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そうか、俺はホットなヒップを持っていたのか。

子どもには謎のこだわりがある。

「パパ、ちがうよ?」

晩ごはん。特に意味もなくパパとママの座る場所を交代したら、かなり強めに指摘された。最近話しはじめた2歳は日に日に語彙を増やし、どんどん会話が会話になりつつある。その速さたるや。昨日のことばが今日はもう別もの。それどこで仕入れて来たの?ってワードが所狭しと市に並び、口からどんどん売れていく。成長速度大バーゲンセールである。一分一秒毎日毎晩、人類すげぇぇえ……!となっている今日この頃だ。すごい。

「ちがう〜〜〜!」

こちらも特に意味もない交代だったので、「はいはい〜」とすごすご席を変わる。食卓を中腰で、お茶碗、取り皿、箸むぎ茶。両手にくるりと時計回り。よっこいしょっと座りなおし、いただきますと仕切り直しする。

「いや、お尻の温度、高くない?」
「えっ?」

……えっ?

個人的なこと、家庭のこと、生活に埋もれてるあれこれ。比べるまでもないささいなことたちは、意外と違いに気が付かないものだ。
納豆の食べ方しかり、シャンプーの使い方しかり、爪の切り方、髪の伸びる速さ。習慣や体の特徴は自分に近すぎて他人との差がわからないのだ。

晩ごはんのあと、ちょいと失礼して比べさせてもらったが、思った以上にじんわり尻熱。(子どもの熱をはかるときみたいな額に手を当てる方式です、尻フュージョンじゃないのであしからず)
たしかに自分のほうがお尻の温度がだいぶ高い気がする。というか、はじめて人と尻比べをしたな。

そうか。30数年来、気が付かなかったが。俺はホットなヒップを持っていたのか。

いや、だからなんだというのだろうか。孤独蔓延るこの東京シティ、ホットなヒップで渡っていけるだろうか。無理じゃなかろうか。このぬくもり。もっともいらない類であることは間違いない。バナナはおやつに入りますか。お尻は人肌に含まれますか。触れたこの手になんの意味がありますか。

思い返せば、はじめて勇気を出して妊婦さんに席を譲ったあのときも、ドキドキしながら先輩と映画を観に行った大学生のあの夏も、ツールの使い方がわからなくて情シスのやさしい担当さんにパソコンを観てもらったあの瞬間だって、俺のヒップはホットだったわけだ。なんかごめんなさい。

こうしてレア度S級の使いどころの難しい長所ばかりが増えていく。尻に火がつく恥ずかしさ。人生である。


おわり。

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