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美術史を学ぶ意味を、改めて考える

「大学時代、美術史を勉強していました」と言うと「美術史って何ですか?」と聞かれることが多い。

確かに美術史は、日本史や世界史と比べると聴き馴染みの無い学問なのだろう。

美術史とはその名の通り美術の歴史のことで、美術がどのような形で現在に至ったのかを追求する学問だ。


美術の歴史を辿ることはすなわち文化の歴史を辿ることでもあり、人間の表現方法の歴史を知ることがでもある。 


しかし多くの人にとって美術史は、歴史を学ぶ時のサブ要素でしかないらしい。
美術史が何か分からないと言う人に内容をかいつまんで話すと、「ああ!資料集で見たことがある。ちょっと受験の時にやったかも。」との声が返ってくることがある。


リアクションは大体そこで終わり、相手が美術史に興味を持つことはほとんどない。
多くの人にとって、美術史はそこまで重要なものではないと判断されてしまうのだ。


一見分かりにくいが、美術史を学ぶことは、実は歴史を知ることでもある。
歴史的背景が分からないと作者の本当の意図を理解することはできないし、キリスト教の知識がないと絵画の主題を知ることもできない。


「美術を学ぶ」と聞くとただ作品を鑑賞することが全てに感じられるが、実はそれだけではないことが美術史の面白い部分であると感じる。

大学時代に美術史を学び美術の面白さに魅せられた私だが、最初からこの取っ付きにくい学問を面白いと感じていた訳ではない。



私と美術史の最初の出会いは、高校の美術の授業だった。当時デザイナーに憧れ、美大進学という叶わぬ夢を描いていた私は、毎回の美術の授業を心から楽しみにしていたことをよく覚えている。

そんなとある日の授業。
折角なら実技以外にも、と先生が話してくれたのが美術の成り立ちだったのだ。

それはとても簡単な美術史であったが、私にとっては衝撃であった。
特に印象派絵画の解説に心を動かされ、たった1回の美術教師の話は私の中の絵画への印象をガラリと変えた。


今我々が普通に使用している絵具のチューブは屋外で絵を描くために生まれたもので、この何が描いてあるか分からない絵は今までの絵で描けなかった空気感を描いたものだったのか!



それを知った瞬間に、どこかでパズルのピースがパチリとハマった気がした。
美術って、思ったより面白い。それが全てのきっかけであった。

それから私は普通の四年生大学に進学し、美術とは無縁の学部に入学した。
本当はずっと日本文学を研究したいと思っていたし、どう逆立ちしても解読できない様な古文書を読んで平安歌人の世界に浸りたいと思っていた。



しかし入学してからまぁそんなことはうちの大学では学べない(教授がいなかった)と気がついたので、何となく面白そうだし美術史でも勉強してみるか!と思い表象関係のゼミに入ることを決めたのだ。



結局それが大正解だったのだが、当時の私は「本当にこの選択で良かったのだろうか」と日々絵と睨めっこをしながら悩んだものだ。


教授の口癖が、今でも頭に残っている。
「人は知っているものではないと、見ることはできない。映画に登場する絵画だって、それがモナリザだと分からなければ認識することはできない。知識は、何よりも大切である」と。


私はその言葉を胸に、今日も学びを続けている。
美術史を学んで得られる知識は、美術の歴史だけではない。
日本史と世界史。女性の見られかたの変化。表現方法の変化。人と宗教のあり方。
一つの学問から世界は続いているということを、美術史は私に教えてくれた。


美術史を学ぶ意味。
それは、絵画からまだ見ぬ世界を掴むこと。
私は今日もまだ見ぬ世界を手に取るために、学びを続けるのだ。

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