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ボリス・シリュルニク「レリジエンスを生む新しい価値観」

☆mediopos-2335  2021.4.8

何からでも
学ぶことができるが
何からでも
学ぶことの
反対をすることもできる

フランスの精神科医ボリス・シリュルニクが
探ってきた「レリジエンス」という
「逆境にへこたれずに生活・成功・成長する力」は
その「何からでも学ぶことができる」ということだ

ここでもシリュルニクは
新型コロナウイルスについても
それに対する「レリジエンス」を探っている
それは「新しい生き方」へと
人類を方向づけるのではないかと

シリュルニクは「人間に備わる永遠の二面性」
についてもここで語っているが
「トラウマが生ずるような局面では、
人間はつねに相反する反応を示」すという
新型コロナウイルスにおいても同様である

これは逆境と順境の際に
「相反する反応を示」すことでもある

逆境や順境において
それぞれに「何からでも学」ぼうとするか
そこからなにも学ばず
影響をマイナスに受けてしまうかである

言うは易いが実際のところ
逆境や順境のなかにあるとき
ひとはなかなかきれいごとでは生きられず
仮面は剥がれやすくなり
そのひと本来の魂の傾向が出てしまうところがある
まさにそうした状況にあるときにこそ
「学ぶこと」と「学ばないこと」が両極に分かれてしまう

さて現在進行中の
新型コロナウイルスという現象に対して
ひとはどのような態度をとっていくだろうか
その現象を活かしながら新たな価値観を生み出すか
その現象によって混乱と破壊を生むか

それらのドラマがいままさに
目の前で展開されはじめているが
それはまさに得がたい経験になろうとしている

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■ボリス・シリュルニク「レリジエンスを生む新しい価値観」
 (『新しい世界/世界の賢人16人が語る未来』講談社現代新書 2021.1 所収)

「世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス。EU各国は次々にロックダウン(都市封鎖)措置を取っている。
 ユダヤ人一斉検挙をからくも逃れたサバイバーでもある、フランスの有名な精神科医ボリス・シリュルニクは、これまでもレリジエンス、すなわち「逆境にへこたれずに生活・成功・成長する力」について探ってきた。そんな彼が、今回の疫病流行が人びとの心、そして社会に与える影響を分析した。」

「ーーーーロックダウンが心の不調につながるのは神経学的にはどのような理由があるのですか。
シリュルニク/感覚遮断が原因です。精神医学では外界から切り離されたときの影響がよく知られています。動物も人間も、環境からの刺激がなくなったり、自分から環境へ働きかけられなくなったりすると、不安障害が出るほか、ときには幻覚や錯乱も起きます。」
「ーーーー感覚遮断とは孤独のことですか。
シリュルニク/感覚遮断は孤独とはまったく関係がありません。孤独はむしろありがたいものだったりします。社交のストレスから私たちを恢復させてくれますからね。社会での生活は、行ってみれば全力疾走の連続です。それにうんざりしたとき、孤独になれば、私たちは、ゆっくりとした時間の流れ、静けさ、安らぎの味わい方を思い出します。贅沢な経験です。
 私も数日前から、風のささやきや、葉のざわめき、鳥の鳴き声が耳に入るようになりました。このような孤独は恵み深い休息です。」

「これまでの著作でレリジエンスという「逆境にへこたれずに生活・成功・成長する力」とは何かを探られてきましたね。レリジエンスという概念は、新型コロナウイルスという疫病の流行にも応用できますか。
シリュルニク/私たちが心に負うトラウマのすべてと同じように、今回の疫病流行も、適応をうながします。人類はこの地上で暮らすようになってから、何度も細菌やウイルスに感染し、それがいまの人類を形作ってきたのです。」

「ーーーー今回の疫病流行は社会をどう変えていきますか。
シリュルニク/新しい価値観が育つはずです。私自身は、この全力疾走の連続のような生活が終わり、社会がもっとゆっくりとしたものになるのがいいと考えています。どうしてこれほどまでスピードにこだわるのでしょうか。どうしてこれほどの数の機械が必要なのでしょうか。」
「ーーーーさきほど機械の数が多すぎると指摘されていましたが、それはどういう意味ですか。
シリュルニク/デジタル機器によってコミュニケーションの能力は格段に上がりましたが、人や物との関係が変質してしまいました。昔、私は何か調べ物をするときは書斎の本棚の本に目を通していましたが、いまはグーグルで検索するだけです。検索の性能は素晴らしいですが、ここには「関係」といえるものがありません。
 私はフランスの子供の最初の3年間を準備する「最初の1000日」委員会の議長を務めており、近々報告する予定です。その報告書では、スクリーンの有害性を強調するつもりです。子供の年齢が低ければ低いほど、害が大きくなります。脳に影響が現れ、言語の習得水準が下がり、他者との関係で発達の遅れが出てきます。」

「ーーーー新型コロナウイルスのトラウマは人類と環境の関係を変えるのでしょうか。
シリュルニク/変わると思います。中国では大気汚染が劇的に改善しました。フランスでも大気汚染の改善は始まっています。この単純な事実が、地球温暖化も、環境破壊も対処できるものなのだと示しています。新型コロナウイルスによって実験操作ができたようなものです。消費と生産のペースを調節すればいいのなら、なぜわざわざ病気になる必要があるでしょうか。」

「ーーーーロックダウン中に連帯心を発揮して行動する人もいれば、常軌を逸した行動をする人もいます。これはどうお考えですか。
シリュルニク/これは人間に備わる永遠の二面性ですね。トラウマが生ずるような局面では、人間はつねに相反する反応を示します。一人の人間のなかにも、連帯しようと反応することもあれば、同時にエゴイストというか、他人を食い物にしようとする反応が出てきたりします。」

「ーーーー危機後は楽観視していますか。
シリュルニク/いま私たちは惨事の真っ只中にいます。ですが私は楽観視しています。惨事の後、私たちは必ず適応し、新しい生き方を探ることになるからです。」

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