見にくいあしたの子3

北野りんご🍎

りんごは悩んでいた。自分の価値がない。1円にもならない。死んでしまえ。なんで生まれてきた?誕生を祝福してくれた人もいた。でも、今になっては何の価値もない。生きることを諦めた時、人死ぬんだ。それに気がついた。

就寝前の眠剤トリアゾラムを飲むと、なぜか目が冴える。ペンが走る。闇を走る旅が始まる。そこは南南病院の診察室だった。ドクターが1メートル先に座っている。何も語らない。りんごは質問をまった。

どうですか?ドクターが口を開いた。りんごは答えた。ドクターに不満があります。僕を質問攻めにしてほしい。何でも答えるから。それが僕の心の安定になります。お願いします。

ただ話を聞いてくれるのは、命の電話のお姉さんだった。ドクターには診断をしてほしい。質問をしてほしい。ただ聞くだけでは悲しい。だから腹が立ってるんだ。その腹立たしさを母親に向けたかった。しかし母親はもう時効だ。りんごはいい子で育った。反抗期っぽい反抗期がなかった。今になって当たり散らしている。それがしんどいと言ったのがゆめちゃんだった。いびつな成長。それがりんごだった。

表面化しなかった。家庭内での犠牲者。統合失調症を発症したのには訳があった。現場に戻りたい。しかし57年が経って残っているのは記憶だけ。そう記憶の中を旅するのさ。

doctor?私が被害者だって心理はなんですか?被害心理学。

この世の中は正しい。普通そう考えてしまう。被害を被った人はそれなりに何か悪いこともしている。そういう考え方。

こ難しい事は考えない。そう逃げるとそこで終わり。さようなら。

公正世界仮説。心理学。心理学とは人の心に物差しを置く。そして測る。数々の実験を行う。

努力すれば報われる。同じ意味となるのは、努力しなければ報われない。

努力とは、自分を信じること。自分を信じなかった。だから報われない。自分を信じても報われない人はいる。

被害者は、いじめても良い。それが認められるのが、公正世界仮説。強く信じるといじめる。いじめていい。セカンドレイプ。加害者と被害者を同じレベルに考える。被害者には被害を受ける理由がある。なんて、理不尽な。

りんごが統合失調症になったのは、努力したわけでも努力しなかったわけではない。誰かがいじめられていいわけでもない。りんごに悪があったわけでもない。合理的世界は公正であると考えること自体おかしい。

不幸はこの世にある。

その不幸に同情すること。この生き方に間違いはない。そう思う。

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