「もし男女逆転だったらどう思う?」それは、実は不均衡な基準である

『炎上CMでよみとくジェンダー論』を読みました。
2020年5月発行の書籍であり、近年の炎上CMをジェンダーの観点から解説されており、大変わかりやすい書籍でした。


CMや広告、コンテンツを見て「なんだかモヤっとする。でもなぜなのだろう」という気持ちを、見事に言葉で表してくれます。
表現上配慮すべきことは、日々猛スピードで変化していく中、ジェンダーや差別、性的役割に関する知識や、気を付けるべき点など、コンテンツ制作に関わるすべての人が読んでおくとよいのではないかと感じました。

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特に印象的だったのは、「サラリーマン川柳が自虐で笑える理由」です。男性の場合は、コンテンツの中で多少ぞんざいに扱われていても「自虐」が成立し、炎上しにくいという点です。書籍では「サラリーマン川柳や、お笑いには、自虐ネタと上司を揶揄する表現が多い。それは権力を持つ側をからかうので、人を傷つけずに笑いがとれるからではないか」というようなことが書かれていました。

これが逆に、立場の弱いもの(例えば女性や新入社員など)をいじったりネタにすると、切実すぎて刺さる人が多くなってしまう。いわゆる「シャレにならない」ということですね。私自身、コンテンツを制作する際には「もし男女逆だった場合でも不快な表現ではないか」はよく気にすることではありますが、「権力を持つ側はどちらか」このバランス感覚は覚えておかないといけないなと思いました。
男女のパワーバランスは、近代においては本当に不均衡なものでありました。だからこそ、表現する際にはその「不均衡なバランス」の上でも成立するのか。不均衡だったバランスを、本来の形に戻すような作用があるのか。そういった点を気にしながらコンテンツ制作をするべきだな、と感じました。

女性に関するCMやコンテンツが炎上しやすいのも、社会において「女性の権力を持つ場面が少ない」からこそ、「こんな表現、一般化してしまったらシャレにならないではないか」ということで、抗議の声があがってくるのですね。

上下関係で行けば、部下が上司に「いいかげんにせぇよ!」とツッコミを入れたとしても「仲の良い師弟関係」に見えますが、上司が「オイコラ」と部下をいじっているといじめやパワハラになりかねないということです。

例えば、町おこしの女性キャラクターの体形や服装の訴求、一つとっても、単純に「男性キャラが上半身裸でも気にならないでしょ?女性キャラの露出が多かったり、胸が大きいだけで批判するのは逆差別では?」等、そんな単純には言えないのですね。男性と女性では、今の社会では性的に消費される側と、消費する側の力関係に大きな差がありますから。もちろん、「男性だから裸でも気にするな」と申す気はありません。男女ともに、同じように配慮されるべきです。

これから長い歴史で不均衡であったジェンダー感の権力関係が修正されて、「もし男女逆転したら…」と単純に考えても問題のない、無摺「男女逆転…」という考え方をしなくてもいい社会になってほしいですね。

ああなんだか、うまく言えないな。(汗)


「コンテンツを作る側」には、社会の空気を変えてしまう力があります。アニメ、CM、小説、歌…。ひとつひとつのコンテンツが「こういうものだ」という常識を積み重ねてしまうのです。
私自身、クリエーター、編集者のはしくれとして、より世の中が過ごしやすくなるような、時代に合ったコンテンツを作っていきたいと感じます。
また、1人の女性として、あらゆるコンテンツや広告に着目し、違和感のある者にはNOを唱えていきたいです。

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最後に、「言葉は時代とともに変わっていく」で記された例が印象的でしたので、抜粋させていただきます。

・消防士 fireman→firefighter
・警察官policeman→police officer
・会社員buisinessman→buisinessperson
・議長chairman→chairperson
・客室乗務員stewardess→flight attendant
・黒人 black people→african American
・クリスマス Merry Chrystmas!→Happy Holiday!
(ユダヤ教やアフリカ系アメリカ人に配慮して)

・婦人→女性(80年代以降)
※既婚の女性を差す、女がほうきを持っているのが字源のため
・女性問題→男女共同参画(1991年以降)

3人称単数は
he or she
her or him
she/he
等、性別を限定しないものに変化し2010年代半ばよりtheyも使用されるようになった。
Mr.Ms.についてジェンダーにとらわれないよう、日本語の「○○san」が使われていることもあるとのこと。

巻末には炎上CM集もあり、大変読みごたえがありました。

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