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ベストアルバム 2020


1.Crack Cloud − Pain Olympics

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未来世界のディストピア、SF世界の現実、耐え抜くための拠り所。目の当たりにして目を反らし、救いを求め、信じられる何かを探しすり減る心。反抗は生き抜くための戦いで、逃げ道を塞がれこれ以上どうすることも出来ない。サイバーパンク、極端にならないために、もがき抗う為の物語。過去は俺たちを悩まし未来は疑いに満ちている、だからこそ輝く何かに引き寄せられる。個人、集団、存在、世界、生き抜くための拠り所。


2. Sports Team − Deep Down Happy

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僕にはギターミュージックが必要で、たぶんぶっ飛ばされる必要もある。だからこのアルバムを何度も再生する。最初の叫び声で目的は早くも達成され、その勢いは最後まで保たれる。BlurにPavementにStrokes、暑苦しいくらいに熱く、叫ばれる愛に衝動、ここまでの道筋を記し、これからの行き先をはっきり示す。ギターミュージック、インディーバンド、シーンに幻想、この町にもう愛なんてないけれど、でも望みさえすれば、ロンドンはいつだってそこにある。だからまたひっくり返してもう一度、アァアゥー。


3. Sorry − 925

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本物は決して主張しない。引き算の美学、薄暗い部屋の中で纏わり付く重力、それこそがリアルの重みでSorryは絶妙なバランスでそれを表現する。沈み込むムードに空気、寓話的リアル、感情は熱く、目線は醒めて、それらを物語の中に落とし込む。その中にきっと全てがある、浮かび漂い、話を追う内に理解が深まる良い映画やドラマのような主張をしないメッセージ、これはやろうと思ってもなかなか出来ることではない。Sorryのセンス、嗅覚、そうはしないという引き算の積み重ね。こんなにも色んな要素が入っているのに一つの塊としてまとまっているなんて奇跡に近い。だからこそSorryはこんなにもクールなのだ。本物の、銀の輝き、925。


4.Fontaines D.C. - A Hero's Death

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プレッシャーと期待、2ndアルバムにかかるもの。現状に見向きもせずに、イメージは押しつけられこうあって欲しいと思う期待だけが先行する。それは果たして本当に求めているものなのか?誰が?何を?そこから逃れようとした、解放された、しかし同時に焦燥感もある詩的な美しさがここには存在する。周りの声がより深く自分の中へと潜らせる。弱さを抱えた不良、ヒーローの純粋さ、傷つき、求め、複雑に絡まる心。美しい棺を壊す、変化の意志、旅の途中の傑作。


5. Military Genius − Deep Web

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N0V3L、そしてCrack CloudのギタリストであるBryce CloghesyのソロプロジェクトMilitary Genius 。どこか生き急いでいる感じのそれらとは違いMilitary Geniusの音楽はその先の、死後の世界の音楽だという感じがする。深い闇、辺りには霧が立ちこめて温度はなく、どこに向かえばよいのかもわからず地面を掴んでいる感覚もない。閉じ込められた浮遊感、タル・ベーラの映画のように白黒で重苦しく、言葉が響いて、それだけが現世と繋がっているものだと理解する。マジックリアリズム、カットアップ、意味とは認識、メッセージは普遍ではなくいつだってその隙間から立ち上がる。だからこそ、聞く度にいつも違う場所へと辿り着く。


6. ShitKid − 20/20

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悲しみの距離、時間がそれを静かなものへと変えていく。一人になって、覚悟を決めて、やけっぱちでも恨み節でも、可哀想な私でもない、ニュートラルな意志の力、穏やかで深い揺らぎがこの上なく心をくすぐる。足りないからこそ必要で、ここにないからそれを求める。立ち向かう力と意志、薄汚れたポップ、綺麗なガレージ、その中間で混ざった何か。何か特別、何かが違う。25分の短い時間の中には壮大な物語はなく、小さな部屋の、 心の機微がそこにある。


7. Tiña - Positive Mental Health Music

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60年代後半、70年代初頭のThe KinksみたいなゆるさにBat-Bike時代から続く攻撃性、つなぎ目が感じられない全てがなめらかにつながったこの塊は、暖かい温泉のような趣がある。それはきっと心の温度。どうしてこうなんだと自問を繰り返し弱音を吐くが、決して責めはしない。シリアスなトーンを優しさで割って暖かい桃源郷を作り出す。みんな孤独でみんな悩んで、俗世と離れたようで頭の中はそのことで一杯で、でもそんな風には聞こえはしないし表現しない。それがセンスでそれが選択。繰り返し、再生可能なそれは落ち込みを次第に希望に変える。内向きの逃避、癒やしのプロセス、うまくいかなくとも大丈夫なように、音楽はだからそこにある。心にはやはり柔らかい場所が存在するってそう思う。


8. Porridge Radio − Every Bad

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ひとりよがりの考え、過剰で過激なそれ。行き過ぎて台無しになりそうなところをそうはさせずにポップな楽曲でもって引っ張る上げる。だから痛みが快楽として伝わって、それを受け取り考えられる。伝わるひとりよがり、それは個人の物語として機能する。これが音楽以外の方法で直接的に表現されていたらきっと好きじゃなかった。でもこのフィルターがあるのなら話は別。泣くような叫びに悲しいギター、センチメンタルな楽曲、痛くて甘い紙一重の毒薬・薬、かさぶたをはがすようにして手を伸ばす。


9. Working Men's Club − Working Men's Club

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俺はあんたたちとは違う、そう否定する天邪鬼。サウスロンドンのバンドはチャンスに恵まれただけだし、Speedy Wunderground、Dan Careyのやり方はしたくない。説教臭いバンドはクソだし、マンチェスターは歴史がありすぎて音楽をつまらないものにしている。だから俺がやる、やつらはみんなわかってないから。憧れと否定、創作の根源。New Order、The Fall、Happy Mondays、古のバンドで牙を研ぎ、そして噛みつく。イラ立ち、憤慨、不平に不満、コンプレックスに嫉妬、陰鬱な日常の中で生まれる衝動が世界を変える。Working Men's Club 、シーンを破壊するカウンター、価値とは決してひとつじゃない。否定と肯定合わさって、そうして次へと進んでいく。


10. Jerskin Fendrix − Winterreise

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Jerskin Fendrix 、鉄拳にハローキティにおにぎり、冗談みたいな雰囲気を身にまとい、ひねくれて煙に巻く、ロマンチストな恥ずかしがり屋。さらけ出すのは怖いしダサいしそれだけだとつまらないから、突拍子もまとまりもなく何かを気取って演出する。でもやっぱり中身は漏れ出てくるもの。サウスロンドンのシーンを横目で眺め、時にはステージに立ち誰かの手本にだってなる(ポップアイコンを引用し、それらを混ぜこぜにして自分の周りの世界を描き出すこのやり方はやはりBlack Country, New RoadのIsaac Woodの師匠だということを感じさせる)。

雪解けの道の上に立つJerskin Fendrix、まとまらない世界に思考、MacBookの向こうとこちら、ネットの内側と外側、全部に属してどこにもいない。



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