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【脚本】『じんない』~2014年初演ver~(上)

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本日はSTAR☆JACKS act#007『じんない』を取り上げます。
この作品は私の脚本作品の中で唯一再演されたもので、言わば代表作と言っても過言ではないかと思います。
ちなみに本日取り上げるのは2014年の初演版脚本。
2017年の再演版では加筆修正をかなり加えたので、この初演版はプロトタイプといったところですね。

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この作品はまだ題材探しをしてる頃
act#「007」→スパイ→忍び
という安直な連想ゲームから生まれました。
で、色々と調べていたら、同時代に同じ「甚内」という名のワルたちいたということを知り、三人が一緒に活躍したら面白いのでは・・・という思いつきです。

HEP HALL(大阪・梅田)に回り盆を組んで・・・という演出にしたのも、よき思い出です。

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本作は(上)(中)(下)の三回に分けて掲載します。


あらすじ
時は江戸の初め。徳川幕府が産声を上げてまだ間もない江戸の町。
庄司甚内、高坂甚内、鳶沢甚内
「三甚内」として名の知れたワルたちがいた・・・というのも一昔前の話。

十年後、吉原の町で偶然にも再会した三甚内。
その姿はそれぞれ変わり果てていた。
開業を目前に控えた吉原を巡る様々な想いと思惑に巻き込まれ、ワルたちは再び牙を剥く・・・
登場人物
嵐兵衛(実は庄司甚内):まといの情夫。実は風魔一族最高の忍び
高坂甚内:関東一円を股にかける盗賊。『爆裂弾』
鳶沢甚内:諜報を得意とする孤高の忍び。『千里眼』

柳生兵庫助:流浪の剣術者
石川鉄之助:兵庫助の従者

四郎左衛門:『三浦屋』楼主。吉原遊郭総名主。
まとい:『三浦屋』太夫
朱乃:まとい付の禿
萌黄:まとい付の禿
菊之丞:おかまの遊女
初音:『三浦屋』遊女
金次:『三浦屋』手代頭
亀吉:『三浦屋』手代
鶴太郎:代書屋

おたね:羅生門河岸の遊女
千代次:羅生門河岸を取り纏める遊女
おたか:羅生門河岸の遊女

徳川秀忠:徳川幕府第二代将軍
青木肥後守:老中
内藤:幕臣
柳生宗矩:将軍家剣術指南役
武藤安信:柳生家高弟。宗矩の娘婿

善二郎:初音の贔屓客
明日葉:風魔一族の抜け忍
風魔の小太郎:風魔一族の頭領


#0 オープニング

遡ること十年。慶長十一年(1606年)
夜。江戸の原野。春先の花冷えのする季節。
月明かりも薄暗い、そんな夜ふけ。
客席を通ってやってくる一人の男。
柳生兵庫助。花見の後のようで、したたかに酔っている。
お目付役の石川鉄之助も付き従う。
兵庫助、ご機嫌な酒というよりは不満が溜まっている。

鉄之助 「若ー」
兵庫助 「おお、鉄之助」
鉄之助 「若、何もそんなに急がなくても・・・」
兵庫助 「バカタレ、こんなところにおっても意味が無いわ。帰る!」
鉄之助 「しかし、此度の江戸での剣術修行は大殿、柳生石舟斎様の・・・」
兵庫助 「たとえ爺様の命でも俺は帰る!」
鉄之助 「しかし・・・」
兵庫助 「何がしかしだ!何がかの宮本武蔵が滞在しているだ!武蔵はとっくに旅立って既におらんではないか!それどころか骨のある奴などひとりもおらんではないか!」
鉄之助 「それは・・・」
兵庫助 「それに何だ?女がまったくおらん!こんなつまらんことがあるか!え?どうなんだ鉄之助!」
鉄之助 「幕府がまだ産声を上げて三年余り。この江戸という土地もまだ建設中でございます。まだまだ男ばかりなのは致し方ありますまい」
兵庫助 「おまえはホモか!ホモ之助か!」
鉄之助 「な、何をおっしゃいますか!」
兵庫助 「とにかく俺はとっとと帰る!剣の相手もおらん、女もおらん、幕府の小役人どもの相手で花見なんかをするために俺は来たんじゃねえ!(と、ずんずん進む)」
鉄之助 「若・・・この辺りは夜盗が出ると申します。とにかく今日のところは・・・」
兵庫助 「夜盗でも毛唐でも来れるもんならかかってきやがれ。この柳生兵庫助様が刀の錆にしてくれるわ」

拍子木。

兵庫助 「(目が座ってる)鉄之助!」
鉄之助 「は、はい」
兵庫助 「しょんべん」

と兵庫助、草むらに向かい立ちション。

鉄之助 「もう・・・若・・・飲みすぎですよ・・・」

鉄之助も付き従い、連れション。
ジョーっという盛大な音。

兵庫助 「おー出る出る・・・優に一斗は飲んだからのう」
鉄之助 「実は拙者も先ほどからずっと我慢をしておりました・・・」

と、四方に響く呼子の音や怒声、足音。

兵庫助 「ん?なんだ?」

というも、出し始めた小便はそう簡単に止まらない。
ひとつの影が複数の影に追われてくる。
追われているのは鳶沢甚内。忍者装束。追ってくるのも同じく忍者。
追い詰められ、取り囲まれる鳶沢。拍子木。

鳶沢 「ちっ・・・」

じわりじわりと間を詰める忍者たち。
と、そこへ鳶沢が来た方向とは別方向から爆発音。

兵庫助 「おわっ!(鉄之助がびっくりして兵庫助に向く)こっちを向くんじゃねえ」

駆け込んでくる高坂甚内。小脇には千両箱を抱えてる。
むせ返りつつも追っかけてくる浪人たち。

高坂 「けっ、しつこいなぁ・・・」

高坂に襲い掛かる忍者たち。かわす高坂。

高坂 「何しやがるんだ、この野郎」

浪人たちも鳶沢に襲い掛かる。短い立ち回り。
四つ巴の形となりにらみ合う。拍子木。

高坂 「どこのどいつか知らねえが、随分と物騒な連中を引き連れてやがるじゃねえか」
鳶沢 「そりゃお互い様だ」
兵庫助 「お、おい、びっくりして袴が汚れちまったじゃねえか」
高坂・鳶沢 「ん?」

そこへ再び割るかのように銃声。

鉄之助 「うわっ」

客席から駆け込んでくる庄司甚内。追いかけてくる侍たち。
舞台に上がる際に忍者と浪人から攻撃があるも、避ける。又は、弾き返す。
行き詰る庄司甚内。六つ巴のにらみ合いの形に。拍子木。
一番身分の高そうな侍・青木が進み出て

青木 「甚内!」
三人 「あ?」
青木 「ん?なんだ貴様ら、貴様らになど用はない。甚内!」
三人 「だから何だってんだよ」
青木 「?」

混乱している様子の侍たち、忍者たち、浪人たち。

鳶沢 「(何かに得心して)なるほど、そういうことか」
庄司 「(同じく)珍しい晩もあるもんだぜ」
高坂 「ん?何の話だ」
鳶沢 「三甚内揃い踏みってことよ、高坂の」
高坂 「なっ、テメエらが・・・」
庄司 「そういうこった」
青木 「何をごちゃごちゃと!甚内!」
高坂 「あーもうっ!めんどくせえな!いいかよく聞け、クソ侍!大泥棒の五右衛門が釜で茹でられ十年ばかり。天下は西から東、サルから狸に移れども、世に盗人の種は尽きまじ。関東一円股に掛ける、「爆裂弾」の高坂甚内とは俺様のことだ」

拍子木

高坂 「次ぁおめえだ」
鳶沢 「問われて名乗るは忍びの名折れ。だが、一緒くたにされたままじゃあ名が廃る。事のついでだ教えてやろう。壁に耳有、障子に目有。梁の上には甚内有。俺に隠し事は出来やしねえぜ、「千里眼」鳶沢甚内」

拍子木

鳶沢 「しんがりは任せたぜ」
庄司 「名乗ってやっても構わんが、聞いて後から悔やむなよ。世に山ほどの忍びはおれど、得手不得手は付きもんだ。全てを備えた忍びってのぁ、後にも先にも俺一人。諜報、暗殺、何でもござれ、風魔が生んだ最高傑作、庄司甚内」

拍子木

高坂 「自分で言っちまうか。噂に違わぬ大した自信家だ」
庄司 「事実だ」
青木 「つまり貴様ら全員が「甚内」で、グルってことか!」
高坂 「バカにするな!俺は徒党なんか組みやしねえ」
庄司 「天上天下唯我独尊」
鳶沢 「俺たちぁ皆、独り働きよ」
青木 「ええい、そんなことはどうだっていい!(取り囲んでいる全員に)貴様ら、奴らを召し取った者には何なりと褒美を遣わす!押し囲んで全員潰してしまえ!」

色めきたつ侍たち、浪人たち、忍者たち。

兵庫助 「ちょ、ちょっと待て、俺も混ぜろ」
青木 「やれ!」

三人に襲い掛かる侍たち、浪人たち、忍者たち。
様々入り乱れての大乱戦。

兵庫助 「あーもうっ!なんでこんな時に・・・ 止まれ、このヤロウ、止まりやがれ!」

全員ほぼ同時に最後の一人を打ちのめす。

青木 「貴様らの顔は忘れんぞ」
鳶沢 「口ほどにもねえ」
高坂 「しかし、三甚内揃い踏みなんてのはもはや今後ねえだろうよ。いい退屈しのぎになったぜ」
鳶沢 「次に相見えるときは、仇同士かもしれんな。せいぜい無事にやるこった」
庄司 「ふん・・・じゃあな」

と、三人別々の方向に去ろうとする。

兵庫助 「終わったーっ!」

振り向く三人。

兵庫助 「待て待て待てーい!俺を除け者にして帰ってもらっちゃ困るな。江戸に来て初めて骨のありそうな奴らに出会えたぜ」
鳶沢 「柳生兵庫助。剣聖・柳生石舟斎の孫か」
兵庫助 「ほう、俺の名を知ってるか」
庄司 「ああ、今この江戸でそれだけの気を放ってる奴といえば、アンタくらいのもんだろうからな」
兵庫助 「ふん、嬉しいねぇ」
高坂 「大した豪剣をお持ちのようだな」

兵庫助、剣を抜く。

兵庫助 「江戸に来て以来、退屈で死にそうだったんだ。今宵出会ったも何かの縁。もうひと遊びしていかねえか」
鳶沢 「生憎だが、こちらはそうでもなくってね。じき夜も明ける。とっとと帰らせてもらうぜ」
庄司 「同じく」
高坂 「悪いな」
兵庫助 「な、何っ!」

高坂、おもむろに懐から炸裂弾を取り出し投げる。
閃光。目くらましされる兵庫助。三甚内はその隙に逃げる。

兵庫助 「じんないーっ!!!」

その声と共に炸裂音。
音楽。そのままダンスシーンへと。

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