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【カフェでほぼかからない邦楽のカヴァーを聴く男の一生】①〜コスメティック・ルネッサンス!前編

こんにちは、阿佐ヶ谷鈍角です。
じゃない、伊波です。

ここ最近、昭和の名曲群が昭和ポップスという呼び名で密かなブームなのだそうです。レトロな風合いがウケているのかと思いきや、新鮮な驚きや感動をもって現代の若者たちに受け入れられているのだそうな。そっかーと思いましたが、よくよく考えたら現在25歳のひとでも大体1995年の生まれ。そりゃ生まれる前の曲は新鮮に聴けるよね。納得、納得。
        \ま、私も若者ですけどね!/(要審議)
サブスクリプションサービスの浸透がブームに拍車をかけているのかも、とふと思ったりして。

こういった所謂レトロブームの時に盛り上がるのが、カヴァーソングだったりします。一時はトリビュートアルバムがもてはやされたり、超有名ソロシンガーによるカヴァーソング集が注目されたり……なんてことがありました。

個人的に感じるのは、カヴァーソングは諸刃の剣のような存在でして。上手くハマればいいのですが、時には「原曲崩壊」などと揶揄されることも。かといって原曲のイメージを守りすぎると「何の工夫もない」とか「カラオケかよ」などと言われてしまう。簡単そうに聞こえてなかなか難しいものだったりします。

この企画では、そんな玉石混交の感が強いカヴァーソングにスポットを当て、ナイスなカヴァーソングが聴ける音源を紹介していきたいと思います。でもアレですよ、すごくニッチ。

今回は『コスメティック・ルネッサンス~ノエビアCM HITS!』をご紹介。

ノエビアのCMソングが一枚に!

「ノエビア」と聞いて2020年を生きる10~20代の若者は「あ、あの会社ね」とすぐにピンと来るものなのでしょうか。それはさておき、ノエビアは公式HPによると1964年創業、化粧品や医薬部外品の製造販売を行っている会社です。南天のど飴眠眠打破は同社グループの商品なんですね。初めて知りました。
とりわけ80年代から90年代にかけては、第一線で活躍するスタイリッシュな女性をイメージした印象的なCMを作っていました。80年代はデビッド・ボウイカルチャークラブフレディ・マーキュリーといった海外アーティストの楽曲を起用していたので、現在4~50代のひとならば、ひょっとすると「ノエビア=洋楽」のイメージが強いかもしれません。

さて、88年頃からノエビアは「コスメティック ルネッサンス」というテーマを掲げたCMを制作。画家・鶴田一郎氏の美人画をフィーチャーした内容で、このCMシリーズは10年間にわたって制作され続けました。細く切れ長な眼差しの印象的な美人画が上下左右にスライドしたり、クルクルと回ったりするインパクトの強い映像は記憶に残っているかたも多いと思います。
このCMシリーズで聴覚的なインパクトを残したのが、BGMとして使われた楽曲群。洋・邦のヒットナンバーをゴージャスでアダルティなサウンドにアレンジし、楽曲ごとに実力派シンガーをヴォーカルに据えるというものでした。
当時の私はまだ10歳ぐらいで、当時レギュラー放送していた『世にも奇妙な物語』の時間帯に流れるCMと認識していました。なので、CMを見ると無条件で背筋がゾッと……。それでも、中学生だったか高校生になった頃だったかに使われていた坂本冬美さん歌唱の「銃爪(ひきがね)」(原曲はツイスト)は、「めっちゃかっこええやん!」と思った記憶があります。

このCMシリーズは98年に終了しますが、それから約5年後。ドリーミュージックより『コスメティック・ルネッサンス~ノエビアCM HITS!~』がリリースされます。これはCMシリーズの後期に使われた11曲を収録したものでした。

曲目一覧

では実際にどんな曲が、どのアーティストによってカヴァーされたのか、リストを紹介します。
曲名(原曲アーティスト)/カヴァーアーティスト

1.別れの朝(ペドロ&カプリシャス)/世良公則
2.恋のハレルヤ(黛ジュン)/荻野目洋子
3.愛が止まらない(Wink)/西城秀樹
4.銃爪(世良公則&ツイスト)/坂本冬美
5.絶体絶命(山口百恵)/宇崎竜童
6.カサブランカ・ダンディ(沢田研二)/田村直美
7.ダンシング・オールナイト(もんた&ブラザーズ)/マリーン
8.ミ・アモーレ(中森明菜)/狩人
9.スローモーション(中森明菜)/鈴木トオル
10.Heart of glass(ブロンディ)/桃姫BAND
11.Lovin' you(ミニー・リバートン)/アン・ルイス

どうでしょう。さあさあ。ラストの2曲は洋楽のカヴァー。唯一、明菜ちゃんの曲が2曲入っていますが、それを除けばアーティストにしても作品が発表された年代にしても幅広いラインナップです。
次の項で全曲プチ解説してみたいと思います。

収録曲プチ解説・起

1.別れの朝(ペドロ&カプリシャス)/世良公則
原曲は1971年にメジャーデビューしたペドロ&カプリシャスというバンド。「別れの朝」はメジャーデビューシングルとして1971年10月に発表し、55万枚強を売り上げるヒットに。オリコンチャートで年間TOP10入りを果たしました。歴代のヴォーカリストにはアニメ『スペースコブラ』主題歌の前野曜子さん、「桃色吐息」の高橋真梨子さんがいます。
一方の世良公則さんは、ロックバンド・世良公則&ツイストのヴォーカリストとして77年にレコードデビュー。ワイルドなヴォーカルスタイルが人気を呼び、ヒット曲を連発しました。81年の解散以降は俳優としても活躍、『太陽にほえろ!』や『マルモのおきて』などのドラマに出演しています。
タイトル通り恋人の別れを歌った曲で、残される“私”の感情が溢れ出る描写が何とも儚く、心を揺さぶられます。
原曲はAメロからサビに向かってだんだんと情感を強く表現していく前野さんのヴォーカルが印象的ですが、ロックバラードに仕立て上げた世良さんのカヴァーもまたサビで一気に解き放たれるシャウトが印象的。歌番組で披露したと思われる映像があったので、リンクを貼っておきます。
別れの朝 - 世良公則

2.恋のハレルヤ(黛ジュン)/荻野目洋子
こちらは「別れの朝」より4年早い67年に発表。別名義でデビューしていた黛ジュンの再デビュー曲としてリリースされ、ヒットしました。
歌詞を一聴すると叶わぬ恋を歌った恋愛歌といった印象ですが、作詞を手掛けたなかにし礼さんによれば自身の戦争体験を下地にしたものなのだそう。(「なかにし礼さん 歌謡曲、創作に土の匂いを意識 - 共感、無意識に呼ぶ」日本経済新聞夕刊2016年6月25日付
「ダンシング・ヒーロー」のリバイバルヒットで健在ぶりを見せた荻野目洋子さんは、なんと小学4年生だった78年にキッズアイドルグループの一員としてデビューしていた経歴を持っています。その後グループの解散を経て83年にアニメ『みゆき』のヒロイン役に抜擢、翌年にはソロでのレコードデビューを果たしました。彼女の出世作となった「ダンシング・ヒーロー」は85年の楽曲です。
「恋のハレルヤ」カヴァーバージョンは彼女のヒット曲を思わせる、アッパーでゴージャスなアレンジに。ビクターのサイトで試聴できるようなので、ぜひ。
恋のハレルヤ - 荻野目洋子

3.愛が止まらない(Wink)/西城秀樹
前の2曲とは打って変わり、88年に発表された作品。オーストラリアの女性シンガー、カイリー・ミノーグの楽曲を日本語カヴァーしたもので、駆け出しの女性アイドルデュオ・Winkを一躍スターダムに押し上げるヒット曲となりました。この曲で、官能的な詞を淡々と歌うスタイルとユーロビートアレンジを組み合わせたオリジナリティを確立しています。
西城秀樹さんはその生涯をスターとして駆け抜けた稀代のシンガー。18年に惜しまれながらも逝去されましたが、「ヤングマン(Y.M.C.A.)」や「傷だらけのローラ」など多くの名曲が今もなお歌い継がれています。
「愛が止まらない」は、恋人がいる男友達に恋をしてしまった女性の心情を描いた……語弊を恐れず言えば横恋慕の歌。その歌詞をWinkは淡々と歌う事で詞とのギャップを作り、楽曲の魅力にしています。一方の西城さんも、抑揚を抑えた歌唱を選択しています。彼の表現力であればもっと大胆な歌唱もできたと思いますが、Winkのイメージを踏襲したのかもしれません。しかし、彼が持つ歌の艶は抑えられず、それが詞の持つ背徳感の表現に繋がっています。
愛が止まらない - 西城秀樹

収録曲プチ解説・承

4.銃爪(世良公則&ツイスト)/坂本冬美
ツイストは1.で登場した世良公則さんのバンド。タイトルの「銃爪(ひきがね、と読みます)」は78年のヒット曲で、当時の人気番組「ザ・ベストテン」では10週連続1位の記録を持っています。サビの”今夜こそおまえを落としてみせる”というフレーズがキャッチーで、後にはコント番組などによく使われていました。
坂本冬美さんは87年のデビュー以来、演歌を主軸にしながらも早い時期からカヴァーアルバムを出したり、細野晴臣・忌野清志郎の両氏と音楽ユニット・HISを結成するなど、多彩な活動を見せています。
「銃爪」カヴァーはゴージャスでダンサブルなアレンジと、演歌ならではのコブシを効かせた歌唱の融合がピタリとハマったアレンジに。男性目線の歌を敢えて女声で、しかも真っ向勝負と言わんばかりの熱い歌唱スタイルを貫いているのもポイントでしょう。
銃爪 - 坂本冬美

5.絶体絶命(山口百恵)/宇崎竜童
さてこちらも78年のヒット曲。前例のない妖艶さとオリジナリティを兼ね備えたアイドルとして人気を重ねてきた山口百恵さんの、絶頂期とも言える頃に発表した曲です(この年の暮れ、紅白歌合戦で紅組のトリを務めています)。
三角関係のもつれ……じゃないな、修羅場中の修羅場を、しかも普通のドラマなら愛人だとか浮気相手だとか言われてしまう立ち位置の女性視点で描いた衝撃作。作詞・阿木燿子さん、作曲・宇崎竜童さんという歌謡曲界のゴールデンコンビにして夫婦による作品……ということで、こちらは収録曲唯一のセルフカヴァーです。
このカヴァーに関して言えば、何故か原曲よりもマイルドに聞こえます。歌詞のインパクトもさることながら、主役の女性を完璧以上に憑依させた百恵さんの表現力によるものが大きいのかもしれません。

6.カサブランカ・ダンディ(沢田研二)/田村直美
曲のイントロでジュリーこと沢田研二さんが魅せるパフォーマンス(洋酒を口にふくんで霧を噴くやつ)も有名なこの曲は、79年の作品。日本では46年に公開された映画『カサブランカ』がモチーフとなっています。沢田さんの魅力を象徴する曲の一つとして、現在でもTVで度々取り上げられています。
沢田さんは67年にザ・タイガースのリードヴォーカルとしてデビュー。瞬く間に人気を集め、71年のバンド解散後はソロ歌手に転身し、ヒット曲を連発。人気を不動のものにしていきます。
一方の田村直美さんは、ロックバンド・PEARLのヴォーカルとして87年にメジャーデビュー。94年にアニメ『魔法騎士レイアース』主題歌に起用された「ゆずれない願い」が120万枚を超えるヒットを記録しました。
さて、こちらのカヴァーはロック色を強調して田村さんのハイトーンなヴォーカルを活かしたアレンジとなり、原曲とは全く異なる仕上がりに。歌う人、アレンジが変わればこんなにも印象が変わるんだなぁというカヴァーの妙味を感じる一曲でした。ちなみに、この曲がコスメティックルネッサンスCMシリーズ最後のタイアップ曲でした。
カサブランカ・ダンディ - 田村直美

後編へ続くのだ

はじめは一本の記事にしようと思っていましたが、全曲プチ解説がなかなかな重さに。プチって言ったじゃん!
そんなわけで、続きは後編に回します。次回、乞うご期待!

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