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(小説5分読書)四辻御堂物語~水龍の巫女と妖狐の罠~(宿命②)

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 新幹線を降りてからも電車とバスで移動した。もう景色には背の高いビルもお洒落なガラス張りのお店も無く、代わりに空へ高々と手を伸ばす木々とキラキラと揺れる稲を抱えた広大な田んぼが広がっている。気づけばもうお昼の時間だ。
 スオウとはあれからほとんど話さなかった。スオウが寝てしまったというのもあるけれど、なんとなく声をかけにくかった。ここで降りるよとか、寝ないなら一本木って駅に着いたら起こしてとか、そんな簡単なやり取りだけ。
 私も眠れたら良かったんだけど、変に気持ちが昂って全く眠れなかった。まだ、ドキドキしている。
 バスの終着点まで乗って、そこからまたしばらく歩いた。朝ご飯もお昼も食べ損ねているからか、少し足が重い。スオウはそんなことお構い無しというようにスタスタと歩いている。アヤカシはそういうところも人間とは違うんだろうか。

「大丈夫か?顔色が悪いな」

 ようやっと気にかけてくれたのは、私がゼェゼェと言わせながら登る山道の途中で動けなくなってからだった。

「だって、朝から何も食べてないのに、こんな山道歩くなんて聞いてない……!」
「そうだった。人間はしっかり食わないと体調を崩すんだった。そういうことは先に言ってくれなきゃあ」
「だって、こんなに歩くとは、思わなかったんだもん」

 肩で息をして、私は道の途中で座り込む。体力には自信があると言っても、流石に辛い。

「もう少しで着くから。もうちょっと頑張れ。あとほんの5分程登ったところだから」

 それを聞いて心底安心した。フラフラする足になんとか力を入れて立ち上がる。駅で買ったお茶を飲み干して歩き出す。
 これで歓迎されなかったらどうしようと一抹の不安を抱えながらも、建物が見えた時には涙が出そうになった。想像していた家よりも立派な、とてつもなく大きなお屋敷だった。あちらこちらに木で作られた龍のレリーフが施されている。思わず見惚れてしまった。

「ごめんくだせぇ。遣いを送った者でさぁ」

 スオウが門の前で声をかけると、ガシャガシャンと金属音がして、重々しく門が開いた。人型になったクロ君と目が合う。その隣には着物姿の女性が立っていた。歳は取っていそうだけれど、しゃんとした立ち姿と力強い目には迫力が篭っている。思わず自分の背中も伸びる。

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