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ディス・イズ・センダイ

河北新報夕刊「まちかどエッセー」に2021年7月から隔週で8回にわたり書いたもの。「河北新報オンライン」が会員制になったというのでここに再録する。河北新報に連載をしたのは2005年の「論壇」以来。当時28歳で生意気なことを散々書いたためか、その後連載らしきものを頼まれることはなかったのだが、信頼する編集者でもある友人からの紹介で引き受けた。しかし、試しに過去の記事を何ヶ月分か読んでみたら普段の自分の文章とは求められる趣が違うようで、これは困ったな……と思ったのを憶えている。結局、せっかく機会をいただいたのだから書き方の練習をしようと思い直し、最初に執筆上のルールを考えてみた。当時のメモにはこのようにある。

  • 映像をめぐる話題を書くこと

  • 軽妙な文章であること

  • 映画評にならないこと

さらには全8回のテーマもほぼ決めておき、毎回締切日に余裕を持って原稿を提出、ほとんど校正もなく掲載、というサイクルを繰り返した。振り返ってみれば、さまざまな厄災によってジョギングもできない状況からのリハビリであったように思われる。推薦してくれた友人と毎回快く受け取ってくれた編集担当に感謝である。
第1回(と、続く第2回)は自己紹介を兼ねたものということで、ややベタと思いつつも本務であるせんだいメディアテークでの仕事にからめて書いた。
(初出:河北新報夕刊「まちかどエッセー」2021年7月5日)


読者のみなさんは、外国の人々に仙台のこと(もしくは、自分が住む街)を伝える映画を作るとしたならば何を撮るだろう? 映画やドラマのロケでいかにもご当地らしい風景が映っていたのはもう一昔前のこと。昨今はシティ・プロモーションと称する仕事や趣味の一環としてインターネット上に大量の映像が投稿されており、そこには、名物料理を頬張る口元、ドローンで空中撮影された風景、あるいは、せんだいメディアテークのように20年経ってもまだ斬新な建築と称される建築などが取り上げられている。

さて、そのメディアテークに、1963年(昭和38年)に制作された『This is Sendai』という映画のDVDがある。当時の仙台市広報課が姉妹都市のアメリカ・リバサイド市へ贈るために作った30分ほどのフィルムを復元したものだ。同年4月2日の河北新報によれば、市役所での試写会の後、さっそく航空便でリバサイド市へ送られ「仙台まつり」で公開されたらしい。仙台七夕や青葉城址などの名所や、足をのばして塩竈・松島まで映っており、当時からしても貴重な映画だが、姉妹都市に送るために英語でナレーションを入れたものだったためか、案外と仙台市民自身は見る機会にめぐまれなかったようである。興味のある方はぜひ借りて見ていただきたい。

かくして60年近く前のカラー映像を今見てみると、たしかにそこに映っているのは仙台だとわかる。表面上は変わりつつも、街の本質は変わらないものなのだろうか。それとも、映像に残すことができるのは街のごく一部なのだろうか。たとえば、顔馴染みの喫茶店の椅子の手触りやコーヒーの味わいは映像には残らない。街を街たらしめるのがそこを行き交う人々の記憶だとするならば、映像や写真に残るイメージは、その記憶をたぐり寄せるためのわずかな縁(よすが)にすぎない。しかし、だからこそ、その縁が大切なものであることも、もう私たちは知っている。

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