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野やぎのエッセイ

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エッセイ・創作エッセイをまとめました。
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今ココにある危機

「今そこにある危機」という映画がある。アクションにしては情緒的なタイトルに、往年のハリソン・フォードの渋さが光る2時間越えのタフな映画だ。 先日お風呂に入ろうと衣服を脱ぎ、いざ浴室へ……といったタイミングでそれは突然訪れた。尿意だ。自然の声には逆らえまい。慎重に廊下を覗き、さっとトイレにスライドイン。速やかに便座に腰掛け、ふぅ……と一息つく。……と同時にトントントンとノックが響いた。 「パパ〜!」 なぜだ、なぜバレている。ドア一枚を隔てた先を凝視したら、3歳児の顔がニヤ

えらい人とのやりとり説明書【初級編】

「(いや、前回はこう言ってたやないですか……)かしこまりましたー!」 ズコーッ! あるあるではなかろうか。 社内転職でまったくの畑違いの部署にきてだいたい1年くらいが経った。光陰矢の如しだ。矢が飛ぶところなど人生で数回しか見たことがないが、ピーガガガガガのISDNのスピードではない。世は5G、高速インターネッツの時代。よきにはからえ、大儀である。このままどんどん速くなって、1日が8時間くらいになって、余は疲れたとかいう暇もなくなっていくのだろうか。 事業を提供するサービス

10秒でたのしいが消費される時代に、20年以上も切ないジャックスカードのCM「パンとカメラ」が好きすぎるから人生を6分だけくれ。

切ないは、時を越える。 コンテンツの消費は年々速くなっていく。SNSを開けばすぐに10秒でたのしい。一瞬で目を惹くエネルギッシュな画がずらり並んでは、文字通り高速で流れ過ぎ去っていく。 たのしい、エロい、ハイカロリー。炭水化物山盛りのようなコンテンツは濃厚で刺激的だ。 ひと口限り、味見で満足の一過性コンテンツにどっぷり浸かって無作為につまみ食い。ただスマホのスクロールに身を任せて流れていくのは確かにたのしい。たのしいのだが、でもたのしいだけだ。 先月、いや一週間前のトレンド

手作り餃子とスーパーの冷凍餃子ぜんぶ焼いて最強の守護神を決める。

餃子がすきだ。 餃子はすごい。パリパリもモチモチもいける皮に包まれた多種多様の餡。具のバリエーションは無限大。炭水化物にお肉と野菜がたっぷりインしてるなんて完全無欠のおかず王だ。もはや完全栄養食のそれである。同じことをハンバーガーでも常々提唱しているが、いまだ同志に出会ったことはない。なぜだ。なぜなんだ。(個人の感想です) そして、餃子は懐が深い。メインもはれるし、サイドもこなす。ラーメンでもごはんでもOK。完全栄養副菜として、するんとおさまる。その潔さ。ありがてぇ……。

2月14日、母とデートする。

「わるいねぇ。ありがとうね」 繰り返し言いながら目を細める母に「いいよ〜」と答える。そういえば、いつぶりだろう。父が仕事の間の半日、母とふたりでゆっくりと過ごす。デートである。しかも、何も予定を決めていない。最高の空白だ。さて、どうしようか。 「なにしよっか」 「そうねぇ」 ホテルの待合室でふたり、どちらともなくとりあえずあくびをした。テレビだけがしゃべっている。 窓の外は、冬とは思えない陽気だ。天気予報は初夏くらいの気温になると言っていた。カタンカタン。新幹線とモノ

甘くないレモンサワー最速王決定戦(渋谷編)

甘くないレモンサワーが好きだ。そしてお酒の提供は早ければ早いほどよい。 それこそ至高。唯一無二。究極の居酒屋の条件。 そのふたつがあればもう、いらない何も捨ててしまおうである。最高の一杯を探し彷徨うマイソウル。イントロは長いが、たったふたつだけあればラブがファントムする。居酒屋のすべてはそこに濃縮されているのだ。(個人の感想です) たとえば、よいお寿司屋さんはかんぴょう巻きが旨い。手間がかかるのに利益が少ないかんぴょう巻きに、こだわってていねいに手を入れられているイコー

食卓ぜんぶピンクにする。

3歳、ごはんを食べない。 いや、正確に言えばごはんしか食べないのだ。お米、パン、麺と炭水化物をこよなく愛し、愛され、それ以外は断固受け付けない。 「〇〇くん、おにく、だいじょぶです」 野菜やお肉は、この時期特有の丁寧な日本語とともに流暢にお断りされ、きれいに避けて食べている。もはやスゴ技。ときどーーーーき、ほんとに気が向いたときに試すように口に入れてみても、すぐに炭水化物沼に帰ってしまう。炭水化物……恐ろしい子……! 好きメニュー(カレーとか)や間食、飲み物でも栄養取

今夜は全力サンタクロース。

最後に本気出したの、いつですか? 新卒の子に飲み会で聞かれた質問に上手く答えられないまま、一年が終わろうとしている。 + 最近、走ってない。 「うまくいかない」に慣れきって、間に合わなくてもしょうがないって、そこそこを流していって。 そんな、走らない毎日にいる。 最後に全力疾走したのはいつだろう? 思い出せないし、覚えていない。 + どんなに調整しても、仕事は降ってくる。 それも、ふいに。いつも、唐突に。 クライアントからの電話。 上長との会話。 やっとこ

一番ロックから遠いけど、ときどき、でも。

チバユウスケが死んだ。 なんでだろう。いつもなら「亡くなった」と思うところを、ロックスターやミュージシャン、もう取り返せない「あの時」に聴き込んだ音楽には、死んだと書いてしまう。思ってしまう。瞬間、途切れた感覚があるんだろうか。強く、強烈に、まさに突風のように価値観を吹き飛ばされ、奪い去られ、塗り替えられ、安いイヤホンとからがなり立てる衝撃の残響が未だに消えないからだろうか。「亡くなった」が合わない。よくわからないが、死んだ、と思う。死んでしまった。 ぼくは今も昔もぜんぜ

濡れてても凍ってても!コクヨのリサーチラボペンがすごすぎて、もう日常でどうしたらいいのかわからないくらいすごい。

NASAがあると買ってしまう。 つい手にとって、そのすごさを手に入れたくなる。なにがすごいかまったくわからないが、なにかすごい感は一等一番だ。好きなブランドはなんですか?NASAです、と言えるくらいには買ってるんじゃないだろうか。ありとあらゆるところにNASAあり。 宇宙に行く予定はないのに、宇宙で書けるペンはたくさん持っている。準備だけは常に万端だ。いつでも来い宇宙。 そう、ペンである。特にペンには技術の粋を集めた一品感があって、見かけるとつい買ってしまう。そんな一本を

そうか、俺はホットなヒップを持っていたのか。

子どもには謎のこだわりがある。 「パパ、ちがうよ?」 晩ごはん。特に意味もなくパパとママの座る場所を交代したら、かなり強めに指摘された。最近話しはじめた2歳は日に日に語彙を増やし、どんどん会話が会話になりつつある。その速さたるや。昨日のことばが今日はもう別もの。それどこで仕入れて来たの?ってワードが所狭しと市に並び、口からどんどん売れていく。成長速度大バーゲンセールである。一分一秒毎日毎晩、人類すげぇぇえ……!となっている今日この頃だ。すごい。 「ちがう〜〜〜!」 こ

スーパーのたまごぜんぶ買って最強の卵かけごはん用たまごはどれかを決める。

息子が卵かけごはんにハマった。 卵かけごはんはすごい。卵、お醤油、ほかほかごはんの黄金三銃士。それだけでつくれる。なんてこった……。あんなに簡単レシピなのに、ほぼ失敗なし神仕様。すごい。 そして自分でつくるから、好きなだけ自分好みにカスタムできるリアルタイムエンタメ感。神。食卓に降り立った神。食の細い息子くんも卵かけごはんならバクバク食べてくれる。ありがとう卵かけごはん、ありがてぇ……!!! そう、少し前は卵がなかった。まじで全然なかった。スーパーでもコンビニまでも売り切

Wow-WowWar-そこに意思はあるんか。

気持ちのいい秋晴れ、平日に休みをとった。 来年から小学生になる長男の就学時検診があり、午後から幼稚園を早退してはじめて小学校にいく。次男もプレスクール。子どものイベントが重なると、どうしてなかなか回らなくなる。フレックスなので在宅でもなんとかなったけれど、思いきって一日有休にした。気持ちが楽である。 朝のバタバタをやり過ごして長男を送り出し、一息つく。次男とパートナーは2階の子ども部屋で遊んでいる。ざっくり片付けを済ませてソファにもたれこんだ。ここのところデスクワーク続き

とにかく、でかい魚をさばきたい。

最後に30センチ定規を見たのはいつだろう。 思い出の中の30センチは竹製だけど、今はどうなんだろうか。プラスチックやアクリルかもしれない。 わたしの足は28センチだ。大きめである。なかなか靴が買いにくいけど、いいこともある。 手首から肘までは足の大きさと同じらしい。だから、何かの大きさを考えるとき、だいたい30cmはこのくらいかぁ……と比べられる。慣れ親しんだ竹製30センチで測る世界。けっこう便利だ。 だいたいこのくらい〜は人によって違う。タバコの箱だったり、500円玉だ