Fat Dogと素敵な犬の仲間たち
Dog、Dog Race、Dog Unit、世界に犬があふれている。犬派猫派の永遠の論争に20年代のUKインディーバンドたちは犬を突きつけた。今パッと思いつく猫のバンドはいるか?いやいない、いるのは犬だ。そんな中で一際存在感を放っているのがこのFat Dogだ。
「ドミノに言ったんだ。バイオなんていらないって」と名付けられたバイオからしてめちゃくちゃ面白い。音楽からもそんな気配はあったけれどFat White Familyのリアス・サウディ的なユーモアとそして反骨精神が漂った文章でかなり好き。
そのバイオの中で完璧主義者でめちゃくちゃなリーダー、ジョー・ラブは言う。「音楽にサックスを持ち込まないこと」この破られた約束事の一つはやはりバンドが結成された当時大流行していたサウスロンドン、ウィンドミル・シーンのポストパンク・バンドを意識し、そのカウンターになろうとしていたところから来ているのだろう。サウスロンドンのサックス香るモノクロの世界でネオンをきらめかせていたFat DogはPVAと共に文字通り異彩を放っていた。そうしてそれから3年余りが経った2024年、FcukersやThe Dare、cumgirl8(こうやって考えてみるとみんなNYを拠点に活動しているバンドだ)に興奮している自分にぴしゃりとハマる。それぞれがそれぞれのやり方でダンスにアプローチにして体を揺らす。そうかこういうことだったのかと当時のFat Dogに思いをはせ、そうしてわからせられる。かなり早く、かなり正しく、凄まじく熱いアプローチ、Fat Dogとはつまりヒトの体を巻き込むカオスの渦だ。
長らく曲を出さなかったために、2021年からしばらくの間Fat DogはインスタグラムのストーリーやYoutube上の亡霊のような存在だった(だが亡霊というにはいささか凶暴すぎたかもしれない)。何やらヤバいバンドがいるらしい、SNSに漂う噂。black midiもこんな感じだったような気もするけれどFat Dogの場合はより力強くねちっこい空気だったようなそんな記憶がある。「Dog meets Fat Dog!」とDogが興奮してたのも覚えているし、断片的な映像を見ながらFat White Family /Viagra Boysをレイヴに寄せたみたいな感じをイメージしていた。そしてその後おなじみLou Smithのビデオを見てぶっ飛ばされる。
短期間にいくつも動画があがっていて、Lou SmithもめちゃくちゃFat Dogにハマってんじゃんみたいな気配を感じたりもしてそういう面でも面白かった。どういう風に受け入れられるのか、漏れ伝わってくる雰囲気みたいなものがリアルタイムの音楽を聞く醍醐味のひとつに違いない(Lou Smithは元々Fat White Family系の人だからそうだよなって納得感もあった)。
そしてHMLTDのツイートも。
「いま、この世界には唯一、Fat Dogというバンドがある」
その前の22年にSports Teamのオープニングアクトに起用され(Wet LegもそうだったけどSports Teamこういうの本当に早いし迷いがない) それから翌年頭のViagra Boys、Yard Actと続いたもんだからとにかく期待感が半端なかった。
そんなFat Dogは23年にDominoとの契約が発表されて、8月に最初のシングル「King of the Slug」が、そして今年24年ついに1stアルバム『WOOF.』がリリースされた。
再びのバイオ、宇宙船のエピソード。このエピソードから僕は映画『24アワー・パーティー・ピープル』で描かれたHappy Mondaysの姿を思い出す(ショーン・ライダーがUFOを目撃しベズに出会うシーン)。Fat Dogはもっと統制の取れた、言わばコントロールされたカオスだけどわけのわからないエネルギーを持っているというところは共通している。そしてポストパンク・ブームの後に現れたカオスを生むバンドだという部分も。
繰り返される歴史の、違った未来のバージョン。曰く「2076年の世界の終わりのパーティーで演奏するためにブッキングされた2トーン・バンド」、「『デューン』でサンドワームに乗るザ・プロディジー」、「神経衰弱に陥ったナイン・インチ・ネイルズ」。
「消毒された音楽は好きじゃない。このアルバムでさえ、僕の頭の中にあるものと比べたら、とても消毒されている。もっと狂ったサウンドになると思っていた」そんなジョー・ラブの言葉を胸に抱きながらまだ見ぬ未来(つまり24年12月のトーキョーでのライブ)に思いをはせる。
素敵な犬の仲間たち
Peeping Drexels
それはそうとこのジョー・ラブ、Peeping Drexelsのギターだったと知って驚いた。Peeping Drexels(現DREXXXELS)は初期のウィンドミルシーンのバンドで、ガレージ/ポストパンクって感じのサウンド。The Goofがめちゃくちゃ好きで確か2017年の10曲かなんかに選んだ覚えがある(それでバンドからコメントもらった記憶もある)。
The GoofのアートワークはSorryの初期のシングルやDead Prettiesと同じ Spit Teaseの手によるもの。
ちなみにボーカルのDylan Coatesは映像作家になっていてFat Dogの「King of the Slugs」や「I am the King」のビデオを制作している。
先日出たSunkenの新曲のビデオを撮ってたりもしていてこっちでも驚かされた。やっぱり好きなものは色々と繋がっているし繋がっていく(DREXXXELSはもう活動していないのだろうか?)
Morgan Noise
毎年楽しみにしているSlow Danceの年次コンピ、22年のもので一番好きだったのがMorgan Noiseの「Further」だった。近未来的なシンセサイザーの上で下降と上昇を繰り返す。Porridge Radioのツアーで前座を務めた〜という情報以外当時見当たらないなかったけれど、このMorganがFat DogのMorgan Wallaceだった模様。
このインタビューで言っているなんらかのバンドがMorgan Noiseだったらしい。マジかよ?こんなのBlack Country, New Roadの中にJockstrapがいるみたいなもんじゃんかよ!とテンション上がった。そりゃDominoのバンドでSorryが好きっていうはずだって(Slow DanceをやっているのがSorryのシンセMarco Pini)。
Morgan NoiseはSlow DanceのインプリントのMOTR(Middle Of The Room)からこの前出た新曲「I Put Everything」も良かった。
Ziplock
さらにMorganはZiplockという3ピースのバンドをやっていてこれがまた本当に良い。まだ曲をリリースしていないみたいだけどライブの動画(特に2曲目Paranoid)を見るかぎり初期のKlaxonsみたいな軽薄で邪悪でいかがわしい無敵の勢いがあって超好き。 こういうのを見ると最近のニューレイヴのリバイバルの流れがあるのもわかる気がする。それこそ冒頭にあげたFcukersやThe Dare、cumgirl8といったところとカチッとハマるこの空気。Ziplockめちゃくちゃ好きだわ。
やっぱりFat Dogの中にJockstrapがいるかもしれない。ジョー・ラブ凄いけど、モーガン・ウォレスもヤバくない?って。
予想していた以上に厚みがあってFat Dogがこの先どんな風になるのかますます楽しみになってきた。Fat Dogはまさに今、カオスな時代の中にいる。