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2010年代後半に起こったロンドンシーン その2 レーベル〜共犯者と仲間たち〜

Slow Dance Records 及びその周辺の仲間たち

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それは放課後の美術室でのジン作りから始まった。2015年、Marco Pini(GG Skips)、Darius Williams、Isobel Whalley Payne、一緒にジンを作り話をし遊びに出かける。そこでSorryのAsha Lorenzと知り合い(Ashaは彼らと同じ学校に通っていた)Fishと名乗る彼女達の最初のライブがボートの上で行われ(それはSlow Danceの最初の企画でもあった)、ノース・ロンドンの倉庫でのパーティを経由して遊び場は次第にサウス・ロンドン、ウィンドミルへと変わっていった。

Sorryの活動が大きくなるにつれて遊び仲間であったSlow Danceの輪も広がっていく。ウィンドミルのパブでGoat Girl、black midi、Black Country New Roadらと出会い、喫煙所でSlow Danceからリリースしないかと誘いをかける。それはバンドだけに止まらず、映像やアート分野にまで広がっていきイベントを企画しラジオを始め……..。

そんな風にしてSlow Danceは形作られた。完全なD.I.Y、出発点が出発点なだけにSlow Danceこそが今のロンドンシーンを一番体現しているレーベルなんじゃないかと思う。つまりジャンルにとらわれず価値観で結びついているということで、やっぱりレーベルというかある種のコミュニティという感じがする。音楽だけがあればいいって感じじゃない。

ビデオグラファーにフォトグラファー、デザイナーにディレクター、Slow Danceにはあらゆる種類の人間がいてそれがみんな仲間として機能する。そうした仲間が集まり使われなくなったヴェニューを改造してその日のコンセプトを決めたイベントを開催する。それはまさに映画で見てきたインディの精神そのもので、Slow Danceはだからこんなにも魅力的に思えるに違いない。

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年を追うごとに曲数が増えていくレーベルのコンピレーション・アルバム、こういうところからもSlow Danceの輪が広がっていっているのがわかる。

Glows

GG SkipsことMarco PiniつまりはSlow Danceの創設者でSorryのメンバー(元々遊び仲間だったがアルバムが出るタイミングで加入)その人がやっているプロジェクトこそがこのGlows。GG Skips名義のものはちょっとドローンとかアンビエントに近くて、Glows名義のものはもっとストレートにダンスミュージックっぽい。

エレクトロニック・ミュージックに傾倒しつつもギターバンドに加入するこの折衷具合がまさにそのままSlow Danceのスタンスなんだと思う。GG Skipsはインプットとアウトプットのバランスが凄くいいような気がするし、少しずつ大きくなっていくSlow Danceの姿を見るのは楽しい。Black Country, New Roadに関する10連投のツイートを見たときからGG Skipsは僕の心の師匠(ユーモアと詩的な混乱の共存)。

Jockstrap

Warpと契約を結び一気に有名になった気がするJockstrap、Taylor SkyeとGeorgia Elleryの二人組、専門的な音楽教育を受けつつも作る曲はなんともヘンテコ。美しさと不快さが同時に存在しているみたいなそんな違和感の快感、明らかに才能があるのにそれをそのまま出さないところが凄く良い。

Taylor SkyeのソロやRemixワークもまた良くて、この人はそのうちMica Leviみたいに映画のサントラ作るんじゃないかって思ってる。GeorgiaはGeorgiaでBlack Country, New RoadのメンバーでもありかってはGoat Girlでもバイオリンを弾いていたという人気具合に多忙具合。なのでもっと売れたらどっちかの活動が止まってしまうんじゃないかって今からちょっと心配している。

とにかくJockstrapの二人は本当に才能あるんじゃないかって思う。それでいてこういうひねくれたセンスを炸裂させているんだからもう最高。

Lynks Afrikka

Lynks Afrikkaはもの凄い。毎回違ったメイク、毎回異なったコンセプトの服でいつでもライブに全力で、だからこちらもそれを全力で理解しようとする(だってわからないから)。その過程できっと何かが生まれている。

でもLynks Afrikkaはやっぱりライブだな。画面を通してでしか知らないけどそれでも伝わるエネルギー、隣のお姉さんの動きも合わせて好き。たとえばオーストラリアのConfidence Manもそうだけど受け手側にもエネルギーとその場その場の理解が必要な音楽というものがあって、それがカチっとハマった時のあの快感ってない。なんか凄いぞというそういううねり。

こんな感じで表現をつきつめながらこの人絶対いい人で、色んなバンドのYouTubeのコメント欄でその姿を見る。それこそ上のGlowsのビデオでもコメントしてたし。

Great Dad

Great Dadめっちゃ好きなんだよね。米のARTHUR、英のGreat Dadってくらいに好き。おもちゃ箱の中の音楽、かわいくも混沌とした世界で大好き。Great Dadもblack midiと同じくSorryがSo Young Magazineで褒めていてそれで知ったんだけど、こういうところからもシーンの懐の深さがわかる。

完全にソロプロジェクトの音だけど実のところ6人組のバンドでサックス入ったライブだと邪悪さの薄まったナードのViagra Boysみたいな感じでカオス。

Drug Store Romeos

この曲のビデオの監督はGG Skips、プロデューサーはDarius Williamsと完璧なるSlow Dance印(創設者の二人)。それでいてDrug Store Romeosはシーンの中で独特の立ち位置にいるような感じで、にも関わらずどの方向からも好かれているみたいな雰囲気がある。それも当然、だって超良いから。

なんと言ってもボーカルのSarah Downeyの魅力が半端ない。ほんわかと不思議な雰囲気を漂わせ小動物的な動きでもって魅了する。そこにはあざとさはなく可愛さしかない(リアム・ギャラガーのポーズで揺れながら唄っている姿を見て俺は悶えた)。

さらにはギターのCharlie HendersonとドラムのJonny Gilbert(でもその時々で楽器を持ち替えたりする)もキャラが立っていてこれがまたいい(この二人は一緒にハードコアバンドをやっていた幼なじみでもある)。Charlieはやはりどこか小動物的なクセのある動きをするクセっ毛で、Jonnyは立ち位置的にも一歩引いたそれでいて強気なイケメン感を漂わせていて、そのバランスがもう完璧、こんなバンド好きにならないわけがない。

Sorryとはまた違ったベクトル(どこか洗練されていない片田舎の雰囲気)の完璧なバランスで聞いていて幸せな気分になる。一言で表すならそう、素敵。つまり大好き。Dan Careyと録音したという曲(2曲ある)も早く聞きたい。


Speedy WundergroundとDan Carey

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気がつけば新人バンドの登竜門みたいになっているSpeedy Wunderground。2014年にDan Careyによって創設されたこのレーベルにはいくつかのルールがある。そのひとつがレコーディングもマスタリングも24時間以内に終わらせるというものだ。たとえば金曜日にバンドとレコーディングをした場合マスタリングは土曜日に終わらせる。そしてそのままデータを渡し、3週間後に250枚のレコードが出来上がるまでは誰もその曲を聞かずにそれ以上もういじらないことという制約がそこに付け加わる。

これは元々カイリー・ミノーグやケイト・テンペストなどメジャーなアーティストと仕事をしていたDan Careyの経験からきたもので、それこそがSpeedy Wundergroundを始めた理由でもある。

「何かを作ってそれをレーベルに送ってもリリースが何年も先になってしまうことが多いんだ。その時は興奮したのに1年後にラジオで聴いたら、もう新鮮さを感じなくなっていた」

そうした業界の仕組みに少し嫌気が差していたDan Careyは今起きていることを即座にとらえそれを伝える環境とシステムを作り出した。それは自ら作り上げたレコーディング・スタジオにしてもそうで、Danはとにかく現場の雰囲気にこだわった。ガラスの向こうから指示を出すことはなく、ディレクションも録音も全ては一つの部屋で行われ、照明が落とされ時にはスモークがたかれる。

だからこそバンドのセレクトも妥協はしない。もちろん若いバンドを引き上げてやろうという気持ちもあるのだろうが、それ以上に自分が興奮できるかどうかを重要視しているように思える。そして今のロンドンはそんなバンドがたくさんいてそれが相乗効果を生んだ。black midi, Squid, Black Country, New Roadこの連続リリースで完全に地位を確立した感がありSpeedy Wundergroundから出すというのがある種のブランドになりもした。Goat GirlやFontaines D.C.など自らのレーベルでリリースしないバンドも積極的にプロデュースし(そこではSpeedy Wundergroundの24時間ルールは適用されない)さらにはSpeedy Wundergroundから7インチを出した後でRough TradeやWarpのようなレーベルに所属したblack midiやSquidみたいなバンドもそのまま続けてプロデュースする。だから必然的にシーンにおけるDan Careyの存在も大きくなってこのロンドンシーンの代表的なプロデューサーという感じになった(ここ数年いたるところでDan Careyの名前を見た)。

でも感覚としてはプロデューサーというよりも年上の共犯者みたいなイメージだ。ガラスの向こう側ではなくスモークのたかれた同じ部屋にDan Carey、Speedy Wundergroundは存在し、スタジオはなんだか秘密基地然としている。

運営面ではPIASからPierre Hallがやって来たことが大きかったのではないかと思う。”Speedy Wunderground is Dan Carey, Alexis Smith and Pierre Hall"という文字がHPに掲載されているようにプロデューサーのDan Carey、レコーディング・エンジニアのAlexis Smith、そしてレーベルの運営とA&Rを担当するPierre HallこそがSpeedy Wundergroundで、明確にその役割を分けたことがDan Careyの理想を実現するキモになったというのは想像に難くない(こういうところにちょっと大人を感じる)。

それにしても"Speedy Wunderground Records will not be slow"ってモットーは格好いい。これはシビれる。

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Dan Careyのスタジオでスティーヴ・ライヒの曲の再解釈を試みるSquid。ちょっとしたワン・プラス・ワン、DanとAlexisがいて写真を撮るHolly Whitakerも映っている。


Black Country, New Road

Black Country, New Roadの衝撃。失意のうちにNervous Conditionsが解散し、カール・ハイドの慰めと覚悟の合宿を経て、生まれ変わって帰って来た。それは名前だけが先行し、噂が流れ、凄いという評判が立ちこめて、そしてついに目の前に現れた。それはウィンドミルのライブのビデオで、見ている最中から自分は今凄いものを目撃していると興奮が止まらなかった。次に何が起こるかわからないスリリングな展開、まるで演劇を見ているような歌ともセリフともいえない感情のこもった声を必死の形相であげる男、ヴァイオリンを肩に乗せてしゃがみ込む女、中央にはサックスを構えた大男が立っていて、ドラムの前にはハリー・ポッターの父親みたいな眼鏡が座っている。その斜め前には気怠げにシンセサイザーに肘をついて待機している女性が存在し、ベースを抱え真顔でまっすぐに立ち続ける女の人の姿が見え隠れする。目の前のそれはつまり、今まで聞いてきた伝説と同じ種類のもので……。

嘘偽りなくマジでそんな感じの興奮があった(そしてメルカリでVRのゴーグルを買った自分を褒めた)。

ヴァイオリンのGeorgiaはJockstrapとして活動中で、ヴォーカルのIsaac WoodはThe Guestという名前でSlow Danceから曲をリリースしている。サックス男のLewis EvansもGood With Parentsを名乗りソロ活動を継続していて(ひょっとしたら音楽的な才能はLewisが一番あるのでは?と最近思い始めた)ドラムのCharlie Wayneは同郷ケンブリッジのバンドUglyのドラムでもあったがBNCRの活動に専念するために今年(2020年の1月)に脱退した。ベースのTyler Hydeは父親のグループ(Underworld)に連れられてフジロックのステージ立ったこともある(カール・ハイドはこのバンドの大ファンだ)。

こんな風にメンバーの経歴を書くだけでも何やら凄そうだけど、でもそんなのを知らなくたって見れば、あるいは聞けば一発でその凄さがわかる。今何かが起きている……Black Country, New Roadはそれを一番感じさせてくれる。バンドとは決して音楽だけではない。もしロンドンシーンが第二章に入ったと言うのなら、二章の主役は間違いなくBlack Country, New Roadになるだろう。24アワー・パーティ・ピープルでJoy Divisionが後ろに来たパターンだなってやっぱりそんなことを考えている。

Squid 

CANやNEU!やHarmonia、ブライトンのSquidは何やらドイツの香りがする。せき立てるビートのダンスミュージック。いまやWarpのバンドだけれどワンショット・リリースのみというSpeedy Wundergroundのルールを曲げさせたバンドこそがこのSquid。Speedy WundergroundからThe Dialの7インチを出したのに続いてレーベル初のEP、Town Centre (ジャケットもある)をリリース。

今思えばblack midiとSquidを出した辺りでSpeedy Wundergroundの方針に変化があったような気がする(今は昼ご飯も食べれるみたいだよってPierre Hallがジョークを言っていた)。Dan Careyが継続してもっとプロデュースしたいと思えるようなバンドが増えてきた変化するシーンの状況に対応してSpeedy Wundergroundも変わった。今はSpeedy Wundergroundもシーズン2(あるいはシーズン3)みたいな感じになっているのかもしれない。

Speedy Wundergroundと言えばSquidがレーベルロゴのロングスリーブTシャツをいきなり切って半袖にしてたのアー写で見てびっくりしたな。俺は半袖がいいからって、たぶんTシャツもらったんだろうけどそんなのいきなり出来る?着古したやつじゃなくて新品、それもレーベルが最初に作ったマーチャンを即座に改造する度胸、こういうところにも実験的精神ってやつが現れているのかも知れない。

Tiña

Speedy Wundergroundから最初にEPを出したバンドがSquid、そして最初にアルバムを出すバンドこそがこのTiña。Ariel PinkにThe Kinksを混ぜたみたいな気の抜けたサイダーのようなゆるさに、時に感じる美しさ、それでいてふとした瞬間にFat White Familyみたいなギラついた雰囲気を感じさせ……アルバムは現時点(20年8月)で出ていないけど(11月発売予定)間違いなくいいはずだって予感がする。Speedy Wundergroundのアイコンも今やテンガロンハットを被ったピンクの鳥になっているし。

最近、TiñaのマネージメントをしているのがSlow Danceだと知って驚いたんだけど考えてみればそれも納得。ウィンドミルによく出ているしGoat GirlのサポートをしているPet Grotesqueがメンバーだし、そもそも最初に知ったのもGoat GirlのLottieと一緒になにかやってたからだし。つまりずっと輪の中にいた。さらに言えばSlow Danceは同じくSpeedy Wundergroundから出したPVAのマネージメントもしていて、結局のところどこかでシーンは繋がっている。

Fontaines D.C.

Dan Careyは言う。

「ビデオを見て数秒で好きだってわかった。くそクールなバンドだって。 the Five Bellsに見に行って、ほんと信じられなかったよ、それで一度の会話で一緒に仕事をしようと決めたんだ」

たぶん俺たちみんな同じ事を思って頷く「だろうな」と。つまり知っているか知らないかだ、Fontaines D.C.のことを見たことがあればおそらくみんな同じ事を言う。百聞は一見にしかずだし、見たらそうだとしか思えなくなる。ダブリン・シティの本物のバンド、いつからか失われてしまったロマンをそこに求めたくなる。不機嫌なOasisにIceageの佇まい、アイルランドの詩人の影がどこかにあって、いらだちナイーヴに傷ついたロマンティストな不良の姿がそこにある。

ロンドンの外から来たアウトサイダーの存在にシーンの誰もがすぐさま気がついた。みんながみんな1stアルバムを期待を込めて待っていてそして出た(Rough TradeのNo.1アルバムも当然だ)。SorryやShameやSports Team、その目線はライバルというよりも憧れに近い雰囲気を感じた。俺たち、みんな、ギターミュージックが、特別なロックンロールが帰ってくるのを待っていた。

1stアルバムから継続してDan Careyがプロデュースした2ndのアルバムもくそクールでもはや誰もがその存在を認めている。だからこそいにしえの何かを、ロマンを夢を、無責任に託したくなってしまう。


Slow DanceとSpeedy Wunderground 


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Slow DanceはSorryの遊び仲間でそれで一緒に大きくなってきた。TiñaやPVA, Black Country, New RoadにしてもそうでそれらのバンドとSpeedy Wundergroundを結びつけた場所こそがサウス・ロンドン、ウィンドミルを初めとしたヴェニューだ(いつだって何かが起こった後にそこが特別な場所だったって気がつく)。

こういうのを見るとやっぱり場所っていうのは凄く大事なのかもしれないって思う。その時はただ集まっているだけでもそこで何かが起こり後から振り返ったときに重要だったとわかるみたいな、重要だから集まったんじゃなくて何か面白そうだからって集まって、その結果そこが重要になるみたいな、そういうのが本当に大事なんじゃないかって(最初からそれがマンチェスターの伝説のギグになるなんて誰にもわからない)。顔を合わせているうちになんとなく知り合いになってそこから縁が広がっていってという古典的なコミュニティの作り方、それは思い出を共有しているということでもある(インターネットでも出来そうな気がするけれど、辿り着く為の検索の壁がそこにはあって、中々偶然の出会いは果たせない)。

Slow DanceとSpeedy Wunderground、アプローチの仕方はそれぞれ違うけど、起こっている何かを面白がっているのは共通していてそういうとこが本当にいいなって思う。それをただ楽しむんじゃなくて外側に向けてアピールする為の手段や場所、コミュニティを作ったっていうのが素晴らしい。やっぱりこの辺りの話、映画で見たいなとまたそういうことを思ってしまう。

ここまで長々と書いてしまったのでSports TeamのHolm Frontの話は次回に。ロンドンシーンのウィンドミルの外側の話を少し、平たく言うとSo Young系で、このシーンは全部まとめてSo Young Magazineのシーンだなと思ったりもする。


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