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脳梗塞 #5-2 アテローム血栓性脳梗塞


1)アテローム血栓性脳梗塞の定義

 アテローム血栓性脳梗塞とは、頭蓋内・頭蓋外の主幹動脈のアテローム硬化性病変を基盤として発症する脳梗塞です。

 アテローム血栓性脳梗塞のMRAです。左の内頚動脈が写っておらず、その分枝の左の中大脳動脈と前大脳動脈も細々としか写っていません。

アテローム血栓性脳梗塞のMRA

 同一患者のMRIです。内頚動脈が閉塞して写っておらず、中大脳動脈と前大脳動脈が細い状況ですが、脳梗塞は内頚動脈の還流域と一致しておらず、脳梗塞は前頭葉と頭頂葉の一部のみです。アテローム血栓性脳梗塞の場合、側副血行路が発達しているため、主幹動脈が閉塞しても他の動脈から血流をもらうことで、脳梗塞にならない部位が起きるためです。閉塞している動脈の還流域と脳梗塞巣が一致しないもの、アテローム血栓性脳梗塞の特徴の一つです。

アテローム血栓性脳梗塞のMRI

2)原因

 最初の契機は、頭蓋内外の主幹動脈のアテローム(粥状:じゅくじょう)硬化です。そして、アテローム硬化を起こした動脈は、動脈の血管内膜が肥厚し、さらには血管内膜・中膜に脂質沈着・細胞増殖が生じてプラークを形成することで、主幹動脈の血管内腔が狭窄し、脳灌流量が低下します。これが血栓性の発生機序になります。また、プラークの破綻によって、プラークのー部が塞栓子として末梢の動脈を閉塞させることもあります。これが塞栓性の発生機序になります。

①アテローム硬化とは

 血管の内膜にコレステロールや様々な細胞が貯まっているおかゆのようにドロドロした病変のことです。

②プラークとは

 プラークとは、アテロームが時間をかけて増殖して、複雑な形態に隆起した病変のことです。プラークにはソフトプラークとハードプラークがあります。
 ソフトプラークとは、不安定プラークとも呼ばれ、比較的新しい血腫、新生血管、リンパ球や炎症細胞浸潤などからなる軟らかいプラークです。プラークの表面を覆う線維性被膜が破綻すると、柔らかいプラークや破綻部に形成された血栓が血流に流れ込み、塞栓源となり脳塞栓症を発症します。
 ハードプラークとは、安定プラークとも呼ばれ、古い血腫や石灰化などからなる硬いプラークです。硬いため破綻することはは少なく、塞栓源にはなりにくくなります。

3)臨床的特徴

①前駆症状があり、脳梗塞の約15~50%に一過性脳虚血発作(TIA)がみられます。狭窄部のプラーク表面に生じた血栓やプラーク破綻によるアテローム内容物が、遠位に飛散して末梢の脳動脈を閉塞させ脳虚血を起こし、その後自然再開通をして症状を消失させます。

②血栓による脳梗塞は睡眠中、あるいは起床後まもなく起こり、進展することが多いです。

③症状の時間的変化は、数時間~数日かけ改善と急な悪化を繰り返しながら、階段状に進行します。これは、抗血栓療法などの保存的治療を開始しても主幹動脈の狭窄・閉塞病変は変化がなく、虚血が広がるためです。

④神経症状は梗塞の部位と大きさ、側副血行路のでき方などで決まります。側副血行路が未発達の場合、大脳皮質を含む比較的大きな領域に脳梗塞を起こします。

4)診断・検査

 脳梗塞の診断および部位の確定には梗塞巣をとらえる拡散強調画像を含めた頭部MRIを施行します。さらに血管のアテローム硬化の診断、血管の狭窄閉塞の評価が必要なので、頭蓋内血管の評価としてMRAを同時に行います。

 頚動脈プラークが安定プラークなのか不安定プラークなのかを評価するために、頚動脈工コーと頚動脈MRA(プラークイメージ)を行います。頭蓋内血管をさらに詳細に評価したい場合や、頚動脈工コーでは観察できない範囲の頭蓋外頭頚部血管(大動脈弓部より頭側)の評価のためには3D-CTAを行うこともあります。

 治療方針の適用や、血行力学的虚血の評価のために脳血流SPECTを行います。脳血流SPECTとは、脳の各部における血流状態や脳の働きを診る検査です。頭部MRIのASL(arterial spin labeling)で脳血流を評価する方法もあります。

脳血流検査(SPECT)

5)治療

①薬剤

 抗血小板薬は、内服だとアスピリンクロピドグレルシロスタゾール、点滴ではオザグレルナトリウムなどがあります。アテローム血栓性脳梗塞の急性期の点滴治療はオザグレルナトリウムを投与することはあまりありません。

 活性化血小板からは凝固惹起物質が放出され、凝固系を介した連鎖反応的な血栓形成進行が起こるため、抗凝固薬であるアルガトロバンを投与します。同時に、抗血小板療法も行います。血管狭窄部位・プラーク破綻部位では血小板凝集を活性化し、血小板血栓の形成が促進され症状の増悪や再発が生じるため、これを防ぐ目的で抗血小板薬の内服を開始します。クロビドグレルは初回投与から効果発現に時間がかかるため、初回に300mgの大量投与を行います。急性期においては症状が進行することも多いので、強力に血小板作用を抑制するために、DAPT(dual antiplatelet therapy)と呼ばれる抗血小板薬二剤を投与する治療が行われます。アスピリンとクロピドグレルを投与します。

アテローム血栓性脳梗塞で使用される抗血小板薬/抗凝固薬

 工ダラボンは、脳虚血急性期に発生するフリーラジカルを取り除<ことで脳保護を行う薬剤で、発症後24時間以内の脳梗塞症例を対象に投与されます。腎機能障害がある場合は禁忌事項になりますので、問診による既往歴や採血データによる腎機能障害の確認が必要になります。

 一般的にはソフトプラークの方が脳梗塞発症リスクが高いとされています。このソフトプラークを安定化させ、内中膜肥厚を抑制するために、脂質異常症に対する薬剤であるスタチン製剤が使用されます。

②血圧管理

 脳梗塞急性期に血圧が高くなっていることがありますが、脳梗塞急性期の時期は、血圧は降圧しないのが原則です。これは脳梗塞時には脳血流を一定に維持しようとする脳循環自動調節が破綻するために、血圧を下げるとそれに伴い、脳血流も低下して梗塞巣の拡大をもたらし、症状が悪化するのを予防するためです。特別な降圧理由がない場合は、収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgまでは降圧をせずに経過を見ることがー般的です。

 脳循環自動調節能(autoregulation)とは、脳血管抵抗を変化させることで血圧が変動しても、脳血流を一定に保つ働きのことです。身体の血流量は、―般的に血圧が下がると減少し、血圧が上がると増加します。しかし、脳の血流量は、血圧の変動によってその都度変動を起こしていては、脳は安定して活動ができません。そこで、脳循環自動調節脳が働き、血圧が下がっても、脳血管が拡張することで抵抗を減らし脳血流を保ち、血圧が上がっても脳血管が収縮することで抵抗を増やし、脳血流増加を抑えます。

脳循環自動調節能

 自動調節能には限界があります。血圧が一定範囲内(60~160mmHg、脳灌流圧として50~150mmHg)なら血流はほぼ一定ですが、この範囲を超えると変動します。また脳血管障害や外傷などで自動調節能が障害されると、血圧の上下で脳血流が変動してします(血管運動神経麻痺)。

③安静度

 頭部挙上や安易な安静度拡大によって起立性低血圧などが起こり、脳血流が低下する可能性があり、安静の拡大、体位管理について慎重に行う必要があります。起立や坐位時は血圧測定を行い、血圧低下がないかを確認して起立座位保持を継続します。起立座位保持後も頻回に血圧測定と症状の観察を行います。

側副血行路とは

 側副血行路とは、主要血管が閉塞した場合に、脳血流を維持するための血行路を代償する新たな循環経路のことです。下の画像は3DCTAで、顔の正面から見た画像です。赤丸で囲った部分が右の内頚動脈がある位置ですが、閉塞しており、映っていません。しかし、その分枝である右の中大脳動脈と前大脳動脈は映っています。これは側副血行路を使って、新たな循環路を形成しているからです。左の循環路から前交通動脈を介しての血流をもらったり、後方循環から後交通動脈を介して血流をもらったり、脳の表層にある動脈(黄色の枠)から血流をもらったりしています。

側副血行路

 側副血行路の循環は本来ではない循環路のため、血圧が低下すると血流が低下して、脳梗塞が拡大してしまいます。そのため、アテローム血栓性脳梗塞の急性期では血圧管理が非常に重要となります。

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