ベストトラック 2020
1. Drug Store Romeos − Frame Of Reference
素敵。もうDrug Store Romeosを表す言葉はこれしか頭に浮かばない。イングランドはハンプシャー、フリート出身のこのバンド、前身がハードコア・パンクバンドだったってところから始まって、ベースが弾けない女の子がベース募集の書き込みを見てやって来て、メンバーのお母さんが働いている幼稚園でライブをやったとかもうエピソードのどれをとっても素敵すぎる。ロンドンのバンドとは違う郊外の夢見る音楽。違いが洗練されて個性が輝きドキドキし、そして癒やされる。来年出るというアルバムが本当に楽しみ。素敵に最高、今年一番この曲を聞いたとSpotifyが教えてくれた。
2. The Lounge Society − Burn The Heather
クラスメイトが試験を受けている中、ロンドンのDan Careyのスタジオに向かって録った1曲目(校長先生の許可もちゃんともらった)。そこから今度はダンスに向かいより先鋭的になった2ndシングル、この曲で一気に心を掴まれた。
無理矢理あてはめた物語的な見方をしちゃうけど、Dan Careyのやり方を否定したWorking Men's ClubとSpeedy Wundergroundにデモテープを送りDan Careyを頼ったThe Lounge Societyとで対比になっているようで面白い。ロンドンで育ったわけではない田舎の10代の若者がサウスロンドンのバンドやシーンに影響を受けて自分たちもバンドを始める、そういう新しい物語が始まっているようでドキドキする。何度も言うけど、価値とは決してひとつじゃない。
3. Yard Act - Fixer Upper
「そいつはFixer Upperだ」インテリぶった不良が言う。
「Prosecco-O'ClockのポスターはIKEAで半額、実存的恐怖ってやつと上手く調和している」さらりと批判と皮肉がぶち込まれ、ハッタリ効かしケレン味があってYard Actは本当に最高。リーズのバンドで、眼鏡の奥の眼は笑っていなく、冗談を言いながらためらいなくナイフで刺してきそうなそんな感じの音楽。同郷のTreeboy & Arcのメンバーも所属している(Treeboy & Arcも考えてみれば不良っぽい)。今年3曲出たけどどれも凄まじく格好良く、不良というかもはやギャングのよう。ぶつくさとブチ切れるこの魅力、リモートでやったライブもただ部屋にいるだけなのにめちゃくちゃ雰囲気あったもんな。この雰囲気はなかなか出ない、格好いい。
4. Norman −NORMAL HAIRCUT
Norman、あぁNorman。あっという間に解散してしまったブリストルのバンド(でもBlack Country, New Roadパターンで帰って来てくれると信じている)。唯一残したミックステープの3曲はどれもいいけれど、最初のNORMAL HAIRCUTが特にいい。ベースが舞台を作り、そこに喋るようなヴォーカルが乗り、 ギターとシンセが空気を、管楽器にヴァイオリンがアクセントを付け加える。それこそBC,NRのスタイルに近くて、でも舞台劇みたいなBC,NRと比べてNormanの場合はより映像的で、そこで物語が語られるようにして時間が流れる。全てのジャンルは隣にあって、参照点はそこらかしこに、まさしく今の時代の音楽だって感じさせる、解散してしまったバンドの超いい曲。
5. Jockstrap − City Hell
JockstrapのEPも本当に良かったな。ただ美しいだけではなくてそれと同時にザラついた違和感をプラスして多重構造に仕立て上げるこの手腕、この感覚は本当に凄い。Taylor SkyeはMica Leviみたいに将来、映画音楽作ったり、名プロデューサーになっていそうな感じがするんだよね(リミックスの曲も良かったし)。そしてGeorgiaの声がまた素晴らしい。正統な要素があるからこそこの感覚の良さがいきる。突飛なようでそうでもなく、厚みがあるけど重苦しくはなく尖っている、これはやっぱりちょっと凄いよ。
6.Hotel Lux − Ballad Of You & I
Hotel Lux 、今年アルバム出しても良かったんじゃないかって思わないこともないけれど、でもきっと色々あったんだろうし、この曲超良いし、ビデオも素晴らしくて、もうそれだけでOKだって気分にもなってしまう。ギターが響いて語られる物語、それはパブで聞く話のように、いにしえの吟遊詩人のような……いやそれよりずっと俗っぽくイングリッシュネスを炸裂させて……この感じがもうたまらなく愛おしい。
7. NewDad − Blue
アイルランドのNewDad、USインディ/オルタナティブな感じがしてSoccer MammyやSnail Mailに近いような感じもするけど、でもそこまでアクセルを踏み込まないで静かなテンションでバランスを取る(このあたりはSorryのAsha Lorenzっぽいセンスを感じる)。ナイーブな感情をナイーヴなまま抱えて他の何かと混ぜ合わせる、このやり方がとても好き。どこかの世界に持って行かれるような、そんな感覚。
8. The Cool Greenhouse − The End of the World
今年出たアルバムも良かったThe Cool Greenhouse。でもその後に出たAlexa!とThe End of the Worldがそれに輪をかけてさらに良かった。最近のバンドは必ずと言ってもいいほどThe Fallという言葉が枕詞につくけれど、そんな状況の中でこのThe Cool Greenhouseは自覚的にThe Fallたらんとし、そこに今の空気をプラスする。この斜めに構えたやさぐれ具合、まさにこれ。
9. Muck Spreader − Carnal Tongues
クールにくだまくMuck Spreader。サウスロンドンのバンドでその街のジャズの影響下にあるような感じで、King Kruleをもっとズブズブにグタグタにしたような感じもする。スリルがあって、ドキドキして、そしてどこかふざけてる。最初に知ったのが今年の2月で、そこからどんなバンドなのかいまだにつかめてないけどそういう謎なところもなんだか魅力的に映る。やっぱり色んなジャンルがまぜこぜで、そういうところだよなと思ったり。理解と解釈、混ざり合った塊だからこそドキドキする。
10. Personal Trainer − Politics
オランダのインディシーンの中心にいると言っても過言じゃないはずPersonal Trainer。これまでリリースしたThe LazerとかIssue Boxもそうなんだけど、気がつけば一緒に唄っている。Personal Trainerは声を合わせて唄いたくなる曲を作るのが本当に上手い(だからライブが絶対楽しいはずと思いをはせる)。情報を集めて知って考えて誰かと一緒に行動し、その輪を次第に広げていく、そこにユーモアまであるから本当に最高。Personal Trainerは集まることの楽しさを教えてくれるってそんな気がする。詳しく知りたければここにインタビューがあるよ、とついでにちょっと宣伝する。
11. Souki − Miura
イングランドはコヴェントリーのSouki。違うタイプの若さの発露、もっとナイーヴのもっとオタクに。それは教室の隅の妄想のようでも誰かの家で集まって行われる放課後の秘密会議のようでもある。マイルス・デイビスの事故、ランボルギーニ・ミウラを引用しながらも格好がつきすぎることはなく、もっと弱々しく着地する。そうしてそれが愛おしい。複雑に展開し、ナイーヴに落ち着くカウンター。この曲しかリリースがなく誰が唄っているのかさえもわからないけれどちょっと違うって匂いを感じる。
12. Courting - Popshop!
イングランドはリバプールのCourting。どストレートな若さの発露、狙いを定めてぶちかます。鋭く尖って噛みついて、それでいて人懐っこくみんなを寄せ付けるという不思議な魅力。The ViewみたいなThe LibertinesみたいなDavid Byrne's Badsideも良かったけどPopshop!はそこからさらに一歩進んだ感じで、引く時と行く時の攻守の切り替えが素晴らしい(ビデオも好き)。ギターバンドの魅力とはつまりはきっとこういうこと。
13. a fungus - Trace
Personal TrainerのWillem SmitがDIYのインタビューで最近めちゃくちゃ良いバンドを見つけたんだって言っていたのがアムステルダムのこのバンド。そして聞いてみたら本当にめちゃくちゃ良かった。NormanとLegssの間にblack midiを落としこんだみたいなそんな爆発加減に世界の繋がりを感じ、現代のシーンは点でリンクすると理解した(言葉を使わず知らぬ間に伝わる感覚)。どんなバンドか全然知らないんだけど(10代のバンドだっていうのが知っている唯一のこと)次の曲が気になってしかたない。でももう全然違う感じになっていても驚かない。
14. Squid - Broadcaster
疲れた頭にこの上なく響くブライトンのSquidのこの曲。この曲はマジでHalmoniaだって思ったな。Warpと契約して10インチが出て、次はいよいよアルバムかと期待が高まる。カバー曲を聞いてもそうなんだけどSquidはここから一体どうするかって構築することに喜びを見いだすタイプだって思えるからDan Careyとかなり相性がいいんじゃないかって気がしてる。聞いている途中であぁいい……って呟きたくなるタイプのハマったらなかなか抜け出せない暖かい沼地のようなこの感覚。
15.Good With Parents, Triple Stephens − Regicide
Black Country, New Roadのサックス男、Lewis EvansのGood With ParentsとTriple StephensことFelix Stephensの今年出たEP、もうどう聞いても曲が良すぎる。BC,NRの中で音楽的な才能はLewis が一番あるんじゃないかなって思わずにいられないくらいに去年のアルバム、今年のEPと全部が良かった。一緒にやっているFelix Stephensって人はMartha Skye MurphyのYours Truelyでもチェロを弾いていてあんまり情報ないけれどSlow Danceの周辺の人(Slow Dance関係なくともニュアンス的な)なんじゃないかって風に思う。
しみじみとした日常のサウンドトラック、奇抜なことは何一つしてないように思えるのに、それでこんなにも心に迫るだなんて、もう本当に素晴らしい。
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