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YouTube著作権の虚偽申請は”虚偽”なのか?

こんにちは!エンターテック・アクセラレーターです。
メディア、レコード会社を経て、エンタテインメント x テクノロジーの盛り上げを”加速させる”仕事をしています。

7/27にYahoo!ニュースに掲載されたこちらの記事が目に留まり、Twitterでシェアしたところ反響がありました。

J-CASTニュースの取材に応えたのは、VTuberとして活動する「朝ノ瑠璃」さん。6月19日、投稿したMV(ミュージックビデオ)に著作権の権利団体を名乗る団体から申請が入り、不正に収益が流れているという被害に遭った旨のツイートをしていた。

Twitter投稿でも書いたとおり、起こっている事と書かれている事には乖離があるように思え、色々と改めて調べてみたら分かってきたことがあったのでnoteにまとめます。

■YouTubeの著作権検知/管理システム「コンテンツID」とは?

正しくはContent IDと記載するこの仕組みは、簡単に言うと著作権のある動画(音楽含む)をYouTube上で検知、管理し、収益の分配などを行います。

動画や音楽のマッチングは、まずオリジナルの著作権者やその管理を担当している企業がコンテンツそのものをアップロードします。YouTubeは動画、音楽、音声をそれぞれ解析しデータベース化し、第3者が動画や音楽をアップロードする際に、中身を解析して、データベースと照合する仕組みになっています。

今回の記事に沿うと、VTuberが一般的に流通している他のアーティストが制作した楽曲をカバーした動画をYouTubeにアップロードした際に、制作したアーティストが著作権管理を委託している企業、団体から「この曲は私達が管理している著作物を含んでいるのでコンテンツIDの仕組みにとって対応してね」というメールが届いたと思われます。
それは多分、この記事で取り上げられている内容と同じメールだと思われます。

読み解く!YouTubeからの通知メール「著作権侵害の申し立てが行われました」
https://www.nash.jp/blog/fum/youtube1/

この記事にも書かれているように、件名が過激なだけで内容は”あなたがアップロードしようとしている動画に我々の管理している著作物が含まれていると検知したので対応してください”というものです。

今回の記事では、こうした申し立てを行っている企業/団体が、”著作権者を偽って名乗り、不当に収益をかすめ取ろうとする手口」と書かれています。ここに焦点を当てて読み解いていきます。

■謎の団体、The Orchard Music?

The Orchard Musicという団体?から不当な著作権の申し立てがあります。
https://support.google.com/youtube/thread/7214455?hl=ja

The Orchard Music?、JASRACやNexToneなら知ってるが聴いたこと無い!絶対に怪しい!!となっているようですが、これはれっきとした音楽コンテンツ配信企業です。
彼らは自分たちで原盤権を持ったまま、Apple MusicやSpotifyといった音楽サービスに音源を配信する際に、流通部分を担う企業です。

https://www.theorchard.com

海外ではこうした企業を使って音源を流通するのは普通に行われている事で、こうした市場がここ3年で大きくなっています。

■虚偽の著作権者はこんなに居る!のか?

他にもContent IDの仕組みを悪用する輩はいるのか?けしからん!と思い、調べたところこの記事が出てきました。

ここで挙げられている”著作権詐欺団体”はこちらです!

LatinAutor
APRA_CS
UBEM
SOCAN
Securights Inc.
LatinAutor - PeerMusic
TONO_CS
TEOSTO
Kobalt Music Publishing
AMRA
SABAM_CS
KOMCA_CS
AdShare MG for a Third Party

こんなにあるの??とビックリしますね。でも本当にこれらが”詐欺団体”なのでしょうか。

いえ違います。彼らは各国におけるJASRACに相当する著作権管理、徴収を行う団体です。

LatinAutor →ウルグアイ
APRA_CS →オーストラリア
UBEM →ブラジル
SOCAN →カナダ
Securights Inc. →企業
LatinAutor - PeerMusic →アメリカの音楽出版社
TONO_CS →ノルウェイ
TEOSTO →フィンランド
Kobalt Music Publishing →独立系音楽出版社の最大手
AMRA →デジタルにフォーカスした徴収団体
SABAM_CS →ベルギー
KOMCA_CS →韓国
AdShare MG for a Third Party →著作権管理代行企業

ざっくり言うと、ほとんどの団体/企業が日本でいうとJASRAC、NexToneと同様の業務を行っていますので、少なくても「偽って申請」「詐欺」団体だというのは正しくありません。
これらの団体は、JASRACが日本国内で行っているのと同様、権利者から預かっている著作物の検出、管理、徴収を各国内のYouTubeでやっているのです。
またYouTube上で管理されている著作権は音源部分のみではなく、メロディや歌詞からなる出版も管理されています。こちらはカバーであろうと利用料を正しく徴収するためにコンテンツIDが申し立てをしてくるところです。

■申し立てがあっても解決した事例

冒頭の記事のようにカバー曲に対する申し立てに関して、まふゆ.jpさんが自分で演奏したAC/DC「Back In Black」のカバー動画をあげた際、The Orchardから申し立てがあり解決した経緯を記した記事がありました。

申し立てをした「 The Orchard Music」は、「Big Eye Music」の代理を名乗っています。
しかし、この「Big Eye Music」は1992年設立のレーベルであり、Google画像検索を見る限りAC/DCのようなビッグネームを任せられるほどの実力のあるレーベルとは思えません。

なるほどです。Big Eye Musicは私も不勉強で知らなかったのでググったら、なるほどの結果が出ました。彼らはカバー曲を多数制作して音源として販売、流通しているレーベルでした。

Discogsによると最初のリリースは1994年まで遡り、2000年代に入るとその作品数を増やしていっています。
作品はどれも「A Tribute To Britney Spears」といったトリビュート トゥ ○○○(アーティスト名)になっており、あらゆるヒット曲をこれでもか!とカバーしまくってリリースしています。
おそらく、彼らがカバーしている「Back In Black」とまふゆ.jpさんがカバーした音源が”似ていたため”、前述したデータベースとマッチしたものと思われます。
それでBig Eye Musicの音源流通とコンテンツID管理を担っているThe Orchardが代理で申し立てをした、という構図のようです。

こうしたカバー曲の制作、配信が”著作権侵害”か、というとそうでも無く、「著作人格権」を主張する事は可能なものの、国際条約や各国の著作権法によってどこまで認めるかは違うのが実情です。

■何故カバー曲がマッチするのか?

最初に書いたように、著作権者がアップロードした音源に基づき権利データベースが構築されます。これはカバー曲でも同様で、AC/DCがリリースした「Back In Black」の音源に基づいたデータと、カバーバージョンの「Back In Black」音源に基づいたデータは全く違います。データは主に波形によって作られるのでテンポや微妙なメロディの違い、そして楽器の音色によって左右されます。

この楽器の音色がポイントでは無いかと考えました。
誰もが好きなアーティストの楽曲を演奏する時には、その音色に似せるものです。「Back In Black」であればアンガス・ヤングの弾くSGの音色を出したい、と思うでしょう。こだわるミュージシャンはアマチュアでも、アンプやエフェクター、はてはシールドや電源まで、その似せ方を追求しています。そうして似た音色が出た時に、コンテンツIDのデータとマッチしてしまうのです。

また最近ではDSPによるサウンドモデリングで、オリジナルギターサウンドを再現するマルチエフェクターもいくつか出ています。

この方は私が大好きなギタリストYouTuberで、HR/HMの名曲をオリジナルと同レベルのテクニックで弾きまくっています。何より彼が作っている音色が本物そっくりです。彼がアップしている動画の中には、オリジナル演奏によるバックトラックに合わせて弾いても”著作権の申し立て”が来るそうです。

彼が途中から使っている「Kemper」には世界中のアンプやエフェクターの特性が保存されていて、それらを有名ギタリストが使っている組み合わせ、設定に合わせた「プロファイル」が多数提供されています。

音色を選ぶだけで好きなギタリストと同じ音で弾けるのは嬉しいですね。
ただ、ここが”カバーなのにオリジナル曲とマッチしてしまう”状況を作り出すポイントになると考えます。
演奏にドラムやベースなど他の楽器が入っていれば波形は複雑になりそうですが、ギターのリフだけのパートなどだとコンテンツIDが”同じだ!”と検知するのも不思議ではありません。

こうした演奏側のツールの進化もカバー曲がコンテンツIDに検出されてしまう要因の一つと考えます。

■どうしたら良いのか?

実際の対応については概ねNashさんの関連記事が参考になります。

こちらを参考に冷静に対応するのが得策です。

■コンテンツIDにおける詐欺団体は無かった

『著作権侵害の〜」というメールが来たら誰でもビックリしてしまいますが、YouTubeで情報発信、そしてビジネスを行う上ではその仕組みをしっかりと理解して使いたいですね。
コンテンツIDで申し立てができる企業/団体には利用資格がちゃんと設定されています。

Content ID の利用資格について
Content ID の利用資格はさまざまな基準に基づいています。こうした基準には、著作権者のコンテンツが Content ID を通じて申し立て可能であるかどうかや、実際の必要性があるかどうかも含まれます。著作権者は、独占的な権利を管理するコンテンツについて、著作権を保有していることを証明できる必要があります。

■正しくYouTubeを活用するには

いくつか記事を読んで思ったのは、”日本はYouTube→JASRACが徴収分配するので配信者がカバー動画でマネタイズしてもいい”というロジックです。日本ではそういう契約になっているかも知れませんが、国ごとに著作権管理/徴収団体とYouTubeの契約は違いますし、そもそも第3者の著作物でビジネスをする事について今一度やり方を考えた方が良いと思います。

ただ、カバー動画で曲の魅力が広く伝わる効果も今のソーシャルメディア環境ではあるので、”収益の何%をカバーした人にシェアする”といった機能がYouTube側でできると面白くなるとも考えます

もちろん、自作自演のオリジナル曲でビジネスをするのはどんどん頑張って欲しいです!

コンテンツクリエイター、利用者、そしてメディアの多くの方が、今回書いたような仕組みや背景を理解して、正しく著作物、YouTubeのようなプラットフォームを活用して、思い通りの成果をあげてもらえればと思います。

以上です。ありがとうございました。

弊社ParadeAllでは、エンタテインメント x テクノロジー領域の事業戦略、事業開発を、グローバルのエンタメ・エコシステムを前提にしながらサポートするコンサルティングを行っています。
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