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「孤独のグルメ」を観る男の魂 ~Season1 第8話 神奈川県川崎市 八丁畷の一人焼肉~

 こんにちは、伊波です。
 いや、トップ絵は「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」を描くだろ、ってツッコミは分かるんです。確かにそうなんです。そうなんですけど……画力がねェ、追いつかないんですよ!そんなわけで、見逃してくれよ!
 今回は原作でも人気の高いと言われる1巻第8話「京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉」がベースになっており、相違点や共通点が気になってしまいます。そこんとこも突っ込んでいけたら……いけるかな……。


あらすじ:伝説回、来る!

 川の向こうの工業地帯を眺めていると、いつものように空腹感に苛まれる井之頭。今日は関西から訪れた客を相手に一仕事終えており、スッキリとした表情である。もくもくと煙る煙突にインスピレーションを受け、焼肉屋を目指して川崎市は八丁畷にやって来るのであった。

五郎さんと川崎市

 京浜工業地帯の風景、そして「ずっと眺めていられるような気がする。俺はこの風景に癒されているんだろうか」という独白から始まる今回。“工場萌え”なんて言葉が生まれたのは、2006~07年の事だそうです。「孤独のグルメ」ドラマシリーズが始まった頃にはツアー企画も組まれるなど、風景としての工業地帯に注目が集まっていました。
 この地を訪れるのは「久しぶり」と語る五郎さん、BMW・523iセダンを駆りながら眺める、大きな工場がそびえる光景には「相変わらずすごいなぁ」と感嘆するばかりです。
 工場を眺めて「まるで巨人の内臓がむき出しになっているようだ」と表現した五郎さん。そうして、吐き出す煙から想いを焼肉に馳せ、ランチを焼肉一本に絞り込みます。

所感1:西からのお客様と韓流アイドル様

 五郎さんが京浜工業地帯を訪れていた理由、それは今回のお客様・中村(天田博之)を空港まで送った帰りに寄り道したからのようです。前回ではランチに悩みまくりその前には旧友の変わりっぷりにたじろいだり更にその前には何事も上手くいかなかったり……と色々あったのと比べると、今回はお客様も五郎さんも満足げな表情。五郎さんはお客さんを空港まで送る、そのお客さんは浮いたタクシー代で我が子へのお土産を買う、とどちらにも気持ちの余裕が感じられます。良いことです。

 ランチを焼肉一本に絞り込み、川崎市へやって来た五郎さん。黄色地に赤文字の“焼肉 ジンギスカン つるや”の看板を見つけ、「いいじゃないか」と店内を覗き込みますが、あいにくの満席。別の店をと歩きに歩いて八丁畷駅前までやって来ますが、初心に戻り、先ほどのお店へ戻ります。
 ちなみに黄色や赤といった暖色系の色は、人の食欲を駆り立てる色なのだそう。よくよく思い出してみると、大手飲食チェーンは黄色と赤をメインに使った看板やロゴが多い気がします。ジョイフルとか、サンエーとか、タワレコとか。
 そうして戻ってきた店の前で韓流アイドル風の男(アレン・キボム)に呼び止められ、「すっごく美味しいですよ~、カルビが最っ高!」と入店を後押しされた五郎さん。前回までなら結局入店できず……というパターンもあったかもですが、今回はタイミングよくカウンター席に空きを発見。「やった!」と喜び勇んで突入するのでした。

所感2:迷わない五郎様

 店内のカウンター席は、お一人様用のコンロがずらり。いかにも使い込まれた感じがまた良し。
 手渡されたメニューを見て「どう攻めるか悩むな……いや、悩んでいる場合じゃない」と、前回の優柔不断っぷりはどこへやら。店員さん(飯塚俊太郎)を呼び止めると、カルビ、ハラミ、コプチャン、ライス、キムチ、ウーロン茶をサクサクとオーダーします。
 最初に届いたのはウーロン茶と、お通しのキャベツ。キャベツはドレッシングがかかったシンプルなものですが、「ドレッシングって珍しいな、普通は味噌かコチュジャンみたいなものだろう」と半信半疑の五郎さん。しかし一口食べてみると、意外な美味さにニヤリと笑みを浮かべ、やがて来る肉への期待感を高めます。

 そしていよいよ第一弾が到着。はやる気持ちに身をまかせ、網を埋めるように肉を焼いていきます。五郎さん、最初からたくさん焼く派なんですね。
 焼き上がりを見て「いただきます」と、一人静かに号砲。最初のカルビには「美味い! いかにも肉って肉だ!」と、ほぼ語彙力ゼロの感想を漏らします。こうなるともう止まりません、カルビ⇒ハラミ⇒ライス⇒ライス⇒コプチャン⇒ライス⇒ライスと、オコメスキーの本領を遺憾なく発揮、肉を焼くスピードを加速させます。時には先ほどのキャベツを肉で巻いて食べてみたりと、咄嗟のイマジネーションもガンガン働きます。食とは創造なのですよ。

 第一弾をもりもり食べながら、第二弾の戦略を練る五郎さん。他テーブルでやたらに「シビレちょうだい」と聞こえるのが気になります。
 背広を脱ぎ、いよいよ第二弾へ。ジンギスカンとチャンジャ、キャベツ、そしてシビレを追加します。
 肉が焼けるまでの時間をチャンジャで埋めつつ、焼きあがったジンギスカンをひとくち。「これは焼肉とはまた違う世界だ。こういう展開もアリだな。ジンギスカン、いいぞ」と感嘆。美味なものならすべて受け入れられるのです。
 そしてシビレには、「なるほど、シビれる味だぁ!」と、やっぱり感嘆。肉、ライス、肉、ライスと、高速餅つきのごとし、いや、それはもう絶え間なく稼働し続ける工場のごとし! かの名ゼリフ「うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ」も飛び出します。やったぜ。
 永久機関のごとく肉を食べ続けた五郎さん、「ごちそうさまでした、美味しゅうございました」と社長(飯盛博範)にお礼を述べ、退店。「男は、見た目とかおしゃれとか取り払ったら、本質的には工場なんじゃないだろうか」と謎の格言を残し、帰路につくのでした。

今回のマニアックポイント

>>今回のズームアウト

 京浜工業地帯の景色を眺め、「ずっと眺めていられるような気がする。俺は、この風景に癒されているんだろうか」とつぶやいた五郎さん。その直後、「なんだか急に腹が減ってきた」と、開始から20秒あまり、早くもズームアウト。人間、癒されると腹が減るんだと学びました。

>>今回の珍客

 さて、この回のテーマはタイトル通り「一人焼肉」。焼肉と同じくらいに“一人”が大事な要素になっており、店内でのコミュニケーションはオーダーの時、そして食後に五郎さんが店主に向かってお礼を言うシーンのみ。五郎さんの隣の席は、彼と同じ一匹狼。さらにその奥の席に座る2人やテーブル席の2人はそれぞれ同じグループのようですが、彼らも皆、個別で自分の分の肉を焼き、食べています。そんな感じで周りの客もほとんど五郎さんと同じ一匹狼なので客同士で会話する場面はありませんし、五郎さんの人間観察も他の回に比べると落ち着いた印象です。
 なので、強いて珍客と呼べる感じの存在は、入店前に言葉を交わした韓流アイドル風の男(アレン・キボム)。妙なハイテンションぶりがどこか浮いているような印象を受けますが、彼が満足げな表情で店から出てきて、ハイテンションで五郎さんに入店を薦めることで、店の味への期待度がグンと上がります。加えて、彼の存在は今回のお店が韓国風焼肉のお店であることも暗に示しています。

ふらっとQUSUMI

 入店直前から「うゎっ、絶対いいですね、このたたずまいが!」と惚れ込んだ様子の久住さん。カウンター上に並ぶメニュー札を見て「こういう風にね、(メニューが)一杯並んでいるのが好きなんですよ」と褒めちぎります。最初に頼んだのはギャラとシビレ。いかにも飲兵衛のオーダーといったところ(誉め言葉)。ごま油を付けて食べるギャラが美味そうです。「一人焼肉できるかできないかってのはね、大人かどうかっていう感じがしますね」とは久住さん個人の感想ですが、僕もそう思います←
 続けて頼んだキャベツ大盛、「これはキャベツ山ですね!」と言ってしまうほどの量。この量は、かのラーメン屋にも負けないと思います。ええ。

出演者について

 今回のお店が韓国焼肉のお店ということも関係していたのか、白羽の矢が立ったのがアレン・キボムさん。役名こそ「韓流アイドルの男」でしたが、実際のアレンさんも元々はU-KISSというアイドルグループで活躍していました。そのグループ脱退から丸一年後、このドラマへの出演を果たしています。その後はミュージカル俳優へ転身、2019年には日本人女性との結婚が報じられています。

 五郎さんの入店後、最初に接客した男性店員を演じたのは飯塚俊太郎さん。キャベツを持ってきた時のセリフ回しがなんだか妙に芝居掛かった感じが……(失礼)と思っていたら、なんとWAHAHA本舗所属の芸人さん。普段は冷蔵庫マンというキャラで舞台に立っているのだそうな。そういや最近どこかでWeb記事見かけたな……ヒエヒエ~。

 続いておかわりの時に接客対応した女性店員役は小山田モナさん。現在は女優業の傍ら、隠岐島を舞台とした映画『風待ちの島』監督として自らメガホンも取っています。

クレジット

脚本:田口 佳宏
監督:溝口 憲司
音楽:久住 昌之、Pick & Lips、フクムラサトシ、河野 文彦、Shake、栗木 健、戸田高弘
タイトルバック:「JIRO's Title」(作曲:久住 昌之)
松重“五郎”豊のテーマ「STAY ALONE」(作曲:久住昌之、フクムラサトシ)
撮影協力:焼肉 ジンギスカン つるや、大井ふ頭中央海浜公園、川崎市港湾局、川崎ホテルパーク、八丁畷商栄会、八丁畷飲食街、牛たん・田なか屋、OFFICE101

【出演】
井之頭五郎:松重 豊
韓流アイドル風の男:アレン・キボム
中村:天田 博之
中年男性の常連A:衛藤 文
中年男性の常連B:小平 一誠
中年男性の常連C:関本 昇平
社長:飯盛 博範
男性店員:飯塚 俊太郎
女性店員:小山田 モナ
後から来た一匹狼の客:坂本 芳文
テーブルの客①:平塚 重彦
テーブルの客②:川端 清一
マネージャー風の男:高山 聖史
オープニングナレーション:柏木 厚志

今回の名言

 この回は原作1巻第8話「京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉」の再現回。ということで、原作に出てきた名言・珍言がバンバン登場します。せっかくなので、今回は原作にも出てきたセリフには★を入れておきます。
「さて、この後は何の予定もないし……どうしよっかな、っと」
 飯屋を探しに向かう寸前のつぶやき。気分が軽やかである。
★「まるで巨人の内臓がむき出しになっているようだ」
 大きな配管が並ぶ工場の景観を前にした五郎さんの一言。セリフ自体は原作と同じですが、後に挙げる【◆工業地帯と五郎さん】の相違点があることで、その印象がかなり異なります。
「いかん、どうやら俺は、八丁畷で焼肉迷子になったらしい」
 そんな迷子はありません、たぶん。
「すっごく美味しいですヨ、カルビが最ッ高ー!」
 つるやから出てきた韓流アイドル風の男が、五郎さんの入店を後押しするシーン。両手でサムズアップはなかなかインパクトあるポーズです。
「それにしても、このお預け感はまるで拷問だな……」
 焼肉屋でオーダー後の待ち時間の心情を上手くたとえた五郎さんのつぶやき。辺りに香りが充満しているだけに、マヂ拷問……。
「この音だ、ようやく俺の食べる肉が鳴き出したぞ」
 肉を焼き始めた五郎さんのサディスティックな独白。焼肉は人を、漢を野獣に変える。
★「いかにも肉って肉だ」
 最初にカルビを頬張った五郎さんの率直な感想。こちらはほぼ原作通りですが、音声になると語彙力ゼロな感じが増すのはなぜだろう。
「キャベツと一緒に食べるのも、これまたいい。永遠に肉を食べ続けられる気がする」
 実は一人焼肉って、油断すると単調になりがち。そこでタレに薬味を足してみたり、野菜と一緒に肉を食べてみたりして“味変”を楽しむのがコツなのです。そんなことを言い表した五郎さんのつぶやき。しかしさすがに肉を永遠に食べるのはつらい(真顔)。
「一人焼肉って何だか忙しいな……ハハハッ、しあわせだ」
 いったん肉を焼き出すと、ルーティンを掴むのが結構難しいのが一人焼肉。そんなせわしなさも、幸せなのです。
 ちなみにこのセリフ、原作でも近い内容のワードがありますが、そちらは「なんだか一人で黙って焼き肉を食ってると次から次と休む間がない感じで忙しいな…アハハハハ」と、もう少し説明を加えた言い回しになっています。
「うん、いいキムチだ。ごはんだ、ごはん」
 結局ごはんなのよ、そうなのよ。
「あの手が、この店を支え続けてきたんだ」
 社長(飯盛博範)が肉に下味を付ける様子を見た、五郎さんの一言。良い食を生む人へのリスペクトは忘れない。
★「まるで俺の体は製鉄所。胃はその溶鉱炉のようだ。うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ」
 オーダーも第二弾に突入し、加速が付いてきた五郎さんの勢いをそのまま表現した言葉。原作では「溶鉱炉のようだ」と「うおォン」の間にほぼ2ページ分のコマとかセリフとかが入ります。
「男は、見た目とかおしゃれとか取り払ったら、本質的には工場なんじゃないだろうか」
 今回の来客が五郎さん含めて一匹狼の男性ばかり。工業地帯に立ち並ぶ焼肉屋と、そこへやって来る客のイメージを工場で結びつけています。本質的には工場というか、その歯車かもしれない、なんてね。 

原作との相違点

 原作が下地にある回、となるとどうしてもそちらとの比較が気になりがち。というわけで今回は【原作との相違点】もまとめてみます。
◆工業地帯と五郎さん
 原作では「こんなとこ通るのは初めてだが…」と車を走らせ、工場独特の迫力に感心しつつも「…羽田が近いのか」「あんなの(飛行機)が着陸寸前にちょっとしくじってここに突っ込んだら」「東京が一回終るのは簡単なことだ」と、縁起でもないことをつぶやいています。 ※()内は筆者注釈
 一方のドラマ版は「ここを通るのは久しぶりだ」とつぶやき、車を降りて向こう岸の工場を眺めるシーンでは「ずっと眺めていられるような気がする」と、“工場萌え”な感じを醸し出しています。
◆車と五郎さん
 原作の五郎さんが駆るのは、ボルボのステーションワゴン。車の全体が描かれているシーンがないので難しいところですが、2ページ1コマ目、あるいは最終ページの1コマ目辺りを見てみると、昔ながらの角ばったシルエットが確認できます。原作の初出は97年ごろなので、少なくとも今より25年以上前のモデルであることが予測できます。
 さて、ドラマ版はBMW・5シリーズセダン(523iセダン?)に乗っていることが序盤のシーンで確認できます。
 個人的にはクルマにそれほど詳しくないので「あぁ、輸入車が好きなんだな」という程度ですが、クルマ好きの方々が見たらスウェーデン車からドイツ車へ、ステーションワゴンからセダンへの鞍替えは物議を醸しそうです。
◆仕事の前か、後か
 ドラマ版はタイトルコール後、関西から来たと思われる中村とのやりとりが回想として描かれており、仕事を終えたことがはっきりしています。
 しかし原作では、冒頭で「大仕事はこれからだっていうのに」「元気つけなきゃ」とぼやいています。仕事で人と会う前に焼肉行けるって、原作の五郎さんったらパワフルすぎるだろ。
◆ライスは前か、後か
 原作では肉が先に出されており、「早くご飯こないかなぁ」「焼き肉といったら白い飯だろうが」とイライラが表に出ちゃっています。ドラマ版では店員さんが気を利かせて肉より先に、お通しのキャベツと一緒にライスを出しています。この辺りは、一般的な焼肉店のシステムが確立する前(原作)と後(ドラマ)、と受け取っても良さそうです。
◆焼き過ぎた野菜
 原作では序盤でネギを焼き過ぎたことに気付き「またネギこがしちゃった」「どうも野菜を焼くのは苦手なんだな」と漏らしています。“また”と言っているので、こういう経験は一度ではない様子です。
 ドラマ版ではキャベツを焦がしてしまい「兵隊を犬死させた気分だ、申し訳ない」と反省しきり。そのキャベツを口に入れ「失敗の味は、ほろ苦い」とおまけの一言まで発します。
◆「いかん、いくらなんでも食いすぎだ」
 たらふく肉とご飯を食べまくった五郎さん、店を出てその量に改めてぼやいてしまいます。ドラマ版では仕事が終わっているので無問題なわけですが、原作だとこれからが仕事本番。「だめだ頭が回らん…」とぼやきの続きが。果たして、その後の仕事は上手くいったのでしょうか。
◆川崎と焼肉屋の取り合わせ
 ドラマ版は「やっぱり焼肉は、工場の街・川崎がよく似合う」と表現。が、原作では「焼き肉街と堀の内ソープ街ってのも」「考えてみればものすごいダイレクトだ」と、連想がダイレクト。この辺りはコンプライアンスが関係しているのかもしれません。

本日の五郎さんのお食事

【焼肉 ジンギスカン つるや】
・キャベツ(お通し):特製ドレッシングをかけた千切りキャベツ とっても嬉しいお通し
・五郎セレクト第一弾 カルビ・ハラミ・コプチャン(小腸)
・ライス
・キムチ:見た目ほど辛くはなく まさに“おかあさんの手作り”的キムチ
・五郎セレクト第二弾 ジンギスカン・シビレ(胸腺)
・チャンジャ:ご飯に良し、お酒に良し! みんなが笑顔になるチャンジャ
・キャベツ(小盛)
・野菜盛り合わせ(ジンギスカンとセット?)
・ライス(おかわり)
・ウーロン茶

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