超短編小説 016
『こぼれたシリアル』
朝食を食べている子供のテーブルの下にシリアルがこぼれた。
親はそれに気付かずにいた。そして次の日もシリアルがこぼれた。
子供は自分の足元にこぼれたシリアルが、どんどん溜まっていることに気付いていたけれど、忙しそうにしている親に、そのことを言えなかった。
ある日、溜まりに溜まったシリアルは床を突き破って下の階の老人を潰してしまった。
警察が家にやってきた。事情を説明する親は仕切りに子供に「なんでこんなになるまで言わなかったの?」「どれだけ大変なことをしてしまったのか、わかってるの?」と責め立てる。
子供は申し訳なさと、恥ずかしさで何も言えない。こぼれたシリアルをなんでちゃんと親に言えなかったんだろう。自分はそんなこともできないんだ。自分のせいで老人が潰されてしまった。
子供は泣き出した。
親は「泣きたいのはこっちよ!」と言って。子供が心を整理する時間を奪う。そしてまた忙しそうに振る舞った。
子供は何も考えなくなった。
親の顔色を見ながら、次の日も朝食を食べた。
テーブルの下にはシリアルがこぼれている。
親は見ているようで子供のことを見ていない。
子供は見ていないようで親を見ている。
誰かに見ていて欲しいのは親も子供もおんなじ。
でも、親よりも子供の方が孤独である。
溜まったシリアルで次に潰されるのは誰だろうか。
《最後まで読んで下さり有難うございます。》
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