見出し画像

「孤独のグルメ」を観る男の魂 ~Season1 第7話 武蔵野市吉祥寺 喫茶店のナポリタン~

 こんにちは、伊波です。
 あの、時々ものすごくナポリタンを求める感じ、ありますよね。私の場合、幼い頃はあまり外食の記憶がないので、ナポリタンと言えば専ら給食で食べた思い出。ケチャップでドカッと味付けした感じとかも含めて、結局こういうのが一番ハズレなく食べられるんですよね。
 ちなみに具で入る肉類はソーセージ、ベーコン、ハムで好みが分かれるかと思いますが、皆さんはどちら派でしょうか? 私は……ソーセージ派です。


あらすじ:迷う男

 井之頭五郎(松重豊)ジャズ喫茶のマスター(うじきつよし)に呼ばれて吉祥寺へ来た。しかしこの日の五郎はどうも行動を決めきれない。道中で立ち寄った店では差し入れを買おうとするも何を買うか悩んでしまい、約束の時間に遅れてしまった。
 商談を終えた後も、何かと決められない場面が続く五郎。「これだけあれば何か決まるだろう」とメニューが多い喫茶店に飛び込んだが、店内で長考するのだった。

五郎さんと吉祥寺

 「新宿や渋谷とは違った、独特の活気がある街だ」と評された街、吉祥寺。通りがかった精肉店を見て「いつもは行列ができているのに…ツイてるな」と漏らしていることから、頻繁に訪れていることがうかがえます。しかしハーモニカ横丁に入った時には「何かいいな…」と呟いており、馴染みのある場所とない場所で多少の差があるようです。

所感1:占われる男

 今回五郎さんが訪れたのは武蔵野市は吉祥寺。原作の第2話でも訪れており、そちらでは回転寿司を堪能しています。機会があれば、ぜひご一読を。

 さて、今回の商談相手であるジャズ喫茶のマスター(うじきつよし)は、どうやら五郎さんの食に対する探究心を知っている様子。約束の時間に遅れた彼に対して「どうせ、自分が食べたかっただけなんだろ。朝飯抜かして、腹減ってますって、顔に書いてあるぞ」と呆れています。
 個人的には、シリーズを追うごとに五郎さんの“素の顔”を知る人物が出てこなくなる印象があるので、「まったく、これだから五郎は、仕方ないなぁ」という感じで話が進むのは逆に新鮮味があります。や、第1シーズンなんですけどね。

 商談を終えてハーモニカ横丁をぶらぶらと歩いていた五郎さん、占い師(梅垣義明)に呼び止められ、何故か占いを受けるハメに。
 占い師のペースで話がトントンと進みますが、五郎さんの「今日の昼飯、昼ご飯何を食べればいいでしょうか」発言で大逆転。思いもよらない悩み内容に、先ほどまでにこやかだった占い師もあっという間にご立腹です。「昼ご飯、俺にとっては、重要な問題だ」と首を傾げつつ、五郎さんは占い屋を後にするのでした。

所感2:大いに迷う男

 いつになく迷いに迷いまくる五郎さん。ラーメン、インド料理、洋食屋(風のお店)と入店しかけては踵を返すといった行動を繰り返してしまいます。いつもならもうカラータイマーも点滅寸前といったところでしょうが、今回は第5話のときのような「もう、もたない!」という心境には至らない模様。追い込まれていない感じが、かえって迷いを増幅させているのかもしれません。
 ずっと店を決めあぐねていた五郎さんでしたが、とある店の前を通り過ぎようとしたところで誰かの視線を感じ、足を止めます。その店はメニューが豊富な定食屋の「カヤシマ」。選択肢が多ければどうにか決まるだろうと踏んで入店しますが……そう、多すぎて絞れない症候群に加えて他客とオーダーかぶりたくない症候群を併発し、長考へ。NHK杯将棋なら、考慮時間を使い切った挙句に時間切れで反則負けとなってしまいそうな勢いです(ドラマの尺ではほぼ2分でしたが……)。

 悩みに悩んだ末に辿り着いたのは、お店の看板セット的なワクワクセットメニュー。メインメニューにナポリタン、ハンバーグをセットメニューに選んで終了。これには五郎さんも「長い戦いだった……」と漏らすしかありません。
 やって来たナポリタンは「これこれ、懐かしい味だ。ときどき無性に食べたくなるケチャップ味だ」と激賞モノの一品。やれカペッリーニだ、ヴェルミチェッリだとかいう麺の種類の呼び方など似合わない、太麺と呼ぶのが一番ふさわしいテイスト。ほぼすべて異国の地の食材なのに、出来上がるものは日本料理以外の何物でもないという、ローカリゼーションの神髄。イメージ通りの味に五郎さんもご満悦です。
 セットのハンバーグは「たっぷりソースのハンバーグは、男の子の味だよ」と漏らしてしまうような、ノスタルジックな味わい。この表現、何かしら引っかかる方がいるかもしれませんが、まあ、それはさておいて。
 さて、ノスタルジックなメニューには白飯がよく似合う、というわけで五郎さんはすかさずライスを追加。「思わず頼んでしまった」と漏らしつつも、いざご飯の入ったお椀を手にしてしまえば「ナポリタンってのは、おかずにもなるんだよ」とすぐさま手のひら返し。炭水化物 on 炭水化物、これの美味さは上品な坊っちゃん、嬢ちゃんにはわかるめえ。
 追加のライスも含めて、オーダーが隣席のじいさん(南波得賢)と丸かぶりしてしまったことに気付いた五郎さん。食べ進め方までダブってしまったことには何故か悔しそう。オーダーかぶりって何か悔しいって思うの、なんでだろうね。
 そんな悔しさも助けて、食べるスピードは次第に加速。一気にフィニッシュまで駆け抜けました。そして帰り際に渡されたのは、次回使える70円値引き券。そんなにキリ良く感じない70円というのが渋い。この渋さに吉祥寺らしさをひしひしと感じ、五郎さんは店を後にするのでした。

今回のマニアックポイント

【今回のズームアウト】
 パンチの効いた占い師に袖にされ(というか怒らせてしまい)、そそくさと占い屋を出た五郎さん。いよいよ昼ご飯のことしか考えられなくなり、小路でズームアウト。口は今シリーズほどではないもののポカンと開けた感じで、棒立ちというスタイルはだいぶ整ってきた印象です。
【今回の珍客】
 さて、今回の珍客はやはり、五郎さんと全カブりのオーダーを楽しむじいさんでしょう。五郎さんよりも先に入店していたようですが、不思議と食べ始めのタイミングは少し五郎さんより遅いぐらい。しかし五郎さんよりも早くご飯も追加済みで、二人とも同じタイミングでご飯を食べ、ナポリタンをすすり、ハンバーグを頬張ります。何というか、じいさんの食いっぷりよ。さすが「健康とか減塩とか言うけども、やっぱり人間、食べたいもの食べるってのが一番だね!」と豪語するだけのことはあります。いやあすごい。

 そしてもう一人、というかもう一組、珍客として推したい人々がいます。それは最後のスタッフロールで役名が明らかになる、ややエキストラの人々……そう、MeguMild……ではなく、訳ありの男性(千田裕)訳ありの女性(天野日佐恵)!! えっ、そんな感じの人、いたっけ?と何度かカヤシマのシーンを見返してみると……まさか、窓際に座っていた、あの二人? そう、その二人! その二人が訳ありなのです! しかし、劇中では何がどう訳ありなのかまったく分からんのです!! 男性のほうはベージュ系の長袖襟付きニットシャツ?にダークブラウン系のパンツ、傍らにはジャケットらしきものが置いてありますが、ザ・中年といった装いです。一方の女性は、ピンク系の着物の上に薄黄色の羽織を着ています。年齢設定は男性より若い感じかもしれません。この二人、確かによく見ればアンバランスないでたちです。うーん、それ以外に何もない。ほかに彼らの登場シーンがないか、探してみます。すると、五郎さんが入店後、しばらくメニュー選びに難航しているシーンの中で、外から窓越しに、奥の席にいる五郎さんを映す場面が。そこで窓際に座っている二人の姿が見えました! でも待てよ、男性の表情は全然分からないし、女性のほうもなかなか表情が動かない。……あ、ちょっとはにかんだか? そして、下向いたか? 下向いたな? ……あ~場面変わっちゃった。一体なんだったんだ……あの二人は……。

ふらっとQUSUMI

 武蔵野と隣り合う三鷹で生まれ育ったということで、「この辺は地元です!」という久住さん。今回訪ねたカヤシマは時代の変遷に合わせて続いてきたんだというのがよく分かるお店。看板の“ランチ&食事とお酒”という誘い文句、写真クラブの作品が重なって見えなくなったメニュー、酔っぱらったお客さんがほじくったであろうソファの穴……至る所に年季が見え隠れしているのが下町好きにはたまりません。
 頼んだメニューはスパゲティナポリタンにシューマイ、そこへみそ汁とシークヮーサーサワーという、何とも雑多な組み合わせ。こういったカオスな感じこそ、ザ・日本の食堂といった感じもします。
 開店した当初はコーヒー専門店だったのに、食事メニューが増え、お酒が加わり、果てにはカラオケパブ化したこともあるそうで……お客さんに寄り添ってきたことの表れだと思うと、すべてが愛おしい。

出演者について

 たぶん西洋占星術が専門っぽい、でも実際はよくわからない、口紅がどぎつくてちょっとオネエっぽい、とても怪しい占い師を演じたのは梅垣義明さん。ご存じ、WAHAHA本舗の看板俳優の一人で、越路吹雪さんの「ろくでなし」を歌いながら鼻に詰めた豆を飛ばす芸が最も有名で、ドラマ出演時にはスナックのママとかゲイバーの歌姫とか、そういう役柄も少なくない印象です。

 さて、この放送回の隠れたキーワードは「あんてるさんの花」。こちらは2012年6月に公開された邦画で、監督は宝来忠昭さんでした。この作品は吉祥寺が舞台で、主演に小木茂光さん、他に田中美里さん、徳山秀典さんらが出演しています。そしてエグゼクティブプロデューサーは松江勇武さんが務めています。そう、松江さんと言えば、第3話 豊島区 池袋の汁なし担々麵で「ティッシュ配りの男」役で強烈なインパクトを残した、あの方。おそらく、暗に映画の宣伝を行うためにドラマが全面的に協力したということかもしれません。
 そんなわけで、この回は監督の宝来さんを筆頭に、「あんてるさんの花」と武蔵野市が強力タッグを組んだと言ってもよいキャスティングでした。接客の合間に外を眺めては「人を見ている」という女性店員役の下石奈緒美さんは元々歌手としての活動がメインで、映画にはサウンドトラック担当で関わっています。
 途中から入店してくるバンドマンを演じたのが、MeguMild鳥羽史裕さんと竹中佑太夏さん。MeguMildは映画の主題歌「名前のない今日」を手掛けたスリーピースバンドで、2007~2014年辺りまで活動していたようですが、このドラマが放映された2012年の末に竹中さんが脱退、そして鳥羽さんも2014年に脱退されたとのこと。
 そのほか、武蔵野市民やお隣の三鷹市民の方々もキャストとして出演されているようです。

 それからもう一人、忘れてはならないのがロックバーの店長……ではなく、ジャズ喫茶のマスター役のうじきつよしさん。“子供ばんど”のVo.&Gtとして人気を博し、バンドの活動休止後はバラエティ番組の司会や俳優として活躍しています。

クレジット

脚本:田口 佳宏
監督:宝来 忠昭
音楽:久住 昌之、Pick & Lips、フクムラサトシ、河野 文彦、Shake、栗木 健、戸田高弘
タイトルバック:「JIRO's Title」(作曲:久住 昌之)
松重“五郎”豊のテーマ「STAY ALONE」(作曲:久住昌之、フクムラサトシ)
撮影協力:カヤシマ、PIANO HALL SOMETIME、占いの館 月の扉、ミートショップ サトウ、ビアホール ミュンヘン、吉祥寺ダイヤ街、インドカレーキッチン パトワール、吉祥寺みんみん、若葉、武蔵野市フィルムコミッション、松江勇武、OFFICE101

【出演】
井之頭五郎:松重 豊
占い師:梅垣 義明
ミートショップ店員:藤城 まさえ
ウエイトレス:下石 奈緒美
怪しいじいさん:南波 得賢
サラリーマン1:武藤 毅
サラリーマン2:浦野 博士
バンドマン1:鳥羽 史裕(MeguMild)
バンドマン2:竹中 佑太夏(MeguMild)
バンドガール:福嶋 歩弥音
女子大生1:宮持 杏奈
女子大生2:坂口 沙由理
訳ありの男性:千田 裕
訳ありの女性:天野 日佐恵
ジャズ喫茶のマスター:うじき つよし
オープニングナレーション:柏木 厚志

今回の名言

「どうやら、メニューの森に迷い込んでしまったようだ……」
 今回のお食事前、オーダーをどうしようか迷うという、いつもと違った構成で始まる今回の冒頭、ため息交じりにつぶやいた五郎さんの一言。なかなか注文を決められない時は、これを言うといいんじゃないかと思います(適当)。
「迷ったときは、両方頼めばいいじゃないか」
 今回の金言です。迷ったときは、両方です。なんだってきっと、そう。それで解決するはずです。解決しなかったらごめんなさい。
「なんで分かったんだ……」
 約束の時間に遅れてしまった五郎さんが、差し入れにとメンチカツを渡したところでジャズ喫茶のマスターにすべて言い当てられてしまった時のぼやき。たぶん、ご本人はあまり気付いていませんが、旧知の仲であればあるほど、空腹のときの思考はバレてると思います……。
「今日の昼飯……昼ご飯何を食べればいいでしょうか」
 何でも聞いていいと占い師に言われた五郎さんが尋ねた一言。昼飯をどうするか、それを誰かに尋ねるのは五郎さんにとって神に悩みを打ち明けるのと同じ行為……だと思う……。
「これだけあれば、どれか決まるだろう」
 最新作の五郎さんからはちょっとイメージしづらい、ノープランな一言。こんなんじゃ決まるもんも決まらねえんだよ!
「一件落着だ。いいところに着地したじゃないか」
 数あるメニューからナポリタンを見つけ出したお手柄五郎さんの一言。伴 虚無蔵的に言えば慧眼ですな。
「迷ったときは、一番上のものだ」
 今回の金言その2。迷ったら一番上、一番上でいいんですよ。
「ようやく決まった……長い戦いだった……」
 長い長いランチ決めバトルを制した五郎さん、お疲れの一言。生きることとは戦うこと、そして戦うこととは今日のランチを決めることなのだ(違)。
「たっぷりソースのハンバーグは、男の子の味だよ」
 そいつ(ランチ)の前では男の子、つーんとおすましそれは(略
「これでいいんだよ、俺にはこんなランチがお似合いなんだ」
 ケチャップたっぷりのナポリタン、ソースたっぷりのハンバーグ、サラダにたっぷりかかったマヨネーズ、そして味噌汁。日本人であることを噛みしめる五郎さんの喜びの声。
「ナポリタンってのは、おかずにもなるんだよ」
 万能ナポリタン。美味しいからご飯とだって食べられちゃう。
「古き良き吉祥寺が、この店一軒に集約されているようだ」
 本日シメの一言。吉祥寺を訪ねる時はこの店を押さえておけば間違いない、そういうことです、たぶん。

本日の五郎さんのお食事

【ミートショップ サトウ】
・丸メンチカツ
【カヤシマ】
・ワクワクセット(ナポリタンとハンバーグ):どことなく懐かしい趣き そのボリュームには、みんなワクワク!
 ナポリタン:昔ながらのケチャップ味 具も、ピーマン・玉ねぎ・ベーコンの揃い踏み
 ハンバーグ:サイドメニューだから ちょっと小さめ しかし 味の方は主役級
・セットメニューの味噌汁
・追加のライス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?