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片麻痺による肩手症候群

なにが彼らに痛みを与えているのか。

はじめに

「指は動くけど、肩と手首が痛くて普段使えない」

去年の秋頃、初回体験(自費リハ)を受けにきた方が肩手症候群(SHS)の方でした。

彼は左片麻痺を呈しており、予後として実用手は間違いないと一連の動きですぐわかるレベルに末梢の機能は保たれていました。

しかし、上肢を挙上すると肩関節屈曲角度は20°と満たないレベル…
回復期病院では、肩の痛みが強い為、手のリハビリは進まず、
あの病院のリハビリのやつらは流れ作業みたいにリハビリをするんだ。やる気のないやつばかりだったから医者に頼んで退院させてもらった」と不満ダダ漏れで来所しました。

僕の主観ですが、そんなセラピストいないと思います。ごく稀にそういう人もいると思いますが、担当する患者の背景が、若い、復職を望んでいる、麻痺症状がはっきりしている方に、いい加減なセラピストを担当させる上司がいるのか疑問です。

では、なぜそういった事態になったのか?

理由は2つ考えられます。

①病態の説明が不十分
この方は「なぜ痛いor動かないのか」「どうすれば良くなるのか」「どのくらいで良くなるのか」と何度もTELでの問い合わせから聞いてきました。
このことから、医者もセラピストも痛みの原因や具体的な治療、期間を共有していない、もしくは不足していたことが伺えます。
②セラピスト自身の知識不足
この方からは「肩を揉んだり、さすったり、温めたり、お手玉を握ったりしてたけど、こんなんで治るとは思えなかった」とお話を伺いました。
全てが悪いわけでは無いと思うのですが、その現象(痛い)に対して、どういったメカニズムで生じ、何をすれば改善するのか、その疑問を掘り下げる為には、その病態の知識を身につけなければいけません。

やることは1つです。
知識を身につけ、それを実践しましょう。

病態解釈/仮説

これはあくまで仮説ですが、

引き金は、浮腫です。

機械的な何かの作用or組織や神経が損傷し炎症が起きる
② ①から浮腫が生じる
③ 片麻痺では「手や腕の運動性低下から筋のポンプ作用が不十分となり、浮腫を解消できない
④ その後、浮腫/痛み/可動域制限/交感神経の関与が悪循環となり、手の不使用から最悪、永久的で不可逆的な変形が生じる

では、なぜ浮腫が生じるのか、考えましょう。

原因

1.圧がかかった状態で手関節の掌屈が長時間続く
 ベッド上、車椅子上など、麻痺側を管理せず、手関節掌屈を強いられている。結果、手関節掌屈が強制され、手の静脈血の戻りが制限される。
 
2.手関節を過剰に伸張する事で、浮腫と痛みを伴う炎症反応が生じる
 
セラピストが最大可動域を超え、無理に動かすと関節やその周囲の構造体を傷つける。


3.輸液が手の組織に漏れる
 
輸液が必要な場合、医師は麻痺側で行う(非麻痺側にすると患者はベッド上で何もできなくなると考える為)。

予防

浮腫を起こす原因を全て取り除くこと

✔️ ベッド/車椅子上でのポジショニング
✔️ 麻痺側への荷重は、予め非麻痺側と比べ、患者個人の可動域を評価してから行う
✔️ 輸血の場所は、麻痺側の手を使わず鎖骨下静脈を使用する
✔️ 患者、家族、スタッフに手をわずかでも傷つける恐れがある危険因子を十分に知らせる
↪︎特に、運動性が高かったり、上手く話せると「患者自身で管理する能力を過大評価しがち

Braus(1994)らは
『上述の注意事項を実行する事で肩手症候群の発生頻度を27%(36/132)から8%(6/86)に減らすことができた』と報告。

治療

Evans(1980)は
『炎症性の浮腫に対して、基本的な治療方法』をまとめています。
 
「MICE」
M : 穏やかな筋の運動
I : 氷水で冷やす
C : 圧迫
E : 挙上

上記を踏まえて、治療例いくつかを挙げていきます。

麻痺側上肢の管理指導
ベッド上でのポジショニング、車椅子座位でのテーブルの使用、起居移乗動作の方法など…

手関節の掌屈を避ける
スプリントor弾性包帯の使用

遠位から近位は圧をかけながら紐をぐるぐる巻きつける
Cain and Liebgold(1967)は、
『末梢性の浮腫と、それに伴う有害な合併症を軽減する上で、末梢から中枢に向けて指趾や四肢に紐をぐるぐる巻きつける方法は、簡単で、安全で、かつ劇的な効果があることが明らかにされている。』と報告。

ビックリするぐらい変わりますが、誰もやっていない中でこれをやるのは中々ドキドキしました(笑)。


氷水の中に手を漬す

能動的運動
患者が随意的な運動が得られる課題や肢位を選択し、能動的な活動を取り入れる。

浮腫を減らすには、やはり筋ポンプ作用が最も有効だと思います。

他動運動 ❌
炎症中は原則行わないことが望ましいです…

神経モビライゼーション、リンパの流れを確保、振動刺激による血流改善など…あとは手技が中心です。

症例に行ったこと。

維持期の症例なので、参考程度に
『評価は手指〜手関節の浮腫、手関節背屈時に疼痛+制限あり、肩関節他動で40°程度、肩甲上腕関節包等隣接筋の短縮から上腕骨頭が内旋し、運動連鎖から手関節の掌屈位となり、屈筋群の伸張反射の異常と混合する事で血流不全から浮腫、疼痛の流れと仮説。治療は、鍼灸での腸内活動促進から血流循環を改善、プレーティン(プレートという道具を使う手技)にて振動刺激から関節包周囲の短縮を取り除き、肩甲骨上腕関節の内外旋方向の滑走を円滑にし、プレーシングの中で尺側から運動方向の知覚を促しつつ、屈筋群の長さを作る。その後、肩関節への身体図式の逸脱が見られる為、非麻痺側との比較学習を経て挙上に伴う肩関節の空間認知能力を学習して頂く。最後に、上着を着る際の衣類の擦る感覚を求めながら肩周囲から肩甲帯の筋出力を求めつつ、日常動作での麻痺側の活動を促した。結果、疼痛消失、挙上160°まで可能になる(初回体験の流れです)』

おわりに

自信を持って「あなたは良くなります」と伝えたい。
麻痺となり、手足が動かず、痛みに耐える毎日、将来の不安で押し潰れそうな方たちに、この一言がどれだけ心強いか。
そう言えるセラピストになる為に、学びが必要だと毎日思います。

患者にとってセラピストの存在は希望です。

希望に答えたい、その為に走り続けます。

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