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ダッチコレクティヴ 〜Personal Trainer Willem Smitが語るオランダシーン〜

現象というもの

そこで何かが起きているとどうやって気がつくのか? これがそうだといきなり提示され、その瞬間に受け入れられることはそうはない。多くのものは不思議と緩やかに目の前に現れて、浸透するように知らず知らずに入って来て、それが半ば当たり前のようになり、そうして振り返った時にあれはそういうものだったとそこで初めて理解する。

もちろんまだ振り返るというには早すぎるのだが、しかしここ数年気になるオランダのバンドが増えてきた。RIP Recordsのコンピレーションに収録されたCanshaker Piに始まって、Nice SwanのちHeavenlyのPip Blomの活躍など情報はイングランド経由で伝わり、最近ではSo Young MagazineでGlobal Charmingの記事が書かれるなど、盛り上がりを見せるロンドンシーンの影には常にオランダの姿があった。

そしてPersonal Trainerだ。「俺たちよりもPavementみたいなバンドを見つけたぜ」そう言ってSports Teamがイングランドに持ち帰り自らのレーベルHolm Frontから19年にリリースしたThe Lazerのビデオを見て、すぐにその言葉の意味を理解した。

Pavementの土台の上に今の時代の価値観をプラスして、ギターをかき鳴らし踊りそして集まる。「信じられないほどのライブバンド、信じられないくらいに素晴らしい歌」興奮気味にSports Teamはそう語る。

Personal Trainerには決まったメンバーが存在しない。ソングライターであるWillem Smitを中心にその時々に集まってとにかく面白いと思ったことをやる。まさにこのThe Lazerのビデオのように、1人から3人、3人からたくさんへ、歩みを進めていき、そのうちにその輪がどんどん広がってステージの上で集団を形成する。その中にはPip Blomのメンバーの姿も見られ、それはさながらオランダのシーンのオールスターのようにも見える。

あるいはそれは場所なのかもしれない。もしくは時間か。価値観を共にする仲間が同じ瞬間にそこに存在するということ、この感覚はロンドンのSlow Danceを見ているときにも味わった。あちらはレーベルを運営する方向に舵を切ったがPersonal Trainerはステージに向かって行進する。

今の時代クリエイティヴな何かをしようと思ったら、それは一つの流れにとどまらない。ある方向からのアプローチが違うものへの鍵となって新たな扉が開き、それがまた何かに繋がるインスピレーションの元になる。仲間を加え出来ることの範囲が広がって、そうしてやりたいことが増えていく。根源にあるのは「楽しさ」で、全ては基本へ立ち返る。

スタジオに集まって、新しく知り合った仲間と一緒に音を出す、これ以上に楽しいことがあるのだろうか?

Personal TrainerのこのOrange Curtain Sessionは2019年、秋のブリストルで行われ、この輪の中に地元ブリストルのHome CountiesとそしてヨークのBullのメンバーの姿がある。

国の垣根を越え「共有される感覚」で繋がる仲間、「単に面白いからやっただけ」本人に聞くとそんな答えが返って来そうだが、しかしながらそれを面白いと思えるような価値観が今の時代に生じているのではとそんな風に思えてならない(もしかするとこれはSNS時代と無関係ではないのかもしれない。我々はみな彼らが何を好きか、何を考えているのか知っている)。

そしてもう一つの疑問がある。それはイングランド経由で情報が入って来てはいるもののいまひとつ実体のつかめないオランダシーンのその姿だ。

こうした疑問をPersonal Trainerの中心メンバーでソングライター、Canshaker Pi、Steve Frenchのメンバーであり、さらにはthe Industryというオランダバンドが集まるプロジェクトの中心人物でもあるWillem Smitにぶつけてみた。


Willem Smit インタビュー

――Personal Trainer、Canshaker Pi、Pip Blom、Real Farmer、Petersburg、Global Charming、Korfbal、日本のインディミュージック・ファンの中にはこれらのオランダのバンドが好きな人も多いのですが、残念ながらほとんど情報が得られません。入って来るのはRIP Recordsのコンピレーションを通してのものだったりNice Swan RecordsやSo Young Magazineなどのイングランド経由の情報で…良ければオランダのシーンについて教えてもらえませんか?

オランダは小さな国だけど良いバンドがいっぱいいて、ここ数年でたくさんのバンドに出会ったよ。シーン全体のことをうまく話せるかどうかはちょっとわからないけど、とにかく僕の知っている限りオランダには愛すべきバンドがたくさんいるってことは確かだね。ライブにいっぱい行って、常に新しいものを探しているんだけどさ、知らないだけでたぶんもっと面白いことをやっているバンドはたくさんいるんだろうなって気分になるよ。

オランダのクールなレコードを聞きたいって言うんなら、まずは何をおいてもSubroutine Recordsだね。Subroutineはこの15年でBaby Galaxy, Rats On Rafts, Wooden Constructions, The Homesick, The Sweet Release Of Death, Vox Von Braun, Apneu, Global Charmingみたいなバンドをたくさんリリースしてるんだ。彼らは僕のお気に入りのPetersburgやScram C Baby、Lewsbergはリリースしてないけどね。

オランダの最も多忙な音楽オタクJasper Willemsがロッテルダムの「音楽シーン」についての本を書いているんだけど、その中で彼は他の都市のバンドについて言及してるよ。Rotterdam Goddamn: An Outsider's Testimonyってタイトルの本で今年の終わりに発売される予定。想像するにきっと面白く読めるんじゃないかな。


――7インチに続き、Sports TeamのレーベルHolm Frontから10インチをリリースしますが、今のUKシーンとオランダのシーンは何か似ているところがあるのでしょうか?

一番大きな共通点はどっちの国にも素晴らしいバンドがたくさんいるってことじゃないかな。結構違いもある気もするけど。UKはもっとバンド同士の競争があるとかさ。北と南の違いもあったりするしね、ちゃんと理解しているってわけでもないけど。ほら、Oasisとかだよ。
でも何か言うのは良いことだよね。「サウスロンドンは全部クソだ」とか「IDLESはムカつくよな」とかさ(僕だって好きじゃないけど、それにしたってインタビューとか、他の場所でもだけど、言う必要はないと思う)。あとはそうだな「僕は18歳だけどこの30年間の音楽はつまらない」とか「Wireをコピーしてるバンドで俺たちだけが喋るように唄ってない」とかさ。この考えでいいのかどうかわかんないけど。
まぁでも違いはUKにはThe Cool Greenhouseがいてオランダにはいないってことかな。


――Orange Curtain Session 1を観たのですが(このビデオ大好きです)、そのセッションの中にHome CountiesやBullのメンバーもいましたよね?

セッションを気に入ってくれて嬉しいよ。その通り、BullのDanが甘いリードギターを弾いて、Home CountiesのWillがリズムギターを担当している。このセッションはHome CountiesのConor Kearneyが録音してくれたんだ。Canshaker PiでUKツアーを何度かしたことがあるんだけど、Spiral Stairsと一緒に回った時にBullと出会って、Bullとはそれ以来友達なんだ。

僕は臨時でPip Blomのベーシストをやっていたこともあるんだけど、ロンドンでの前座をHome Countiesが務めてくれて、で、その時にParquet CourtsやThe Fallが好きだって話をして、それでその後も連絡を取り続けたってHome Countiesとはそんな流れだったと思うな。BullとHome Counties、僕はどっちのバンドも大好きだよ。

――バンドやソロという決まった形態ではなくコレクティヴという流動的なスタイルにしているのはどうしてですか?Personal Trainerのコンセプトを教えてください。

そっちの方が好きだからさ、ライブの盛り上がりやエネルギーが好きなんだ!

たぶん4人よりも大きなバンドをやりたいって思ったのが始まりだったんだと思う。オランダのHengeloって街でバーテンダー、一人のファン、両親、妹の前でやったPersonal Trainerの2回目か3回目のライブの時に(その時は5人組だった)そのアイデアが生まれたんだ。その夜、僕はSteve Frenchでギターを弾いてて、Personal Trainerの他のメンバーもTeddy's Hitってバンドでプレイしていて。どのバンドもメンバーが重なっていたし、友達でもあって、移動もそうだけどとにかく何をするにも楽でさ。で、3回に分けてライブをするんじゃなくて、ステージにそのまま残ってリハーサル抜きで次のバンドの曲を何曲かやることにしたんだ。それがめちゃくちゃ興奮したし楽しかったんだよね。それで他の人にもリハーサルをやりすぎずに大胆なAコード、Dコードの曲を緊張しないで楽しんで演奏して欲しいって思いが浮かんできたんだ。その後はスリーピースのSex Bob-ombスタイルのショーや、hip-hopのトラックをバックに流したやつとかピアノのバラッドヴァージョンの曲をやったりしたよ。色んなライブセッティングで実験しているってわけだね。

しばらくしてライブの出演依頼がたくさん来るようになって、ロジカルにあれこれ考えるのがめんどくさくなってきたから、今はある程度ラインナップを決めてライブごとにそれをマイナーチェンジしてって感じかな。今後のライブについてはかなりワイルドなアイデアがあるんだけど、それはまだ秘密 笑

――YouTubeでthe industry (de film)を見たのですが(景色がとても美しかったです)そこには音楽だけではなく仲間との生活があるような気がしました。このthe industryというプロジェクトについても教えてもらえますか?

あれは本当に素晴らしい経験だったよ。オランダのレーベルExcelsiorのFerry RoseboomからInto the Great Wide Open(Vlielandというオランダの美しい島で開催されるフェスティバル)で何かコラボレートしたものをやらないかって誘われたんだ。それで僕は好きなオランダのバンドの人たちと何かやろうと決めた。家でいくらか準備をして、Personal Trainerのメンバーと僕は小さなデモを抱えて3日間の島への旅へと出航した。Stelling 12Hと呼ばれる第二次世界大戦中に建てられた地下壕で2週間、友人のDaan Duurlandが全てを録音してくれて、ゲストミュージシャンやライターもかなり増えてさ。ライティング・プロセスが全然違ったんだけど、上手い具合にそれぞれが引き寄せ合っていく感じで刺激的だったな。この経験から色々学べたしレコードの出来も気に入ってる。天気も最高だったしね!


――the IndustryのアカウントでPersonal Trainerのビデオが公開されていますが、Personal Trainerのビデオや他のバンドのライブのビデオもこのチームで作られているのでしょうか?

The Industryのチームは基本的にはパーカッションのKilianと僕で、後はクールなことを頼んでいる友達と一緒にやっているんだ。アムステルダムのHelicopterってリハーサルスペースでライブのオーガナイズを始めてさ。ここは正式なヴェニューじゃないんだけど、80人は収容できるし、PAシステムもちゃんとしてて、ビールも安いしバックラインも良くて、だからバンドは何も持って来なくていいんだよね。ほとんどがアムステルダムのバンドだけど、毎回ひとつは海外のバンドを招待するようにしている。Pip Blomと僕らとで一緒にライブをやった時にそこでSports Teamと出会ったんだ。
で、IJland Studioの素晴らしい人たちと話して、ここでのライブセッションを記録したいって思うようになったって感じかな。Kilianと僕はライブセッションをアップロードするために不格好なウェブサイトを作ってPersonal Trainerの曲にちなんで"www.theindustry."って名前をつけた。
よければ見てみてよ!さっき言ってたフィルムもあるし、アムステルダムのErik's Houseってリハーサル・スペースで行われたLoose Endsって名前のロックフェスのフィルムもあるよ。質問の最初に名前をあげてくれた、ほとんどのバンドの映像がそこにあるんじゃないかな。


――ライブでもミュージックビデオでもPersonal Trainerはシリアスなだけではなくユーモアがあるような気がしています。今回のPoliticsもユーモアにあふれていました。良ければビデオのコンセプトを教えてもらえますか?

これについてはコンセプトとかアイデアとかはあんまり考えないで始めちゃったかな。Kilianと僕とで1日ドライブして僕がKilianのスーツを着ておちゃらけてただけみたいな。で、アムステルダムを車で走り回ってトレーナーズに会って曲に合わせて踊ってもらうことにしたんだ。その後でグリーンスクリーンの前のテレビ画面に昔の映像を流すってアイデアを思いついたんだ。それで格好良く仕上がらないかなって。でさ、スクリーンを撮っているんだからそれを撮影しているのを見せたら面白いかなって……そんな感じかな。他のPersonal Trainerのやつと同じでそんなに深い意味はないよ。一番大事なのはヴァイヴを感じ取ることが出来るかどうかだよ。だよね?

Personal Trainer - Politics (official video)タイトル写真もここから引用


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