整形外科看護師、乳がん支援を考える

はじめまして、michicaと申します。
26歳の現役看護師で、現在は整形外科病棟にて勤務しております。
私は病気をしたこともなければ周囲に医療従事者がいないにも関わらず、幼少期からなぜか看護師になりたいと言っていたらしく、その信念のまま高校卒業後三年制の看護学校へ入学し、21歳の春、晴れて看護師になりました。
真面目な性格もあり実習成績は問題なく、国家試験もとても良い点数で合格しました。私が通っていたのは留年、退学者が非常に多い厳しい看護学校でした。メンタル面が弱かったため在学中は大変苦労しましたが、それを除けば生徒としては割と優秀なタイプであったと思います。
物心が付いたときから看護師になりたいと思っていたので一番最初のきっかけは不明確で、漠然と病気の人のためになりたい!と考えていましたが、17歳の時に近親者が乳がんを罹患したことで乳腺外科に興味を持ち、乳がんの手術件数が多い国立病院の外科病棟に勤務することになりました。

それがなぜ、整形外科勤務?
理由は単純に、新卒で入職した外科病棟のある病院を早期退職したからです。
具体的な内容は割愛しますが、メンタル面の弱い私には無理だと思ったんですね。みんなが耐えられていることが出来ない、思うように勉強が進まない、疲労が溜まりやすい、人間関係、始めたばかりの一人暮らしになど、色んな要因がありました。
仕事で体調を崩してしまった私はこれからは私生活を大事にしたいと思い、退職後は比較的落ち着いた個人病院に転職し、手術や積極的治療を行う段階ではない、慢性期、終末期というステージにあたる患者と接する環境で仕事をしていました。しかし先述した通り、乳腺外科での勤務にこだわりを持っていた私は心身の回復と供にもう一度自分がしたかったことにチャレンジしたいと思い、知人の後押しを受け、総合病院に転職することを決めました。それがちょうど一年前です。配属希望はもちろん外科病棟。乳がん認定看護師も在籍しているその病院でなら患者の意思決定の支援方法、術前術後の心理的サポートなどの経験を積めるとわくわくしていました。しかし決まったのは、外科は外科でも整形外科への配属。私の経歴が即戦力にはならない中、春に入職した新卒看護師の指導も行っていく必要がある病院側としては急変が少なく比較的働きやすい整形外科へ私を配属としたのだと思います。これでは転職した意味がないと落胆しました。

やりがいが見いだせない
この一年、私は業務に慣れることに集中しましたが、気分はとても不貞腐れていました。中途入職で待遇も悪い、仕事は楽しくない、何よりがん患者と接する機会がない。骨折の接合術、人工関節置換術、上肢から下肢までただひたすらに骨、骨、骨。手術とその後のリハビリテーション。同業者なら分かるかと思いますが非常に独立した科である整形外科は病気を看ているのとは違う感覚でした。
忙しい仕事に慣れるという意味ではとてもありがたく、人間関係にも恵まれ、ストレスなく働けました。しかし自分が個人病院の正社員を辞め、待遇も下げた中で働くにはどうしてもモチベーションを維持できず、業務に慣れたこの半年ほどはよく愚痴をこぼしていました。しかし両親、友人含め最初の病院を体調不良で退職した経緯を知っている人は私が大きな悩みがなく働けていることに安心してくれていたので「まあ、そんなに乳腺外科にこだわらなくても良いんじゃないの」となだめられることが多かったです。私自身も、心配してくれていた人の気持ちを感じ、いずれ異動も来るだろうし、今は現状満足するべきなのかなと思うようになりつつありました。

とある知人の助言
そんな中私の転職を後押ししてくれた知人が、夢について考える機会を設けてくれました。その知人は様々な相談に乗ってくれる中で「自分がどうありたいのか」を議題に、今出来ることは何かを一緒に考えてくれました。私は医療者であり、看護師という職に就いているため「看護」に焦点をあてることばかりを考えていました。しかし、心のどこかではまた失敗するかもしれない、看護師は向いていないのかもしれない、という迷いもありました。私は元から、急性期でエースになれるような看護師がやりたいわけじゃないんです。急変に強く、鋭い洞察力を持って、医師と意見を交わせる。誰からも頼られような人をエース看護師と私は認識していますが、実際自分が目指す先はそこではないなと思いながら、急性期に飛び込んでいたのです。
正直、看護師は忙しいです。入退院、緊急手術、検査などをこなしながら患者としっかり向き合うのはとても難しい環境にある現実に苦しんでもいました。業務に慣れて、経験値を積むこと。そして余裕が出来るようになれることばかりを考えていましたが、知人に自分の気持ちを話す中で、私が大切にしたいのは病気の人と向き合い、その人の不安や気持ちに寄り添いたいと思うことでした。もちろんそれは元から自分が大切にしていたことであり、助言なくしても明らかではあったのですが、その知人は「看護師という枠にはまる必要はない」「経験や知識も大切であるが、悩み病める人たちととにかく関わることが重要である」「そしてその関わりは病院に入院している患者にこだわらなくても良い」と言いました。乳がん患者の支援は病院以外でも出来る、そう気付かせてくれました。

患者は今日も明日も闘い続ける
今世界中を混乱させているコロナウイルスの拡大。
世間のニュースはそれで持ちきり、国や政府、そして国民が最も関心を向けている問題であります。しかしそれでもなお、整形外科病棟には毎日膝や股関節の手術をしに患者が来院します。人の出入りを減らすという点では、命に直結しない疾患の予定入院は延期する方向の方が良いのではないかと思いました。これは私以外からも聞く本音でもあります。医療従事者差別もある中、わざわざ急を要する疾患ではない手術を目的に、病院という場に来るのは患者にとっても控えたいことではないのかと思いましたが、キャンセルはほとんどありません。実際に「病院になんか来たくない」と言われる方もいらっしゃったので、患者の入院を受け入れている際、ふと交わした会話の中にコロナウイルスの話題が挙がったため、それとなく入院される決断をされたことについて聞いてみました。すると患者はにこりと笑って「だって、膝がこんなに痛くて曲がらないんだもの。私、手術を待っていたのよ」と言いました。
1985年にアメリカ対がん協会の医師が陸上競技場を24時間走り続けて寄付を募ったことから始まった、リレー・フォー・ライフ。「がん細胞は24時間眠らず、がん患者は常に闘い続けている」というのをスローガンに行われているチャリティ活動を思い出しました。脊椎疾患や骨転移を除き、整形外科に来る患者は、寝たきりによってADLの低下を招くような骨折以外は予定入院を延期しても良いかもしれません。しかし、24時間闘うという観点では、がんだけでなく全ての疾患においても言えることであると思いました。患者は膝の痛みを訴えています。命には関わらないけれど、その人にとっては大事なことなのだとはっとしました。コロナウイルスの拡大は世界規模の大きな混乱。しかし、病気の人の、それ以外の問題がなくなるわけではありません。患者を取り巻く全ての背景をきちんと見通す重要性を感じました。
もちろん、医療機関で働く看護師として、コロナウイルスの拡大問題は重くとらえており、生命を脅かす危機であると認識しています。基礎疾患がある患者が感染しては、重症化リスクも跳ね上がります。私たち医療者も常に危険にさらされています。専門職としての誇りを持ち、対策を徹底することは不可欠であります。しかし、様々な機関やイベントが自粛される中、がん患者コミュニティの座談会、交流・講演会なども中止されていることにより、患者の拠り所はますます減っていきます。それでも、病気は待ってくれません。何も知らない人からすれば、なぜあえて今乳がん患者の支援をしようと思い立ったのかと思われるかもしれませんが、このような環境だからこそ、出来ることを考えていきたいと思いました。
自粛ムードの中、様々なことのオンライン化が進み、自宅で楽しめる娯楽やリモートワークが増えてきました。私は今後、病院の看護師として働くとともに、そういった活動を医療の場でも出来ることを検討し、提供出来るように努力したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?