【鑑賞ログ】いまさら『横尾忠則 寒山百得』展について記す
『横尾忠則 寒山百得』展には、12月3日の最終日に行った。
開催前から知ってはいたものの、なんだかんだ言い訳をつけて避けていた。
横尾さんの作品を見るのが怖いのだ。
気を抜いていたら、帰り道にうっかり自殺してしまいそうだから。
とはいえ、横尾さんの一つの描画スタイルに固執しないところはとても尊敬しているし、私もそうなりたいと思っている。
なので覚悟を決めて行くことにした。
許されるなら奥歯にマシュマロか、サワーズグミを挟んで、ぬいぐるみに「大丈夫だよ」と頭をなでてもらいながら見たいところだが、そうも出来ないので、着ている上着を体の前に抱えて観ることにした。
会場につくと、いつもと雰囲気が違い、緊張感があった。
見に来た人が、全員クリエイターに見える。
なんだこれは。怖い。
いつものように近くでジロジロ絵を見ていたら、首根っこをつかまれて説教をされるんじゃないかと怯えた。(みなさん譲り合ってご覧になられていたので、とても良い人たちだと思います)
タイトルにも含まれる、”寒山百得”は、寒山拾得という中国の寒山と拾得という名の2人の伝説的な詩僧をテーマにしているもので、横尾さんらしい洒落が効いたタイトルになっている。
artscapeさんの記述が一番わかりやすかったので、拝借。
寒山は巻物ではなくトイレットペーパーを、拾得はほうきではなくコロコロを持っている。
あれ?
名画の中にまで、登場している寒山と拾得。
なんか、かわいいかも。
今回の横尾さんの絵、すごく好きだ。
1つめの小部屋を出るころには、すっかり横尾ワールドに陶酔していた。
この辺りまで見てようやく気が付いたのだが、キャプションに日付が記されており、日付順に見た方が横尾さんの心境も想像できて面白い。
それに、下の4枚、似たような構図で描かれている。
横尾さんとしては、どの絵が一番表現したい理想に近いのだろうか。
個人的には、2022-04-27の絵が一番好みだ。
ポップでかわいい。
しかも、ちゃっかり1名増えている。
4枚の絵を比較して見ても、とても面白い。
この組体操のシリーズも好きだった。
おちゃめでかわいい。
YouTubeのMEET YOUR ARTチャンネルで、寒山拾得の制作秘話もお話されていたので、こちらをみてもより思考が広がると思います。
この寒山拾得の制作をされている間、心筋梗塞になり手術をされていたそう。
それでも、描き続けるエネルギーの強さに圧倒された。
座るスペースをみつける度に5分ほど小休憩を挟んだのだが、絵にエネルギーを吸われている気がする。
絵の力強さに、あてられているだけかもしれないが。
FUSIONシリーズがとにかくカッコイイ。
このシリーズが一番バリエーション違いが多く感じたのだが、全部良い。
横尾さんはグラフィックデザイナーだったこともあり、構図がカッコイイ。
終盤にかけて、どんどんグラフィカルになっていく印象だった。
個人的には、後半の方が好き。
特に、宣伝ポスターにも使用されているこの一枚。
なぜ幾何学なのか、なぜこの構図なのか、なぜこのモチーフなのか、と思いたくなるが、日付を追ってみていけば、ここまでたどりつくまでのプロセスが見られるので、突き詰めたらこうなるのだなとわかる素晴らしい展示だった。
最後にこの1枚、乱暴者シリーズ。
江戸川乱歩、ランボー、アルチュール・ランポー、エドガー・アラン・ポー。
寒山拾得が嫌になっちゃったのだそう。
取り憑かれると危険だから、寒山拾得を捨てるために関係のないものを描いたということみたい。
全く関係ないように見えて、江戸川乱歩はトイレットペーパーを、ランボーは掃除機を持っている。
まだ、エッセンスがちょっとだけ、残っていた。
会場を出た。
とても達成感があった。
横尾さんも描き切った後、すごい達成感があったんだろうなと思いながら、すごく疲れたので、噴水広場の鯉たちをぼんやり眺めてから帰宅することに。