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一次創作漫画を自力で実写映画化した話

はじめに



漫画の実写映画化」と聞くと、あなたはどんな感情を抱くだろうか。

私の肌感覚でいうとポジティブなイメージを持つ方はあまり多くないと思う…が、私は案外「漫画の実写映画化」が好きだったりする。
ただ「実写映画化だヤッター!」という気持ちというよりかは、(良くも悪くも)「あの漫画を現実に落とし込むとこうなるのか」という解釈を見るのが好きなのだと思う。

さて、私は「BMI Project」という実写映像作品を作る社会人サークルに約8年ほど所属している。
サークル自体は2011年から活動しているのだが、何だかんだあって今のメンバーは私「野崎アユ」と今作の監督である「岩清水 蛍」の二人だけだ。
今までは身内で楽しむだけの二次創作的な動画ばかり撮って来たのだが、「我々も歳を重ね体力的な意味でも外見的な意味でも衰えを感じてきた事だし、ここらでいっちょBMI Projectの集大成的な作品を作って、記念として世に出そうじゃないか」という話になった。

二次創作的な作品じゃ無いもの、というならば一次創作しかあるまい。
そこで冒頭で述べた「漫画の実写映画化」という案に行きついた。
題材に選んだのは私が26年描き続けているノート漫画「WING」。
記憶喪失の少女が記憶を取り戻すために、揃えると願いが叶うと伝えられている「精霊石」を集めるというファンタジー漫画だ。

前置きが長くなったが、その漫画「WING」を実写映画化していく経緯を、備忘録としてこちらに記していきたいと思う。


自主制作映画「WING~暁の記憶~」制作の経緯

  1. 原作執筆~台本~絵コンテ

  2. 衣装、小道具、大道具制作

  3. 撮影

  4. 編集

  5. 完成


1.原作執筆~台本~絵コンテ

まずは何が無くとも「原作」だ。
実はこの時点(2020年)では原作漫画は第40話までしか執筆していなかった。
(26年描いていた、といっても仕事の合間に気楽に描いていたので進みは物凄く遅かったのだ)

実写映画化にあたって、どうせならコメディ的な短編でなく盛り上がるものを作りたかったので原作の一番盛り上がる(であろう)シーンを実写化すべく200ページ弱を描き下ろした。
(さすがにノートに丁寧に描く余裕は無かったので鉛筆書き&グレースケール処理にはなってしまったが)

続けてその勢いのままに42~45話をベースにした台本約27ページ程を執筆し、それを元に監督の岩清水が136ページの絵コンテを仕上げてきた。
改めて思うがこの時点でクレイジーである。
台本・絵コンテの段階で原作で入れられなかったエピソードも盛り込んだり、逆に1本の映画としていらない部分は削ったりの作業をああでもないこうでもないと言いつつ進めていった。
とあるキャラたちの恋愛描写なんかはもうごっそりカットしたので(せざるを得なかった)実写映画によくある「原作にあったあのセリフ(シーン)が無い!」というのはそういう事情があったりするんだろうなぁと、少しだけ作り手の目線を体感する事も出来た貴重な体験だったと思う。



2..衣装、小道具、大道具制作

さて、何度も言うが「WING」はファンタジー漫画だ。
つまり衣装や小道具も日常のものをほいっとそのまま作中に使う訳にはいかない。モブの衣装一つとってもだ。
まあ無いんだから作るしかないよなというM精神でただひたすらに作り続けた。

<衣装>

岩清水作(本当はもっとある)
野崎作

<小道具>


大切なキーアイテム精霊石(岩清水作)
武器ひとつとっても皆特殊なものを持っているので結局全部作らざるを得なかった(野崎作)


こういう書類もコピー用紙で済ますわけにはいかないので
ニスを塗ったりしてそれらしく見えるよう工夫する(野崎作)

<大道具>

造花を買うお金が無いので1から作ったハースガィネという架空の花(野崎作)


5秒ぐらいしか映らない龍族の里のジオラマ


作中に出てくる神殿も無いんだから空き部屋に作るしか無いよなという精神で…


こうなりました。

神殿の大道具を作っていた時は仕事の忙しさと体調の悪さで何度か発狂しかけたが、「やれば終わる!」と半ばヤケクソで言い続けてとにかく無心で手を動かしていたら本当にやれば終わったので「やれば終わる」は人生の教訓にしていきたい。

あとはとにかくまあお金が無かったので、廃材の段ボール、発泡スチロール、紙筒、果ては納豆パックや弁当のフタ、トイレットペーパーの芯、ヤクルトの空き容器に至るまで何でも使った。
(おかげさまで今でも納豆パックのフタが中々捨てられない症候群に陥っている)


3.撮影

2022年の2月~12月にかけて合計45回のロケを行った。

何度も言うがBMI Projectは2人だけのサークルである。
ここで登場人物を数えてみよう。メインキャラだけで13人、モブキャラを入れると18人程…エッ?正気?

とはいえ撮れそうなら二人で頑張ったのだが、どう考えても二人だけでは無理そうなシーンがある…そう、殺陣である。(味方側のキャラが主人公を庇いながら敵キャラと殺陣をするシーンがあり、どう考えても3人必要)
そこで東京の友人にダメ元でお願いしてみたら二つ返事でOKしてくれた。
エッ…女神か何かなの…?(撮影地は愛媛)

結果的に5回も愛媛に来てくれた女神の名は「あきちゃん」なのでBMIの名は忘れても「あきちゃん」の名前だけは憶えて帰って欲しい。


身も心もイケメンなあきちゃん

あきちゃんの他にもゲストやボイス出演で協力してくれた皆様には、こちらで改めて感謝申し上げたい。
本当にありがとうございました。

撮影に関しては、本当に大変というか1日撮ってこれだけしか進んでないのかと絶望に暮れたり(1日撮っても編集するとたった1~2分のシーンだったりするから驚く)、自分の演技力に歯がゆくなったり、思い通りに行かなかったことも多々あったが総じてやはり楽しかったなぁ~という結論に行きつく。

楽しかった、というのがやはり冒頭に述べた「漫画を現実に落とし込むとこうなるのか」という部分なのだと思う。

例えば魔法陣を光らせる事は出来ないので(BMI ProjectはCGを使わない)、魔法陣の中心に光る魔道具を置こう、だとか。
「時の流れの中」は原作では濁流のような描写だったが、螺旋階段で表現しよう、とか。
細かい所で言うと、衣装の白バイアス部分は漫画的すぎるのでレザー素材やシルバーで表現しよう、とか。

こういう代替案を思いついた時の快感は何物にも替え難い。
あと個人的にこの撮影の為に10㎏痩せたので褒めて欲しい。
(10㎏痩せてもまだゴリっとはしているが!それでも!)

<NG集>


<メイキング動画>


4.編集

さて、撮影が終わったぞ一段落…という訳にはいかない。
編集ももちろん自分たちである。
しかもBMIの集大成、というからには適当に撮った動画を繋げればいいというものではない…と偉そうな事を書いているが実際に本編を編集してくれたのは監督である岩清水である。

大雑把な私とは正反対で、彼女は本当に細やかな編集をしてくれる。
例えば前半の草原での戦闘シーン、あれは違うキャラで何度も別日に撮ったものを同じ時間軸として違和感のないよう繋げているのだ。
天気も時刻も季節も違う映像を違和感なく色調補正し、自然につながっているのを見た時は感動した。

BGMは私が貯めに貯めていた「この曲使いたい」リストを大放出して大体1日(リテイク入れると2日)で全てリスト化して監督に提出した。
サウンドノベル大好きな私が、自分だったらここにこういう曲が欲しい~!という欲望のままに選曲したが、公開後に割と選曲を褒められることが多くて「ヘヘッ…」となっているのはここだけの話である。

テーマ曲「追憶を祈る、その彼方には。」と「鬼燈のテーマ」を作ってくださった甞來さん本当にありがとうございました。


映像、BGMの調整が終われば次は音声だ。
実は音も現地で撮ったものは一切使っていないというか使えない。
(雑音も多いし、音の響き方が部屋によって全く違うので)
なので音声のアフレコは勿論の事、SE(効果音)も全て自分たちで後入れした。

最初はフリー効果音をお借りして…と考えていたのだが、ぴったりなものを探すより自分たちでやった方が早いぞという事に気付いてしまったので、結局8割は自分たちで効果音を作ったと思う。
(どうにもならない魔法系の効果音等はお借りしました)

足音は主にビニール袋と木の板と手の腹を駆使して、靴底や床板の材質に合わせて音を変えた。
精霊石の落ちる音はグラスをマドラーでチリンと鳴らし、首を締める音は水筒を握りしめ、主人公が自分の頬を叩くシーンは自分の腕を力の限り平手打ちした。(痛い)

何より二人で感動したのは、ビニール袋とエコバッグで鳥の羽ばたき音を作れた事だ。
もう羽ばたき音だけでも聴いていって欲しいのだが、見事な音が作れたと自負している。
「ジ〇リに売り込めるぞ!」と夜中の変なテンションになった事を覚えている。

そんなこんなで編集が終わったのが、公開日の1日前である。
ギリギリでいつも生きていたいから、いや嘘、締切にはいつも余裕を持って生きていたい。


6.完成

そうして約2年をかけて完成したのが、
自主制作ファンタジー映画「WING~暁の記憶~」
である。

ここまで読んで下さった皆様には「あの漫画を現実に落とし込むとこうなるのか」という我々なりの解釈を是非観て行って欲しいと思う。
少なくとも、鳥の羽ばたき音だけでも聴いて欲しい。
YouTubeにて未来永劫無料だよ。

満身創痍でプレミア公開を迎えて、夜中にちょっとだけ布団で泣いた。

おわりに

こういう挑戦をしていると、必ず言われるセリフがある。

「そんな事して何になるの?」

物質的には何も得ていないかもしれない、お金でいうと損ばかりしているかもしれない、だけど挑戦を達成して得た経験は掛け替えのない自信という財産になると思う。

実際この2年、本気でこのプロジェクトに取り組んで完成させる事が出来て、かなりの自信に繋がったと思う。
野崎は一応漫画家としてご飯を食べているが、それでも知名度は下の下。
自信の無くなる日もあるし、売れている漫画家さんと比べて落ち込んでしまう日も勿論ある。
それでも「人は人、自分は自分だよなぁ」なんて月並みな事をするっと思えるようになった事は本当に大収穫だったと思う。
そう思える事が、いわゆる「自信」なのかななんて、今ぼんやり考えている。

さて次は何を作ろうかな、岩清水よ。

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