見出し画像

Dernier Vol


Dernier Vol フランス語で最後の飛行を意味する。

2023年12月。ノエル前の美しくも寒さが身に沁みるパリから南半球にあるレユニオン島へと向かった。

総勢16名が同じ機内へ乗り込むため、オルリー空港へと向かうタクシー内に積み上げられたスーツケースの多さに思わず笑ってしまう。

レユニオン島にはパートナーの姉夫婦が暮らしていて、そこでのバカンスがいよいよ2年越しに叶い集合となった。

バカンスに命を懸けているといっても過言ではない私の周りのフランス人たちは、バカンス中に次のバカンスはどこへ行くのかという議論をする。
話し合いなんていう生易しいものではなく、白熱し過ぎて喧嘩へ発展しそうな時もあったほど、いつでも彼らにとり、人生において大切なことはバカンスであって、バカンスの為に生きているのだと教えられる。

一年後のバカンスをどう過ごすのかについて真剣に議論し、そして航空券を買う日本人がどれだけいるのだろうか。でも私はこんな生き方を当たり前にしている彼らフランス人が大好きで、私の中には存在しなかった新しい価値観が増えていくことをとても嬉しく思っている。


レユニオン島でのバカンスについては、また別の機会に書き記すことにして、Dernier Vol。
タイトルにつけた理由はレユニオン島へ向かうフライトが特別なものであったから。

それは、30年以上もパイロットとしてキャリアを築き上げたパートナーの父の最後のフライトであり、そのフライトには彼の家族や友人、大切な人に乗ってほしいという彼からの素敵なギフトで、私たちも日本から向かった。
モントリオール、リヨンそしてモンペリエから皆がパリへと向かい、最後のフライトとなる機内へと搭乗した。

過去に、転職が理由の会社を辞める時でさえ様々な想いが溢れ、言葉に詰まってしまう私には、仕事を引退される彼の気持ちや、飛行機が大好きだとは言えどれほどの重圧や苦労を重ねてきたのか、いよいよ最後となるこの二度と戻らない搭乗口での時間に彼にどんな声を掛けようか、ずっと考えていた。

ただただ私の素直な気持ちを伝えたら、彼の目頭に光るものが見えて、あまりここでこれ以上話してはいけないと察した。

席まで案内される少しの間、総勢16名で彼を囲み最後の小さなおしゃべりの時間。突然コックピットを案内されることになった私は、人生初、最初で最後であろうコックピットで彼が運転する姿を前に離陸することになった。


目の前で彼が自分の最後のフライトであることをアナウンスしている姿、同僚たちと直前に起きたアクシデントに対応している姿、出発直前に美味しいチョコレートを頬張るお茶目なパイロットたちの姿、私には到底把握できない無数のスイッチ、、、記憶に刻まれたこの時間、なんというプレゼントなのだろう。


着陸時は大変に静かで歓声が沸き上がった。その時この歓声もすべて届いているといいなと思った。飛行機を降りたら、彼が乗客から記念撮影を頼まれていて、誇らしく、私たちも続いた。いつも写真は撮ってるけれど。


その夜は彼の同僚も含めて引退パーティーが開かれた。ビーチでの夕暮れ前からスタート。時差は大丈夫なのだろうかという心配は私だけだったようで、やはり人生を楽しむことが最も大事な国民性なのだろう。羨ましく思う。



Je suis honoré à bord pour votre dernier vol.
Merci beaucoup Domi.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?