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原作・山田鐘人/作画・アベツカサ『葬送のフリーレン』

☆mediopos-2318  2021.3.22

『葬送のフリーレン』は
よくあるストーリーとは異なり
勇者の一行が魔王を倒したあと
王都に凱旋したところからはじまる
そしてエルフの魔法使いフリーレンを中心に
その後の旅が描かれている

一行は
人間の勇者と僧侶
人間より長命なドワーフ
そしてそれよりもはるかに
長い命を生きているけれど
見かけは小さな女の子のままのエルフ
その4人

凱旋してから50年ほど経って
一行は再会することになるのだが
人間の二人はほどなくその生を終えることになる

すでに千年を生きている
エルフのフリーレンにとって
人間にとっての数十年は
きわめて短い時間に過ぎないのだが・・・

フリーレンはかつての同行者2人の死を前に
同行者のことを知ろうとしていなかったことに
困惑しはじめたのだろう
その後あらたな仲間とかつての道をゆく旅に出る
おそらくは「人間」のことを知るために

引用にあるシーンの台詞は
フリーレンの師匠・大魔法使いフランメと
かつて交わされた魔族をめぐる会話である
興味深いところだ

フリーレンは師匠から
魔力制御の方法を伝授される
魔力を制御するのは
魔力を行使するよりも困難なのだ
魔族と戦うにもその力がもっとも重要になる
魔族は力こそすべてという存在だが
そこにこそ陥穽があるからだ

己の力を驕るものは
その力ゆえにみずからを滅ぼす
それは力だけではなく
知や財や血といったものも同様だろう

みずからの力を制御して隠し
ほんとうに必要な力しか
使わないでいることは思いの外むずかしい
むしろ実際の力よりも
大きく見せようとすることのほうが易しいからだ
そうすることで相手を支配しようとする

「能ある鷹は爪を隠す」の真逆の発想だ
承認欲求や自己顕示欲なども同様な自我の性だ
その力をいかに制御するか
それをこそ超えなければならない

さて『葬送のフリーレン』には
「人間とは何か」という問いが見いだせる

人間よりはるかに長い時間を生きるエルフが
短い人間の時間とともに旅をつづけるのだが
そのエルフの旅はわたしたちが
「人間とは何か」を見つける旅とも重なる

ある意味で私たち人間は
あまりにも人間未満の存在でまだ人間に成れていない
人間のことをあまりに知らないで人間未満を生きている
だから人間はほんとうの人間に成るために
さまざまな経験をしてゆかなければならない

そんなことを考えさせる
『葬送のフリーレン』の旅はまだ第4巻
ちょうど先日「マンガ大賞」を授賞したばかり
今後にも期待したい

■原作・山田鐘人/作画・アベツカサ『葬送のフリーレン(1〜4)』(少年サンデーコミックス 小学館 2020.8〜2021.3)

「師匠 魔族ってずる賢いんだよね。
 なんで師匠みたいに常に魔力を
 制限したりしないんだろう。

 できねぇのさ。
 魔族は個人主義の世界といっても、
 人類と戦うための
 最低限の組織的な
 繋がりを持っている。
 組織に必要な物って
 なんだと思う?

 秩序かな。

 そうだ。
 要は組織をまとめる
 偉い奴が必要ってことだ。

 人の場合は、
 例えば、
 この国の連中は
 地位や財産で
 偉い奴が決まる。
 あの宮殿から出てきた
 身なりのいいのが
 偉い奴だ。
 人の偉さはわかりづらい。
 だからああやって着飾って
 見た目でわかるようにするんだ。

 魔族は違うの?

 魔族は自分達が
 魔物だった頃と
 何も変わっていない。
 強い奴が偉いんだ。
 人よりずっと
 わかりやすい。
 強さってのは
 見ればわかる。

 魔力だね。

 奴らにとっての魔力は
 人にとっての地位や財産だ。
 尊厳そのものと
 言ってもいい。
 隠密の手段として
 一時的に魔力を制限する
 ことはあっても、
 常日頃から魔力を
 制限する馬鹿なんて
 存在しない。

 どこぞの帰属が
 お忍びで城下町に
 降りてくるのと、
 地位も財産も捨てて
 身を落とすのじゃ
 まったく違う話だろ。

 そして、
 魔力の低い連中に
 尊厳が与えられるほど
 魔族の世界は
 甘くない。
 だから、力の強い魔族ほど
 必死に魔力を誇示するんだ。
 奴らにとっては
 常に魔力を制限する
 メリットなんて皆無だし、
 そもそも
 そんな発想すらない。

 哀れだよな。
 人が地位や財産に
 縛られるように
 魔族は魔力に
 縛られている。
 魔族は魔法を誇りに思い
 誰よりも魔法が好きなのに、
 己の魔力すら自由にできない。
 フリーレン、
 魔族じゃなくて
 良かったな。

 そうだね。
 お陰で魔族を
 欺ける。」

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