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BTS "No More Dream" 夢なき全ての若者に捧ぐ ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.093

お前が夢見てきたお前の姿は何だ?
今 お前は鏡の中に誰が見える?
俺は言わねばならない
お前の道を行け、と

No More Dream


おい、お前の夢は何だ?
おい、お前の夢は何だ?
おい、お前の夢は何だ?
お前の夢はせいぜいそんなもんか

俺はデカい家、デカい車と
デカい指輪が欲しい
でも実のところ 俺は
デカい夢ひとつ持たない
ハハ 俺は本当に気楽に生きる
夢なんか見なくても
誰も何も言わないじゃん
全部 みんなみんな同じ
俺みたいに 考えている
全く憶えてないかのように忘れた
夢が多かった幼き時代
大学は心配しないで
遠くだって行くから
わかったよ、母さん
今 読書室に行くってば

お前が夢見てきたお前の姿は何だ?
今 お前は鏡の中に誰が見える?
俺は言わねばならない
お前の道を行け、と
単なる一日を生きるとしても
何でもいいからやれ、と
いくじのなさはしまっておけ

なぜ言えずにいる?
勉強するのが嫌だと言いつつ
学校に殴り込むのは怖いよな?
これ見て登校する準備をするんだな
もういい加減大人になれよちょっと
お前は口だけ達者で生きながらえて
おい、ガラスのメンタル
(やめろ!)自身に問うてみよ
いつ お前が必死に努力したのかって

おい、お前の夢は何だ?
おい、お前の夢は何だ?
おい、お前の夢は何だ?
お前の夢はせいぜいそんなもんか

嘘だ お前はなんて嘘つきなんだ
俺を見ろよ 俺を見ろ
お前は 偽善者だ
何故しきりに別の道を歩めと言う
おい、お前こそちゃんとしろよ
どうか 強要はしないでくれ
(ラララララ)お前の夢は何だ
お前の夢は何だ 何だ
(ラララララ)せいぜいこれだ
せいぜいこれだ これだよ

うんざりする同じ一日
繰り返される毎日で
大人たちと両親は
枠にはめられた夢を注入する
将来の夢ナンバーワンは公務員?
強要された夢は違う
9回裏 救援投手
時間の無駄な夜間学習に
重い直球をぶちかまして
地獄のような社会に反抗し、夢を特赦
自分に聞いてみろ
お前の夢のプロフィール
抑圧ばかり受けていた人生
お前の人生の主語になってみろよ

お前が夢見てきたお前の姿は何だ?
今 お前は鏡の中に誰が見える?
俺は言わねばならない
お前の道を行け、と
単なる一日を生きるとしても
何でもいいからやれ、と
いくじのなさはしまっておけ

おい、お前の夢は何だ?
おい、お前の夢は何だ?
おい、お前の夢は何だ?
お前の夢はせいぜいそんなもんか

嘘だ お前はなんて嘘つきなんだ
俺を見ろよ 俺を見ろ
お前は 偽善者だ
何故しきりに別の道を歩めと言う
おい、お前こそちゃんとしろよ
どうか 強要はしないでくれ
(ラララララ)お前の夢は何だ
お前の夢は何だ 何だ
(ラララララ)せいぜいこれだ
せいぜいこれだ これだよ

生きて行く術がわからない
飛んで行く術がわからない
決定のやり方がわからない
もう夢の見方もわからない

目を 目を もう皆目を開けろ
ダンスを ダンスを
さあ またダンスを踊ってみろ
夢を 夢を 皆 夢を見てみろ
ぐずぐずすんなお前
もたもたすんな 何してんだよ!

嘘だ お前はなんて嘘つきなんだ
俺を見ろよ 俺を見ろ
お前は 偽善者だ
何故しきりに別の道を歩めと言う
おい、お前こそちゃんとしろよ
どうか 強要はしないでくれ
(ラララララ)お前の夢は何だ
お前の夢は何だ 何だ
(ラララララ)せいぜいこれだ
せいぜいこれだ これだよ

夢なき全ての若者に捧ぐ



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/3078011

『No More Dream』
作詞・作曲:Pdogg, Supreme Boi, “hitman” Bang, Jung Kook, ​j-hope, SUGA & RM


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今回は、2013年6月12日にリリースされたBTS(防弾少年団)のデビューシングルアルバム「2 Cool 4 Skool」収録のタイトル曲 "No More Dream" を意訳・考察していきます。

どんなアーティストにも必ず訪れる記念すべき時、それが「デビュー」の瞬間。
防弾少年団がその時を迎えてから、今年2023年で10年になりました。10年後の今現在から振り返ってみると、全ての理由が集約された奇跡の瞬間だとしか言い表しようがありません。

「お前の夢は何だ?」

No More Dream(もう夢を見るのは終わりだ)(参考)と、現状に対する見限りさえも感じるタイトルを掲げる彼らは、如何にしてこの問いを掲げて世に出ることとなったのか、そして、この問いに対して如何なる答えを導いてきたのか。

自らも若者としてリアルな葛藤を繰り返しながら、世間の狭間に沈む声なき声サイレントマジョリティを掬い上げ、走り続けてきた彼らの原点にあらためて迫りたいと思います。



1.希望あるいは願望

楽曲で取り上げている「夢」というキーワードは、その言葉が元々持っている不確かさ、自由さとは裏腹に、極めて現実的で脅迫的なものとして描かれています。
何故かというと、その「夢」が単なる本人の「希望」ではなく周囲の「願望」を含んだものであるからです。

지겨운 same day, 반복되는 매일에
(うんざりする同じ日、繰り返される毎日で)
어른들과 부모님은 틀에 박힌 꿈을 주입해
(大人たちと両親は型にはまった夢を注入する)
장래희망 넘버원 공무원? ※1
(将来希望ナンバーワンは公務員?)
강요된 꿈은 아냐, 9회말 구원투수
(強要された夢はちがう 9回裏 救援投手)
시간낭비인 야자에 돌직구를 날려 ※2
(時間の無駄な夜間学習にド直球を飛ばす)
지옥같은 사회에 반항해, 꿈을 특별사면 ※3
(地獄のような社会に反抗して、夢を特別赦免)

https://music.bugs.co.kr/track/3078011

※1 장래희망=将来希望…いわゆる「将来の夢」「なりたい職業」のこと(参考)。
※2
야자ヤジャ=야간자율학습(夜間自律学習)(参考
・돌직구…돌(石)のような직구(直球)(参考
※3 특별사면(特別赦免)…贈賄罪などで実刑判決を受けた政治家や財閥家が判決で下った刑期の満了を待たずに大統領の権限で発令される「特別赦免(恩赦)」を受けて出所するケースが韓国では多数ある。(参考1参考2
ここでは、絶対的な権力を使ってどんな拘束をも解くことができる「特赦」という切り札を、型にはめられた若者の「夢」に対して施し解放する、という趣旨。


韓国内の高校生とその保護者を対象に行われた進路希望調査の結果が、「安定的な職業が最高」というタイトルで "No More Dream" リリースの前年2012年1月にソウル新聞の記事になっています。↓

この記事によると、高校生が希望する職種の順位は1位:教師、2位:公務員、3位:警察官。また、保護者が考える理想の就職先も公務員、教師が圧倒的に多いという結果となっています。
一方、将来の希望職種がわからない・ないと答えた生徒が約3割に手が届く程いて、将来就く職業に対して子供の意見を重要視している保護者は5%にも満たなかったとしています。

過去の調査なので現状にはまた変化があるかと思いますが、少なくとも楽曲が制作された時期の国内事情を垣間見ることができる調査結果であり、歌詞の内容を裏付けることができる事実なのではないかと思います。

子どもの将来を案ずるが故に、とりあえずお金には困らない人間に育て上げようと親は考えるもの。お金に困らない堅実な職業に就かせるための手段、我が子が誰の目からも明らかに優れていると周囲にわからせる最も手っ取り早い方法、それが〈学歴〉を授けること。

生まれた時からそうして育てられ、何の疑いもなく評判の良い大学を目指し、就職に有利な道を気付けば歩かされている、という子も中にはいるかもしれません。そんな現実に돌직구石直球=一石を投じることを試みたのがこの "No More Dream" なのではないかと思います。

自分が歩まされている●●●●●●●道の果てを今一度その目で良く見直して見ろ、両親や先生といった周囲の大人たちに対して感じている違和感をありのままに叫べ、と。

皆一様に学歴獲得を目指しわき目も降らず進んで行く同級生たちの中で、ひとり自らの本当の幸せと真摯に向き合う姿が描かれているのが、"화양연화(花様年華) The Most Beautiful Moment In Life" 、ユンギが自身の経験を元に書いた歌詞です。↓

また、自身の幸せを追求し他とは違った道を歩むが故に、学歴重視の大多数から「脱落」していく感覚に陥ってしまう悲痛がAgust Dの "So Far Away" には綴られています。↓

日本社会も韓国と同様、学歴基準の人事が当然の世界。雇用条件に「大卒」の文字が並んでいない企業は珍しいでしょう。そんな社会においてせめて大学までは行かせなくてはと考えている親御さんに罪はありませんし、それに応えようとする子どもたちにも非はありません。

では、この "No More Dream" が訴えているものはただのアウトサイダー・はぐれモノ・落ちこぼれの負け犬の遠吠え・悪あがきなのか。否、決してこの歌詞は、負け惜しみを唄っているものでもありません。

「No More Dream(もう夢を見るのは終わりだ)」、という宣言には、もう夢を見させられるのは終わりだ、という意図も込められているのではないかと思います。意志をもって自ら選択をすることが、本当の意味で夢を見ることに繋がる。公務員を選ぶ理由が「親が望むから」でしかない子がもしそこにいるのなら、今一度自身の本当の夢が何なのか考えてみる必要があるのだと。

「将来の夢はなに?」と大人は子どもに気安く尋ねがちですが、実のところ「夢」を持つこと自体がそう簡単なものではないのだということを、忘れてはならないのではないかとも思います。


2.代弁者、現る

人生の中で最も生命力に満ち溢れているはずの10代20代の若者たちの思考力・行動力が大人たちの願望の押し付けによって失われている現状を、敢えて相手にも聞こえるように言葉にして世に知らしめることで矢面に立つ道を選んだ防弾少年団は、自らも自身の夢が抑圧に負けないものである事を身をもって証明しようという気概に溢れていました。

デビュー当時の初々しいインタビュー記事がいくつかネット上に残っています。

THE FACT 2013.6.28↓

【”防弾少年団”という名前でデビューした理由は?】
■Rap Monster「(前略)”世の中の銃弾を防ぐ”という奥深い意味が隠れています。(中略)僕たち若い世代の考えを奥深く込めました。(後略)」

【敢えてアイドルとしてデビューした理由は?】
■Rap Monster「(前略)アイドルというタイトルであれ、ミュージシャンというタイトルであれ、私の音楽をたくさん聴かせる方法を選択するのが良いと考えました。私が自分で音楽の根本を忘れなければよいと思います。それは私が努力して守って行かなくてはならない役割です」
■SUGA「(前略)私には目標があります。大衆音楽とアンダーグラウンドヒップホップの橋渡し役をしたいです(中略)ただ良い音楽ができるなら、アイドルだろうとアンダーグラウンドラッパーだろうと関係ありません」

https://news.tf.co.kr/read/entertain/1202739.htm

ize① 2013.7.18↓

【"No More Dream" がタイトル曲に決まる過程はどうでしたか?】
■Jimin「兄さんたちが苦労しているのは知っていましたが、どれ程かわかりませんでした(中略)知ってみると20回以上歌詞を書いたり消したりしたそうです」
■SUGA「最初は〈취향 존중(他人の好みを尊重しようという考え)〉という主題を持って歌詞を書いていきましたが、パンPDが「これは君たちに似合う歌詞ではない」とおっしゃった(中略)ラップモンスターと僕は作業室で紙を投げたり破ったりして大騒ぎでした」
■Rap Monster「最初にビートをもらった時は「これだ、これなら全て打ち砕ける」と思ったのですが、実際にやってみると思いがけず苦戦しました(中略)僕たちの話をしながら同時にラッパーとしての能力も見せてやらなければならないのに(後略)」

https://www.ize.co.kr/news/articleView.html?idxno=30011

個人インタビュー記事↓
ize②(Rap Monster、SUGA、j-hope)
ize③(Jin、V)
ize④(Jimin、Jung Kook)

WEIV 2013.7.30↓

【ヒップホップで最も重要なことは何だと思いますか?】
■SUGA「どうもメッセージの伝達が最も重要だと思います。スワッグよりは真心を込めた歌詞が同年代の人たちの共感を得られるのではないかと思います」
■Rap Monster「(前略)結局は真心からにじみ出るものでなければならないのではないでしょうか(後略)」

https://www.weiv.co.kr/archives/6420

バンタンをパフォーマンス面で支え続けているソン・ソンドゥク先生のインタビューも残っています(WEIV 2013.7.30)↓

【防弾少年団を通して実現したい事は?】
(前略)ただ歌って踊るグループではなく、本当に歌をたくさん表現して、歌詞をもっと表現するチームになれたらいいと思います。(中略)歌詞に合わせてひとつの形を作る、ダンスというよりは体で表現するようなことです。(後略)

https://www.weiv.co.kr/archives/6413

若い世代が内に抱える思いの代弁者として「より多くの人にメッセージを受け取ってもらう」ために、ヒップホップを主軸としながらもアンダーグラウンドではなく大衆音楽の王道ともいえる「アイドル」という肩書を敢えて選んだ防弾少年団。
アイドルラッパーという立ち位置は、始めこそ様々な偏見を受ける要因ではありました。しかし、当時から今現在に至るまで決してブレることのない、

自分たちが良いと信じる〈音楽〉
真心を込めた〈歌詞〉
歌詞を体で表現するための〈パフォーマンス〉

これらの基本姿勢が周りの意識を変えていくことになるのは時間の問題でした。
後になぜ彼らが世代や国境を越えて爆発的に多くの人の支持を得ていくことになるのか、その要因はデビュー当時にあって既に明確だったのではないかと思います。


3.夢のあとさき

"No More Dream" の発表後にも「夢」を取り上げた楽曲は発表され続けてきました。

「お前の夢に従って進め」と力強く歌うのは "Tomorrow"。↓

一方、「夢がなくても大丈夫」と寄り添う歌は "낙원(Paradise)" 。↓

バンタンとしてメッセージを伝える側だった彼らもまた、夢の所在について迷いを抱える若者のひとりでもありました。

「お前の夢はどこにある?」と自問するのは、RMソロアルバムのタイトル曲 "들꽃놀이(Wild Flower)" 。↓

「俺には'俺たち'が夢を見ることができる方法が必要なんだ」とひとつの答えを見出したのはJiminのソロアルバムタイトル曲 "Like Crazy" 。↓

「もう夢を見るのは終わりだ」という逆説的な曲でデビューを果たした防弾少年団はその後BTSとして新たな扉を開き、今、その第二章への過渡期にあります。

夢は、始まるからいい。夢は、終わるからいい。
昔お世話になった先生がそんなことを言っていたのを急に思い出しました。

例え目が覚めてしまってもまた見始めていいのが夢。
これからも、何度でも、いくつでも。そんな風に思います。


BTS/防弾少年団、デビュー10周年おめでとうございます✨🎂✨



今回も最後までお付き合い下さりありがとうございました。
💜