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女性が出産するかどうか、選ぶ時代に「出産を選んだファーストペンギン」は、無事じゃなかった?


山口慎太郎氏(東京大学経済学部経済学研究科)による『「家族の幸せ」の経済学』についての講演を拝聴しました。

講演会ではご自身の著書でも述べられている内容を元に、経済学に明るくない私にとってもわかりやすく1時間半の講演内容は大変参考になった点が多くございました。

すべてを書き残したい気持ちを抑え、特に印象に残った点を記しておきたいと思います。

講義は大きく2点に対して触れていました。

■進まない男性育休取得の現状
■保育園で親子が育つ

書籍にはもっとたくさんの統計に基づくお話がのっているそうなので、早々に購入して拝見したいと思います!

「北欧と日本は国民性が違うから…」という言い訳は通じない

北欧の「男性育休」の変化についてのお話です。
フィンランドでは2013年の男性育休取得率は約83%。それに対し日本の男性育休取得率は2017年のデータで約5%。
このデータだけを見ると、「北欧の先進国は違うな…日本人が追い付くには百年くらいかかるんじゃないか」と思ってしまいがちですよね。

「忙しいし、周りの目もあるし、男性育休は取りにくい」という、日本にただよう「育休取りにくい」空気感。

海外は「自分の意見をはっきり言う」お国柄だから、男性育休取得率もあがったんじゃないの?という「国民性」に偏った結論を出しがちですが(私もそうです)、山口教授が提示したデータは、私の浅はかな考えを覆す内容でした。

わずか20年前、先進国である北欧やフィンランドでの調査でも、「忙しいし、育休をとる雰囲気がない」と、今の日本と同じことが言われていたそうです。しかしその後、政府の施策により、男性育休の取得率は北欧諸国において大きく変わりました。

例えばノルウェーでは、1993年に「パパクオータ」が導入され、父親だけが取得できる4週間の育休制度がスタート。4週間分の給与はなんと100%保証。これは育休をとらない方が損ですよね。
今まではパパがとってもママがとってもOKという内容でしたが、それだとどうしても「出産した女性」が育休を取る方向へ傾いてしまいます。
パパクオータ施策が始まった翌年、男性育休取得率は2%から33%まで急上昇しました。

当時の調査では、育休取得率が上昇しない原因の一つに「忙しいし、育休取りにくい雰囲気」が上がっていたそうです。まさに今の日本と同じですね。という時期を経て、北欧諸国では80%台まで育休取得率が伸びてきたんだそうです。

私自身もつい思いがちな「周りを気にする日本人には難しい」という思い込み。そこで思考停止するのではなく、原因をしっかり見つめたり、成功事例から学ぶことがとても重要だと感じました。

育休は伝染する

興味かったのは「男性育休は伝染する。しかも、影響力の輪には、関係性が重要だ」というノルウェーの研究結果があることです。

・義理の兄弟や近所の人の育休取得→影響なし
・同僚や実の兄弟の育休取得→育休取得率が11~15%上昇
・上司が育休取得→同僚が取得した場合の2.5倍!

つまり、上司が育休を取得するとそのあとに男性育休の取得が続く効果が、非常に高いというのです。

2020年1月に小泉進次郎環境相が育休取得をしたことの影響力が、日本にとって今後どれほど大きくなるのでしょうか。
トップが、上司が、影響力の高い人物が制度を利用するということは、新人や部下に育休をカタチだけ数日取得させるよりも、はるかに効果が高いのですね。

また、最初に勇気を出して育休取得した人が「無事であること」がとても大事だそうです。その会社で最初に男性育休を取得する人は、いわゆる「ファーストペンギン」ですよね。

33%のファーストペンギンによる飛び込み(育休取得)を見ていた周りのペンギンたちが、「無事だった」ことを見て続いて飛び込んでいった(育休取得に踏み切った)と考えられているそうです。

ハラスメントされてない、減給されない、いじめられてないという状況を「育休取得しても安全だ」と認識して育休を取得していくわけです。とても興味深いですね。

女性のファーストペンギン達は無事じゃなかった?

今回のお話を聞いたとき感じたことです。

私は女性で、育休も時短も取得したので女性側の視点にどうしてもなるのですけどね、「女性の出産」に関しては「今の時代のファーストペンギンが無事じゃなかった」のを目の当たりにしている人が多いのではないかと感じます。
「今の時代」というのは「共働き、"女性の"育休が当たり前になった時代」のことですね。

日本の出生率は下がり続け、少子化は加速しています。
昔と違って女性は「自分が出産するかどうか」を選べる時代にもなりました。
女性達は自分事なので、先輩社員や近い女性が出産して「無事かどうか」を冷静に見ている人も多いと思うんですよね。

そして「育児と仕事」のダブル負荷に耐え切れずキャリアを諦めたり、出世できなかったり、自分の時間、金銭的余裕が著しく削られていたり…そんな先輩女性をみて「出産したら無事ではないのか」という現状を見ているように思います。

そして「出産はまだやめておこう」という気持ちが伝染していくのではないか…。

女性の出生率に関する統計上のデータは見ていないですし、あくまで「感じたこと」ではありますが、女性の出産に関しては、今、「雰囲気の伝染」が悪い方向で進んでいるのではないかなと感じます。

私も一人の出産経験者として、子育てに明るい社会を作る一員になりたい、出産したあとにプライベートも仕事も充実し「出産しても女性は無事なんだ」と後輩女性が認識できるように自分から、自分の周りから少しずつ変えていけたらいいなと思って行動していきたいと思います。


保育園に預けることは、母にとっても子にとってもプラス

幼児教育の観点で考えると、「保育園に預けること」は「(経済的に)恵まれない母子」にとってはプラス効果、「(経済的に)恵まれている母子」にとってはプラマイゼロという研究結果があるそうです。

したがって、経済的な問題がない家庭については「子供を家でもみても預けても同じだから、安心して預けていいんだよ」と背中を押してもらえます。

また、「恵まれない母子」にとって保育園に預けることがプラスということであれば「預ける」ことへのハードルはもっと低くするべきだなと感じました。

保育園の申請は煩雑で書類も多いですし、都市部ではアクセスが良いところに預けるのは激戦です。

さらには、持ち物のフォローなど親の役割は大きく、私自身負担だと感じることもありました。もし「経済的に恵まれない母子」ほど保育園や幼児教育の機会が必要なのであれば、「幼児教育の入り口、そして受け続けるためのハードルを低く」する必要があるなと感じます。

以上、講演を聞いて特に印象に残ったお話でした。

続いて、講演をされていた山口教授の「研究者としての視点」がとても興味深かったのでお話しさせていただきます。

研究者としての視点や伝え方

まず、山口教授の「研究者として」の視点や考え方が参考になりました。

印象に残ったのは大きく3点です。

1点目:データの使い方
日本と海外を比べるときに、単純に比較できるわけではなく、適したデータがあるということ。
国際比較をするときは、「OECD Familiy Database」のデータを使うと良いこと。(OECDというのは経済協力開発機構のことで、日本を含む34の先進諸国で構成されています)
私が在学していた15年前と、「調べものの仕方」が全く違いました。最近のデータ比較の仕方や考え方など、大変参考になりました。

2点目:研究方法への着目
講義の中でも「この研究はここがすごいポイントです」と各国のデータや研究の仕方に着目してお話してくださいました。
講演のなかで「この研究のすごいところは、1人の子供を20年間きっちり追っているところです」「原因を”社会の空気が変わった”だけで終わらせず、”どの関係性に大きく効果があったか”などをしっかりと追っているところがすごく良い研究です」など、研究の仕方に対しての言及があり、興味深く感じました。

3点目:当事者意識をどう伝えるか
今回は「子育て支援はいかに社会にとって必要なことか」という話に繋がっていました。
しかし、「今まさに子育てをしていない人」、「その問題に直面していない人」にとっては「なぜ子育て支援、充実してないといけないのか?子供を産む人が責任をもって子供への支出を負担すべきでは」という空気はあるのだろうと感じます。

山口教授も、お話の中で「これを進めることが最終的には国にとって税収的にプラスになる」「治安の向上につながり子育てしない世代の人にとっても薄く広くプラスに」という結論付けの仕方をされていました。
だからこそ「国全体でみんなで子育て支援していくべき。」という結論付けの仕方に、大変説得力を感じました。今回は東大の経友会主催の講演会第1回目でした。育児支援に興味がある人ばかりが聞いている講演ではなかったのでしょう。そのお話の仕方、どう当事者意識を伝えていくか、といった話し方は大変興味深く感じました。

講義の中で「そうはいっても中小企業にとって育休に対する抵抗感は強い」という現実的なお話がありました。デンマークの研究では「中小企業、スタッフの育休による倒産、利益率への影響なし」とのことでした。その際にも「この講義を聴いている東大の卒業生は、起業してマネジメントする側になっているかもしれません。”中小企業は育休取得促進なんて難しい"とあきらめず、マネジメントの"腕の見せ所"と思ってチャレンジしてほしいです」というようなメッセージがありました。

ただ「講義」するだけではなく、未来の、現時点での会社幹部へ向けたメッセージを盛り込んでいらっしゃるところが素晴らしいな、と感じました。

そういった点から少しずつ社会の意識が変わっていくといいですよね。


以上、大変参考になり、有意義な講習会でした。

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