目で君は言ったね
「*をやってみる気はないか?」
俺は腹が立って罵声を浴びせたね
唯一の友達であった君を
元通りにする術はなくて
君は 怪物になってしまったね

俺が知っていた君はいないし
君を知っていた俺はいない
俺達が変わったのは
単に時間のせいではない事を
俺はわかっている
君が知っていた俺はいないし
俺が知っていた君はいない
俺達が変わったのは
単に時間のせいではない事が
虚しい


いまだに 相変わらず
君の事が恋しくて また 恋しいね
いまだに 相変わらず
一緒だった思い出がぐるぐる巡るね
もしかしたら あの時
君の手を 握ったなら
いや あの時 君を引き止めたなら
いまだに 相変わらず
俺達はまだ 友達でいるのだろうか
どうだったのだろうか

いまだに 相変わらず
君の事が恋しくて また 恋しいね
いまだに 相変わらず
一緒だった思い出がぐるぐる巡るね
もしかしたら あの時
君の手を 握ったなら
いや あの時 君を引き止めたなら
いまだに 相変わらず
俺達はまだ 友達でいるのだろうか
どうだったのだろうか

どうだったのだろうか



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6195276

『어땠을까 (feat. 김종완 of NELL)』
作詞・作曲:Agust D , 김종완 of NELL , EL CAPITXN

2023.8.17 意訳歌詞一部修正済み(神社→新沙)


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今回はSUGAがAgust D名義で2020年5月にリリースしたミックステープ "D-2" の最後の曲として収録されている "어땠을까(Dear My Friend)" を意訳しました。
この記事は "First Love" を取り上げた以下の記事を踏まえたものになっています。

"First Love" のテーマのひとつとなっていた〈唯一の友達〉が、彼にとって一体どんな存在だったのか。表現に縛りのないミックステープという手段を使って曝け出されたこの楽曲は、 "First Love" や "봄날(Spring Day)"、"길(Road)" といったグループ名義で送り出されてきた楽曲歌詞の経緯を明かす「私小説」そのものでした。

※歌詞が実話だと本人が明言してはいないにしても、彼の半生に重ねて考えるのが自然かと思うので、この先の考察や感想は歌詞の主人公=ユンギと仮定して進めています。



1.変わったのは俺か、お前か

2017年2月にリリースされた "봄날(Spring Day)" は「もう今となっては顔を合わせる事も出来なくなってしまった」関係でありながらも「Best Friend」である友人に「会いたい」と切望し、再会できる春の日を待ちわびる気持ちが込められた楽曲です。その由来は2014年に韓国で起きた海難事故にも及んでいると明かされており(リリース当時のニュース記事)、卒業や転居などで誰もが経験するような別れから、深刻な根性の別れまで、聴き手それぞれが自分の経験に置き換えて感情移入できる多義的なものになっています。

そんな "봄날" の歌詞の中に、"어땠을까" の歌詞と重なる箇所があります。

니가 변한 건지 아니면 내가 변한 건지
(お前が変わったのだろうか それとも 俺が変わったのだろうか)

誰もが自分の物語と重ねることができる曲、それが "봄날" なのですが、まるで暗号のように同じフレーズを使うことによって、あの "봄날" のSUGAパートと "어땠을까" が同じ物語の一部である。つまり、彼個人の物語の一部であることを暗示しているのだと思われます。

お前が変わったのか?それとも俺が変わったのか?
この一瞬を流れる刻ですら憎らしい
俺たちお互い変わったんだろう 結局そんなもんなんだよ
そうだな…この際言うがお前が憎い
そっちは勝手に離れていったが
俺はただの一日だってお前を忘れた事はないんだ
正直言って会いたいけれどもうこれ限りで終わりにしておく
お前を恨み続けるよりは幾分楽になるからさ
― "봄날(Spring Day)" SUGAパート意訳

"봄날" の歌詞の中で「この際言うがお前が憎い」と言って退けるほど険悪な関係になってしまった相手は他でもなく "First Love" で怒りをぶつけたユンギの〈唯一の友達〉であることが、 "어땠을까" の歌詞によって裏付けられていきます。


2.『花様年華』を生きていた

複数楽曲の歌詞を頼りに〈唯一の友達〉の輪郭をなぞっていくとこのようになります。

*ユンギが故郷・大邱にいた頃からの友達 ( "어땠을까" )
*精神面でキツかった時期(18歳頃)のユンギに寄り添い続けた ( "First Love" )
*肩の怪我を理由にデビューを諦めかけたユンギを励ました ( "First Love" )
*20歳の時にユンギと二人で酒を酌み交わし、共に大きな夢を語り合った ( "어땠을까" )
*突然連絡が途絶えた後暫くして、拘置所に入っていることが発覚。出所後はユンギとの関係は断絶 ( "어땠을까" )

少年から青年へと成長する過程で、共に悩み共に励まし合ったかけがえのない間柄であったことが窺い知れます。正に〈花様年華〉の物語。挫折と絶望の傍にある笑顔と希望を分かち合い、夢語りだけでは始まりも終わりもしない人生を噛みしめて生きてきたふたり。

ー怪我をしてデビューを諦めかけたユンギを励ます〈唯一の友達〉

粉々になった肩を掻き抱いて言ったよ
俺は本当にこれ以上はできない、って
投げ出したかったその度に俺の隣で言ったよね
お前はマジでできる、って
― "First Love" より

ー心を閉ざし顔を合わせることすら拒絶するユンギを辛抱強く見守った〈唯一の友達〉

俺がお前を拒絶して会いに来るのを恨んでも
お前は怯まずに俺の傍を去らなかったね 言葉は無くとも
― "First Love" より

その〈唯一の友達〉が拘留中であることがわかると、ユンギは往復三時間かけてひとりで面会に臨みます。(数え年)20歳を共に祝った(2012年年始)後の雪の季節の出来事ですので、タイミング的にはデビューの直前(2012-2013の冬)だと思われます。当時の宿舎から拘置所がある安養アニャンまでの道のりをGoogleMapで検索したら、片道1時間半のバスルートが出てきました。二十歳そこそこの男の子が拘置所目指して一人で乗り込む長距離バス。心中察するに余りあります。

この時、ユンギには友人としての使命感のようなものが胸の内にあったのではないでしょうか。〈唯一の友達〉の両親がわざわざ(恐らくユンギの実家に)連絡先を聞いてまでユンギを頼ったのだとすると、ふたりの歴史は長く絆も強固であったのだと推測できますし、何より自分がピンチの時に何度も手を差し伸べてくれた友に、今度は自分が手を伸ばす番なのだ、と決意していたのではないかと思います。

そして迎えた出所の日。
このシーンには「白」という色がおそらく意識的に挿入されています。

눈이 펑펑오던 겨울 / 흰 두부 (雪がこんこんと降ってきた冬 白い豆腐)

※豆腐の由来については各所で解説がなされています。

「똑똑히 기억나(はっきりと覚えている)」というその白い景色が、その日に受けた衝撃の鋭さを物語っているようです。頭が真っ白になった。そんな瞬間だったのではないでしょうか。


3.愛が憎しみに変わる瞬間

出所を迎え受刑者服を脱いだ〈唯一の友達〉の姿を見たユンギは、彼の事を「別人」「怪物」と称しています。服役中の面会時にはわからなかった「今現在」の彼の素性や経緯が、その風貌にじみ出ていたのではないかと思います。

「눈이 풀린 채(目が緩んだまま)」その彼が薦めてきた「物(彼の様子の描写からして禁止薬物)」が、ユンギの感情を反転させました。

난 화가났고 또 욕을 했네(俺は腹が立って、その上悪口を言ったね)

反射的に〈唯一の友達〉に怒りをぶつけたユンギ。
この断絶の瞬間こそが「差し出す手/差し出される手」としてその後数々の楽曲で歌詞として登場する「絶望する者と、それを救う者」にまつわる物語の根源なのではないかと私は思います。

救われたいと望み、実際に救われた経験を持つユンギ自身が、いざ救う側になった時には救う事ができなかった。余程の感情が渦を巻いたことでしょう。恐らくは、信頼していた分だけ、感謝していた分だけ、何故お前がそれをという気持ちの反動が大きかったのではないかと思います。しかしながら如何なる理由があっても「それ」だけは許せない。最終的にはその懲罰の念が勝り、「お前が憎い」と言い続けることでしか彼に対して愛を伝えることができなくなってしまったのです。。。

友人が変貌を遂げてしまった時期と、ユンギがデビューに向けてラストスパートをかけていた時期は重なっています。〈唯一の友達〉の生き様がその「物」によってあり得ない方向に変わってしまっただけでなく、デビューに向かって邁進していたユンギ自身の人生も確実に変化を遂げようとしていました。

変わったのは俺か、お前か。いや、「俺たち」なんだろう。

見出し1で取り上げた "봄날" と "어땠을까" に登場するこの自問自答の呟きには、この時のやるせない気持ちが込められているのだと思います。


4.もしも、あの時

ここまでの私の推測が確かなら、この一件の後程なくしてユンギが防弾少年団のSUGAとして忙殺される日々が始まります。道を違えてしまった〈唯一の友達〉との関係を修復することも叶わないまま、後悔と未練がユンギの心に残ります。

いまだに 相変わらず
君の事が恋しくて また 恋しいね
いまだに 相変わらず
一緒だった思い出がぐるぐる巡るね
もしかしたらあの時 君の手を握ったなら
いや あの時 君を引き止めたなら
いまだに 相変わらず
俺達はまだ 友達でいるのだろうか
どうだったのだろうか
― "어땠을까 (Dear My Friend)" より

唯一の友達であった君を元通りにする術はなくて
君は 怪物になってしまったね
― "어땠을까 (Dear My Friend)" より

俺はただの一日だって お前を忘れた事はないんだ
― "봄날 (Spring Day)" より

正直言って会いたいけれど もうこれ限りで終わりにしておく
お前を恨み続けるよりは 幾分楽になるからさ
― "봄날 (Spring Day)" より

その想いは深く、"First Love" というタイトルの曲に姿を重ねる程に熱烈なのですが、それらの告白は言霊となる時、時として憤りの色を纏っています。"First Love" の後半1/3の息も絶え絶えの激しさの理由は、去っていった友人への怒り半分、それを引き留めることができなかった自分への怒り半分なのではないかと思います。

「もしも、あの時」で語り始める世界は、決して目の前に現れることはありません。それをわかっているからこそ、たらればを唱える歌に想いを込めることができるのではないかと思います。"길 (Road)" で歌われている「別の道」には、ユンギの思う所の「もしも、あの時」の世界も投影されているのかもしれません。

俺は変わっただろうか 別の道を選んだならば
立ち止まり振り返ってみたならば
俺は何を見る事になるだろうか この道の終わりで
君が待っているその場所で
― "길 (Road)" より

彼が救えなかった友を想って書いた歌たちは、あの時伸ばせなかった手を精いっぱい伸ばして今、この時も、世界のどこかで誰かを救っています。でも願わくはいつか一つの道が終わる時、彼自身と彼の〈唯一の友達〉が、再び「春の日」を迎えることがどうかできますように。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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