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「孤独のグルメ」を観る男の魂 ~Season1 第6話 中野区 鷺宮のロースにんにく焼~

 こんにちは、伊波です。
 先に言ってしまうのはアレですが、お客さん同士で会話ができるお店っていいですよね。そういう店、好きです。今回、五郎さんが入ったお店はそんな一期一会の出会いも楽しい場所です。


あらすじ:馬を水辺に。

 商談のため、そして20年来の旧友・吉野(田中要次)に久しぶりに会うため中野区鷺宮にやって来た井之頭五郎(松重豊)。その道中、すれ違った主婦が言っていた「馬を水辺に連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできない」という言葉が妙に引っ掛かる。
 商談を終え、吉野の店を訪ねた五郎。そこに居た吉野は、かつてしのぎを削っていた頃とはまるで異なる姿になっていたのだった。

五郎さんと鷺宮

 改装する店舗のコーディネート、そして旧友と再会するという2つのミッションを抱えてやって来た鷺宮。ただし、今回の物語の中心が旧友・吉野とのエピソードであることから、鷺宮との繋がりはほとんど描かれていません。

所感1:背中を貸してくれ

 言わずもがな、今回のキーワードはすれ違った二人組の主婦が話題にしていた「結局、馬を水辺に連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできないってことなのよね」という言葉。一聴しただけでは意味をとらえづらいこのフレーズが、今回の伏線になります。

 最初の商談相手である美容室オーナー(猫田直)は、「私たち(美容師)、お客様の髪のケアはできるんですが、疲れてる心のケアまではして差し上げられないでしょ? ですから、せめて何か気の休まるものをと思って……」という思いを、新店舗の内装に反映したいとのこと。
 しかし具体的なイメージを尋ねてみると、「パリに私(オーナー)のクリエイティブイメージを足して、現代的イメージをちょっと加えて愛で割り、私(オーナー)の世界観と掛け算する」という、無茶ぶりもいいとこの無理難題。最初に言ってた、客の癒しはどこに行ったんだ。
 思考停止に陥った五郎さん、足早に次の目的地に向かいますが、吉野のショップへ向かう道中で見つけた和菓子屋にて栗大福を堪能し、「さっきの美容院の事は、忘れてしまおう」と、気持ちのリセットに成功。やりましたねぇ。しかしイートインスペースでもなさそうな場所でおっさんが大福を食べる姿は何ともシュールです。
 そして、このシーンで現れた、別の女性客(みたらし団子5本をオーダー)はどなたなのかしら。スタッフロールにそれらしき名前が出てこないのですよ。セリフもあったのに。

 そして辿り着いた店では、ばっちり女装した吉野の姿が。思わず五郎さんも「そうなったか……」と漏らしてしまいます。
 旧友の訪問に喜び、まじまじと見つめられて照れ笑い、そしてとんでもない一言に口をとがらせて怒ったりと、千変万化の吉野の表情はたぶん今回のハイライトかもしれません。
 かつて五郎さんを叱咤し、審美眼を磨くために「恋をしろ」と熱弁を振るった吉野は、「もう、世界中の綺麗なもの、探せないの。私にはもう無理」と語り、絞り出すように「人を愛することはできるけど、子どもを産むことはできないの」と漏らします。この辺りの引き込み方、さすがは田中要次さんと言ったところです。

所感2:とんかつ屋の看板のブタは大体笑顔

 店を探していた五郎さん、道中でふと「とんかつ みやこや」と書かれた赤いテント看板を見つけ、「久しぶりにドスンと入れていくか」と入っていきます。
 お店は電飾の看板も出しているのですが、そこに描かれた豚のキャラクターは、めっちゃ笑顔。なぜ彼らは、食べられてしまうであろう未来を知りつつも笑顔なのでしょうか。ま、いっか。

 店に入ると、カウンターには男の先客が4人。どうやら常連客のようで、五郎さんが入ってくるなり「お、一見さんか?」といった目で見てきます。お店の常連になっちゃうとついやってしまうこの行動、改めて客観的に見ると印象良くない感じで、反省せずにはいられません(個人の感想です)。
 隣席の客(酒井靖史)のもとにチキンかつ定食が運ばれてくるのを見て、少し揺さぶられた五郎さん。「迷ったときは両方だ」とミックスかつ定食をオーダー。ミックスかつとか、ミックスフライとか頼むと、一品一品が小さくなるような気がしてしまうので、五郎さんすごいなと思います(個人の感想です)。
 改めて店内を見てみると、とんかつ屋というにはバリエーション豊かなメニューが並んでいます(「こまい」とあるのはスケトウダラの一夜干しでしょうか?ほかにも「菜の花の辛子和え」「焼魚 サンマ定食」など豚以外も豊富です)。店のマスター(野添義弘)曰く「お客さんの要望でね。全部ってわけじゃないけど。まあ、毎日来てくれるお客さんがとんかつだけじゃかわいそうでしょ? たまには魚なんかも食べさせたいなぁなんて思ってたらさ、こんな増えちゃった」とのこと。いいお店ぢゃないか。

 さて、ほどなくしてやってきたミックスかつ定食。皿の面積を効率よく使うため、チキンカツの上にヒレカツを載せるという盛り付けに。それを五郎さんは「二階建てか」と表現します。バスかよ。
 塩かソースか、ちょっと考えた末にソースを選び、まんべんなくかけていきます。小さな柄杓を使ってソースをかけるとんかつ屋のスタイル、いいですよねぇ。
 ヒレカツを食べ、チキンカツを食べ、ご飯を食べ、と舌鼓を打つ五郎さん。さらに彼のハートを鷲掴みにしたのは、付け合わせのマカロニサラダでした。「見るからに手作りだ。それを手作りと書いてないのが良い。うん、凝りすぎていない手作り感がちょうどいい。こういうのが嬉しいんだよ」と大絶賛です。ヒレカツ18秒、チキンカツ13秒、ご飯10秒に対し、マカロニサラダ26秒という時間配分からも、その絶賛具合が見て取れます。

 その後、“必殺・隣のオーダーかぶせ”発動でロースにんにく焼をオーダー。ご飯のおかわりを頼み、五郎さんは臨戦態勢バッチリ。一切れをご飯に乗せ、一緒にパクリと口に放り込むと、その美味しさに思わず笑みがこぼれます。「辛い! いや、甘い! 甘辛だ!」と、一口食べ進めるごとにどんどん表情が緩み、勢いよく食べていく姿に、他のお客さんも笑顔。あっという間に五郎さんも、みやこやさん家の一員になりました。

 最後まで常連客たちに声をかけられながら店を出た五郎さん。ふと、吉野が最後に漏らした言葉を思い出し、「飲めなくたって、産めなくたって、いいじゃないか、鷺宮。フッ」と言い残し、帰路に就くのでした。美味いメシのように、万人を受け入れる五郎スタイル、かっこいい。

今回のマニアックポイント

>>今回のズームアウト

 様々な思いを抱きつつ吉野の店を出た五郎さん。「吉野。お前はお前の人生を自由に生きてくれ。俺は俺の……」とつぶやいていたところで、急激な空腹感を覚え、ズームアウト。正面ではなく、左斜め60度くらいの角度から棒立ちの五郎さんをとらえたショットでした。

>>今回の珍客

 お店の先客には、明るいうちから肉豆腐で一杯やってるおじさん(山下ケイジ)、その隣でプロレス雑誌を広げながら談笑している青年(野々宮楓)、その二人とも顔なじみ風の青年(酒井靖史)と、その友達(今井田康之)。友達以外は店の常連客で、交わされるやりとりも打ち解けた感じでいい雰囲気。こういうお客さんがいると、お店にいるのも楽しいですよね。
 ちなみにそれぞれの役を演じた方々を調べてみると、山下ケイジさんは曰く「50歳を超えてから、役者を目指して頑張ってます」という、サムライプロモーション所属の役者さん。野々宮楓さんはトムランドという役者団体で活動する役者さん。酒井靖史さんはコサックダンサー(!)やスタントアクターとしても活躍する役者さんで、オリオンズベルトという事務所所属とのこと。今井田康之さんは、かつて極RAKU蝶というグループで活動していたようですが、現在の活動は不明です。

ふらっとQUSUMI

 本日も入店前から久住さんのコーナーがスタート。看板のイラスト、そして「冷暖房完備の豚舎で育てたおいしい安全な豚肉」という垂れ幕のキャッチコピーを見つけるところはさすがの観察力。
 実際のお店も、ドラマさながらにマスターと奥様の人の良さがにじみ出る雰囲気。素朴な感じのマカロニサラダ、良し!
 久住さんはロースにんにく焼、そしてロースかつ定食とロース攻め。「食欲がもう、モリモリわくわ!」と絶賛のロースにんにく焼、そして「こんなに大きいのは久しぶりですね~」と言わしめたロースかつ、どちらもいかにもご飯が進む逸品。夜中でも食欲をそそる!

出演者について

 田中要次さんは、今回の出演では五郎さんの元商売仲間で、現在はリサイクルショップを経営するオネエの吉野という、かなりアクの強い役を務めています。元号が平成に変わったあたりから俳優活動をスタート、2001年に出演した「HERO」でのバーテンダー役が話題になりました。今やドラマや映画に引っ張りだこで、春夏秋冬いつも何かしら出演しているようなイメージです。最近の話題作では、秋元康氏企画・原案のミステリードラマ「あなたの番です」にレギュラー出演していました。

 改装する店舗のインテリアを五郎さんに依頼していた美容師役は、猫田直さん。劇団出身で、映画「ハッピーフライト」や「ステキな金縛り」、NHK朝ドラの「ちゅらさん」や「半分、青い。」などにも出演歴があります。しかし近年は目立った活動が無く、Wikipediaに掲載されていた所属事務所にも名前なし。近況が気になるところです。

 そして、「毎日来てくれるお客さんが、とんかつだけじゃかわいそうでしょ? たまには魚なんかも食べさせたいなぁなんて思ってたらさ、こんなに増えちゃって」と人の良さをにじみ出していた、みやこや・マスター役は野添義弘さん。彼もまた多くのドラマで活躍する名脇役。「孤独のグルメ」と並ぶ“町グルメ”ドラマのヒット作「ワカコ酒」の大将役で覚えている方も多いかと思います。

クレジット

脚本:板坂 尚
監督:溝口 憲司
音楽:久住 昌之、Pick & Lips、フクムラサトシ、河野 文彦、Shake、栗木 健、戸田高弘
タイトルバック:「JIRO's Title」(作曲:久住 昌之)
松重“五郎”豊のテーマ「STAY ALONE」(作曲:久住昌之、フクムラサトシ)
撮影協力:とんかつ みやこや、メアリーローズ、Salon de Shinon、大和屋、鷺宮商明会、白鷺不動産、田丸不動産、OFFICE101

【出演】
井之頭五郎:松重 豊
リサイクルショップ店長・吉野:田中 要次
美容室オーナー:猫田 直
和菓子屋の女将:桜井 淳美
主婦A:盛田 瑠々子
主婦B:梨田いづみ
みやこや・女将さん:妃宮 麗子
常連客・A:山下 ケイジ
常連客・B:野々宮 楓
常連客・C:酒井 靖史
常連客・Cの友達:今井田 康之
みやこや・マスター:野添 義弘
オープニングナレーション:柏木 厚志

今回の名言

「もっと審美眼を磨け!」
 冒頭の回想にて、吉野が五郎さんを叱咤する時にかけた一言。「あの男がいなければ、今の俺はこの世界にいなかったのかもしれない」というほど、五郎さんに影響を与えた人物であることを示すシーン。
「結局、馬を水辺に連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできないってことなのよね」
 五郎さんとすれ違った主婦二人連れのうちの一人(盛田瑠々子)が話していたことわざ。もう一人の主婦には「知らない」と言われ、五郎さんも独特の語感こそ気になれど、この時はあまり意味を掴めていなかった様子。聞いたことないことわざだなと思ったら、イギリスのことわざ「You may lead a horse to the water, but you can't make him drink」の和訳なのだそうな。「馬が水を飲むかどうかは馬次第なので、人は他人に対して機会を与えることはできるが、それを実行するかどうかは本人のやる気次第である」という意味。さっそく明日から使ってみよう!
「お客様の髪のケアはできるんですが、疲れている心のケアまではして差し上げられないでしょ?」
 本日の商談相手である美容師さん(猫田直)が投げかけた一言。先ほどのことわざと近しい語感が、五郎さんには気になった様子。しかしこの後、美容師さんに結構な無理難題を吹っ掛けられてしまうのでした。
「さっきの美容院のことは、忘れてしまおう」
 美容院を出た後に立ち寄った和菓子屋でのつぶやき。美味いものが食えたら、些細なこと、多少の無理難題は忘れられるのだ。
「でもおかしいわよね、リサイクルショップやってる当の本人が、男から女に生まれ変わった、リサイクル品だなんてね!ィヤー!やだもう!……でも、幸せよ」
 この2、3年で生まれ変わったという吉野渾身のオネエジョーク。ものすごく口をとがらせてみたり、めいっぱいに照れてみたり、数秒の間に吉野のかわいらしさが溢れまくっています。
「五郎、恋をしろ」
 回想シーンで吉野が五郎さんに授けたアドバイス。曰く、惚れ抜いた相手のために自分の力でモノを集めることが輸入雑貨の仕入れにも繋がるのだとか。この時に五郎さんは吉野にも恋をしているか聞くのですが、「俺はいいよォ~」と返した吉野の心中やいかに。というか五郎さん、ミックスナッツ食べすぎじゃないか。
「私は、私はね、人を愛することはできるけど、子どもを産むことはできないの」
 別れ際に吉野が漏らした本日のキーフレーズ。くだんの馬のことわざに近い言い回しではあるものの、こちらは何とも望みのないニュアンスが強くなっています。
「上がヒレカツ、下がチキンカツ……二階建てか」
 カツを何かのお屋敷みたいに言いなさんなって。
「うん、確かにチキンだ。豚とは世界が違う」
 ヒレカツを一切れ食べてからのチキンカツを味わった五郎さん会心のつぶやき。味や歯ざわり、その他もろもろの違いを指して「世界が違う」と表現するのがセンス。
「おかずがいいとご飯も美味い」
 結局ね、美味いおかずが揃えば揃うほど、ご飯の美味しさに戻るのよ。そういうことなのよ。
「うん、凝りすぎてない手作り感がちょうどいい。こういうのが嬉しいんだよ」
 庶民派五郎さん、ここにあり。手作り感も主張しすぎると、食べる方も身構えてしまうのよ。この、さり気なさのバランスが難しい。
「あ、すいません、ご飯のおかわりを」
 ロースにんにく焼に臨む寸前の五郎さんなりのナイスリカバー。結局今回も定食2つ分同等の量をたいらげる五郎さんなのだ。
「いいぞいいぞ、にんにくいいぞ!白いご飯に合いすぎる」
 結局ね、美味いおかずが揃えば揃うほど、ご飯の美味しさに戻るのよ。そういうことなのよ。ね。
「飲めなくたって、産めなくたっていいじゃないか、鷺宮」
 本日シメのお言葉。できないことがあったとしても、本人の気持ち次第でどうにでもなる、といったところでしょうか。鷺宮。

本日の五郎さんのお食事

【大和屋】
・栗大福(2個セット):甘く煮た栗が入った もっちり大福 白餡と黒餡がある
【とんかつ みやこや】
・ミックスかつ定食(ごはん、みそ汁、チキンカツ、ヒレカツ、キャベツ、マカロニサラダ、漬物):鶏か豚…迷ったときはコレ どちらも歯ざわりサックリ、中はジューシー
・ロースにんにく焼(付け合わせにキャベツとマカロニサラダ):ニンニクがガツンと効いている ご飯に良し、ビールのつまみにも良し
・ご飯おかわり

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