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片麻痺の観察と訓練【訓練編】

片麻痺の観察と訓練【観察/分析編】の続きから投稿させて頂きます。

前回までは、情報収集から問診、観察、分析の順番に、『観察とは何をみればいいのか?』に対しての内容を投稿しました。

本日は、観察で得られた情報に対して『訓練にどう結び付ければいいのか』を説明させて頂きます。

1.訓練は何のために行うのか

訓練は、観察と評価から得られたものであり、その始まりは必ず患者の生活や行為に繋がるものでなければ、何の意味も成しません。断言します。

どんな病態であれ、患者の生活が改善しなければ、それはリハビリテーションとは言えません。

セラピストは、『患者の生きていくうえで何に困っているのかを傾聴し、その原因をいかに専門的かつ、根拠のある方法で構築していくのかが仕事』です。

患者の悪い箇所を見つけて、部分的に改善することはセラピストのエゴでしかないです。観察から訓練まで、患者の希望に合わせた内容を提供しなければ、なんの意味も成しません。

2.訓練の選択(洗練されたものを目指すには)

観察で得た内容はあくまで「仮説」です。

患者はなぜそのように動くのか(話すのか)」、この問いに対して、セラピストは観察結果をもとに選別した評価を実施し、その結果から『仮説』を構築します。

たとえば、左片麻痺の患者が、問診の時に「1人で歩けるようになりたい」と聴取した場合、まずは歩行を観察する。
その際、左立脚期が短く、体幹が麻痺側に崩れている場合「なぜ、そのような歩容になるのだろうか」と疑問を持つ。
この疑問に対して仮説を立てる為に評価を考える。
筋力や可動域を中心に評価をすれば「体幹筋や麻痺側下肢の伸筋群の出力低下」と仮説が構築され、感覚や高次脳機能を中心に評価をすれば「麻痺側下肢の深部覚の低下や、正中軸のズレ」と考えるかもしれません。

このように、仮説が異なれば、行う訓練も異なります。
筋力が問題と思えば、筋力トレーニングが中心となり、感覚が問題と思えば、健側との比較学習が行われるかもしれません。

つまり、観察から何を考えたかに加え、どのような評価を行ったかが、そのまま訓練の幅を決定することになります。

ここでの落とし穴は、多くの評価を行い、膨大な情報量になったとしても、それを訓練に落とし込めない、最も多いのが自分の思考の癖に引っ張られ、評価結果を活かせないセラピストが多いです。

ここで重要なのは
 患者の病態と、その患者をどう観察し、どの評価を実施したか
 どの様な仮説を立てたか
 その結果、どうだったか
この3つの経験がセラピストの財産であり、患者の改善の可能性そのものです。

この流れを大切にし、1人1人の患者と向き合ったかがセラピストの価値を決め、その経験があるほど、患者を多角的に観察でき、様々な評価が浮かんできます。

その結果、訓練は的確なものに洗練させていきます。

その為にも、『患者の希望に合わせて行う』という一貫性を持つことが大切です。

3.訓練はあくまで訓練であることの自覚

リハビリが頻繁にぶつかる壁、『リハビリではできるけど、普段はできない』という問題。

この問題点を以下にまとめます。

 リハビリで出来るようになる事が目標になっている
 日常生活をイメージした観察/評価ができていない
 訓練と日常生活での行為とのつながりが理解できていない

これは、患者もセラピストも同様に、3つの自覚が不足していると考えられます。

❶ あくまで最終目標は日常生活の行為を変えることの自覚
❷ 観察しているのは日常生活での動作/行為ではなくリハビリ室での行為であることの自覚
❸ 訓練はあくまで訓練であることの自覚

これらの自覚がないと、観察/評価から訓練、さらに日常生活への汎化は難しいです。

1つずつ解説していきます。

❶あくまで最終目標は日常生活の行為を変えることの自覚

ここは、セラピストの方が欠如しているケースが多いです。
長期目標を見据え、短期目標を達成するプロセスを持つのがリハビリですが、その目標がリハビリ内で行えることになりがちです。

たとえば、「安定して麻痺側下肢に荷重する事ができる」では、日常生活への変化がわかりにくく、ぼんやりしたものになります。

これでは、リハビリ内で出来たとしても日常生活に汎化させるのは難しいです。

その為、目標はあくまで日常生活の行為であり、いま行っている訓練によって、その行為がどう変化するのかをセラピストはもちろん、患者側も理解しなければいけません。

なので、「安定して麻痺側に荷重する事ができる」の目標ではなく、「トイレで下衣更衣を行う時に左右均等に荷重ができ、安定して行える」というように具体的に提示する事が大切です。

❷観察しているのは日常生活での動作/行為ではなくリハビリ室での行為であることの自覚

現実的に日常生活の動作や行為を見るのは難しいです。

その為、病院であれば看護師と連携し、生活期であればご家族との関係性の構築が重要です。
ここである程度の情報収集ができます。

また、患者自身に対して『日常生活といまリハビリで行った動作に差があるかどうか』を聞くことも有効です。

この比較を通せば、いま行ったリハビリ内での行為だけでなく、日常生活での行為に関しても考える事ができ、2つの差が分かれば、患者自ら日常生活での行為を考えながら行えるようになります。

これはまさしく、患者の意識経験の変化であり、自律性の獲得に繋がります。

❸訓練はあくまで訓練であることの自覚

❶と❷の総括になりますが、訓練はあくまで訓練であり、
日常生活の動作とは別物であることを自覚しなければいけません。

この問題を解決するには2つの方法があります。

1つは「環境設定の類似点」を作る
できるだけ『類似』した環境に近づける事が必要です。
自分の日常生活の環境と『類似』しれいればするほど、日常生活への汎化が期待できます。
2つ目は「訓練と日常との類似点」の共有
リハビリ室と日常の行為は別物ですが、似ている部分もあります。この似ている部分の共有が必須です。

共有することは、『この訓練の「何が」行為に使えるのか』です。この「何が」の部分が、訓練と日常の行為を繋ぐきっかけとなります。

おわりに

読めば当たり前の事が書いていますが、この当たり前の事が難しいのが臨床です。
改善できるセラピストとできないセラピストの違いは何か。
ここができるだけで、グッと臨床力が上がるので、ぜひ実践してみてください。

患者さんを変えれるのは、目の前にいるセラピストだけです。
どんな些細な情報も見落とさず、患者さんのポテンシャルを最大限引き出しましょう。

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