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野やぎのエッセイ

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エッセイ・創作エッセイをまとめました。
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記事一覧

言えないよ、ジャパン。

おそばが好きだ。冬は格別である。 渋谷で働きはや数年。幾度迫りくる物価高の波のなか、特に「はやい。やすい。うまい」の立ち食いそばには大変お世話になっている。まさに大海の小舟、海上のオアシス。疲れたときほどあたたかいごはん。その一杯は活力の源である。 その日もお昼休みはうきうきそばタイム、馴染みのお蕎麦屋さんへ足を運んだ。 すると、入り口の自動券売機にはスーツケースを横に外国の方がふたり並び立ち、慣れない日本円とメニューを見比べながらアーイェーウーイェーつぶやいている。

自分じゃ選ばないタイプのお寿司。

なるべく、自分のペースを守りたいほうである。 思えば30数年間、冒険控えめ保守的スタイルの歩幅で生きてきた。マックはチーズバーガーの一択。サイゼリアにいけば、ミラノ風ドリアかペペロンチーノを食し、年中ユニクロ定番を身に纏い、なるべく変化がないほうを選んでは安心していた。 しかし、最近といったらどうだろう。 子育てがはじまってからというもの、ぐるり360度ぐるぐる振り回されっぱなしの毎日である。 でも、その小さな手で振り回されたぶん。ちょっとずつ、想像していなかった未来

ぽっかり休日。

結婚記念日を有休にしていた。 毎年記念日はお義母さんに子どもを預かってもらい、ふたりでご飯を食べたり映画を観たりする。ありがたい。 迎えた当日、家族を送り出す。もちろんパートナーも仕事である。やっちまった。 そういえば、少し前にお義母さんの都合もあって今年は記念日のあとの日曜日に出掛けようとなっていたのだ。すっかり忘れていた。 ぽっかり休日。 どうしよう。 + 家事雑事をやっつけ、めんどくさがっていたクリーニングに出しにもいって一息つく。ソファに転がりたくなり、読みか

南の島でトゥクトゥクしてきた。

全国400万人のペーパードライバーのみんな〜! 旅を諦めるには、まだはやい。 南の島にはトゥクトゥクがあるぞ! + 今日までペーパードライバーで生きてきた。旅に移動はつきもの。 トラブルも旅の醍醐味だが、できるだけ快適に自由でいきたい。山、海、離島に田舎道。子連れなら、なおさらだ。 しかし、都会の喧騒を離れ自然に近づくほど立ちはだかるのが車社会。公共交通機関もあるけれど、バスは1時間に1本なんてザラだ。そんなゆったりした時の流れも魅力なのだけど「やっぱり車があると便利だ

NAVITIME息子版で帰省する。

旅に出たい。 すっかりコロナも過ぎ去って旅行も身近に帰ってきた。来る年の瀬、久しぶりに帰省する。わたしの実家の八丈島へ短いみじかい旅行だ。 旅には出たいが、子連れだと大変である。スケジュール通りにいかないのが旅の醍醐味。しかし何一つコントロールできないのがキッズの常。難易度うなぎのぼりの掛け算はトラブルがネギ背負ってアクシデントに突っ込むかの如くである。そもそもが無理ゲーなのだ……。なのでできるだけリスクは減らしたい。我が家も元気満載6歳と息するようにいたずらを繰り出す3

職場で刺し身を食べま初夏。

春うららかな陽気を吹き飛ばし、夏をダイレクトアタックで連れてきた初夏。 なにこれ、暑い。 夏よ、そんなに急いでどこへゆく?ものごとには順序があるんだぞ。動機、息切れ、気つけに求心。陽気、梅雨明け、夏日でルーティーン。はい、復唱して。……はい。わかった?段階で連れてきてよね、夏。これさ、真夏日、猛暑日待ったなしじゃん。突然くるとみんなびっくりしちゃうの。体がついていかないの。毎年言ってる気がするぞ。まじで。わかった? ねー。ほんと、暑いですね……とかなんだかんだと言いつつ

小学生になる息子と電車で12時間、行って帰って見つけた旅の終わり。

「とにかく、とおくにいきたい!」 彼は、元気よく言い放った。 本気か? 本気だった。 + この春、小学生になる長男に「春休みどこいきたい?」と聞いたら、こんな答えが返ってきた。 「電車に乗って、とにかく遠くに行きたい」と。 彼は鉄道大好きキッズ、いわゆる子鉄である。それも、乗り鉄マシマシだ。 以前、実家に帰省するときに羽田空港までのルートを任せてみたら、1時間20分の道のりに4時間30分かかった。なんでだ。わからぬ。だが、そこに理由はない。好きは超特急なのだ。とに

今ココにある危機

「今そこにある危機」という映画がある。アクションにしては情緒的なタイトルに、往年のハリソン・フォードの渋さが光る2時間越えのタフな映画だ。 先日お風呂に入ろうと衣服を脱ぎ、いざ浴室へ……といったタイミングでそれは突然訪れた。尿意だ。自然の声には逆らえまい。慎重に廊下を覗き、さっとトイレにスライドイン。速やかに便座に腰掛け、ふぅ……と一息つく。……と同時にトントントンとノックが響いた。 「パパ〜!」 なぜだ、なぜバレている。ドア一枚を隔てた先を凝視したら、3歳児の顔がニヤ

えらい人とのやりとり説明書【初級編】

「(いや、前回はこう言ってたやないですか……)かしこまりましたー!」 ズコーッ! あるあるではなかろうか。 社内転職でまったくの畑違いの部署にきてだいたい1年くらいが経った。光陰矢の如しだ。矢が飛ぶところなど人生で数回しか見たことがないが、ピーガガガガガのISDNのスピードではない。世は5G、高速インターネッツの時代。よきにはからえ、大儀である。このままどんどん速くなって、1日が8時間くらいになって、余は疲れたとかいう暇もなくなっていくのだろうか。 事業を提供するサービス

10秒でたのしいが消費される時代に、20年以上も切ないジャックスカードのCM「パンとカメラ」が好きすぎるから人生を6分だけくれ。

切ないは、時を越える。 コンテンツの消費は年々速くなっていく。SNSを開けばすぐに10秒でたのしい。一瞬で目を惹くエネルギッシュな画がずらり並んでは、文字通り高速で流れ過ぎ去っていく。 たのしい、エロい、ハイカロリー。炭水化物山盛りのようなコンテンツは濃厚で刺激的だ。 ひと口限り、味見で満足の一過性コンテンツにどっぷり浸かって無作為につまみ食い。ただスマホのスクロールに身を任せて流れていくのは確かにたのしい。たのしいのだが、でもたのしいだけだ。 先月、いや一週間前のトレンド

手作り餃子とスーパーの冷凍餃子ぜんぶ焼いて最強の守護神を決める。

餃子がすきだ。 餃子はすごい。パリパリもモチモチもいける皮に包まれた多種多様の餡。具のバリエーションは無限大。炭水化物にお肉と野菜がたっぷりインしてるなんて完全無欠のおかず王だ。もはや完全栄養食のそれである。同じことをハンバーガーでも常々提唱しているが、いまだ同志に出会ったことはない。なぜだ。なぜなんだ。(個人の感想です) そして、餃子は懐が深い。メインもはれるし、サイドもこなす。ラーメンでもごはんでもOK。完全栄養副菜として、するんとおさまる。その潔さ。ありがてぇ……。

2月14日、母とデートする。

「わるいねぇ。ありがとうね」 繰り返し言いながら目を細める母に「いいよ〜」と答える。そういえば、いつぶりだろう。父が仕事の間の半日、母とふたりでゆっくりと過ごす。デートである。しかも、何も予定を決めていない。最高の空白だ。さて、どうしようか。 「なにしよっか」 「そうねぇ」 ホテルの待合室でふたり、どちらともなくとりあえずあくびをした。テレビだけがしゃべっている。 窓の外は、冬とは思えない陽気だ。天気予報は初夏くらいの気温になると言っていた。カタンカタン。新幹線とモノ

甘くないレモンサワー最速王決定戦(渋谷編)

甘くないレモンサワーが好きだ。そしてお酒の提供は早ければ早いほどよい。 それこそ至高。唯一無二。究極の居酒屋の条件。 そのふたつがあればもう、いらない何も捨ててしまおうである。最高の一杯を探し彷徨うマイソウル。イントロは長いが、たったふたつだけあればラブがファントムする。居酒屋のすべてはそこに濃縮されているのだ。(個人の感想です) たとえば、よいお寿司屋さんはかんぴょう巻きが旨い。手間がかかるのに利益が少ないかんぴょう巻きに、こだわってていねいに手を入れられているイコー

食卓ぜんぶピンクにする。

3歳、ごはんを食べない。 いや、正確に言えばごはんしか食べないのだ。お米、パン、麺と炭水化物をこよなく愛し、愛され、それ以外は断固受け付けない。 「〇〇くん、おにく、だいじょぶです」 野菜やお肉は、この時期特有の丁寧な日本語とともに流暢にお断りされ、きれいに避けて食べている。もはやスゴ技。ときどーーーーき、ほんとに気が向いたときに試すように口に入れてみても、すぐに炭水化物沼に帰ってしまう。炭水化物……恐ろしい子……! 好きメニュー(カレーとか)や間食、飲み物でも栄養取