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「孤独のグルメ」を観る男の魂 ~Season1 第3話 豊島区 池袋の汁なし担々麺~

 こんにちは、伊波です。ワタシ、カラクナイヨ?
 回を重ねるごとに気合がマシマシになっていないか、不安な今日この頃。ひとまず最初の峠、第3回目です。


あらすじ:なんだかテレ東の深夜ドラマっぽい

 商談のため池袋を訪れた井之頭五郎(松重豊)。駅前でティッシュ配りの男(松江勇武)に一瞬のスキを突かれて、アヤしい店のティッシュを渡される。商談で訪れたマンションギャラリーでは、どこか距離感が近い佐藤(下宮里穂子)と、厳しい上司の山田(有賀さつき)がいた。
 仕事を終えた五郎は中国の輸入雑貨店で買い物をしたり、事務所の内覧に行くが、その先々でピンクな妄想に囚われてしまうのだった――。

五郎さんと池袋

 初回、そして前回とあまり馴染みのない街を訪ねてきた五郎さんでしたが、池袋はちょっと違う様子。「どこか垢抜けなくて、ちょっと散漫な雑多さが今は悪くない」と好印象を抱いています。また、物語の中盤には「池袋に来た時、いつも行く店がある」と中国雑貨店に立ち寄っていたり、「今の事務所が少し手狭になってきたんで、池袋辺りに新しい事務所をと思ってはいるんだが…」と空き事務所を見学していることから、ちょくちょく通っていることを匂わせています。

所感1:普通のサラリーマンを描きたかったのかもしれない

 この回は珍しく(?)、五郎さんがやたらに異性を意識する場面が多い回に。貰ったポケットティッシュのチラシに入っていた“新感覚エステ”。訪問先のショールームで冷たく当たって来るベテランスタッフの山田(有賀さつき)と、今回のお客さんで、ちょいちょい距離が近い若手スタッフの佐藤(下宮里穂子)。ショールームを出た後に立ち寄った中国輸入雑貨のアンテナショップ。そして、空事務所の内覧時に繰り広げられた五郎さんの妄想。この妄想では、佐藤に対して多少の下心もあるような表情で接したり、山田の冷ややかな口調に戸惑ったりと、あまり他の回で見ない五郎さんの表情が描かれています。

 特に佐藤に対しての表情は、第1話で「守るものが増えそうで人生が重たくなる」と結婚に否定的だった五郎さんのイメージとは真逆のものです。ひょっとすると、この当時の制作陣は井之頭五郎という男を、“フリーで仕事ができるものの少しお人好し、女性に対しては奥手だが押しの強い相手にはめっぽう弱く、その気になりやすい”という、分かりやすい弱みを持った人物として描きたかったのかもしれません。こんなところにもドラマの試行錯誤が見て取れました。

所感2:汁なし担々麺、辛いよ?

 今回は早い段階で中華料理に照準を絞っていた五郎さん。迷いに迷った末、路地の方に赤い屋根が目立つ「楊」を発見。「飯屋との出会いも一期一会、これも宿命かもしれん」とつぶやき、店内に入っていきます。

 先に注文した学生3人組の様子を見ていた五郎さん、この店の名物が汁なし担々麵だと確信し、注文。すると店員の青年(飯田隆裕)は間髪入れず「辛いよ?」とポツリ。あっけにとられる五郎さんに、青年は「あなた、初めて?じゃあ、辛さ普通がいいね。(辛さを)選べるけど、あー、初めては普通がいい。普通でいい!」と食い気味に畳みかけてきます。何ともアクの強い店員さんだ(笑)。加えて、焼餃子拌三絲(バンサンスー、豆腐の皮やキュウリを使ったサラダ)も注文。ここでも青年は「あー、焼餃子ちょっと時間かかる。水餃子早い」と食い気味に勧めますが、五郎さんは初志貫徹で焼餃子をしっかりオーダー。食事になるとハートが揺るがないのな。

 先に来たのは焼餃子と拌三絲。餃子は一個一個の形が分からないほどきれいな羽根つき。これだけで合格です。タレは黒酢とラー油というのが、本格派な感じ。ひとくち食べると羽根がパリパリと音を立てます。味も濃厚なようで「ご飯が欲しくなる!」と納得の表情を浮かべ、矢継ぎ早に2個、3個と食べ進めます。続いて拌三絲、字のごとく豆腐の皮も細切りになっており、食感は麺のよう。味は良いが、食感で「しまった、汁なし担々麵とダブってしまった!」と思うあたり、食に妥協を許さない五郎さんらしさがあります。
 あ、ここで気になる点がひとつ。拌三絲を食べるシーンが、なぜか五郎さんの右肩後ろから撮影し、箸を口元に運ぶのに合わせてカメラが素早くズームインしていくという、動きを付けたカメラワークになっています。「孤独のグルメ」では、躍動的で臨場感を煽るようなカメラワークをほとんど見たことがないためか、このシーンだけ目立って見えました。うーん、モヤモヤするぅ。

 さて、いよいよメインディッシュの登場を待つばかりの五郎さんの耳に飛び込んできたのは、先ほどの学生たちの「っ゛~~~、くるね~~~」という会話。「俺はとんでもないものを頼んでしまったのか」と不安になるのも分かります。程なくして、汁なし担々麵登場。麺とタレをしっかり混ぜ込み「ま、死にやしないだろう」とひとくち。思ったほど辛さはなかったようで「美味いじゃないか」と二口、三口と食べ進めていきます。するとそこで突然、五郎さんに異変が。そう、思わずうめくほどの辛さ、そしてしびれが舌を襲います。苦悶の表情を浮かべる五郎さんの胸の内を見透かすような、青年の合いの手のようなセリフが軽妙で面白い。「四川料理は、やっぱり山椒ネ!」と得意気な表情がまた、憎たらしい(笑)。結局、辛いと言いつつ一心不乱に担々麺を掻きこんで完食します。いや、すげえわ。

今回のマニアックポイント

>>今回のズームアウト

 内覧で繰り広げた妄想から我に返った五郎さん。不動産の営業・西本(安藤亮司)が電話で同僚らしき人物と話しているのを聞き、空腹感も戻ってきました。と、ここで木琴&ズームアウト。両手を前に組み、やや棒立ちに近いスタイル。表情は今ほどではありませんが、やや三角の口形になっています。いつもはポン・ポン・ポン♪と3音ですが、この回ではポン・ポン♪と2音でした。

>>今回の珍客

 今回の冒頭、ティッシュ配りの女性をかわした五郎さんに、すかさず二の手を伸ばし、ティッシュ渡しに成功した男。ピンクのウィンドブレーカーを着たティッシュ配りの男(松江勇武)です。そのティッシュに挟まれていたチラシには「いちゃいちゃマッサージ ラブパワー」の文字を見て怪訝な顔を浮かべる五郎さんに、笑顔でサムズアップ。低い姿勢でティッシュを手渡し、そのままの姿勢で五郎さんの姿を目で追う時の表情、そして力感がなくてまあまあゲスい、何とも言えないサムズアップ時の表情が良い。そんな彼、アンテナショップで買い物をした後の公園で、さらに楊の中でもばったり出くわします。登場するシーン、全部セリフないのにいい存在感。ちなみに彼が配っていたティッシュのお店、新感覚エステだそうで、13:00~23:00まで営業しているそうです(いらない情報)。

 客ではなくスタッフですが、「楊2号店」の店員の青年(飯田隆裕)もインパクト抜群。誰が相手でもタメ口、注文取りの時は少しおせっかい、そして五郎さんが汁なし担々麵を食べている時の心情を見透かすように、タイミングよく小生意気に声をかけてくる感じ、パーフェクトです。ちなみに彼、2020年の年末特別編で奇跡の再登場を果たしていますよ!

ふらっとQUSUMI

 楊2号店にやって来た久住さん、ドラマと同じく汁なし担々麵をオーダー。するとすぐさま、お店のお母さんが辛さをどうするか確認します。「基準が分からないからね」と、辛さは普通に。そうしてメニューをパラパラと見てみると、汁なし担々麵の紹介には「はじめてのお客さんは辛さ控えめのお勧めします。さんしょの量がすごい」とあり、笑みがこぼれます。
 しばらくメニューを眺めていると、他の席で担々麵を注文する声が。やはりここでもお母さんがすかさず「辛さ調整します?食べた事ある?」と確認しており、本編でのやりとりが誇張ではなくリアルに寄せた演出であることが明らかになりました。

出演者について

 セリフ無しで大きなインパクトを残したティッシュ配りの男役の松江勇武さん。実は武蔵野映画社という制作会社の代表を務めるようです。2016年には「ひかりをあててしぼる」という邦画のプロデューサーとして名を連ねていました。

 ショールームスタッフの上司・山田役で五郎さんや佐藤に冷たく厳しく当たっていたのは有賀さつきさん。フジテレビの局アナ時代は河野景子さんや八木亜希子さんと並び、花の三人娘として一世を風靡。退職後はインテリタレントとしてクイズ番組などで活躍しました。残念ながら2018年、病気により逝去されました。

 その山田にいびられる若手スタッフの佐藤を演じた下宮里穂子さん。ウィキペディアによれば2007年デビューで、以後2013年までTV、映画、舞台と幅広く活動していたようです。所属事務所はavex⇒エイジアプロモーションとなっていますが、現在はどちらにも名前が無いので、もしかすると俳優業を引退されている可能性もありそうです。

 クセの強い中国人青年の店員役を務めた飯田隆裕さん。直近では映画「トーキョー・サンライズ」で主演を務めたほか、NHK「麒麟がくる」、新装版「東京ラブストーリー」に出演するなどテレビドラマや舞台などで活躍しています。

クレジット

脚本:田口 佳宏
監督:宝来 忠昭
音楽:久住 昌之、Pick & Lips、フクムラサトシ、河野 文彦、Shake、栗木 健、戸田高弘
タイトルバック:「JIRO's Title」(作曲:久住 昌之)
松重“五郎”豊のテーマ「STAY ALONE」(作曲:久住昌之、フクムラサトシ)
撮影協力:楊2号店、陽光産業、東京都豊島区、国土ダイユウ商事、大和ハウス工業、OFFICE101

【出演】
井之頭五郎:松重 豊
モデルルーム・山田:有賀 さつき(友情出演)
モデルルーム・佐藤:下宮 里穂子
不動産の営業・西本:安藤 亮司
中国人青年の店員:飯田 隆裕
学生1:山中 雄輔
学生2:栗原 寛孝
学生3:飯野 泰功
若いOL1:原 優理子
若いOL2:高橋 佑果
ティッシュ配りの男:松江 勇武

今回の名言

「この店の気安い本場っぽさを、俺は気に入っている」
 ショールームでの商談を終えた五郎さんが、池袋を訪れた際によく来ているという中国輸入雑貨の店で買い物をしている時のつぶやき。一人行動の多い五郎さんには、この気安さが大事なのだ。
「俺の腹は、中国のどこに行きたいんだ」
 今日は中華料理でランチだと心に決めていた五郎さんが、自問しながら店を探す一コマでのつぶやき。単に中華料理なら何でもいい、という事にはならないのが五郎さんのこだわり。
「飯屋との出会いも一期一会。これも宿命かもしれん」
 本日の隠れキーワード「一期一会」。馴染みの店に毎回通い続けるのではなく、常に新しい場所を追い求める五郎さんの生きざまを言い表した一言だとも言えます。
「辛いよ?」
 先客の学生3人組が汁なし担々麵を注文した際、中国人青年の店員がちょびっとだけ溜めて放った必殺の一言。この後、五郎さんにも、後から来たOL2人組の客にも同じトーンでキメます。
「お、美味い。ご飯が欲しくなる」
 羽根つき餃子をひとくち食べた直後、五郎さんが漏らした初発の感想。ご飯を求めるのは最大の賛辞なのだ。
「辛いねぇ」
「水じゃないみたいでしょ」
「四川料理は、やっぱり山椒ネ」

 汁なし担々麵の辛さにヤラれた五郎さんのハートを見透かすように放たれる青年店員の言葉。テンポよく投げかけられるのが何とも心地よい。
「山椒でハイになっているのか」
 類義語:ランナーズハイ。
「しょっちゅう来れないよ、いい?」
 「楊2号店」を去ろうとする際に五郎さんが言い残していった一言。ぶっきらぼうに言う感じがよい。

本日の五郎さんのお食事

【中国雑貨店で買ったもの】
・ココナッツミルクジュース(正宗 椰树牌)
【楊2号店】
・焼餃子:餡はもちろん、羽までおいしい丸餃子 崩すのがもったいない
・黒酢(鎮江香酢)&自家製ラー油(焼餃子のタレとして使用)
・拌三絲(バンサンスー):スッキリとした酸味と 豆腐とは思えぬ歯ごたえが嬉しい
・汁なし担々麵:食べたら最後!! 一気に四川の「麻」が全身を駆け巡る

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