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四辻御堂物語~水龍の巫女と妖狐の罠~(修行①)(試読あり)

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以下本文


 あの後、高田にメッセージを送って、高田が宮路のことを「氷の渚」と呼ぶ理由を聞いた。聞いたけど、はっきりとは教えてもらえなかった。質問とは関係のないメッセージが矢継ぎ早に来るせいで、聞きたいことの1割も聞けなかったように思う。
 今年初めて同じクラスになったから、宮路のことはよくは知らない。小学生の頃、母親が行方不明になったっていうのは篠崎たちの言動からわかった。

「崎本てめぇ! 昨日嘘吐いただろ!」

 次の日、登校すると待ってましたと言わんばかりの勢いで篠崎の取り巻きたちが詰め寄ってきた。その中に篠崎が居ないのが気になる。

「てめぇのせいで恥かいたじゃねぇか」
「どうしてくれんの!? 呼ばれてもいないのに職員室に行ったせいでうちら服のこととかツッチーに怒られたんだけど! マジ最悪」

 ツッチーというのは担任の土井どい先生のことだ。基本女子には甘い。しかし最近のこいつらの態度は流石に目に余るらしく、ちょくちょく注意しているが、完全に舐められている。若くて少しばかりカッコイイというのが完全にあだとなっているのが明白だ。
女子からも保護者(特に母親)からも人気ではあるが、先生としての力量は頼りない。男子生徒たちからは距離を置かれている。

「知らねぇよ。怒られるような格好をすんのがわりぃんだろうが」
「何それ、うざ」
「自分がモテないからって僻んでんの?」
「俺は今受験一筋だから女なんて関係ねぇよ」
「うっわ。こいつあれじゃね? オタク」
「絶対そう。超キモい!」

 思わず大きなため息が出る。こんな低レベルな奴らを毎日相手にして、宮路は本当によく平気でいるよな。いや、平気じゃないから昨日はキレたのか。

「あんたたち! 今日は崎本君にちょっかい掛けてるわけ!?」

 高田が怒鳴り込みながら教室に入ってきた。そうか、いつも高田がこうして先にキレるから宮路は冷静でいられるのかもしれない。
 スーッと込み上がってきていたイライラやら何やらが引いていく。高田はこうやって宮路のメンタルを守ってきたのか。

「ていうか、今日は女王様が居ないじゃない」
「いや、佳乃が女王様なら逆らうんじゃねぇよ。馬鹿なの?」
「馬鹿はそっちでしょ? あんたらにとって女王様でも、私らにとってはただのうるさい女でしかないから。尊敬できない奴に従うわけないじゃん」
「は? うちらだって従ってるわけじゃないし。佳乃はダチだし」
「はいはい。そのダチは今日学校来てないですけどどうしたんですか~?」
「風邪で休みだよ! てめぇマジで学級委員だからって調子乗んじゃねぇぞ!」
「はーい。調子乗っちゃいけないのは君たちの方だよ~。ここは学校。またそんな格好して。昨日言っただろう」
「あ、ツッチー。おはざーっす!」
「『土井先生』です。あと『おはようございます』な。スカートを直して席に着きなさい。朝の会始めるぞー」

 今日も高田はキレッキレだ。多分、口喧嘩で高田に勝てる奴はいないだろう。頼りない土井先生も入ってきて、とりあえずこの場は収まった。小声で高田に、「悪いな」と言ったら、高田も小さな声で、「いいのよ」と返してきた。
 頼もしい友人を持つ宮路は、それから金曜日まで一度も登校してこなかった。篠崎の取り巻きたちもすっかり大人しくなった。

「そういえば、あいつも暫く休んでるよな?」
「なになに。もしかして実は2人仲良くて、どっかに家出したとか?」

 宮路も篠崎もなんだかんだ一度も休んだことが無い2人だったから、クラスメイトたちはくだらない憶測を面白おかしく話す。それを聞く度に高田が全力で否定していく。
 どうやら高田も宮路には会えていないようだ。日に日にイライラが募っていっているようにも見えた。送られてくるメッセージからは、少し異常に見えるほどに宮路を心配する気持ちが伝わってくる。ただメッセージを連投されると返事を書くのが面倒臭い。

『大丈夫だろ。宮路のことだ、すぐ良くなるさ。明日、俺も一緒に見舞いに行くよ』

 それだけ送って携帯を放って寝ることにした。明日、宮路の家に行けば何かわかるかな。


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