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大切にすること −インタビュー Soren Bryce(Tummyache)−

作り込まれた素晴らしさもあればそうでないものに宿る魔法もある。テキサス出身、現在UKを拠点に活動する Soren Bryceのソロ・アルバムには魔法が宿っている。エイドリアン・レンカーの諸作を彷彿とさせるようなフォーク・ミュージック、ライブレコーディングされた楽曲はほとんど何も足されずにそのものが持つ魅力を静かに醸し出す。まるで手帳に描かれるラフなスケッチのように白と黒の線が結びつき不確かな像が作られていく。色づく前の、完成された未完成。それらはただその場所に存在する。寄り添うように、寂しさを撫でつけるように。このアルバム『To Cherish』はきっとそうやって聞き手が意味を感じていくものだろう。

Soren Bryceがこんなにも素晴らしいフォーク・アルバムを作るとは思わなかった。自分の持っていた彼女の印象のほとんどはTummyacheとしてのもので、アメリカで活動していた当時のオルタナ・ロックのイメージや、UKに移った後のRadioheadを彷彿させるような楽曲たち(Speedy Wundergroundからも7インチを出していた)に引っ張られていて、まさかこんなアルバムが出てくるとは思わなかったのだ。しかし彼女が言うにはこれが元々持っていた自分の音楽的パーソナリティだという。アメリカに生まれUKで活動するSoren Bryce、秋の景色の寂しさを感じさせるこの素晴らしいアルバムはいかにして作られたのか? 様々な考えを胸に抱き、メールを送り彼女に話を聞いてみた。


Interview with  Soren Bryce

ーアルバム本当に素晴らしかったです!その話に入る前にいくつか基本的なことを質問させてください。あなたはTummyacheとして知られていますがテキサス生まれで以前はアメリカで活動していたんですよね?UKに移ったのはいつごろですか?

UKに移ったのは2020年のことで、ロンドンでオーディオ・エンジニアリングの勉強をするために移住しました。

─ UKとUSの音楽シーンに違いがあるとすればそれはどのような面だと思いますか?

私から言えるのはUKの音楽シーンはアクセスしやすいのではないかということ。アメリカと比べて国土が狭いのでツアーに出やすく、他の街との繋がりも見つけやすいと思う。一方でUSは、私はDIYシーンに深く関わっていたので、そのシーンは本当に素晴らしかったと言いたい。出来るなら来年アメリカツアーに出てDIYシーンのドキュメンタリーを作りたいくらい。

─ あなたに影響を与えた音楽はどのようなものがありますか?

高校に入学したくらいの時期にオルタナティヴ・ロックとプログレッシヴ・メタルにハマって。それ以前の時期だと両親の趣味がニューメタルだったのでそういう音楽を聞いていたかな。iPod時代の前だったから、両親のCD棚から持ってきて聞けるものを聞いてみたいな感じで。あとはヴァイオリンを習っていたのでクラシックの音楽も好きです。それがあったから今の私のハーモニック・イヤーが形成されたんじゃないかって思っていて。

─ 音楽以外の関心事はありますか?

正直なところあんまり。強いていうなら読んだり書いたりすることだけど、それも創作活動の一部として繋がっているものだから。

─ Tummyacheとソロ名義 Soren Brycenの違いについて教えてください。Tummyache のアルバム、特に『SOAK』はRadioheadの『In Rainbows』 を感じさせるような音楽でしたが、今回のアルバムはフォークの要素が強く印象がまったく異なります。この二つの名義について意識して使い分けているのでしょうか?

2018年にニューヨークから離れたのを機にソロプロジェクトに休止期間を置いて。それがTummyacheを始めたきっかけだったもっと創造的で自由になれる出口を強く求めていて。しばらくの間Tummyacheがメインプロジェクトになったし、こうやって今考えてもTummyacheが私のメインプロジェクトだって感じています。

でも同時に私はTummyacheでやるには合わないような曲を抱えてもいて。それをレコーディングしないのはもったいないと『To Cherish』のプロデューサーのPete Milesが言ってくれたんです。ソロアルバムをもう一枚作った方がいいって強く奨めてくれて。だからテープに収めたのは突発的な判断だった。


tummyache - "Alive Again" [official music video]


─ このアルバムでフォークにアプローチしたのはどうしてですか?

たぶん決して聴かれることのない曲だとわかっていながら書いた自由さが今回のような曲ができ上がった大きな要因なんだと思う。意図的に「フォーク」にしようなんて考えていなかったから。それが10代の頃に曲を作り始めた私の音楽的なパーソナリティで、Tummyacheの為の曲を書こうとしていない時にしばしば戻ってくるんだって気がついて。私のテキサス訛りはこんな感じの曲を唄っているときに輝くっていうのもね!

─  シーンというには大げさかもしれませんが、UglyやTapir!など新しいアプローチでフォークを解釈するバンドがUKに増えてきているような気がしています。こうした動きについてどう思いますか?

私個人としてはロンドンのハードコア/パンクシーンの方にいたから「フォークのムーヴメント」に関してはあんまり言えることはないかな。でもUglyやTapir!のアウトプットは美しいよね。このシーンからどんなものが出てくるのかと楽しみにしてる。

─ 本作『To Cherish』のインスピレーションの元となったものはどんなものがありますか?

『To Cherish』は何かコンセプトがあって生まれたものじゃないんだ。ここ数年の曲を集めたコレクションだから。Peteはどんな曲でも良いと思ったものを持ってきてくれって言ってくれて。それで彼と一緒にライブレコーディングの形でテープに吹き込んだ。ほとんどリハーサルみたいな、あるいはあまり準備をしていないショーのようにね。そういうタイプのエネルギーが曲の中に愛着を持てるような感じで反映されていると思う。生の雰囲気をそのまま封じ込めたかったから。だから追加のプロダクションをほとんど入れずに、そのままの曲であることを受け入れた。
これを作っているときには、アンビエントと、インストゥルメンタル、ドローンミュージックをよく聞いていたんだ。

・Soren Bryce - "Curdle" [official video]

ー『To Cherish』大切にする、というアルバムタイトルはどのようなところから来ているんですか?僕はこのアルバムを聞いて「撫でる」ような感覚があると感じたのですが、そうしたある種のケアのような意味合いはあったのでしょうか?

アルバムのタイトルを決めたのはリリースしようと決めたときだった。2023年にレコーディングしたんだけどその時はタイトルを決める気になれなくて。その後、不幸にも父がこの世を去った。突然にね。本当に悲しかった。父はこのアルバムを聞くことが出来ない。きっとこのアルバムを気に入ってくれたはずなのに(私の大ファンだったし、ソロのアコースティック・ミュージックをいつも愛してくれた)。だからアルバムのタイトルは父が亡くなった時の感情を思い出せるようなものにしたんだ。彼を大切にしたかった、そうすることが意味をなすならね。
このアルバムは人生においてうまくいかなかったり、楽しめない側面を要約したものでもあると思う。

─ このアルバムでは声の使い方も今までと異なっているように感じました。唄い方について意識した部分はありますか?

できる限り正直な形であろうと心がけていた。年をとるにつれて、アメリカン・アクセントが自然と目立つようになって来た気がするんだ。より喋るように唄うようになった。

─ Peter Milesとのレコーディングはいつごろ、どのように行ったのですか?

2023年にミドル・ファーム・スタジオで。私もアシスタント・エンジニアとしてそこで働いているんだ。Peteと同じようなスケジュールでラッキーだったよ笑 レコーディングはスタジオを利用する他のバンドのセッションの合間に行ったんだ。その後さらに一時間追加して、私のパートナーのLinusが来てベース、アップライト・ベース、ペダルを録音した。


※今年24年にリリースされたHoneyglaze の2ndアルバム『Real Deal』もミドル・ファーム・スタジオで収録され、彼女はアシスタント・エンジニアを務めた模様。


─ 「stitches」 と 「truth or dare」は先行曲としてアルバム前にリリースされましたが、二つの曲を一つの作品としてリリースするのは非常にユニークだと感じました。こうしたリリースを試みた理由を教えてください。

この2曲は同じ形でレコーディングしたから一つにまとめてリリースしようとしたんだ。私がアコースティック・ギターと唄、Linusがアップライト・ベース、それでライブの形で1曲やって次の曲ってレコーディングして。二曲ともワンテイクのヴァージョンのものを使うことにしてんだけど、それが自然なことだって思ったから一つの曲としてリリースした。

─Stitches / Truth or Dareにはとても美しいビデオもありますよね?街から離れる船の軌跡がとても寂しげで。二つの別の短編映画がくっついているみたいなこのビデオはどんな風に作ったんですか?

10月初旬にLinusと私はイタリアからスペインまで行く3日間のクルーズ旅行に参加した。Linusの誕生日にと私が企画して。それでまだビデオを撮っていなかったから海上で撮ろうと思って。クルーズ船に乗ったのは初めてで、共同体的な雰囲気はあったものの、街から離れた海上にいるとかなりの孤立感があって、その感じが曲にとてもあっていると思ったんだ。

Soren Bryce - 'Stitches / Truth or Dare' [official video]


─ Stitchesのビデオもそうでしたが、アルバムのアートワークも像が重なった白黒のものでした。クラシカルでどこか寂しげな印象をうけるのですが、このアートワークについて教えてください。

これもPete Milesの協力!またしても。Peteがカバーやプロモーションに使っている写真を全部撮ってくれて。フィルムでロールが終わるまで写真を撮って、巻き戻してはまた終わるまで写真を撮るみたいなことを2回繰り返した。つまり同じロールで三重に露出している。


─ありがとうございます。最後に今後の目標について教えてください。

人生の旅を続け、新しいことを学び、他の人たちと創造をし続けていきたい。よりよい人間になるために!




Soren Bryce: Web , Instaglam , Bandcamp
LilChop Soren Bryce - To Cherish | LCRS003 | 12" LP: 


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