気がついたら9年目】2021年 今年の32冊
なんだかんだ場所を変えて毎年行っている、今年読んだおすすめの本紹介をやりたいと思います。(今年出版された本に限りません)
読んだ本はNotion上に登録していっているのですが、12月20日時点で242冊でした。今回ご紹介するのは、その中から選んだものです。(マンガは登録/カウントしていないかも)
いろんなジャンルから32冊、ずいぶんたくさんになってしまいました。例年と比べて、紹介文も短めです。
皆さんの読書ライフの充実に繋がれば幸いです。
言葉の力を感じる
えーえんとくちから
今年初めて買った本のジャンルの一つが、歌集です。
2009年に若干26歳にして亡くなった夭折の歌人・笹井宏之さんが紡ぐ言葉に心を動かされない人がいるでしょうか。仕事の場でよしとされる、ただ機能的な単語やロジックを、越えていかなくてはいけないなと感じた1冊でした。穂村弘の解説は「笹井宏之の歌には、独特の易しさと不思議な透明感がある」と始まります。個人的に大好きだった歌↓
からだじゅうすきまだらけのひとなので風の鳴るのがとてもたのしい
広い世界と2や8や7
その穂村弘に、「その登場によって 短歌が、目の前の世界の見え方が、変わってしまった」とまで言わしめた永井祐さんの歌集。2019年から、笹井宏之賞の選考委員もされていらっしゃいます。身の回りにあるものと、そこから広がる世界との接合点を、31字でくっきりと突きつけてくる。大好きな歌は↓です。
公園のトイレに夜の皺が寄る わたしが着てる薄過ぎるシャツ
これまでビジネスビジネスしてきたほど、この歌集というジャンルに手を伸ばして欲しいです。世界が一気に豊かになる。
国語辞典を食べ歩く
「東京ポッド許可局」「熱量と文字数!」「いんよう!」などで今年たくさんお声を聞いた米粒写経のサンキュータツオさんの新刊。とある言葉が辞書でどんな風に紹介されているのか、いろんな辞書での記載を比較しつつ教えてくれる本書。好みのど真ん中を打ち抜かれました。
そんな違いがあることさえ知らなかったです、わたし。
今年の途中から、1日見開き1ページ、大辞林or新明解の辞書を眺める習慣を緩く続けています。世界が豊かになります。初めて知って、好きになった言葉の一つは「中流(そこそこの流刑。信濃や伊予への流刑)」です。
的を射る言葉
森博嗣さんが書いていたブログの冒頭に登場する言葉を集めた箴言集(この箴言、という表現も、今年はじめて使った単語の一つです)。科学と技術と文学を行き来する森博嗣さんの世界モデルが好みなんですが、そこから生まれる素敵な一言メッセージ。心を打たれ続けました。例えば、趣味の話。
未だに週1回、好きな言葉として見返してはうなっています。手元に1冊、どうですか?
ないもの、あります
タイトル買いですよね、もう。こんなんずるいよ。
実際には世の中には存在しないものを取り扱う商店があったら?をテーマに、「堪忍袋」や「口車」を取り扱うクラフト・エヴィング商会が商品紹介をしてくれます。ふふっと笑わされて、悔しい!となる。
わたしが一番欲しいのは舌鼓です。大サイズでお願いします。
あざらしのひと
麻生鴨さん(SNS文脈では、元NHK_PRの中の人)が出している同人誌。ネコノス文庫さん、ありがとう。わたしは特に「おさない人」と「エレガントな人」のお話が好きでした。
読後、「人間観察が趣味というのならば、ここまで突き抜けなくてはいけないよな」が一つ、「あざらしのひと、大好きだ。言葉の多様性を受け入れよう」がもう一つの感想です。
薄い本なのですが、一気に読んでしまっては勿体ない。1日1人くらいずつ、ゆっくりと噛みしめるように読むのがおすすめです。
相談の森
燃え殻さんが文春オンラインでやっていた人生相談コーナーを纏めた本。こちらもネコノス文庫さんから。
「ママ友が出来ない」という深刻な相談から、「最近尿の切れが悪くなりました」という日常系?まで。
解決ばっかりを求める人生相談コンテンツに疲れた方にこそ。この本は、今年後半、わたしの心の支えであり続けました。
SF/ミステリに浸る
すばらしい新世界
みきさん(@miki_apreciar、Podcast表紙の写真がやけに盛れている)と一緒にやっているPodcast、cobe.fmでも取り上げた本書。10年ぶりくらいの再読になったのですが、相も変わらず大好きな作品でした。(SF界での評価はどうも割れていそう)
生まれる前の認知情動コントロールと階級化、言葉とコンセプトの刷り込み、苦痛を感じら即座に軽麻薬とフリーセックス。適度な科学技術の進展と普及により、個々人の幸福は最大化されているように見える。本当にそこは、すばらしい新世界なのか。ユートピアとディストピアはどのくらい違うのか。
また一つ、問いをもらって、更に広げてもらった作品でした。
未来職安
今年一番ハマった作家の一人、柞刈湯葉さんのSFです。(noteで始まった水曜日の連載も即購読しました)いんよう!の中でたびたび紹介されており、横浜駅SFから読み始めたんですが、案の定ドストライクでした。
技術の進展により、人間の99%はただ消費者として、残り1%が労働者として生きる社会。舞台は、そんな1%の人向けに職業紹介を行う事務所です。どんな人がどんな目的で訪れるのか。主人公はその事務所で働くアシスタント。
人間が責任を負わされるだけの存在になった社会。妙にリアルでした。
人間たちの話
柞刈湯葉さんの最新短編作。こちらも最高です。表題作は、竹書房の「ベストSF2021」にも収録されています。
この短編集の中でどの作品がぐっとくるのか、どの部分がぐっとくるのかで、その人の問題意識だったり好みが見えてきます。わたしは、表題作の中で出てくる科学的定義の政治性の部分に心のアンテナがビンビンに反応し、「宇宙ラーメン重油味」をケラケラ笑いながら読んだ人間です。
柞刈湯葉さんの作品は、カクヨムでも色々読めます。”田中”の話、ぜひ読んでみて欲しいです。わたしを嫌いにならないでください。
三体Ⅱ 黒暗森林
説明不要のSF大作。
第一部であきらめた人!大丈夫!
第2部は人間ドラマがあり、ぐっと面白くなります。ミステリ好きは特に好きになれそう。
面壁者の戦いにぐっときます。そして、面壁者を巡る政治の諸々と、それに由来する社会やメディアの動きをみて、人間集団の愚かしさに絶望します。
一緒に、この不安定でディストピアな世界を生き抜きましょう。
三体Ⅲ 死神永生
説明不要のSF大作。
第一部であきらめた人!大丈夫!第3部はSFの要素全部詰め。
眼を閉じて読んでも楽しめます(たぶん)
この地球がまだ(たぶん)三次元世界に存在していることをありがたく感じています。いま。
星を継ぐもの
三体3部作を読んで「やっぱりSFの原典まで帰らなくては」と思っていたら、TBSラジオ・アフター6ジャンクションでこの本が紹介されており、運命だとおもって読んでみたら案の定大ヒット。そらそうですよね、ジェイムズ・ホーガンの歴史的名作SFですもの。
小さな疑問から、宇宙の壮大な謎に繋がっていくこの展開。ハードSFといえばこの1冊!というのもよくわかる。漫画もあるので、SF初心者(わたしのような)はこちらからはじめるのが良いのかも。
世界の広さを痛感する
開幕! 世界あたりまえ会議
「あなたの当たり前は、誰かの当たり前ではない」
言葉にしてみれば当たり前なんですが、日常でそれを実感できるシーンはそれほど多くありません(感じられないほど、誰かと自分の当たり前を同じと捉えて行動してしまっているのかも知れません)
世界中83の国・地域にある、その場所の当たり前を紹介してくれる本書。へー!と言いながら読むのが楽しいやつです。そして読後に、周りの人に少し優しくなれるのです。
翻訳できない世界のことば
この本も、世界の広さを実感できる本。世界中の言葉の中にある、他の言語にはスパッと訳しにくい言葉を紹介してくれています。その国や地域の物事の捉え方だったり、解像度だったりが、こういう言葉に表れますね。
例えばイディッシュ語の “Trepverter“(現地語の表記はもちろん別です)は、「後になって思い浮かんだ、当意即妙な言葉の返し方」のこと。→わかる、これはよくある。悔しい気持ちになる。
例えばウルドゥー語の”NAZ”(現地語の表記はもちろん別です)は、「誰かに無条件に愛されることによって生まれてくる、自身と心の安定」のこと。→わかる、とても大事。
日本語からは、「木漏れ日」や「わびさび」、「ぼけっと」が収録されています。ぼけっとするのが好きな私。海外の人に自己紹介するときには乱暴に”Boketto”でいこうと思います。
(ぼけっとは、「何も特別なことを考えず、ぼんやりと遠くを見ているときの気持ち」と表現されています。当意即妙だ。)
日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション
差別はなにも、明確・明示的なものだけではなく、もっと日常的で、無意識の現場で行われている。だからこそ捉えがたく、修正しがたいものになってしまう。
今年読んだ本の中でも、うーんと考えさせられたものの一つでした。本書の主張は、加害者・被害者をぱきっと分けられる前提があるように読めてしまい(おそらく私の読解力がいまいちだという制約のせいで)、「自分がマイノリティならば相手はマジョリティである」みたいなことは言えないよな、ということが頭の片隅にずっとありました。
相手が白人でヘテロセクシャルで男性であったとしても、何かしらの価値軸ではその人はマイノリティになるのかも知れず(自己免疫系の希少疾患患者です、とか)、なんというか、この本を読んで「よっしゃ、マイクロアグレッションをなくすために頑張ろうや!」と素直に向き合えない自分がいて、ちょっと戸惑ったりしています。
こういう迷いや戸惑い、自分にとっての不都合というか、快適な不快感というか、そういうものを与えてくれるのが本のいいところだと思っています。
そばですよ (立ちそばの世界)
東京の立ち食い蕎麦の世界を巡る旅。
多くは語りませんが、この本を読んだ後、蕎麦を食べるためだけに東京に行きました。結果、最高の旅になりました。妻も愛読しています。
この本に登場している立ち食いそば屋さんを、とあるWebページはリストで紹介しているんですが、そういうことじゃないんです。そば屋さんをどういう解像度で見るのか、どう表現するのか、そういう平松さんの主観とぶつかるのが最高なんです。
最近、アルコ&ピースのYoutubeチャンネルで立ち食いそば屋さん巡りをする企画が立ち上がっていますが、いずれも本書で紹介されているお店でした。東京に住んでいる方、マストバイの本です。
パンデミック日記
様々な作家や芸術家の方々が、2020年をどう生きていたのか。1人で7日分の日記を書いてリレーをしていき、それをまとめたのが本書です。
皆さんけっこう普通に外食や海外旅行行っていたんだな、がわかる記録。今年2021年のバージョンも出て欲しいなぁと思っています。
嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか
甘ったれたリーダーシップ本を読むなら、こちらを読んだ方がいいです。野球のことがよくわからなくても、こちらを読んだ方がいいです。
本当に価値を出そうとする人は、孤独を受け入れざるを得ない。変革を成し遂げるリーダーは、強く立たなくてはいけない。批判や批評をするだけなら簡単なのです。自分で立ち、自分で動き、自分で変革を起こすためには、嫌われなくてはいけない。
当時の中日にいた選手やスタッフの視点も絡めつつ、落合監督のリーダーシップを振り返っていきます。冒頭の川崎憲次郎の章はもちろん、森野の回、岩瀬の回、どれも最高でした。
本の雑誌が選ぶ2021年度ベスト10の第1位にも選ばれています。来年もずっと売れそうな本。
現代将棋を読み解く7つの理論
今年改めて将棋を勉強しています。
普通棋書(将棋の本)はプロの先生が執筆者のことが多いんですが、この本は奨励会(プロ棋士養成機関)を三段で退会し、現在は将棋ブログ「あらきっぺの将棋ブログ」を運営されているあらきっぺさん。
読んでみて、将棋というものをこんな風に理論化できるものなのか、と目を見張りました。びっくり、本当にびっくりです。(これを読んで強くなれるのかどうかは別の話なんですが)コラムもいい感じで、特に将棋OSの話が最高でした。
おなじくあらきっぺさんが出している「終盤のストラテジー」も名著でした。ただ「速度計算だ!」「詰めろだ!」とだけ考えていた数ヶ月前の私の頭をひっぱたきたくなる。
大事なことは全てマンガが教えてくれる
思えば遠くにオブスクラ
火事で家を失い、諸々あってドイツでフリーランスカメラマンをすることになった片爪さん28歳。海外ならではの生活像と、出会いと、喜怒哀楽があるマンガ。タッチもかわいい。上下巻完結なので気軽に手を伸ばせるのも好きポイント。
北北西に曇と往け
アイスランドへの行きたさをぐっと加速させてくるこのマンガ。新刊をまだかまだかと楽しみに待っているこの気持ち。アイスランドの人たちの落ち着きを分けて頂きたいです。地球はここで生まれている。
舞妓さんちのまかないさん
きよちゃんが推しです。努力家のすみれちゃんもかわいいけど、鍋と会話しているきよちゃんの癒しがすごい。けんた、頑張れよ。
るきさん
女性のお一人様を描く漫画ですが、書かれたのは昭和ど真ん中。主人公るきさんとお友達のえっちゃんが2人でわちゃわちゃするだけなんですが、シュールでコミカルで、こういう漫画を読んでから布団に入ると熟睡できる気がします。
ほしとんで
いんよう!で2度紹介されているのを聞いて、買うしかあるまいと纏め買いしたら大当たり。大学で短歌のゼミがあったなら...言葉の世界にはまったのも、この漫画があったからです。6巻で終わってしまったのが残念でならない。
ハーモニー
伊東計劃さんのハーモニーを小説で読もうとしていたのですが先に漫画から手を伸ばしてしまいました。共感力だサーバントリーダーシップだ、うるせぇ、ハーモニーの世界をつくりたいのか、と愚痴りたくなるやつ。魂が籠もった作品はどれも面白い。
将棋の渡辺くん
将棋、関心があるんだけどルールが難しくて何からはじめたら...??と聞かれる度に、私がおすすめしているのがこの漫画。今の将棋界の第一人者、渡辺名人を、奥様がコミカルに描きます。これを読んでから、妻は渡辺先生推しです。
考えることを考える
職業としての小説家
村上春樹が語る、小説家というお仕事。1日の過ごし方から、着想にいたるプロセスまで。テーマを決める上で、日常の小さな違和感を自分の中の抽斗に入れ込んでおく、とおっしゃっていて、なるほどコンサルタントも同じだ、努力せねばと思った次第です。
ロジカルシンキングを超える戦略思考 フェルミ推定の技術
BCGの先輩、高松さん(Tw:@TAKAMATSUSATOS1)さんの第2作。お世辞抜きで、本当にお世辞抜きで、考えることを仕事にしている人は全て読むべき本だと思っています。推定する、推察する、推論することを舐めすぎなみなさんに突きつけたい本。
ストーリーとしての競争戦略
10年前の本ですが、Audibleで再読・再聴。やっぱり名著。良い競争戦略は、話せば長くなる。そして、必ず面白い。これは本当にその通りだなぁと。おもろい話が出来ない人に、良い戦略はつくれない。
戦略読書日記
上と同様、楠木さんの書籍。書評という位置づけなんだろうか、それを超えた、本というものを題材とした楠木さんの思考開示本のように読めました。銀座のクラブのお話は、鬼気迫るものがあったなぁ。
「利他」とは何か
東工大の未来の人類研究センターをずっとフォローしているんですが、その場に集まった方々が「利他」というテーマで語っていく本書。中動態のようなキーワードもあれば、自己と他者とを分かつ身体のテーマまで。深く、良い読書時間を頂きました。
少しでも皆さんの世界を広げることに役立ったのであれば幸いです。これまでの読書記録として↓で600冊近い書籍を纏めているので、もしここでご紹介した本が皆さんの心をかすめたのなら、ちらっと覗いていってくださいませ。
良い本とともに、良い2022年を!
応援ありがとうございます!